「あんたたち、この泥棒夫婦!よくも私の懸賞旅行券を盗んで旅行に行ったわね!罪を認めなさい!今すぐここで逮捕されるか、どっちか選びなさい!」…

「あんたたち、この泥棒夫婦!よくも私の懸賞旅行券を盗んで旅行に行ったわね!罪を認めなさい!今すぐここで逮捕されるか、どっちか選びなさい!」...

結婚25周年を祝う温泉旅行から帰宅した私たちを、自宅前で義姉の秋保が鬼のような形相で待ち構えていた。隣には困惑した顔の警察官が二人。私たちを見るなり、彼女は喚き散らした。

「とぼけるんじゃないわよ!あんたたち、私が大事に取っておいた懸賞のペア旅行券を盗んで旅行に行ったでしょ!この泥棒夫婦!」

全く身に覚えがない。今回の旅行は私たち夫婦が自分たちで計画し、費用も全額自分たちで支払ったものだ。そもそも秋保が懸賞に当たったなどという話は初耳だった。

「盗んでなんかないわ。何を言ってるの?私たちは自分たちのお金で旅行に行ったのよ」

「そうだ姉さん。俺たちがそんな卑怯なことをするわけないだろう」

私たちがきっぱりと否定すると、秋保はヒステリックに叫びながら警察官にすがりついた。

「お巡りさん、聞いてくださいよ!こいつらが私の大事な旅行券を盗んだんです!早く逮捕してください!」

しかし警察官は深く息を吐き、表情を引き締めた。

「奥さん、もういい加減になさい。これ以上虚偽の申し立てを続けるのであれば、あなたを虚偽告訴の容疑で逮捕せざるを得なくなりますよ」

逮捕という言葉に、秋保は体を震わせた。

私の名前は前園のふ香。50代の会社員だ。夫の裕介も同じ年で会社勤めをしている。穏やかで誠実な裕介との結婚生活も、もう25年になる。長男と長女は立派に成長し、それぞれ社会人として独立した。ようやく肩の荷が下り、私たち夫婦にも自分たちのための時間が訪れたのだ。

そんなある日、裕介がリビングで旅行雑誌を眺めながら嬉しそうに提案してきた。

「ふ香、これを見てくれ。この秋の紅葉特集、すごく綺麗じゃないか?子供たちも独立したし、たまには俺たちも奮発して温泉旅館でゆっくりしよう」

パンフレットには燃えるような紅葉に囲まれた露天風呂や、豪華な会席料理の写真が美しく掲載されている。私は二つ返事で賛成した。まるで新婚時代に戻ったかのように、日程や予算、行きたい場所を話し合う時間はとても幸せだった。

ところが、その計画をどこで聞きつけたのか、夫の実の姉である秋保が突然我が家に押しかけてきた。

「あら、裕介さん、ふ香さん、こんにちは。ちょっといい話を聞いたわよ。今度二人きりで豪華な温泉旅行に行くんだって?当然この私も誘ってくれるんでしょうね。もちろん旅費もお小遣いも全部あんたたち持ちでよろしくね」

秋保は昔からこういう強欲で自己中心的な人間だった。他人の持ち物を異常に欲しがり、自分が持っていないものを持っている人を見ると嫉妬心を燃やす。手に入らないとなると逆恨みし、相手を罵倒したり嫌がらせをしたりするのが常だった。

結婚して間もない頃、亡き母から譲り受けた大切なブランドのハンドバッグを見た秋保は「あら、そのバッグ素敵じゃない?私にちょうだいよ。あんたにはもったいないわ」と強引に迫ってきた。当然断ると、顔を真っ赤にして逆上し、私が目を離した隙にそのバッグを持ち帰ろうとしたのだ。幸い裕介が気づいて取り返してくれたが、一歩間違えば窃盗罪が成立するような行為だった。

また、私たちが都内にマイホームを購入した時も、見るなり「なかなか小綺麗な家じゃないの。でも私たち夫婦の方がもっと大きくて立派な家をすぐに建てて見せるわよ」と宣戦布告し、夫の辻さんに無理やり新築を迫った。しかし辻さんの収入では無理な話で、結局計画は頓挫した。秋保はその不満と鬱憤を全て私に向けてきたのだ。

母の形見のバッグをくれなかったこと、自分たちより先にマイホームを建てたこと。それらを根に持ち、一方的に私を逆恨みした。そして数年に渡って深夜の無言電話、職場への嘘のクレーム、根もない悪口の流布など、悪質な嫌がらせを繰り返すようになった。さすがに我慢の限界に達した私たちは、義兄の辻さんに全てを報告した。辻さんは激怒し、秋保をこっぴどく叱った。それ以来、しばらくは大人しくしていた。

