あの日、夫が「出世の道を閉ざされた」と決めつけて、娘を捨てるとか平然と言った——いや、それ以前に、夫の浮気現場を目撃した瞬間から、すべては狂い始めていた。。いや、違う。正しくは、私の人生が崩れ落ちたのは、夫が家を出て行った後の、あの日、知らない女が玄関に立った時からかもしれない——「ゆとの元妻です」と名乗る、愛人と夫を共有した被害者の立場の女性が。「家族になりませんか?」——その問いかけが、…

あの日、夫が「出世の道を閉ざされた」と決めつけて、娘を捨てるとか平然と言った——いや、それ以前に、夫の浮気現場を目撃した瞬間から、すべては狂い始めていた。。いや、違う。正しくは、私の人生が崩れ落ちたのは、夫が家を出て行った後の、あの日、知らない女が玄関に立った時からかもしれない——「ゆとの元妻です」と名乗る、愛人と夫を共有した被害者の立場の女性が。「家族になりませんか?」——その問いかけが、...

夕食の席で、何気なくその言葉を口にしたのが、すべての始まりだった。

営業部から支援部への移動が決まった。俺は特に深く考えず、軽い気持ちで家族に伝えた。だが、箸を止めた妻・みの表情が一瞬で硬くなった。その目には怒りと苛立ちが浮かんでいる。

え、どうしたの? なんか怒ってる? 怒るようなことを言ったつもりはなかった。俺はおずおずと聞き返した。するとみは小さく震えながら言った。

それってつまり出世の道を閉ざされたってことよ。分かってるのに。そんなに呑気な顔をしてるなんて信じられないわ。これから教育費もかかるって言うのに、あなたは今のまま発揮で満足なわけ? バカじゃないの?

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その言葉の鋭さに、俺は一瞬言葉を失った。沈黙がリビングの空気を重くしていく。普段なら声や会話が飛び交う時間なのに、ピンと張り詰めた静寂が漂った。娘のさは後事を続けながらも、小さく俯き黙っている。ちらりと俺を見ては、少し寂しそうな目でみの様子を伺っている。俺は苦笑いしながら慌てて言葉を足した

俺はとにかく、どの部に所属しようが俺がすべき仕事を頑張るしかないと思ってるよ。そうすれば結果はついてくるはずだし、支援部でも頑張ってれば出世だって——

しかしみの視線は冷たく、怒りの色が薄れる気配はなかった。結局会話を重ねても、食卓にいつものような笑い声や温かい空気は戻らず、徐々に俺も口を閉ざしてしまった。

あれから数日、家の中の空気は重く張り詰めたままだ。みは以前のような笑顔を完全に消し、俺に向ける言葉も必要最低限になっていた。朝食の時も箸を口に運びながら無言で視線を落とし、テレビの音だけが部屋に響く。さらもまた普段の笑顔を失っていた。いつもなら「パパ見て」と笑いながらかけ寄ってくるのに、今は小さな背中を丸め、机の橋で一人絵本をめくるだけ。俺はその背中に手を伸ばすこともできず、ただ見守るしかなかった。

どうにかしなきゃ、でも具体的に何をどうすればいいのか分からないまま、新たな仕事の書類や会議に追われる日々をこなし、家庭での緊張感の間で板挟みにされていた。

家族なのに、誰もが互いに遠くなっていくようなこの阻害感が何よりも辛かった

さらにその状況はますます悪くなっていく。みは次第にさの世話にまで関心を示さなくなってしまった。朝、さの保育園の支度をするわけでもなく、以前は寝癖のついたさの髪を可愛く言ってあげていたのに、それもせず慌たしく朝食を済ませ、っとだけ言い残してそそ草さと先に出勤する日が増えていった。仕方ないので、俺がボサボサの頭で崩るさの髪を慣れない手付きでなんとか一つに結び、保育園に送る。そんな日々が始まった

それでも迎えに行くのはみがしてくれていた。みは残業もなくいつも定時で帰ることができたから、安心して任せていたのだが、ある日の夕方、保育園から俺のスマホに電話がかかってきた

