「お前は首だ。100億のプロジェクトを任せたのに、こんな大事な日に休むとは、仕事を舐めているのか」。母の緊急入院で最終プレゼンを欠席した翌日、部長は笑顔で送り出した態度を一変させ、会議室の全員の前で俺を罵倒した。積み上げてきたキャリアも、父から受け継いだバリアフリー遊園地の夢も、全てが崩れ去ろうとしていた。俺を嵌めるために、最初から罠を張っていた部長。もうダメだと思った、まさにその時。会議室…

「お前は首だ。100億のプロジェクトを任せたのに、こんな大事な日に休むとは、仕事を舐めているのか」。母の緊急入院で最終プレゼンを欠席した翌日、部長は笑顔で送り出した態度を一変させ、会議室の全員の前で俺を罵倒した。積み上げてきたキャリアも、父から受け継いだバリアフリー遊園地の夢も、全てが崩れ去ろうとしていた。俺を嵌めるために、最初から罠を張っていた部長。もうダメだと思った、まさにその時。会議室...

「お前は首だ。100億のプロジェクトを任せたのに、こんな大事な日に休むとは、仕事を舐めているのか」

部長の怒声が朝一番の会議室に轟いた。数十人の社員が見守る中、俺は一人、部長の前に立たされていた。

「母が緊急入院したんです。昨夜、突然倒れて…」

声が震える。100億円の大型プロジェクトの最終プレゼンを控えた日。俺の母が急に倒れた。

部長は「自分が何とかするから、母のところへ行ってやれ」と言ってくれた。だから俺は急いで母の元へ駆けつけた。しかし、翌日、会社に出社すると、部長の態度は一変していた。

「このプロジェクトのために、取引先の重役が全員集まっているんだぞ。こんな理由で休むとはな。どうやらお前は、即刻首だ」

部長の拳が会議室のテーブルを叩く。コーヒーカップが跳ね、資料が床に散らばった。会議室は水を打ったように静まり返った。

まさか、母の緊急入院で会議を欠席しただけで首になるとは。俺の人生をかけたプロジェクト。全てが、この瞬間に崩れ去ろうとしていた。

しかし、その時だった。
「誰が首だって?」

ある人物の登場によって、物語は大きく動き出すことになる。そして、部長の思惑が暴かれた時、彼は全てを失うことになるのだった。

俺の名前は月島結人。中学生の頃、俺の将来の夢は父のようなすごい建築家になることだった。

「お父さん、すごいな」

作業場から響く金槌の音に、俺と弟の颯斗は息を潜めて見ていた。父の仕事場は、俺たち兄弟にとって特別な場所だった。木の香りが漂い、木漏れ日が差し込む工房で、父は黙々と木材と向き合っている。

「結人兄ちゃん、あれ何作ってるの?」

颯斗が小さな声で訪ねる。まだ小学生の弟は、俺の肩にしがみついて、つま先立ちで父の作業を覗き込んでいた。

「うん。多分、神社の社殿かな。この前、お参りした時に壊れてたの覚えてる?」

「あ、あれか。すごいね。お父さん」

颯斗の目が輝いた。弟は頭が良くて、小学生ながらに建築の本も読みふける。俺なんかよりずっと物覚えが良かった。ただ、生まれつき体が弱くて、よく熱を出したり、息が上がったりする。だから、工房に来る時は必ず俺が付き添った。

「お、2人とも見てたのか」

父が気づいて振り返る。作業着は埃まみれで、額には汗が光っている。それでも、にっこりと笑う顔は誇らしげだった。

「父さん、お仕事楽しい?」

「そうだな。結人、颯斗、こっちへ来てみろ」

2人で歩み寄ると、父は木材を手に取った。

「触ってみろ。この木の命を感じるか」

俺たちは恐る恐る手を伸ばす。木肌は驚くほど温かく、生きているみたいだった。

「木にはそれぞれ個性がある。どんな木材が、どんな場所に合うのか。それを見極めるのが、大工の仕事なんだ。すごく大変だけど、楽しいぞ」

父の言葉に颯斗が目を輝かせる。

「僕も将来は、お父さんみたいな大工さんになりたい」

「俺も」

俺たちの声に、父は嬉しそうに笑ったけれど、その笑顔の裏に、少しだけ寂しそうな影が差していたこと。後になって、思い出すことになる。

あれから数年が経った頃だった。父の様子が、少しずつ変わり始めた。最初は些細な変化だった。いつもより早く疲れたように見える。手が震えている。大工道具を落としてしまう。ある日、父は工房で倒れた。