だが、喉元過ぎれば熱さを忘れるのがこの義姉の性分だ。私たちの温泉旅行の話を聞きつけた秋保は、また執拗に要求を繰り返した。毎日のように押しかけては「私も連れて行け」「姉を仲間外れにする気なの」「お金は全部あんたたちが出して当然でしょう」とわめきたてた。

今回ばかりは絶対に邪魔されたくない。これは私たち夫婦の25年間の記念の旅行なのだ。裕介も珍しく毅然とした態度で跳ねつけた。

「姉さん、これは俺たち夫婦にとって大事な記念の旅行なんだ。二人だけでゆっくり過ごしたいんだよ。悪いけど遠慮してくれ」

それでも秋保は諦めない。逆恨みして、さらに嫌がらせ電話の頻度を上げてきた。私たちは旅行の日程と行き先を一切伝えないことに決めた。そして金曜日の夜、夜逃げするようにこっそり家を出て、念願の温泉旅行へと向かったのだ。

久しぶりの夫婦水入らずの旅行は、予想以上に素晴らしい時間となった。息を飲むほど美しい紅葉、心地よい温泉、極上の料理。誰にも邪魔されることなく、穏やかで満ち足りた時間が流れた。心も体もリフレッシュされ、晴れやかな気持ちで家に着いた。だが、その幸福感は玄関先に到着した瞬間、悪夢のように打ち砕かれた。

家の前に、まるで待ち構えていたかのように鬼の形相の秋保が腕を組んで立っている。その隣には困惑した表情の警察官が二人。私たちが恐る恐る車から降りると、秋保は獲物を見つけた獣のように駆け寄り、怒鳴りつけた。

「あんたたち、この泥棒夫婦!よくも私を騙して旅行に行けたわね!さあ、罪を認めなさい。自主するのか、それとも今すぐ逮捕されるのか、どっちか選びなさいよ!」

訳がわからず呆然とする私たちに、秋保は得意満面で言い放った。

「とぼけるんじゃないわよ!私が大事に取っておいたネット懸賞のペア温泉旅行券を盗んで使ったんだろう!これは立派な窃盗よ!」

警察官たちは困惑しながらも職務として事情を尋ねてきた。私たちは正直に、詳細に説明した。今回の旅行は自分たちで計画し、費用も自分たちで負担したこと。秋保さんの言う懸賞の旅行券については全く知らず、身に覚えがないことを。

「そもそも姉さんがネット懸賞に応募していたなんて話も、当たったなんて話も今日初めて聞いたくらいですよ」

それを聞いた秋保は顔を真っ赤にして反論した。

「きーつくんじゃないわよ!私が毎晩パソコンで色々な懸賞サイトに応募して、やっと当てたプラチナ当選確率のペア旅行券なのよ!それをあんたたちが家に遊びに来た時にこっそり盗んだに決まってるじゃないの!」

「証拠でもあるの?」

「証拠ならあるわよ!あんたたちがその旅行券を使って旅館のフロントで手続きしているところを見たっていう目撃者がいるんだからね!」

あまりにも幼稚な嘘に、私たちは呆れてものが言えなかった。

「もし本当に私たちがあなたの旅行券を盗んだと信じているのなら、どうぞ正式に警察に届け出を出してください」

「そうだ。警察に介入してもらって、どちらが正しいかはっきりさせてもらおうじゃないか」

私たちが冷静に促すと、秋保は一瞬たじろいだ表情を見せたが、すぐに強気な態度を取り戻した。自分が呼んだ警察官の手前、引けなくなったのだろう。

「ふん、望むところよ!だったら今すぐ本部に連絡して被害届を出してやるわ!」

そう言って秋保はスマートフォンを取り出し、大声で通報を始めた。しばらくして、連絡を受けた別の警察官が数名、パトカーに乗って到着した。状況はさらに大事になり、近隣住民の注目も集めてしまった。

警察官は私たち夫婦と秋保から、改めて詳細に事情聴取を開始した。秋保は涙を流さんばかりの演技で、自分がいかに懸賞で当てた旅行券を大切にしていたかを語り、私たちがそれを盗んだに違いないと繰り返し熱弁を振るった。

一方、私たちはあくまで冷静に事実だけを述べた。今回の旅行は私自身が旅館の公式サイトを通じて正規に予約し、全額を個人のクレジットカードで支払ったものであること。宿泊予約は正式な手続きを経て完了しており、秋保の言う懸賞とは全く無関係であること。