延長です。お母様に連絡が取れませんが、今日の迎えはどうされますか? その声に心臓がドクンと音を立てた。よく聞けば、最近みは迎えの時間に遅れることが多くなっていたという。連絡しても繋がらないということで、父親である俺にかけてきたというのだ。困惑するさの姿を想像すると、怒りと不安で胸が張り裂けそうになる。

慌ててさを迎えに行くと、彼女は小さな手を握りしめ無言で車に乗り込んできた。道中、「ママ、今日どうしたの」と小さな声で訪ねるが言葉は続かない。目には涙が浮かび、必死に耐えているのが分かった。俺はハンドルを握る手に力を込め、胸の奥で固く決意する——もうさを守るのは、俺しかいない。

これは後で分かったことだが、その頃みは俺に一切相談もなく仕事を変え、迎えの時間など考慮に入れず働き、完全にさの日常を見出していた。その日を境に、俺はさの生活全般を一手に引き受けることになった。朝の支度から夜の寝かし付けまで、どんなに疲れても休む暇もなく、さの元気を少しでも取り戻すために全力を注ぐ日々が始まったのだ。会社には事情を説明し、どうしても必要な場合は相対や残業調整も頼んだ. だが、その負担は想像以上に重かった。

朝は眠そうに目をこするさに牛乳を温めパンを焼き、保育園の支度を整える。仕事中も頭の片隅には常にさのことがあり、いつ保育園から電話がかかってくるかと心臓が縮む思い。帰宅すれば保育園での出来事を聞き、お風呂に入れ、絵本を読み聞かせる。。だけど、どんなに前のような元気な笑顔を引き出そうとお笑いかけても、さの笑顔は以前より控えめのままだった

お願いだから、少しはさのこと考えてよ

たまらず夜遅く仕事から帰ってきたみに言ったことがある。でも、どんなに言ってもみは取り合わなかった。ため息をつきながら、

私には私のやり方があるのよ。あなたどうせ仕事暇なんだから、さのお世話くらいってことないでしょ

俺はその言葉を聞いた瞬間、言葉が喉に詰まった。怒りよりも先に、深い虚しさが胸を締めつける。。さの願顔を思い浮かべると、どうしても黙っていられなかった

暇じゃないよ。毎日仕事も家のことも両方で手一杯なんだよ。さらだって寂しがってる。ちゃんと見て欲しいんだよ

しかしみは腕を組んで反論するでもなく、ただ無表情でテレビの画面を見つめたままだった。その冷たい視線の先に、かつての穏やかな笑顔は影もなく、俺の声は虚空に消えていく。。その夜、さは俺の布団に小さな背中を寄せながらぽつりと呟いた

パパ、ママ、なんだか怖いね

その一言に、俺は言葉を失った。。どんなに努力しても、今の家庭は崩れかけていて、元の温かさを取り戻すことがどれほど遠いのかを図鑑したのだった

そしてある日のこと、取引先に書類を届けるため駅前を歩いていた俺は、信じられない光景を目にした。。人ゴみの中で目に飛び込んできたのは、みが見知の男と手をついで楽しげに歩いている姿。。最初はただの友達だと思おうとしたが、二人の間には微笑みと親しげな仕草があり、明らかにただの友人関係ではなかった。。俺の心臓は一瞬で凍りつき、手が震えた。。無意識にポケットからスマホを取り出し、目立たないようにカメラを構える。。シャッターを切るたびに、胸の奥で何かが粉なに砕けていく音が聞こえるようだった。。二人は笑いながら歩き、やがて駅前の小道を曲がってホテルの入り口へと消えていった

全身に怒りと絶望が押し寄せ、足が救んで動けない。。心の中では「どうして」と繰り返すしかなかった。。最愛の妻が自分を裏切る現場を間のにして、言葉も出なかった

帰りの電車の中、俺はスマホを握りしめ、カメラに納めた証拠を何度も見返した。。目の前の現実が夢で会って欲しいと願いながらも、画面の中の二人は確かに手をつなぎ無邪気に笑っている。。その笑顔が、俺にとっては地獄のように痛かった。。怒り、悲しみ、絶望、全てが一度に押し寄せ胸の中で渦巻いた。。しかし、この証拠を突きつけて問い詰めるべきかどうか、頭の中は混乱していた。。感情のままに問い詰めれば、みも反発し、さらにさにまで悪影響を及ぼし、取り返しがつかなくなるかもしれない。。だが、このまま何も言わずに黙っていることも、俺の心を徐々に蝕ばむだけだ。。胸の奥で絡まった感情をどう処理すればいいのか、分からなかった