球脊髄性筋萎縮症。筋肉が弱っていく病気らしい。医者から告げられた言葉は、俺たち家族の生活を一変させた。

「お父さん、今日はもう休もう」

颯斗が心配そうに声をかける。父はすでに、工具を持つ手が震えていた。

「ああ、そうだな」

父の声には、諦めが混じっていた。かつての力強さは影を潜め、徐々に体の自由が奪われていく現実と向き合う日々が始まっていた。

「俺が手伝うよ」

工具を片付けながら、俺は言った。颯斗も黙って掃除を始める。2人で協力して、父の仕事場の整理を手伝った。

母は必死だった。昼は看護師として働き、夜は父の介護。俺たち兄弟も、できる限りのことをした。颯斗は体が弱かったけど、献身的に父の世話を焼いた。勉強も手を抜かず、むしろ医療や介護の本を読み漁るようになっていた。

「結人、颯斗」

ある日、父が呼んだ。

「お前たちには、申し訳ないと思っている」

「何言ってんだよ、父さん」

「そうだよ、お父さん。僕たち、お父さんの背中を見て育ったんだから、これくらい大したことないよ」

颯斗の言葉に、父は静かに目を潤ませた。工房の金槌の音はもう聞こえなくなっていたけれど、あの頃父が教えてくれた木の命のぬくもりは、確かに俺たちの心に残っていた。

それから月日が経った、ある日。父がある願いを申し出た。

「遊園地か…」

病気の進行は予想以上に早く、父の体は日に日に弱っていった。声を出すのも困難になり、指先でホワイトボードに文字を書くのがやっとの状態。それなのに、父は無理な力を込めて、一文字一文字丁寧に書いた。

「みんなで、行きたい」

「あなた…」

母の声が震えた。

「昔から、約束してた」

確かにそうだった。忙しい仕事の合間を縫って、いつか家族みんなで遊園地に行く。そんな約束を、ずっと果たせないままだった。

「行こう」

颯斗が真っ先に声をあげた。

「寒くない日を選んで、温かい服装で。車椅子も借りられるし、休憩所だってたくさんある。僕が全部調べてるんだから」

いつの間にか下調べまでしていた弟。さすが颯斗だ。

その日は思った以上に温かかった。遊園地の入り口で、俺たちは車椅子を借りた。父を乗せる時、その体の軽さに胸が締めつけられたけれど、父の目は輝いていた。

「結人兄ちゃん、あれ乗ろうよ」

颯斗が観覧車を指差す。ゆっくり回る大きな車輪が、青空に映えていた。

「待って。みんなで写真撮りましょう」

母がカメラを取り出す。父の車椅子を中心に、俺たち家族が寄り添う。カメラのセルフタイマーが光る。父は精一杯の笑顔を見せた。

観覧車のゴンドラは、ゆっくりと上昇していく。窓の外に広がる景色に、父は目を細めた。

「ねえ、覚えてる? お父さんが工事で、ここに似た展望台を作ってた時のこと」

颯斗が父に語りかける。父はゆっくりと頷いた。小さなホワイトボードに、震える手で文字を綴る。

「2人とも、手伝ってくれたな」

「うん。結人兄ちゃんが釘打って、僕が設計図書いて」

「あの時は、颯斗の図面すごかったよな」

「でも、お父さんに直されっぱなしだったじゃん」

笑い合う俺たち。父も静かに目を細めた。

遊園地での一日は、あっという間に過ぎていった。メリーゴーラウンドを眺めながらアイスを食べ、パレードを見て、最後はイルミネーションに包まれた夜の公園を歩いた。帰り際、父は俺たちに向けてこう描いた。

「ありがとう。楽しかったよ」

震える文字に、みんなの目から涙が溢れた。

「俺も」「僕も、楽しかった」

それから1週間後、父は静かに目を閉じた。晩秋の風が吹く日だった。葬儀の日、父の棺には颯斗が描いた設計図を入れた。

「お父さん、安心して。兄ちゃんと僕が、お父さんのお仕事も夢も、引き継いで行くから」

「そうだな。父さん、俺も頑張るから。だから見ててね」

その言葉通り、俺は建築の道を選んだ。

「専門学校か…」

母は心配そうに俺を見た。通いたい学校に行くためには、ひとり暮らしが必要だった。

「お金のことなら、俺が何とかするよ。バイトしながら行くから。それに、奨学金も借りられそうだし」

「でも…」

「お母さん。颯斗が静かに口を開いた。兄ちゃんのやりたいようにさせてあげて。僕も頑張るから」

そうして始まった一人暮らし。朝は新聞配達。夜は居酒屋でバイト。その合間を縫って授業を受け、課題をこなす。遊んでいる暇はなかったし、忙しかったけど充実していた。父の背中を追いかけているような気がしたからだ。

