「高級ホテルのママ友会で、主催者の女が私にワインをかけ、顔を使用済みの皿に押し付けた。『地味でブスな貧乏人には残飯がお似合いよ』と笑いながら。私はこれまで娘の同級生のママだからと我慢してきたが、もう限界だった。『あなたの父の命、消えますよ』と低く呟いた直後、会場に4人の男と1人の女が現れた。女の顔を見た瞬間、彼女の表情が凍りついた。『まさか、そんな人がここにいるわけない』と震える声で言ったが…

「高級ホテルのママ友会で、主催者の女が私にワインをかけ、顔を使用済みの皿に押し付けた。『地味でブスな貧乏人には残飯がお似合いよ』と笑いながら。私はこれまで娘の同級生のママだからと我慢してきたが、もう限界だった。『あなたの父の命、消えますよ』と低く呟いた直後、会場に4人の男と1人の女が現れた。女の顔を見た瞬間、彼女の表情が凍りついた。『まさか、そんな人がここにいるわけない』と震える声で言ったが...

「今日はママ友会に呼ばれて高級ホテルの会場に来ていた私に、主催者の近子さんはいつものように悪口を言ってくる。嫌がらせがエスカレートした近子さんは、手に持っていたワインのグラスを私の頭の上で傾け、頭からワインをかぶった私は全身びしょ濡れになった。
「何するんですか?」
すると近子さんは「地味でブスな貧乏人には残飯がお似合いだ」と言い、私の頭を掴んで使用済みのお皿に私の顔を押し付けた。
これまで娘の同級生のママだからと我慢してきた私だったが、こんなひどいことまでするなんてもう許せないと怒りが込み上げてくる。
「あなたの父の命、消えますよ。」
私はそう言うと、この後駆けつけてくれた私の母と夫により、近子さんは何もかも失うこととなる。

私の名前は一田ゆ香。小学2年生の娘がいる。この日は定期的に開催されるママ友会に参加するため、高級ホテルに来ていた。私はなんだか気が乗らないでいたが、娘の同級生のママ友の集まりだからと仕方なく参加していた。
「あら、やっと来たのね。ゆ香さん、いつ見ても地味でブスね、あなた。」
いきなりひどいことを言って話しかけてきたのは、この回の主催者である坂本近子さんだ。
「近子さん、今日は誘ってくれてありがとうございます。今回もまたすごい会場ですね。」
「そうでしょ?有名な高級ホテルの会場だから予約するのが大変だったのよ。でもこんな豪華だと、あんたの地味な格好が浮いちゃうわね。自信のなさからより一層顔がブスになってるじゃない。私ったら気を利かせてあげられなくてごめんなさいね。」
私の気が乗らない理由はこれだ。ママ友会に私を呼んでは嫌がらせをしてくる近子さんにうんざりしていたが、子供が同級生だということで私はいつも我慢していた。
近子さんは私を地味だブスだと連呼し、笑いながら隣にいた私とあまり話したことのないママ友に私のことを話し出した。
「あなたたち子供のクラスが違うから話したことないでしょ?この人はね、一田ゆ香さんと言って、とっても貧乏な人なのよ。この地味な格好見てよ。ここが有名な高級ホテルって分かってんのかしらね。ブスだから地味な格好がよく似合ってるけど。」
「随分な言い方ですね。もう子供もいるんだから、いつまでも派手な格好はしていられないと思って、私は落ち着いた格好を選んでいるだけです。」
「言い訳なんて見苦しいわよ。この人はね、こんなこと言って本当は貧乏でブスだから地味な服しか買えないだけなのよ。ちょっと子供の出来がいいからって調子に乗ってるみたいだから、あなたもあんまり仲良くしない方がいいわよ。」
そう言われたママ友は近子さんの言葉に同意することもなく顔を引きつらせている。あまりにも私のことを悪様に言うので引いているのだろう。