その日の夜、さを寝かしつけた後、暗闇の中で何度もスマホの画面を見返し、証拠を握りしめながら、俺は深く息を吐いた。。みからは「残業になった。遅くなります」と連絡があった。。そのLINEが来た時、俺は決めた——逃げない。。目を背けちゃいけないんだと。。さや自分のためにも、この現実と向き合い、全てを明らかにするしかないと心に誓った

翌日は日曜日だった。。昼前に起きてきたみに、覚悟を決めて俺はみの前に立った。。手には、必死に抑えた証拠の写真と動画。。心臓が激しく鼓動する中、震える手でそれを差し出した

みつき。これどういうことだ? 説明してくれ

みは一瞬、俺の顔を見ただけですぐに薄笑いを浮かべた。。その目には挑発するような光が宿り、怒りや悲しみで熱くなった俺の胸をさらに刺すようだった

あら、やだ。もうバレちゃったのね。。まあ、説明する手間が省けて助かったわ

は?

どういうことだって聞いてんだよ。。何笑ってんだよ

なんでそんなに怒ってるの? 私には私の人生があるのよ。。あなたには関係ないでしょ。。出世も見込めないあなたとこれからも一緒にいるなんて、時間の無駄だなって思うのよね。。それに引き換え、ゆとは将来が明るいのよ。。あなたと違って。。ゆと——ええ、この写真に映ってる人、私の彼氏なの。。この前プロポーズされたの。。あなたと離婚して、ゆと一緒になるつもりよ

何言ってんだよ。。いきなり——さは、さのことを考えたことはないのか? みは薄笑いを浮かべたまま、軽く鼻で笑った。。「さなんて、ゆとにあげるわよ。」「ゆと、子供嫌いだし、はっきり言って邪魔なのよ。」

その言葉と表情に、俺の中で長く張り詰めていた意が一気に切れた。。だけど、その瞬間、迷いも後悔もなく離婚を決意する覚悟が、俺の奥底で確かに芽えた。。みのことをどうこう思う余地は、もうなかった。。これまでの怒りや悲しみも、嘘や裏切りも、全ては過去の出来事だ。。今、俺の胸の中で最も大きく膨らんでいるのは、大切な一人であるさへの愛情だった。。小さな体で一生懸命に笑い、時には気を使うようになったさを守りたい。。安心して暮らせる家庭を取り戻したい。。そう考えると、自然と心は静まり、覚悟が確かな形となって胸に落ちていった。。みに対して感じるのは、もはや怒りや憎しみではない。。ただ、娘にとってこれ以上有害な存在であって欲しくないという思いだけだ。。さの笑顔を守るためなら、自分の全てを投げ出してでも構わない。。そう思った瞬間、未来が少しだけ明るく見えた

もういい。。みつのことなんてもうどうでもいい。。今大事なのは、さだけだ

心の中で呟いたその言葉が、俺の決意の全てを表していた。。みが家を出て行った後、家の中には不思議なほどの静けさが広がった。。最初はその静寂に違和感を覚え、胸の奥にぽっかり穴が開いたような寂しさもあった。。しかしそれは、やがて安心感へと変わっていった。。さも「ママ、ママ」と恋しがることはなくなった。。代わりに小さな手で俺の手を握り、笑顔で話しかけてくれる。。その笑顔は以前よりも少しだけ慎重で、でも確かに心からのものだった。。夜、寝かしつける時も、俺の肩に頭を預け安心して眠る姿を見て、胸が熱くなる。。家の空気も少しずつ柔らかくなった。。笑い声や会話が戻るのには時間がかかったが、以前のような気まずい沈黙ではなく、落ち着いた安らぎのある静けさだった

ね、パパと二人でとっても楽しいよ

さのその言葉に、俺は思わず笑みを返す。。きっとさの小さな心は、かつてのギスギスしたあの冷たい空気に押しつぶされそうになっていたのだろう。。外の世界の幻想や仕事の疲れも、さと過ごす時間が全て柔らげてくれる。。俺にとって、さの笑顔こそが何よりも大切な光となっていた