専門学校では、建築の基礎を学び、材料の知識を深め、現場実習で汗を流す。毎日が新しい発見の連続だった。

「月島君、君の設計には温かみがあるね。きっといい建築家になれる」

講師からそう言われた時は、心の底から嬉しかった。その言葉を胸に、俺は必死で学んだ。専門学校での2年間は、あっという間だった。卒業式の日、母と颯斗が来てくれた。

「お父さんも、きっと喜んでるわ」

母の目には涙が光っていた。颯斗は何か言いたげな表情をしていたけど、結局何も言わなかった。

そして就職。大手建設会社への内定が決まった時、俺は父の遺影に報告した。

「父さん、見ていてくれよ。これから本気で頑張るから。父さんのように…いや、父さんよりもすごい建築家になる」

新入社員研修の初日。新しいスーツに身を包んで会社に向かう時の空は快晴だった。

最初は現場監督の補佐として、建築現場での基礎的な管理業務を任された。品質管理表をチェックし、現場を駆け回る毎日。安全帽をかぶり、作業員の皆さんと丁寧に挨拶を交わし、工程表と睨めっこを続けた。やがて小規模な住宅のリフォーム案件を任されるようになり、お客様との打ち合わせや職人さんとのコミュニケーションに苦労しながらも、一つ一つの経験が確実に力になっていった。

経験を積むにつれ、商業施設の一画リニューアルプロジェクトでサブリーダーを務めることになった。最新の建築技術を学びながら、チーム運営のノウハウも少しずつ身についていった。

そんなある日、久しぶりに実家に帰ると、2年ぶりに弟と顔を合わせた。大学生になった颯斗は、なんだか随分と雰囲気が変わっていた。スーツ姿の俺に対して、颯斗は高そうなブランドの服を着ていた。

「兄ちゃん、スーツ姿も様になったね」

颯斗の言葉に、どこかトゲがあるような気がした。

「ああ、まあな。今、ちょうどバリアフリーの遊園地のプロジェクトを担当してて」

「へえ」

そっけない返事。昔なら、目を輝かせて「すごいね」と食いついてきたはずなのに。

「そうだ。設計図、見てみるか? お前の意見も聞かせてくれよ」

鞄から図面を取り出しながら、颯斗の反応を伺った。しかし、颯斗はそっぽを向いた。

「いいよ。別に見なくていい。そういうの、興味ないから」

「え?」

「そのままの意味だよ。僕、建築の道には進まない。医学部に行ってるし」

「待って。何言ってるんだ?」

信じられない思いで、弟の顔を見る。てっきり建築学部に進んでいるとばかり思っていた。

「医学部だって? 昔からの夢じゃなかったのか。父さんみたいな夢」

颯斗が突然、冷たい笑みを浮かべた。初めて見る表情だ。

「兄ちゃんこそ、現実を見た方がいいんじゃない? 建築家の平均年収、知ってる?」

その言葉に、心臓を掴まれたような痛みが走った。

「どうしてそんな話をするんだ? 父さんの仕事を見て、目を輝かせていたじゃないか。年収なんて関係ないだろう」

「俺たちには関係ある。父さんだって、あんなに必死に働いても、あんな貧乏だったじゃないか」

「颯斗!」

思わず声を荒げた。

「父さんの仕事を、そんな風に言うな」

「現実を言ってるだけだよ。父さんは確かに職人として誇りを持って生きた。でも、それで何が残った? 借金と病気と…」

「やめろ!」

拳が震えた。

「お母さんだって、看護師の給料と貯金を切り崩して、必死に俺たちを育ててくれたんだぞ」

「だから言ってるじゃないか。もう、そんな生活は嫌なんだ。医者になれば、安定した収入が得られる。お母さんにも楽をさせてあげられる。兄ちゃんと違ってね」

「お前…」

目の前にいるのは、あの頃、一緒に父の仕事場で夢を語り合った弟なのか。

「建築か。笑わせないでよ。体を壊すまで働いて、それでも誇りだけは捨てないって? 現場監督なんて、ただのサラリーマンじゃないか。それが兄ちゃんの言う夢か?」

「黙れよ」

「父さんみたいに体を壊して…」

「黙れって言ってるんだ!」

ガシャンという音。気づけば、テーブルの上の湯のみを払い落としていた。床に散らばった破片が、この瞬間の象徴のように思えた。

「…帰れよ」

颯斗の声が、氷のように冷たい。

「もう子供じゃないんだ。夢なんて、そんな甘い言葉で生きていける世界じゃない」

立ち上がる颯斗。その背中が、こんなにも遠く感じたことはなかった。

「兄さん、いい加減、大人になりなよ」

弟の最後の言葉が心を引き裂いた。ドアが閉まる音が、決定的な別れを告げるように響いた。

「なんで…? なんでだよ…」

実家を出た瞬間、涙がこぼれた。あの日、遊園地で見た笑顔。工房で教えてくれた木のぬくもり。そして最後に託してくれた夢。全て無駄だったのか。いや、もしかしたら、病気の父を看病しながら、借金の重さに耐える母を見て、少しずつ心が変わっていったのかもしれない。

でも、違うんだ。俺は震える声で誓いを立てた。

「俺は絶対に諦めない」

たとえ一番理解してくれるはずの弟に否定されても。例え世間が理解してくれなくても。父さんの背中を、俺は追いかけ続ける。

それから俺は、がむしゃらに働いた。毎日毎日、仕事に向き合った。バリアフリー遊園地のプロジェクトは、順調に進んでいた。取引先の建設会社の担当者も、俺の設計を高く評価してくれている。