「別に調子になんか乗っていません。そんな風に言うのはやめてください。」
「本当のことじゃない。あんたいつも私を見下してるでしょう。間違いなくうちの子が先生に当てられて答えられなかった問題を、あんたの子がたまたま解いたからって私の方を見て勝ち誇ったように笑ってたわよね。」
学校での成績も運動神経も近子さんの子供よりも私の娘の方が上であることを嫉妬している近子さんは、こうしていつも言いがかりをつけては私を嫌がらせのターゲットにしてくるのだ。もちろん私は近子さんを見下したことなどないので、全て近子さんの思い込みだろうが、私が反論したところで近子さんは聞く耳を持ってはくれない。
私はこれ以上と話を続けても無駄だと思い、うまいこと流していたが、近子さんの嫌がらせは続く。
「ゆ香さんみたいな地味でブスな貧乏人に出会ったことないわ。よくそんなので生きてられるわよね。」
そう言って近子さんは笑っているが、相手にしていられないほど幼稚なことばかり言う近子さんに私は呆れていた。
「そういえば私の子供が言ってたけど、あんたの娘、隣のクラスの男の子のことが好きらしいじゃない。噂では両思いだとか言われているそうね。」
「ええ、そのようですね。それがどうかしたんですか?」
娘の話になり、私は少し反応してしまった。
「相手の男の子の両親はどんな人か知ってる?お父さんは仕事でよく海外に行っていて、お母さんもあんたと正反対のとても上品な方で、とってもお金持ちの家柄らしいじゃない?あんたみたいな貧乏人の娘じゃ釣り合うわけないわ。」
「まだ小学2年生の子たちです。そんな子供の恋心なんて可愛らしいものじゃないですか?私もお相手のお母さんも微笑ましい気持ちで見守っているんです。」
「何よ、その言い方。まるで相手の両親と交流があるような口ぶりね。まあ、そんなわけないのは分かってるけど。」
「ええ、相手の家族とは元々家族ぐるみで仲良くしていますよ。行く公園が一緒で話すようになってから、幼稚園の頃からの付き合いなんです。あちらの旦那さんが帰国すると夫同士で必ず趣味の釣りにもお出かけています。子供同士も仲が良かったから、今の恋心もその延長なのでしょうね。子供によくあることですよ。」
「あんな金持ちで上品な家と、あんたみたいな地味でブスな貧乏人が家族ぐるみで仲良くしているなんて。そんなことあるわけないじゃない。嘘をつくならもっとマシな嘘にしたらどう?」
「嘘じゃないです。先週も一緒に私の家の庭でバーベキューをしたんですよ。」
「もうやめてよ。見えっぱかり張って聞いてられないわ。招待されたって誰も貧乏な家に遊びになんて行かないわよ。かわいそうに。憧れのあまり妄想までするようになっちゃったのね。」
私が何を言っても近子さんは信じないので、やっぱり時間の無駄だと思い私はその場を離れようとした。
「私、飲み物が欲しいからあっちでもらってきますね。」
「飲み物ならわざわざ取りに行かなくてもここにあるじゃない。これ飲みなさいよ。」
そう言って近子さんはテーブルに置いてあったワインのグラスを手に取った。
「ごめんなさい。今日はお酒は飲めないんです。だから違うものをあっちで頼んできますね。」
「私が取ってあげたワインが飲めないっていうの。あんたって本当にどこまでもむかつくわね。私がこれを飲めと言ったら黙って飲めばいいのよ。ほら、飲ませてあげるから。」
「きゃっ、何するんですか?」
近子さんは手に持っていたワインを勢いよく私にぶっかけ、私の着ていたワンピースはびしょ濡れになり、ワンピースがワインの色に染まった。何が起こったのかすぐに理解できず立ち尽くす私を見て、近子さんは笑っている。
