私は30歳の会社員。この前の夜、明日の100億の商談を控えて最終確認をしていたら、日頃から私を見下すエリートの部長がニヤニヤしながら言ってきた。「お前の左遷が決まったぞ。無能なお前には無理だから、エリートの俺が代わりにやる」。自分たちで作り上げた企画を横取りされ、腹が立って「じゃあ首でいいですよ」と言って会社を飛び出した。だけど翌日、部長から鬼のような着信が。出てみると「クライアントがお前じ…

私は30歳の会社員。この前の夜、明日の100億の商談を控えて最終確認をしていたら、日頃から私を見下すエリートの部長がニヤニヤしながら言ってきた。「お前の左遷が決まったぞ。無能なお前には無理だから、エリートの俺が代わりにやる」。自分たちで作り上げた企画を横取りされ、腹が立って「じゃあ首でいいですよ」と言って会社を飛び出した。だけど翌日、部長から鬼のような着信が。出てみると「クライアントがお前じ...

部長はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、俺のデスクまで歩み寄ってきた。連日残業が続いているこの時間帯に、定時でいつも上がる部長が来るのは珍しい。最終確認に集中している俺に、彼は鼻先で嘲るように言い放った。

「おい、津田。お前の左遷が決まったぞ。意味、分かるな」

俺は言葉を失った。明日は100億の商談を控えている。クライアントから直接指名された俺が、急に左遷? 無能なお前には100億の商談なんて無理だから、エリートの俺が代わりにやる。そう言い放つ部長の顔を見て、俺の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。

俺は何もミスを犯していない。むしろ、ここまで必死に努力してきた。なのに、全部横取りされるのか。怒りと悔しさで胸が焼けつくようだったが、何を言っても聞く耳を持たない部長に、俺は深く息を吸って言い放った。

「では、首でいいですよ」

これ以上、こんな人のいる会社で自分を犠牲にはできない。俺は私物をまとめ、会社を飛び出した。俺のこの行動が、部長を地獄に突き落とすことになるとは、この時はまだ思ってもいなかった。

俺の名前は津田正幸、29歳。地方の田舎出身で、幼い頃に両親を事故で失い、祖父母に育てられた。優しかった祖父母は、俺が寂しさで隠れて泣いていると、いつも畑に連れ出してくれた。野菜の育て方を教えてくれたり、虫を見せてくれたり。きっと、寂しがる暇を与えないための、祖父母なりの愛情だったんだろう。

中学に上がる頃には、年を取った祖父母を手伝って、朝早くから農作業をする日々。そんな何気ない日常を送れるのは、祖父母のおかげだ。ある日、俺が「後を継ぐ」と言うと、祖父母はこう言った。

「気持ちは嬉しいんだけどね。こんな田舎じゃ、正幸が本当にやりたいことを見つけられないと思うの。いろんな選択肢がある所で経験して、それでも農家になりたいと思えたら、戻ってきたらいいさ。若いうちは冒険しなきゃな」

その言葉に従って、俺は専門学校でITを学び、都内の大きなIT企業に就職した。入社当初は田舎者と馬鹿にされることもあったが、努力を重ねて今では様々な仕事を任せられるようになった。努力は報われると信じていた。だが、その俺の日常を壊したのが、異動してきた佐田部長だった。彼はエリート大学卒であることを鼻にかけ、常に俺たちを見下す。部下の手柄を横取りし、反抗的な者を僻地に飛ばす。おまけに、無理難題を押し付けて残業させ、自分は定時で颯爽と帰る。

そんな毎日に耐えながら、俺はある日、社長室に呼ばれた。クライアントからの指名で、100億の商談のプロジェクトリーダーを任せたいと言われたのだ。俺の努力を、社長は見ていてくれたんだ。嬉しくて、全力で取り組むと誓った。そして、幾度となく打ち合わせを重ね、チーム全員が納得する図書類を完成させ、いよいよ明日プレゼンを控えた夜。最終確認のために残業していた俺を、あの部長が訪ねてきたのだ。

「先ほど、お前の左遷が決まったぞ。無能なお前には無理だから、エリートの俺が代わりにやる」

そう言って、部長は俺が作り上げた成果を奪おうとした。社長は今、出張中で不在。事後報告で構わないと、高圧的に言い放ったのだ。これまで耐えに耐えてきたが、もう限界だった。俺は見返して言い放った。

「では、首でいいですよ」

翌日、会社を辞めた俺は久しぶりに朝寝坊をし、ゆっくりと過ごしていた。すると、テーブルのスマホが鳴り響く。部長からだった。無視を決め込むが、着信は止まない。渋々出ると、開口一番怒鳴られた。

「おい、津田! 俺からの電話に出ないとはいい度胸だな。今すぐ会社に来い! 」

「もう俺は昨日で辞めました。あなたの指示に従う義務はありません」

「お前のチームがお前と同じように無能で、使い物にならないんだ!