「月島さん、この設計図、素晴らしいです。特にこのエリアの動線の取り方が秀逸ですね。車椅子の方と一般の来場者の流れが自然に交わる。でも、どちらも互いの妨げにならない」

会議が順調に進む中、会議室の隅で上司の御影部長が、表情を歪めているのが見えた。

「御影部長、随分と景気がいいじゃないか。100億程度の案件に、随分と力が入っているんだな。遊園地なんて、私が手掛けてきた超高層ビルや大規模再開発と比べたら、子供の遊び場程度の規模だ。こんな小さな案件に熱くなる君が、おかしくてね」

「確かに規模は小さいかもしれません。でも、このプロジェクトには大きな意味があります」

「月島君はね、感情が入りすぎなんだよ。俺にはよく分かってる。君のその過剰な熱意の理由をね」

部長の冷たい目が、机の上に置かれた写真を見つめる。車椅子に座る、父の写真だ。

「個人的な感情を仕事に持ち込みすぎ。だから、周りが困っているんだよ」

「困る? なぜですか? 私は社長に、ただ真実を伝えただけです」

「まあ、いいだろう。この業界で大切なのは、冷静な判断力なんだ。バリアフリーだって、法廷基準を満たせば十分だ」

「違います!」

思わず声が出た。

「バリアフリーはただの基準じゃないんです。実際に使う人の気持ち、その人の人生に寄り添う設計こそが、本当のバリアフリーだと、俺は思います」

「ほら、また感情的になってるぞ。そういう甘い考えが良くないんだ。楽観的といえば確かに大きいが、俺が手掛けてきた案件に比べれば…」

「御影部長。このプロジェクトは、社長じきじきに任せていただいたんです。必ず期待に答えて見せます」

「ふん」

御影部長が立ち去った後、俺は深いため息をついた。この部長は、なぜここまで俺に敵意を向けるのか。

そんな俺の集中を、慌ただしい足音が遮った。

「月島さん、社長がお見えです!」

「え? 社長が?」

御影部長が、突然、慌てふためいて駆け込んできた。

「月島君! なぜ早く言わないんだ! 社長が娘さんと共に視察に来られるんだぞ!」

その瞬間、部長の態度が一変した。背筋を伸ばし、ネクタイを直す。まるで別人のように、作り笑顔を浮かべる。

「こちらが設計チームの部屋です」

案内役の声と共に、高沢社長と、その後ろには社長令嬢の美沙さんが入ってきた。

「月島君」

社長が、まっすぐに俺の方を見た。

「バリアフリー遊園地の件、順調と聞いているが」

「はい。先ほども取引先と…」

「ああ、聞いているよ。素晴らしい評価だったそうじゃないか」

社長の言葉に、御影部長の表情がかすかに歪む。

「月島さん。私、このプロジェクトにとても興味があるんです。実は祖父が、今は車椅子生活で…」

「美沙お嬢様。どういったご事情でしたら、自分が責任を持って…」

「御影部長」

社長の声が静かに響く。

「このプロジェクトのリーダーは、月島君だ。経験も大切だ。だが、時に必要なのは新しい視点。そして、人の心に寄り添える感性だよ」

その言葉に、胸が熱くなる。

「月島君。君のような若者が、こうして新しい価値を作っていく。それこそが我が社の未来だ。期待しているよ」

「はい!」

力強く返事をする。その横で、御影部長の表情がより一層、暗くなっていった。

その日の夕方、残業をしていると、誰かが近づいてくる気配がした。

「お疲れ様です」

振り向くと、そこには美沙さんの姿があった。手には缶コーヒーが2本。

「ああ、美沙さん。こんな時間まで?」

「打ち合わせが長引いちゃって。どうぞ。なんだか、元気がないように見えたので」

「ありがとうございます」

受け取った缶は、まだ温かかった。

「月島さん、何か悩み事でもあるんですか?」

「いえ…、その…」

「実は弟のことです。昔は一緒に建築の夢を追いかけていたんです。でも、今は医学部に進んで、俺の夢はただの現実逃避だって…」

「月島さんは、弟さんのこと、すごく大切にしているんですね」

「え?」

「建築家になりたいって夢も、きっと弟さんへの思いがあったから。だからこそ、今も苦しんでいる」

彼女の洞察は的確だった。

「でも、それは、素敵なことだと思います。夢を追いかけることって、時に孤独で。でも、月島さんは、その夢の中に、大切な人との約束を守り続けている。それに、弟さんだって、きっと自分の道を見つけようとしているんじゃないですか? 医学の道を選んだのも、きっと理由があるはずです」

「美沙さん…」

「月島さんは、弟さんに夢を押し付けていたんじゃないか、って言いましたよね。でも、夢は押し付けるものでも、押し付けられるものでもない。弟さんの選んだ道も、きっと弟さんなりの答えなんだと思います」