そんな平穏な日々を過ごしていたある日、インターホンのチャイムが鳴った。。画面を見ると、見知らぬ女性が立っている。。整った顔立ちに、どこか疲れの滲んだ瞳。。手には小さなバッグだけを持ち、頭を下げている

初めまして。。下ひと言います。。ゆとの元です

その言葉を聞いた瞬間、俺は一瞬息を飲んだ。。ゆとの元妻——つまり、みの相手は既婚者だったということ。。知らなかった事実に衝撃が走り、茫然とした。。心の奥で驚きと困惑が入り混じる中、俺は反射的に「とりあえず入って」と声をかけ、彼女を家の中に迎え入れた

千ひさんは少し戸惑いながらも家の中に入り、俺が案内したリビングのソファーに遠慮勝ちに腰を下ろした。。その間にも手元の小さなバッグをギュッと抱え、緊張した面持ちで周囲を見渡している。。千ひさんは小さく頭を下げ、震える声で話を続けた——元々ゆとは応望で自分の都合だけで動く人だったということ。妻である自分の意見は何も聞いてもらえなかったこと、なんとかやり過ごしてきたが、浮気が発覚し、開き直ったゆとに家を追い出されたこと、所持金もほとんどなく、行く場所もなく土方にくれてここまでやってきたこと——どれほど困窮し、心細い思いをしてきたかが、その声から痛いほど伝わってきた。だが、ふと疑問も湧いた

ちょっと待って。。でも、どうしてここに? 千ひさんは俯きながらも小さく息をつき、震える手を重ねた

正直に言うと、迷いました。。こんな状況で押しかけてしまっていいのかって。。し太さんのことは、ゆととの離婚話の中で偶然耳にしたんです。。太さんも同じように浮気や離婚で辛い経験をされていると知って、どうしても分かり合える気がして。。同じように浮気されて離婚した立場だから、あなたなら私のこと理解してくれるんじゃないかって、すがるような気持ちで——

俺は胸の奥に複雑な感情が渦まくのを感じた。。共感と驚き、そして同じ痛みを知るもの同士だからこそ分かり合えるかもしれないという予感。。また同時に、目の前の女性の切っぱ詰まった状況を見て、責任を感じずにはいられなかった。。さの生活を守るために必死だったことと同じように、困っている人を放っておけない気持ちが自然と湧き上がる。。千ひさんの表情には不安と緊張が入り混じり、それでもこちらに訴えかける真摯さがあった。。心の中で少し考えたが、自然と口から言葉が出た

分かった。。とりあえず、家や仕事が決まって生活の目度が立つまで、ここにいればいいよ

千ひさんは小さく息をつき、肩の力が抜けたようにほっとした表情を見せた。。俺もまた、予想外の来者を受け入れる不安と同時に、同じ経験を持つものとしての共感と安心感が入り混じるのを感じた。。リビングに通し、温かい飲み物を足しながら、しばらく互いに沈黙の時間を共有する。。この人と、これからどう関わるべきか。。でも、今目の前に助けを求める人がいるのは紛れもない事実。。俺はどうしてもそれを無視できなかった

ただ、人見知りのさが、いきなり現れた千ひさんを受け入れてくれるのかどうか、不安だった。。実際、その日保育園から帰ったさは、家にいる千ひさんに驚き、警戒するように遠巻からじっと見つめていた。。千ひさんが気地なくも微笑みながらさに話しかける声や、リビングでおもちゃを並べて遊びに誘う姿に、距離を置いて観察しているようだった。。でも、さが好きな絵本を優しい声で読み聞かせてくれたり、一緒にブロックを積み上げて塔を作ったりするうちに、さの表情は次第に柔らかくなっていった。。笑い声が自然にこぼれ、最初は手を引いても距離を置いていたさが、やがて千ひさんの手を握ったり、膝に座ったりして、心を開き始めた。。千ひさんの細やかな気配りや優しい声かけは、さに「この人なら大丈夫」と安心させるのに十分だったのだ