「地味なワンピースに模様ができて良かったじゃない。ブスなあんたによりそうお似合いのワンピースになったわね。私に感謝したら?」
「感謝なんてするわけないでしょ。今わざとワインをかけましたよね。」
「わざとだなんて、うっかり手が滑ってしまっただけじゃない。」
「わざとじゃないって言うなら、まずは謝るべきじゃないですか。それなのに近子さんは謝るどころか笑っていましたよね。私のワンピースがこんなにも汚れてしまったんです。普通は謝るべきです。それともやっぱりわざとだから謝れないんですか?」
「地味でブスな貧乏人のくせに生意気言ってんじゃないわよ。」
そう言って近子さんは別のワインのグラスを持って私に再びかけようとするが、見かねた他のママ友が間に入り、近子さんの腕を掴んだ。
「何するのよ。まさかあんたたちまで私に向かうつもりなの?私を誰だと思ってるの?」
そう声を荒げながら近子さんはドレスの袖口をまくり上げ腕の入れ墨を見せると、他のママ友たちは怖いと思ったのか黙り込んでしまった。
「そんなところで入れ墨なんて見せるものじゃないです。早く腕を下ろした方がいいですよ。」
近子さんの行動を不快に思った私ははっきりとそう言ったが、近子さんはもちろんそんな言葉を聞くはずもなく、さらに大きな声で怒鳴り散らした。
「うるさいんだよ。さっきからあんた何様のつもりなの?」
「大きな声を出さないでください。他の人もみんな驚いています。今日は楽しくママ友同士で交流を深めるための集まりなんですよね。それなのに大声で怒鳴ったり入れ墨を見せたり、せっかくの集まりが台無しになりますよ。」
「それもこれも全部あんたのせいじゃない。あんたが私を見下したりしなかったら、こんなに気分が悪くなることだってないのよ。」
「だから私は見下してなんかいません。私が近子さんにそんな嫌味を言ったり、何かしたことなんて1度もないですよね。いつも私に悪口ばっかり言ってくるのは近子さんの方です。ワンピースだってこんなに濡れて汚されました。」
「いつも自分が正しいって勘違いしてるその口応えがむかつくのよ。まだ分からないならこうしてやる。」
近子さんはワインが入った別のグラスを私の頭の上に持ってくると、次の瞬間グラスを傾けた。
「何するんですか?」
私は頭からワインをかけられ、全身びしょ濡れになった。
「びしょ濡れになっちゃったわね。ああ、面白い。」
そう言ってお腹を抱えて笑う近子さんを見てママ友が慌てて間に入ると、近子さんは鋭い声で威嚇した。
「私の父親はヤクザよ。貧乏人は残飯でも食べてなさい。」
近子さんは私の髪の毛を掴み、食事で出された使用済みのお皿に私の顔を押し付けた。
「痛い!離してください!」
お皿に乗っているソースが目に入りそうになり、私は急いで目を閉じる。
「きゃっ!痛い!」
「ほら、残りはさらに残った残飯でも食べるのがお似合いよ。」
私の髪の毛から手を離し、楽しそうに笑い転げる近子さん。私はお皿から頭を起こし、ソースだらけの顔を拭いて近子さんを睨みつけた。
「なんてことをするんですか?いい加減にしてください!」
「いい加減にするのはあんたでしょ。私は組長の娘なのに、逆らうあんたが悪いのよ。これで少しは自分の立場が分かったかしら。」
近子さんの下品な笑い声だけが会場内に響き、ママ友は近子さんの行動にドン引きのあまり静まり返っている。ホテルのスタッフが慌てておしぼりを渡してくれたので、私は顔を拭いた。
「ママ友だからとこれまで我慢してきたけど、こんなひどいことまでするなんて、もう許せないわね。」
そう小声で私が呟いた次の瞬間、会場に4人の男性と1人の女性が入ってきた。
「残念ですね。あなたの父親の命は消えましたよ。」