美沙さんの言葉は、心に染みた。

「ありがとうございます。少し、楽になりました」

そう言って、2人で缶コーヒーを開けた。窓の外では、東京の夜景が輝いている。

「でも、夢って変わってもいいと思うんです。ふと美沙さんが呟いた。」

「え?」

「私なんて、ここにいるのは、ただ社長の娘だからです。最初は、夢なんてなかった。でも、月島さんと出会って変わったんです。月島さんが入社した時、新入社員代表スピーチで、建築は人の暮らしを幸せを守れる仕事なんだって、熱く語ってくれた。その姿を見て、私も建築を好きになれました。ただの仕事じゃなくて、夢になった」

「美沙さん…」

「だから、このバリアフリー遊園地のプロジェクト、私も協力させてください。きっと、たくさんの人の笑顔を作れる。そんな素敵な夢に、私も関わりたいんです」

その言葉に、胸が高鳴った。2人の目が合う。昼間のビジネスな空気とは違う、穏やかな雰囲気が流れる。

「あ、そうだ。月島さん、この設計図…」

美沙さんが机の上の図面に手を伸ばす。その仕草に、俺も思わず身を乗り出した。指先が、重なる。2人とも、少し息を飲む。

「あ、すみません」

「いえ…」

慌てて手を引くけれど、その一瞬のぬくもりが、妙に心に残った。

それから、2人は夜遅くまで語り合った。建築のこと、家族のこと、そして夢のこと。会話は自然と弾み、時間が経つのも忘れるほどだった。

次の日、御影部長の皮肉な声が背後から響いた。

「月島君、社長令嬢と仲良くやってんじゃないか。昨日は遅くまでお疲れ様。随分と楽しそうだったね。へつらうのは得意そうだな。若いからって調子に乗るなよ。お前みたいな小僧が、社長令嬢に近づくなんて」

「御影部長。俺は誰かに媚を売っているわけじゃありません。ただ、このプロジェクトを本気で成功させたいだけです」

「何? 生意気な口を!」

「昨日も申し上げた通り、このプロジェクトには大きな意味があるんです。ここに来る人たちの笑顔のために。障害の有無に関係なく、みんなが同じように楽しめる場所を作る。それが俺たちの使命だと思います」

