「結婚式には絶対に来るなよ。お前みたいな車椅子の人間がいると雰囲気も台無しだし目障りなんだよ。」妹の婚約者が、私の目の前でそう吐き捨てた。幼い頃から片足が不自由で車椅子生活の私。必死に勉強して一流企業に就職したのに、彼は私のことを「社会の底辺」「家族のお荷物」と笑った。妹が選んだ人がまさかこんな人だったなんて。でも、彼には知らされていなかった。あの時、私はスマホの通話アプリを起動させていたこ…

「結婚式には絶対に来るなよ。お前みたいな車椅子の人間がいると雰囲気も台無しだし目障りなんだよ。」妹の婚約者が、私の目の前でそう吐き捨てた。幼い頃から片足が不自由で車椅子生活の私。必死に勉強して一流企業に就職したのに、彼は私のことを「社会の底辺」「家族のお荷物」と笑った。妹が選んだ人がまさかこんな人だったなんて。でも、彼には知らされていなかった。あの時、私はスマホの通話アプリを起動させていたこ...

車椅子を押しながら駅からの帰り道を進んでいると、見覚えのある男の声が聞こえた。「あれ?どこかで見た顔だと思ったらお姉さんじゃん。」

振り返ると、そこにいたのは妹の婚約者だった。ただし、実家で会った時とはまるで違う柄の悪い服装で、数人の男たちと一緒にゲラゲラと笑いながら近づいてくる。

「車椅子って本当にノロノロして邪魔だよな。結婚式もこれじゃ差し支えるだろうな。他人に迷惑かけないと生きていけないような人間は縁って消えろ。」

顔に笑みを浮かべながら、私に向かって次々と暴言を吐いてくる。私は怖くて声が震えた。

「いい加減にしてください。私、帰るところなので急いでいますから。」

そう言ってその場を立ち去ろうとしたが、彼は追いかけてきて言い放った。

「お前みたいな人間は社会の底辺って呼ぶんだよ。お前は家族のお荷物なんだよ。分かるよな?分かってるなら結婚式なんて恥ずかしくて来れないよな。結婚式には絶対に来るなよ。」

その言葉に私は車椅子を漕ぐ手を止めた。それだけは納得がいかなかった。誰よりも大切な妹の結婚式に出席することは、私にとって夢のようなことなのだ。

「あなたが私のことをそんな風に見ていることを妹は知っているのですか?私が出席しなくてもいいと妹は言っているのですか?あなたが今言ったこと、妹に言いますからね。」

「勝手にしろ。無駄だけどな。あいつは俺に惚れてるから、俺がこんなこと言うなんて信じるわけないんだよ。」

そう言って彼らは大声で笑いながら去っていった。私は悔しかった。車椅子である自分を馬鹿にされたことよりも、大好きで大切な妹の婚約者の正体がこんな男だったという事実が、何よりも悔しかった。

私は深呼吸をして、鞄からスマホを取り出した。実は私は外出先で何かあったら困るので、危なそうな時は決まって両親どちらかと通話をつないでいる。今回も男たちの集団が歩いてくるのを確認してすぐに音声を通話でつないでいたのだ。

「ねえ、2人も同意見でしょう?」

そう言うと、電話の向こうから母の声が聞こえた。

「ええ、その通りよ。私、全部聞いてたんだもの。」

なんと、ちょうど実家に遊びに来ていた妹も、婚約者と私の会話を全部聞いていたのだ。

「許せない。なんて最低な男なの?」

妹は泣き晴らした顔で帰宅した私に駆け寄ってきた。

「ごめんね。本当にごめんね。あんな男だと思っていなかった。私のせいで。」

「いいのよ。あなたは悪くないわ。悪いのはあの男よ。結婚する前に正体が分かってよかったじゃない。」

「絶対に許さないわ。お姉ちゃんを傷つけるなんて。このままで済ませてたまるか。」

そう言って妹は涙を拭いて顔をあげた。1番傷ついているのは自分のはずなのに、妹は私のことを思ってくれている。そんな妹を悲しませ傷つけた婚約者が憎くてたまらなかった。

その日から妹は復讐に向けて準備を始めた。妹はまず婚約者の両親に、録音していたあの時の音声を聞かせた。ご両親は息子に失望し、深く謝罪してきた。婚約を破棄させてもらうことを伝えると、当然納得してくれた。さらに私たちに協力できることがあれば何でもすると言ってくれた。