私は低い声で近子さんにそう言い放った。
「はあ?何ふざけたこと言ってんのよ、あんた。残飯でも食べておかしくなっちゃったの?」
「話は聞かせてもらったわ。頭がおかしいのはお前の方だよ。」
「おい、女、覚悟しろよ。これからたっぷり仕返ししてやるからな。」
「あんたたち誰よ?何で部外者が勝手に入ってきてるの?誰かこいつらつまみ出しなさいよ。」
突然現れ、近子さんを睨みつけ、近づいてくる5人組に一丁前に言い返そうとしたが、女性の顔を間近で見た近子さんは勢いを失った。
「あれ?この人、女組長に似てる気がする。まさかそんな人がここにいるわけないか。」
「そのまさかだよ。お前の言う通り。このお方が伝説の女組長、本家一田組の一田志野さんだ。そしてお前がさっき散々ひどい目に合わせていたゆ香の実の母親であり、俺はゆ香の夫で、一田組の若頭をしている。」
「え?何よそれ。このブスがヤクザの娘ですって。」
突然明かされた事実に混乱したのか、近子さんはあたふたしている。確かに一田組は参加50組、全組員2万人を束ねる大きな組織なのはヤクザなら誰もが知っていることで、坂本組も従えているのだから近子さんが混乱するのも無理はない。
「私の大事な娘をブスだなんて言ってくれるじゃないの。聞けばお前、これまでもうちのゆ香にひどい態度ばかり取ってきたそうだね。」
「ひ、ひどい態度だなんて。そんなこと私してません。」
「え?それにまさかこんな貧乏人がヤクザの本家の娘だなんて誰も思わないじゃない。」
「じゃあ、あんた私を騙してたのね。」
「私があの一田志野の娘だと知っていたら、これまでの嫌がらせはなかったと言うんですか?」
「当たり前じゃない。ママ友同士で隠し事してたなんて卑怯よ。」
「結局、相手を見てターゲットを決めてるってことですよね。自分より下だと思ったら、人の顔を残飯に押し付けてもいいんですか?どっちが卑怯でしょうね。あなたのやっていることは人として最低ですよ。」
「まあいいだろう。お前が自分より下だと見下していたゆ香は、お前とは身分が全く違うお嬢様だったってわけさ。さて、お前にはどんな罰を受けてもらおうか。」
そう言って私の夫の公平に鋭い目線を飛ばされた近子さんは、この状況に怯えて目が泳いでいる。
「しかしお前、これまでも娘の事業参観などで何度か見かけたことがあるが、本当にむかつく顔してるよな。性格の悪さが顔ににじみ出てるのを必死に厚化粧で隠してる。ある意味お前はいつも保護者の中で1番目立ってるよ。」
誰もが心の中ではそう思っていたようで、公平の言葉を聞いたママ友たちがクスクスと笑っているのを見て、近子さんは顔を真っ赤にして公平に言い返す。
「な、何ですって。人の容姿をとやかく言うなんて本当に失礼な男ね。」
「なんだ、お前はゆ香の容姿を散々バカにしてきたくせに、自分が言われると腹を立てるのか。そんなふざけた女に俺の妻はひどい目に合わされてきたんだ。許せるわけがねえよな。」
「許せなかったらどうするって言うのよ。」
「そうだな。俺は格闘技を習っていたんだ。パンチやキックはもちろん、締め技も得意なんだが、お前にまずどこから殴るのか選ばせてやるよ。上半身からがいいか?下半身からがいいか?俺はどっちでもいいぜ。」
「え、殴るなんて冗談よね。痛い思いをするのは嫌いよ。」
「いいや。今日はママ友会なのに、どうして関係ない人がこんなところにいるの?後ろの3人の男は誰なの?」
「ママ友と会があった日は、ゆ香が暗い顔して家に帰ってくるんだ。ゆ香は家族に心配かけないようにと、俺たちが聞いても何があったのか言わねえ。だがママ友会に原因があるに違いねえと思い、俺は最も頼れる部下を3人連れて会場の外で様子を見ていたんだ。」