部長は一瞬言葉を失ったように見えたけれど、すぐに冷笑を浮かべて立ち去った。

すると、デスクの上に1枚のメモが置かれているのに気づいた。

「かサブは連れて、現場を見学しに行きたいです。その時は是非、案内をお願いします。美沙」

思わず、顔が緩む。夜の会話を思い出し、心が温かくなった。

それからしばらく経ち、プロジェクトも大詰めを迎えていた頃のことだ。

「明日の最終プレゼンは、絶対に成功させないとな」

資料に目を通しながら、俺は独り言をつぶやく。その時、携帯が鳴った。見知らぬ番号だ。

「はい、月島です」

「あの、月島さんのお母様ですか?」

聞き覚えのない女性の声。病院からだという。その一言で、血の気が引いた。

「母が…、はい。突然倒れられて…」

心臓が止まりそうになる。父を見送ったあの病院。また、あの白い廊下を走ることになるのか。

「すぐに行きます!」

立ち上がった時、御影部長が近づいてきた。

「どうした? 顔色が悪いぞ」

「すみません。母が…」

慌てて状況を説明する。最終プレゼンを翌日に控えているのに、こんな事態になるなんて。

「プレゼンの準備は出来てるんだろう? 行ってこい」

意外な言葉に、俺は目を見開いた。

「え?」

「母親が倒れたんだろ? なら、すぐに行け。明日のことは、俺がフォローする」

御影部長の表情は、いつもの傲慢さがない。珍しく、真剣な表情だった。

「お前の資料は完璧だ。俺が何とか通すから、安心していけ」

「御影部長…。本当にありがとうございます」

深々と頭を下げる。部長は少し照れたように背を向けた。

「母親の方が大事だ。早く行け」

病院に着くと、母は処置室のベッドで横になっていた。

「月島さんのお母様は、ただの軽い貧血でした。ご心配をおかけしました」

担当医の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。

「もう、心配したよ」

「ごめんなさいね。最近、ちょっと無理してたのかも」

「今日は泊まっていくから。仕事は? 上司が代わりにやってくれるって」

母は少し驚いた表情を見せた。

「御影部長って、厳しい人なんでしょう?」

「うん。でも、意外といいところあるみたいだ」

その夜、久しぶりに母と食卓を共にした。病院食だけど、母と一緒だと、なんだか懐かしい味がする。

翌日、母が元気であることを確認し、安心している俺とは反対に、母はどこか言いにくそうな顔をしている。

「あのね…。ずっと言うか悩んでたんだけど…。その、颯斗のことなんだけど…」

その時、携帯が鳴った。美沙さんからだ。

「ごめん、ちょっと廊下で電話に出る」

「もしもし。月島さん、大変なの!」

美沙さんの声が、明らかに動揺していた。

「どうしたんですか?」

「御影部長が、プレゼンの資料を全部書き換えてしまったの! バリアフリー設計の肝心な部分を、従来型の設計に…」

その言葉に、背筋が凍った。

「なぜ、そんな…」

御影部長の言葉が蘇る。「俺がフォローする」。その意味が、今になって分かった。部長は最初から、俺の設計を潰すつもりだったんだ。

「それだけじゃないの。御影部長が取引先に直接連絡して、『福祉的な要素は予算の無駄遣いだ』って…」

まさか。これまで積み上げてきたものが、音を立てて崩れていく。病院を飛び出し、会社に戻った。

「なんてことだ…」

俺の机の上には、書き換えられた設計図と予算書が置かれていた。バリアフリー設計の肝心な部分が、従来型の設計に変更されている。スロープの勾配は最低限の基準ギリギリ。エレベーターの配置も最小限。確かに法廷基準は満たしているものの、利用者の視点は完全に欠落していた。

「これじゃ、車椅子の方が自然に人の流れに溶け込める動線も、健常者と一緒に楽しめるスペースも、すれ違う時の配慮も、全てが消えていた」

「月島さん!」

美沙さんが駆け寄ってきた。

「見てください。これを」

彼女が差し出したのは、御影部長が作成した新しい予算書だった。

「建設費を30%削減…。こんな金額で、どうやって…」

「それだけじゃないんです。御影部長が施工会社に電話して、『自分なら予算内で収められる』って…」

その時、会議室から怒号が聞こえた。

「こんな予算で施工なんて、無理に決まってるだろう!」

「いや、しかし、御影部長の試算では…」

「試算? 笑わせるな! 御影部長の試算では、基礎工事の費用が通常の半分以下になっている。こんな数字がまかり通るわけがない。それに、この人件費。現場作業員の単価が、最低賃金すれすれまで切り詰められている。こんなんで人が集まるわけないだろう。安全性を確保しながら、この予算でバリアフリー施設を作れるわけがない! それとも、手抜き工事でやれとでも言うのか!?」

「そ、それは…」

「我々は、撤退させていただきます。他社を当たってください」

バタンとドアが閉まる音。廊下には、重苦しい空気が漂っていた。

「月島!」

怒号が響く。真っ赤な顔で近づいてくる、御影部長の姿があった。

「何やってるんだ! 施工会社が撤退するなんて!」

「これは、部長の変更による失態ですよ。なぜ、こんなことを?」

「なぜだと? お前の設計なんかで、大丈夫なわけがないだろう! 予算は限られているんだ。現実を見ろ!」

「でも、これじゃプロジェクトが…」

「そうだな。お前がリーダーなんだからな。全てはお前の責任だ。施工会社との違約金、取引先への賠償金、全て数億円単位の損害が発生する。君には、絶対に支払えない金額だろうね」

その言葉に、背筋が凍る。

「そもそも、母親が倒れただけで会社を休むような奴に、こんな大きなプロジェクトを任せたのが間違いだったんだ」

その瞬間、俺は全てを理解した。優しい言葉で俺を会議から外し、裏では着々と罠を仕掛けていた。この男は、最初から俺を潰すつもりだったんだ。

「お前は、首だ」

突然の宣告に、言葉を失う。

「そんな! 今まで彼がここまで作り上げてきたのに、首だなんてあんまりです! まだ、挽回のチャンスは…」

美沙さんが必死に声をあげる。

「お嬢様。あなたはまだ若い。こんな無能な男に騙されていただけです。会社の損害は膨大です。誰かが責任を取らないと。施工会社との違約金、取引先への賠償、材料の違約金。全て合わせれば、数億円規模になる。月島君、君の年収の何十倍? いや、何百倍かな? もちろん、君一人では支払えない金額だとなると…そうだな。君のお母様の退職金も、差し押さえられることになるかもしれない。看護師として必死に貯めた退職金が、一瞬で消えてしまう。かわいそうに。それに、弟さんの学費も大変なことになるんじゃないかな。医学部は学費が高いって聞くけど」

その言葉に、俺の拳が震える。

「ああ、そうそう。会社のバリアフリー事業も、風評被害を受けるだろうね。『障害者の父を持つ男が、会社に損害を与えた』なんてニュースが出たら…。つまり、君の失態で、家族全員の人生が狂うってことだ。どう、言葉で済ませられる問題だと思うか?」