来賓予定の人たちにも妹は音声を聞かせ、結婚式は取りやめにすることを伝えてお詫びした。するとほとんどの人が「今後彼とは関わりたくないので縁を切る」と言う始末だった。

そして結婚式当日。婚約者が式場に到着すると、そこはもぬけの殻で誰1人として来ていなかった。妹の姿もない。

「どういうことなんだよ。なんで誰もいないんだよ。どうなってんだよ。」

恥をかかされ、プライドがズタボロになった婚約者は怒りで発狂した。妹のスマホには大量の着信が入る。それを無視する私たちだったが、永遠になり続けるものだからしびれを切らせた妹が電話に出た。

「もしもし。今どこだよ?どうなってんだよ?なんで式場に誰もいないんだよ?なんでお前も来てないんだよ?」

「なんでか分からない?思い当たる節がないっていうの?バカね。この間、私のお姉ちゃんにひどい発言をしたの、知ってるのよ。」

「そ、そんなの、お姉さんが嘘をついたに決まってるじゃないか。性格まで悪いなんてな。見損なったよ。俺は悲しい。」

「下手な芝居はやめてちょうだい。全部聞いていたのよ。直接音声通話でね。」

婚約者は言葉に詰まって何も言い返せないようだった。妹は通話をスピーカー設定にして、私にもやり取りが聞こえるようにしてくれた。

「お姉ちゃんはね、足は不自由だけど一流大学を出て大企業に務めているの。あんたの5倍以上の収入があるのよ。それを足が悪いからって理由だけで見下して、その人の本質を見ずにひたすらひどいこと言って。あんたみたいなのを本当の意味で社会の底辺って言うんじゃない?」

「あ、そうそう。式場に誰も来なかったことで薄々勘づいていると思うけど、録音した音声、あなたのご両親にも聞いてもらったから。それと、来賓予定だった皆さんにも。」

「そういえば、来賓者の方の中にはあなたの会社の人たちもいたわね。本性がバレてこれから働きづらくなると思うけど、しょうがないわよね。そういう人なんだから。ご友人たちももうあなたとは縁を切ると口を揃えておっしゃってたわ。」

「な、なんてことをしてくれたんだよ。何もそんなこと、そんなひどいことしなくてもいいじゃないか。」

「それはこっちのセリフよ。」

婚約者は今にも泣きそうな声で叫んでいた。混乱してパニック状態になっているようだ。

「そういうことなので、今ここで破棄させていただきます。」

「ちょっと待ってくれ。考え直してくれ。心を入れ替えるから別れたくない。頼むよ。」

元婚約者は必死な声で妹にすがってきたが、妹の気持ちが変わるわけがない。それでもなお元婚約者は妹をつなぎ止めようと必死に何か喚き続けていたが、妹は話を聞かずに電話をぶちりと切ってしまった。

「ざまみろ。すっきりした。着信拒否と。」妹はニコリと笑った。

本当はひどく傷ついているに違いない。顔は笑顔でも瞳の奥では落ち込んでいることが分かる。幼少の頃からいつも一緒に過ごしてきた仲良しの妹だ。何でも分かってしまう。

「よく頑張ったね。ありがとう。お姉ちゃんもすっきりしたよ。」

私たちは泣きながらすがってきた元婚約者の口ぶりを思い出しながら「本当に情けない男だったね」と2人で笑い合った。あれだけのひどい言葉で私をののしり、それが妹のみならず周囲にも全てバレたというのに、それでもあんな風にすがりつくなんて。元婚約者の神経の図太さに関心すら覚えた。

妹があの男と結婚せずに済んで本当に良かったと心から思う。

「私、やっぱりお姉ちゃんが1番だよ。」

「私もよ。」

私たちは抱きしめ合いながらまた笑った。元婚約者はきっと会社に居づらくなり、仕事もやめることになるだろう。周囲の信用を失い、恋人も失い、孤独な人生が待っているのだ。当然の報いだ。私の大切な妹を傷つけたのだから。

妹は今後しばらく実家に住むことを宣言した。私は数年ぶりに妹と過ごす生活を楽しんでいる。妹も日に日に元の元気な姿を取り戻している。明るく活発で本当に性格のいい子だ。素敵な男性にすぐ出会えるだろう。妹の晴れ姿を見れる日が今から楽しみだ。

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