「私はゆ香を心配していた公平から相談を受けていてね。私も大事な娘のことだから気になって、何か分かった時はすぐに知らせて欲しいと頼んでいたのさ。そしたら今日、ゆ香がひどい目に会っていると報告があったもんだから、私の鉄拳を食らわせてやろうと決めてここに来たのさ。」
「そ、そんな暴力は良くないわ。全て誤解なのよ。話せば分か──」
まだ話している途中の近子さんの顔面に母が一発パンチを食らわせた。突然の痛みに声も出せずに近子さんが倒れ込むと、素早く公平は近子さんの背後から腕を回して締め技をかける。
「ま、待って待って、痛いわ。」
苦しそうに叫びジタバタと暴れる近子さんから、公平が一旦腕を緩めた。
「みんな勘違いしてるわよ。私とゆ香さんはママ友として仲良くしているのよ。だからこれからも父の坂本組をよろしくね。この通りだから、どうかお願いします。」
そう言う近子さんの言葉を聞いて呆れた母と公平は険しい顔になり声を荒げた。
「この後に及んで嘘をついて本家に取り入ろうってのか。お前はうちの娘の頭を掴んで、使用済みの皿に押し付けていただろうが。2度と舐めた口聞けないようにボコボコにしないと分からないようだね。」
「ま、待って。殴るのだけはやめて。ごめんなさい。」
近子さんは声を震わせながら体を丸めて、顔と頭を隠すようにガードした。しかし容赦なく母の鉄拳がガードの奥の近子さんの顔面に入ると、近子さんは言葉にならない声を出し両手で顔を覆ってうずくまった。
「誰と誰が仲良くしているですって。近子さんが今日私にしたひどい仕打ちは、母と公平とその部下、会場にいたみんなが見てたんですよ。さっきも言いましたけど、残念ながらあなたの父親の命はないし、坂本組も今日で終わりですよ。」
「そ、そんなこと言わないでよ。このことが父に知られたら私怒られちゃうわ。ねえ、ゆうかさん、これから仲良くやっていきましょうよ。それならいいでしょ。」
「まさか何言ってやがんだ。もう遅いんだよ。」
そう言うと公平は近子さんの頭を掴んでホテルの厨房の方へ行き、近子さんの顔を食器洗い場に埋めた。
「何するの?泡が口に入るじゃない。やめてちょうだい。」
「何って?お前のその腹黒さがにじみ出てる汚ねえ顔を綺麗にしてやってんだよ。その落とすのが大変そうな化粧も一緒に洗えて良かったじゃねえか。」
そう言いながら公平は泡だらけの近子さんのお腹に蹴りを入れた。
「こんなことするなんてあんまりだわ。ひどすぎるわよ。」
「ゆ香は残飯に顔を押し付けられたんだぞ。お前は泡で洗ってもらえただけありがたいと思え。それとももっとひどい目に合わせてやってもいいんだぜ。」
「こ、これ以上は他のママ友さんたちに迷惑がかかるから場所を変えなさい。表で思う存分痛めつけてやるといいから。」
「早苗のおっしゃる通りだな。おい、お前表に出ろよ。そこで改めて思いっきりボコボコにしてやるからよ。」
母の提案に怯えて嫌だと拒否する近子さんを、公平は引きずるようにしてホテルの外に出した。
「な、なんでこんなにいるのよ?」
私と母を追うと、外には100人ほどの一田組の体格のいい組員が待機していた。
「私1人をこんな人数でボコボコにしようっていうの?もうそんなの死んじゃうわ。」
近子さんは怖さのあまりグスグスと泣き始め、先ほどまでの意気揚々とした様子はなくなっていた。
「何言ってんだ。お前のようなクズ1人をボロボロにするなんて、うちの公平だけで十分すぎるくらいだよ。この組員たちは、坂本組を潰すために集めた人員さ。」
「坂本組を潰すですって?そこまでしなくてもいいでしょ。考え直してよ。」