子供好きなので、さらちゃんと過ごせて本当に嬉しいです。。私は、子供に恵まれなかったから——

胸が締めつけられる思いだった。。日々が少しずつ流れる中で、千ひさんは自然と家の中に馴染んでいった。。朝早くから朝食を用意し、窓を開け、部屋を整えてくれていた。。夕食も用意してくれ、俺たちは帰るとすぐ温かいリビングでくつろぐことができた。。最初は気地なく見えた動作も、日ごとに手際よく家庭のリズムに溶け込んでいく。。さとの関係も日に日に深まった。。千ひさんはさの話に耳を傾け、些細なことでも「そうだね」「すごいね」と共感を示した。。さは最初、照れ臭そうに笑うだけだったが、やがて千ひさんに甘えるように膝に座ったり手を握ったりするようになった。。寝かし付けの時間には、さの好きな絵本を声色を変えて読んであげたり、一緒に布団に入りながら小さな手を握ったりして、まるで親子のような穏やかな時間が流れた

俺はその様子を見て、心の奥で少しずつ変化を感じていた。。千ひさんの柔らかな笑顔、さに向ける優しいまざし、家の中に漂う温かい空気——それらが、自分が長い間失っていたもの、あるいは諦めていたものを思い出させるようだった。。もちろん最初は戸惑いもあった。。千ひさんは離婚しているとはいえ、俺の元妻の浮気相手の奥さんだ。。そんな千ひさんと共に家族のように過ごすことの違和感が胸を指す。。だが、千ひさんもまたさとの時間を楽しむ一方で、俺に対しても少しずつ心を開いてくれるようになっていった。。料理の味付けや家事の工夫についての会話、さの保育園の話を交わす日常のやり取りの中で、互いの人柄が理解されていく。。言葉にせずとも、互いの気配や仕草から得られる温かな安心感。。夕方、リビングで三人並んで座り、さと笑いながら遊ぶ時間が心から楽しかった。。毎日の小さな奇跡のような瞬間が、俺たち三人の距離を確実に縮めていくのを感じる

ある夜、寝かし付けの後、千ひさんがキッチンで片付けをしている姿を見ながら、俺はふと胸が熱くなった。。家族としてではなく、一人の女性として、心が惹かれていることに、まだ自分でも言葉にできないが、確かに確信が芽えていた

そんなある日、買い物に出かける千ひさんを見送った後、さが無邪気に訪ねてきた

パパ、ちひろさんのこと、嫌い?

いや、嫌いなんて、そんなわけ——むしろ、ちひろさんがいてくれてよかったと思ってるよ

パパ、さ思うの。。ちひろさんが、マだったらいいのになって

その言葉で、俺は決心した。。千ひさんが買い物から戻ると、俺は千ひさんの手を取り、まっすぐに目を見つめた

千ひさん、俺と、結婚を前提に付き合ってくれませんか? これからも、ずっとここにいて欲しいと思ってる

千ひさんは涙を流しながら、俺の手を握り返してくれた。。さらも、目を輝かせて応援してくれた。。こうして、俺たち三人の新しい家族の生活が始まった。。千ひさんは家でできる動画編集の仕事を見つけ、生きと輝きを取り戻していった。。さらも笑顔を取り戻し、平穏で幸せな日々を過ごすようになった

あれから数ヶ月が過ぎ、俺たちの生活は少しずつ軌道に乗ってきた。。さは保育園でも明るい笑顔を取り戻し、友達と遊ぶ時間が増えた。。千ひさんも家事と仕事をうまく両立し、家の中には久しぶりに笑い声が響くようになった。。ある日のこと、俺は会社の契約先でトラブルに直面していた。。地元農家の新しい取り組みを紹介するイベントの告知記事を出す予定だったのだが、印刷所からデータに不備があって納期に間に合わない可能性があると連絡が入った。。慌てて担当者に修正を依頼し、同時進行でWeb候の内容も差し替えの準備を進める。。参加予定者やメディアへの影響を最小限に抑えるため、頭の中は古回転だった。。そんな中、千ひさんから電話が入った