「明日の朝一で、人事部に処分を上申する。君の机の中身は、強制に片付けておくように」

頭が真っ白になる。どうすれば…、どうすればこの状況を…

その時だった。

「誰が、首だって?」

声が誰のものか分かる前に、車椅子の音が響いた。颯斗だった。スーツ姿の弟が、車椅子に座って、凜とした表情で俺を見つめている。

「颯斗…、どうして?」

「お母さんから聞いたんだ。兄ちゃんがバリアフリー遊園地を作ろうとしていること。施工会社が撤退? それなら、うちの会社で受けようよ」

「お前、何を…?」

部長が困惑した表情を浮かべる。

「ああ、そうだった。自己紹介が遅れましたね」

颯斗がビジネスカードを取り出す。

「バリアフリー建設、月島。代表取締役の月島颯斗です」

その言葉に、会議室が静まり返った。

「御影部長。弊社は難病患者や障害者に特化した建築を手掛けています。バリアフリー設計なら、誰にも負けない自信がある。それに…」

颯斗は少し微笑んで、胸ポケットから1枚のカードを取り出した。

「一級建築士の資格も持ってますからね。医師免許と両方」

俺は目を見開いた。

「颯斗…、どうして車椅子に? それに、なんで建築士まで?」

颯斗は少し寂しそうに微笑んだ。

「話すべきことが、たくさんあるね。実は…、それは颯斗が高校2年生の夏。病名は、筋萎縮性側索硬化症。進行性の筋肉の病気です。残念ながら、完治は…」

その瞬間から、颯斗の世界は一変した。両足の脱力感。階段を上がるのがだんだん辛くなる。そして、将来は車椅子生活になる可能性が高いという現実。

「これじゃ、建築家になんて…」

夜中、布団の中で涙を流した。父が亡くなって、兄と2人で誓った夢。でも、こんな体じゃ、きっと兄ちゃんに迷惑をかけるだけだ。颯斗は、兄の優しさを知っていた。だから、確信していた。このことを知ったら、きっと兄は自分の夢を諦めて、自分の介護を選ぶだろう。そんなの、嫌だ。だから、突き離すしかなかった。

兄に冷たい言葉を投げかけ、建築の夢を捨てたふりをする。それが、兄を守る唯一の方法だと思った。

「でも、本当は…、本当はまだ夢を見ていた。医学の勉強の傍ら、建築の本を読み漁り、夜中にこっそり設計の勉強をした。そして、医学生として勉強をしながら、必死で建築士の資格を取った。やっぱり、建築が好きだった。同じ病気を持つ人たちと出会う中で、新しい使命も見つけた。バリアフリーな建築で、誰もが住みやすい世界を作る。それが、颯斗なりの夢の叶え方だったんだ」

颯斗の過去を聞いて、呆然とした。颯斗はずっと、自分の運命と戦っていたのだ。そして、それを誰にも見せようとしない。それどころか、堂々と話の主導権を握っている。

「実は、このプロジェクトのことは、うちの社長にも話してあるんだ。月島は、大手ゼネコン『惺和建設』のグループ会社なんだ。社長の息子さんも、実は同じ病気なんだよ。だから、障害を持つ人の気持ちが、本当によくわかる人でね。『障害があっても、夢を追いかける君の姿は、息子に希望を与えてくれる』って、言ってくれたんだ」

「それで、バリアフリー専門の子会社を立ち上げることになって、『君が代表を務めてくれ』って。正直、最初は自信がなかった。でも、社長は言ったんだ。『君は医師として病気を知り、当事者として不便を知り、建築家として解決策を知っている。そんな人は、そういない』って」

颯斗はまっすぐに、俺を見た。

「このプロジェクト、絶対に成功させたい。兄ちゃんの設計図を見た時、思わず涙が出たんだ。だって…、父さんそのものだった。人の気持ちに寄り添う設計。誰一人取り残さない優しさ。全部、父さんから学んだことじゃないか」

その言葉に、胸が熱くなる。

「惺和建設の社長には、もう話してある。『月島建設の遊園地案件なら、全面的にバックアップする』って」

颯斗がビジネスバッグから、1枚の書類を取り出した。

「これ、惺和建設からの正式な支援要請書。予算も人員も、必要なものは全て提供するって」

御影部長の顔が、みるみる青ざめていく。

「さあ…、颯斗が俺に向かって、手を差し伸べた。兄ちゃん、一緒にやろう。父さんの夢を、2人の形で実現させよう。ごめんね。あの時、ひどいことを言って」

その瞬間、俺は気づいた。あの頃、工房で一緒に木のぬくもりを感じた日々。父の背中を追いかけた純粋な思い。それは、決して消えていなかったんだ。むしろ、新しい形で、より強く育っていた。