すると組員に囲まれて見えなかった男が1人、近子さんに向かって叫んだ。
「近子、もう諦めなさい。相手は本家の一田組だぞ。そんな大物を敵に回して勝てるわけがないだろう。」
「え、パパ?」
そこにいたのは近子さんの父親であり、坂本組の組長の坂本ミノだった。坂本組長は坂本組を潰しに向かった一田組の組員に捉えられて、縄で体をぐるぐる巻きにされている。
「あんた何やってんのよ。組長のくせにダサいことしないでよね。」
「このバカ娘が。幼い頃からお前には手を焼き続けてきたが、ここまで考えのない大バカ者だとは思わなかった。」
「違うのよ、パパ。私何もしてないわ。全部この人たちの勘違いなのよ。パパなら娘の私を信じてくれるわよね。」
近子さんは自分の父親が捉えられているこの状況でもまだ嘘をついている。
「人の娘の顔面を使用済みの皿に押し付けておいて、何もしてないっていうのか。お前は次から次へと平気で嘘をつき続けるようだね。」
母は呆れてため息混じりにそう言った。
「だ、早々、この度は本当に申し訳ございませんでした。本家のお嬢様にそのようなことをして許されることではないです。出来の悪いバカ娘が引き起こしたこととはいえ、これまで甘やかし、こんな娘に育ててしまったのは親である私の責任です。どんな罰でも受ける覚悟です。」
坂本組長は涙目で謝罪をしたが、近子さん本人は自分は悪くないと言わんばかりの表情で、ふてくされた顔をしてその場に立っているのを見て、怒りが収まらない。
「公平。おい、このクソ女。父親がこうしてるのにお前はバカ丸出しで反省の色もないのか。」
そう言って公平は近子さんの胸ぐらを掴んだ。
「また暴力振るつもり?もう蹴るのは勘弁してよ。」
「蹴るだけで足りるもんかよ。2度と外を出歩けねえほど顔面ボコボコにしてやらねえと気が済まねえ。覚悟しやがれ。」
公平は近子さんをこれでもかと殴ったり蹴ったりする。
「パパ、私がこんな目に会ってるのよ。早く助けてよ。」
「助ける必要なんかないだろう。お前はこれまで俺の言うことを無視して好き勝手しすぎたんだから仕方がないだろう。思い知って己の行いを反省するといい。」
「そんなパパまでそんなこと言うなんて。言いなさいよ、何か。」
「本当はゆ香さんが嫌いで嫌がらせしてたわけじゃないのよ。」
「じゃあ何のためにゆ香に嫌がらせしてたってんだよ。」
公平は近子さんを殴ったり蹴ったりするのをやめて、近子さんに聞いた。近子さんは全身が痛んで立ち上がることができずに、泣きながら理由を話し始めた。
「本当は私、ゆ香さんが羨ましかったの。ゆ香さんはママ友の間でも美人で優しいって評判が良くて、仲良くしたかったんだけど、私より美人なゆ香さんを目の前にすると素直になれなくて、ひどいことばっかり言ってしまったのよ。」
そう言って子供のように泣き出した近子さん。
「なんだその理由は?ゆ香がお前なんかより美人なのは分かりきっていることだが、本当は仲良くしたいって思ってる相手の顔を残飯に押し付けたりするか。どうせまた嘘だろうな。」
「何よ。嘘なんかじゃないわよ。」
そう言いつつも嘘だとすぐにバレてしまったからか、近子さんはしくしく泣くのをやめて顔を真っ赤にした。
「お前が嘘つきなのは分かりきってるから、もう驚かねえが。俺も疲れてきたから、そろそろ金の話をしようか。」
「お、お金って何のお金よ。」
「当たり前だろう。ゆ香は残飯に顔を押し付けられ、顔や髪、服までも汚されたんだから、クリーニング代を請求する。それからママ友さんたちにこれだけ迷惑をかけたんだ。今日の会費も全部こいつに払わせないとね。」
公平はママ友たちに今日の会費の額を確認し、会費全額に加えてクリーニング代などをまとめ、総額1500万円を請求すると告げた。