し太さん、こんばんは。。早く帰って来られる? さらちゃんが待ってるの。。見せたいものがあるって

分かった。。急いで片付けるよ

帰宅すると、さが玄関で大切に何かを抱えていた。。両手に抱えていたのは、千ひさんと一緒に作ったという粘土の人形。。その可愛らしい人形は三体——俺と千ひさんとさらだという、三人仲良く手をついでいる。。誇らしげにその人形を見せるさの笑顔に、疲れは一瞬で消えた。。その夜、夕食後に千ひさんがそっと隣に座ってきた

私、ここに来て本当に良かった。。さらちゃんも、私を受け入れてくれて

俺もだよ。。最初は正直迷ったし戸惑ったけど、千ひさんがいるから、家の空気が変わった。。さも元気になったんだ

彼女は小さく頷き、俺の手を握った。。そのぬくもりに、未来への希望を強く感じた

そして、俺はある日のニュース番組で、衝撃的な映像を目にする——ゆととみが、投資詐欺間がの事業に関与していたとして、警察に事情聴取されているというのだ。。内容は、実態のない不動産開発や架空のビジネスを持ち出し、出資者から他額の金を集めていたというものだった。。最初のうちは「必ず利益が出る」「短期間で資産が倍になる」と合護し、知人やSNSを通じて人を集めていたらしい。。実際には何の事業計画もなく、集めた金の大半は贅沢な暮らしや有教費に消えていたという。。報道では、みがゆとと並んでブランドもに身を包み、投資セミナーの団場で笑顔を見せている写真も映し出された。。彼女はただ巻き込まれただけなのか、それとも進んで加担していたのかは分からない。。でも、世間的には完全な犯罪者だった

ニュースキャスターが淡々と告げる——「被害総額は数千万円に登ると見られ、警察は今後、詐欺容疑で本格的に調査を進める方針です。」

心の奥では、複雑な痛みが渦巻いた。。かつて愛した人であり、さにとっては掛け替えのない母親であるみが、こんな形で落ちてしまったことを、どこかで信じたくなかった。。裏切られた過去があっても、彼女の全てを否定することには、ためいがあったのだ。。それでも、俺は前を向くしかない。。さを守り、千ひさんと共に歩んでいく未来こそが、今の俺にとって揺るぎない現実なのだから。。千ひさんはニュースを一瞥しただけで、「もうあの人は他人よ。。私には関係ないわ」と強く言った。。その言葉に、俺は静かに頷き、胸の奥で再び確かめた——そう、過去に縛られる必要は、もうどこにもないのだ

その後、俺のスマホに、みつきから留守伝が入っていたのに気がついた

助けて。。無実なの。。証明してよ

留守の声は震えていて、必死さが痛いほど伝わってきた。。耳を塞ぎたくなるほど懐かしい声だ。。一瞬、あの頃の生活がよぎる。。だが、手のひらでスマホを握りしめたまま、俺は無言で画面を見つめていた。。深呼吸して、指先をスワイプさせ、留守伝を削除する——もう、関わらない。。そう、消去ボタンを押すと、声は虚しく消えていった

数ヶ月が過ぎ、俺たち三人の絆はさらに深まっていった。。週末は公園でピクニックを楽しみ、三人で料理を作り、家族写真を撮った。。さは千ひに甘え、俺には「パパ、ありがとう。。大好きだよ」と思いやりの言葉をかけてくれる。。「パパ、千ひろさんとさらと、三人ずっと一緒にいようね。」「もちろんだよ。。ずっと、家族だ。」朝が来れば、また新しい一日が始まる。。さを送り出し、千ひと一緒に家事を済ませ、出勤する。。人生って、不思議だな。。辛いことの先に、こんな幸せが待っているなんて。。「し太さん、これからも一緒に歩こうね。」「ああ、絶対にな。」家の中は笑い声に包まれ、日々の何気ない時間が宝物となった。。さの笑顔、千ひの優しさ、そして俺の決意——全てが、俺たちの未来を支えてくれていた。。俺たちの出会いは決して綺麗な形ではなかった。。裏切りと深い傷の果てにたどり着いた偶然に過ぎなかったかもしれないけれど、今振り返れば、それは避けられない必然の導きだったのだと思う。。あの痛みがあったからこそ、俺たちは出会い、支え合う意味を知ることができたのだ。。だからこそ、この絆を決して手放さない。。さと千ひと共に歩む未来を、俺は何よりも大切にしていこう——心からそう誓った