「颯斗…」

俺は、颯斗の手を強く握った。

その時、高沢社長が会議室に入ってきた。

「月島君。君の弟さんの話は、美沙から聞いていた。『バリアフリー建築の第一人者』だと」

御影部長の様子がおかしいと思って、いろいろ調べてたの。そしたら、颯斗さんのことを知って。月島さんの弟だと分かったから、相談もしてたの」

「そうだったんですか」

社長は御影部長の方を向いた。

「若い世代の成長を喜べない人間には、もう用はない。それに、私利私欲で会社に損害を招きかけた罪は大きい。明日付けで、君との契約は終了だ」

「待って! 待ってください! こんな、こんな結末は認められない!」

「諦めたらどうですか?」

颯斗が冷静に告げる。

「あなたのやったことは、全て記録に残っています。設計図の改ざん、施工会社への圧力。そして…」

颯斗はスマートフォンを取り出した。

「これ…」

再生ボタンを押すと、部長の声が流れ出した。

「月島の母親が倒れたか。ちょうどいい。最終プレゼンから外して、設計を変更する絶好のチャンスだ」

会議室が静まり返った。

「まさか…、録音されていただと…?」

部長の顔が真っ赤になる。額には脂汗が浮かび、手が小刻みに震えていた。

「美沙さんが、心配して僕に連絡をくれたんです」

颯斗は冷静に続ける。車椅子に座る姿には、異様な迫力があった。

「録音だけではありません。メールのログ、改ざん前の設計図、施工会社とのやり取り。証拠は、全て押さえてあります」

「そんな…」

部長の声が裏返る。

「おかしい! 私を解雇すれば、損失だ! 私には実績が…、20年の実績が!」

必死に叫ぶ部長の姿は、もはや哀れですらあった。

「実績?」

颯斗が静かに、しかし力強く言った。

「実績って、何ですか?」

その言葉に、部長の動きが止まる。

「僕には分かります。あなたの実績の正体が」

スマートフォンを操作する颯斗。画面には、過去のプロジェクトの記録が映し出されていた。

「5年前の商業施設。予算削減のために、バリアフリー設備を最低限に抑えた。3年前のマンション。工期を無理に縮めるため、下請けに過酷な労働を強いた。そして、去年の公共施設。安全基準ギリギリの設計変更。一つ一つの事例が、部長の実績の正体を暴いていく」

「人の気持ちを踏みにじって、書類を改ざんして、下請けをいじめて。そうやって築き上げた実績に、どんな価値があるんですか? 建築は、人の人生を支えるものです。バリアフリーって、ただの法令準拠じゃないんです」

颯斗は自分の車椅子に手を置いた。

「これに乗っている身として、痛いほど分かる。設計の一つ一つが、使う人の人生を左右する」

「うるさい!」

部長が叫ぶ。

「感情なんて、この業界に必要ない! 効率と利益だけを考えていれば…」

「違います」

今度は、俺が口を開いた。

「建築は、人の暮らしを作るものです。そこに込められた思いが、人々の心も作っていく。父はいつも教えてくれました。建築には、魂が宿るって。木には命がある。その命を生かして、人の暮らしを支える。それが、本当の建築なんです」

会議室の全員が、顔をあげた。若手社員も、ベテランも。みんなの目が、同じ思いを語っていた。

「そんな…、俺は…、俺は何も間違っていなかった…。効率化は必要で…」

もはや、誰も部長の言葉に耳を傾けない。がっくりと、膝から力が抜ける。20年の虚構の重みに、ついに耐え切れなくなったかのように、部長はその場にうなだれた。その姿は、まるで仮面を剥がされた役者のようだった。

数日後、御影部長は懲戒解雇という形で会社を去ることになった。全ての事実が明らかになり、彼は全てを失った。

月島さん。新しい設計図、できました」

美沙さんが資料を抱えて近づいてきた。開かれた図面には、颯斗との共同作業で練り上げた完璧な設計が描かれていた。バリアフリーの理想と、現実的な施工方法が見事に調和している。

「さすが颯斗だな。弟の知識と経験が、俺の設計の弱点を完璧に補っていた」

工事は着々と進み、予定通りの工期で、バリアフリー遊園地は完成を迎えた。

オープン初日。車椅子に座った美沙さんの祖父が、家族と一緒に遊園地を楽しんでいた。俺は少し離れた場所から、その光景を見守っていた。

「父さん。見てる? 俺たちが作ったんだよ。人は誰でも、笑顔になる権利がある。その笑顔を支えるのが、建築なんだね」

父から教わった言葉が、今、形になった。

「兄ちゃん!」

颯斗の声に振り返ると、美沙さんと一緒に手を振っている。

「観覧車、乗ろうよ!」

夕暮れの空に、観覧車が優しく輝いていた。ゆっくりと回る大きな輪は、あの日の父との思い出そのもの。

「うん。行こう」

3人で観覧車に乗り込む。ゴンドラが上昇していく。窓の外には、笑顔で溢れる遊園地が広がっていた。誰もが当たり前のように笑える場所。そんな空間を作ることができた。父の背中を追いかけ、弟と手を取り合い、そして新しい愛を見つけた。夢は決して一人では叶えられない。時に挫折し、傷つき、遠回りすることもある。でも、思いを持ち続ける限り、必ず道は開かれる。大切なのは、諦めないこと。そして、共に歩む人を信じること。

窓の外で夕日が優しく輝いていた。新しい明日へと続く、希望の光のように。

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