「1500万ですって。そんなお金ないわよ。」
「あるかどうかは関係ねえ。これは決定事項だ。それとも死ぬまで殴られ続けたいのか?」
請求された金額に慌て、どうしていいか分からない近子さんは坂本組長を見た。
「痛いのはもううんざりよ、パパ。今回は私が悪かったってことにしてもいいから、パパのお金でどうにかしてよ。」
「ちょっと近子さん。あなたのせいでこうして父親である坂本組長も巻き込まれているのに、そんな言い方ないんじゃないですか。」
すると坂本組長は呆れたように深いため息をついた。
「一田組のお嬢さんの言う通りだ。お前というやつは本当にどうしようもないな。この際だからお前にも話しておこう。実は最近、組員のまとまりもなく、組の活動に限界を感じていてな。お前が本家に迷惑をかけたこの機会に、坂本組は解散しようと思う。組の金も解散の時に組員たちに全て渡すつもりだ。」
「坂本さん、あんたの組の噂は聞いていたよ。だが、あんたが悪い人じゃないのは分かってる。私も娘のことでつい頭に来て、親子ともども生かしてはおかないと思っていたが、私も考えを改めよう。どうだい?本家に入り働いてくれないかい?」
「うわ、なんてありがたい。本当にいいんですか?」
「もちろんさ。だけどあんたの娘は、根性を叩き直してやらないとね。」
「はい。一田早苗のおっしゃる通りです。」
「ちょっと、何勝手に話を進めてるのよ。私はこれからどうなるのよ。」
自分の保身しか考えていない近子さんに、坂本組長は父親としてガツンと言った。
「いい加減にしろ。お前が招いた結果だろうが。お前はこれから海外の支店で奴隷のように働き、世の中の厳しさを思い知ってくるといい。」
「そんな、子供はどうなるのよ。出張で働くなんて嫌よ。私──」
「お前の気持ちなんて知ったことか。ここに部下に作らされた契約書があるから、サインしてもらおうか。逃げられるといけねえからな。」
父親からも見放された近子さんは、契約書を見せられると観念したようで、大人しくサインをした。そこに私たちがどうなったのか気になったママ友たちがホテルから出てきたので、私はことの結末をみんなに話すと、ママ友たちは近子さんがいなくなることを喜んだ。
「近子さんから支払いがされたら、今度は近子さん抜きでママ友会のリベンジをしましょう。」
そう言うと、みんな笑顔で頷いて賛成してくれた。
「あの、私もちゃんと反省するから、その時は私も呼んでほしいな。」
ママ友達が全員嫌な顔をして拒否したことで、近子さんはがっくりと肩を落とす。
「俺とお前、散々みんなの前で俺の妻をブスだなんだと侮辱してたが、ゆ香はお前なんかと比べ物にならないほどの美人だ。ちゃんとゆ香に謝るよ。」
ママ友のみんなも私の方が美人だと頷いていて、私はなんだか照れ臭い気持ちになった。
「分かったわ。ゆ香さん、あなたのこと本当は美人だって私も分かっていたのに、嫌がらせでひどいことばっかり言ってごめんなさい。」
あのプライドの高い近子さんが私に謝ってくれたことで、すっきりした気持ちになった。
2週間後、近子さんは両親から勘当された上、旦那さんと離婚したらしい。近子さんの子供は旦那さんが引き取ることとなったが、うるさかった近子さんがいなくなったことで、むしろ穏やかに過ごせているそうだ。近子さんが海外に飛ばされてからも私の元に収入が入ってくるので、きちんと仕事はしているようだが、実際どのような生活を送っているのかは誰にも分からない。
私たちにも平和が訪れ、今度は私が主催でママ友会を開くようになり、子供の学校生活での世間話などを共有し、楽しい時間を過ごしている。

Thumbnail