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お前が責任を取るのは当然だろう! 」

俺が選んだチームは誰もが優秀だ。上から目線で指示を飛ばすだけの部長に、まとめられるはずがない。俺は静かに言い放ち、電話を切って着信拒否にした。

すると今度は、会社の番号から電話がかかってきた。まさか、と思って出ると、相手は社長だった。

「津田君、今日はプレゼン当日だぞ。一体どうしたんだ」

社長の優しい声に、俺は抑えきれずに全てを打ち明けた。すると社長は驚いた様子で言った。

「君の退職届はまだ受理していない。一旦、会社に来てくれないか」

会社に着くと、チームメンバーが待ち構えていた。皆は責めることなく、口々に部長の横暴を訴えてくる。やはり、部長は大して資料も読めず、上から目線で指示を飛ばして混乱させているようだった。そこへ、部長が肩を怒らせて現れた。

「よくも電話を拒否したな! 」

「クライアントがお前がいないことに怒って、この商談をなかったことにすると言ってきたんだ。どうにか収拾をつけろ! 」

部長は焦りながら俺に迫った。俺を左遷しておいて、都合が悪くなったら責任を押し付けようとしている。呆れて何も言えないでいると、後ろから懐かしい声が聞こえた。

「正幸、こんなところにいたのか」

そこには、昔と変わらず背筋をピンと伸ばした祖父が立っていた。驚く俺に、祖父は笑顔を向ける。なんと今回の100億の案件は、俺の故郷の農家たちが始めたプロジェクトで、祖父がリーダーだったのだ。農作業にITを取り入れて、若者を呼び戻そうという企画。祖父は俺の会社に話を持ち込む時点で、担当を俺に指名してくれていた。

「せっかく正幸に会えると思っていたのに、来たのはそこの何だか偉そうな男だったから、帰ろうかと思っていたところだったんだよ」

祖父は睨みつけるように部長を見た。

「部下の人たちを顎で使って偉そうに命令していたように見えましたがね。こちらの質問にもまともに答えられないし」

部長は脂汗を流しながら、何とか言い繕おうとする。そこへ社長が駆け寄り、祖父に深く頭を下げた。

「この度は、こちらの不手際で不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」

「社長さんに頭を下げられてもね。今回の案件は、お孫さんでもあるこちらの津田君が毎日努力して作り上げてきたのです。どうか、もう一度チャンスを与えてはくれないでしょうか」

祖父は社長の顔を見て、ゆっくりと頷いた。

「では、やはり担当は正幸ということですね?

社長は俺の顔を見て頷く。俺は一度退職を申し出たことを後ろめたく思いながら、後ろに控えているチームメンバーの顔を確認した。皆の強い視線に、俺の迷いは消えていた。俺は祖父へと向き直る。

「俺がこの件の担当です」

「そうか。では、もう一度話を聞こうかな。孫だからって手加減はしないからな」

「もちろんです」

こうして、俺は祖父と社長と共に商談に臨み、見事に100億の契約を成功させた。部長は、社長と役員に事情聴取を受け、今回のように人の手柄を横取りして自分の実績にしてきたことが発覚。加えて、日頃のパワハラ行為も問題視され、降格して平社員になった。しかし、それに耐えられなかった部長は、すぐに退職していった。全ては自業自得だ。

俺はこの成功がきっかけで昇格した。チームメンバーのおかげだと感謝を伝えると、皆は笑顔で祝福してくれた。今度は、祖父母の顔を見に故郷へ帰り、自分が担当したプロジェクトの成果を自分の目で見てくるつもりだ。役職が上がり、これからは部下も増える。俺は、俺の部下たちがのびのびと仕事ができる環境を作っていこうと思う。そして、自分自身も知識とスキルを磨き続けて、もっと多くの人々の役に立つ仕事をしていきたい。