それを聞いた年配の警察官が、今度は秋保本人に鋭く質問を投げかけた。

「奥さん、さっきから懸賞懸賞とおっしゃっていますが、具体的にどこの会社のウェブサイトで、どのような内容の懸賞だったのですか?」

その質問に秋保は明らかに動揺し、視線を泳がせた。

「え、えっと、それはどこのサイトだったかしらね。ほら、私色々なサイトを見てるから忘れちゃったのよ」

「そうですか。では、懸賞に当選したのであれば、通常主催者側から当選通知のメールなどが届いているはずですが、それを見せていただけますか?」

「メール?ああ、そういえば来てたかもしれないけど、私は宣伝メールみたいなのは読まずにすぐに削除しちゃうのよ。そういう主義なの。だからもう残ってなんかないわ」

怪しさここに極まれりだ。警察官はさらに畳みかけた。

「最近のスマートフォンでは、一度削除したメールでもゴミ箱フォルダーから復元することが可能ですよ。もし当選メールが確認できれば、奥さんの主張を裏付ける有力な証拠になります。是非ご協力いただけますね」

そう言って警察官がスマートフォンを一時的に預かろうと手を差し伸べると、秋保はまるで蛇に睨まれたカエルのように顔色を変え、自分のスマホを胸に強く抱きしめて拒んだ。

「いや、だめ!私のスマホを勝手に見ないでよ!プライバシーの侵害よ!」

その必死で異常な拒絶の様子は、誰の目から見ても彼女が嘘をついていることを明白に示していた。その間に私は自分のスマートフォンを操作し、宿泊した旅館のフロントに連絡を取っていた。私自身で公式サイトから予約し、個人のクレジットカードで全額支払い済みであることを証明する利用明細書をPDFデータで送ってもらうよう依頼したのだ。ほどなくして送られてきた証明データを、私は警察官に提示した。

「こちらが証拠になります。この通り、この宿泊は私が自分で正規に予約し、支払いを済ませたものです。秋保さんの言う懸賞とは一切無関係です」

動かぬ決定的な証拠を突きつけられ、さすがに観念するかと思いきや、秋保は最後の悪あがきとばかりに大声で泣き叫んだ。

「うわーん!そんなの絶対に嘘よ!出でっち上げだ!私は絶対に嘘なんかついてないんだから!この人たちがみんなグルになって私一人を悪者に仕立て上げようとしてるのよ!ひどいわ!」

近所中に響き渡るような泣き喚く姿は、見苦しいという言葉以外に見つからない。警察官たちももはや付き合いきれないという様子だった。

「奥さん、もういい加減になさい。これ以上虚偽の申し立てを続けるのであれば、あなたを虚偽告訴の容疑で逮捕せざるを得なくなります。それでもよろしいのですか?」

逮捕という言葉に、秋保はびくりと体を震わせた。そしてさっきまでの勢いはどこへやら、急に小犬のように弱気になり、涙声で言った。

「あ、あの、もしかしたらだけど、私のただの勘違いだったかもしれないわ。ごめんなさい。お騒がせしました」

結局、警察官は今回に限っては秋保を逮捕することなく、再三に渡る厳重注意の上でその場は解散となった。やれやれ、これでようやく静かになる。私たちが心底からの安堵のため息をついたのもほんの束の間だった。

秋保が警察官相手にあれだけ大声でわめき散らしたため、我が家の前には多くの近隣住民や通行人が集まっていた。その中に、先ほどからずっとスマートフォンを片手にこの騒動を撮影し続けている若い男性の姿があった。どうやら最近流行りの動画配信者らしい。この騒動を格好のネタとばかりに、面白おかしくライブ実況中継をしていたのだ。

「いやあ、皆さんご覧ください!とんでもないモンスター義姉が今まさに警察に説教されてますよ!これは間違いなくバズるぞ!チャンネル登録よろしく!」

その声に秋保が気づいた。警察に説教されたばかりの鬱憤と、人前で恥をかかされた怒り。行場を失った彼女の攻撃性は、今度はその動画配信者の若者に一直線に向けられた。

「な、何よ、あんた!人の不幸を笑い物にして勝手に撮らないでよ!肖像権の侵害よ!」

秋保は狂ったようにその若者に突進した。そして彼が呆けている隙に、その手からスマートフォンを引ったくると、憎しみを込めて力任せにアスファルトの地面に叩きつけた。さらに気が済むまでヒールの靴で何度も何度も踏みつけた。バキッ、メキッという鈍い音が響き渡り、高価であろうスマートフォンは液晶画面が粉々になり、見るも無惨な姿になってしまった。

「うわ、ちょ、俺の大事なスマホが!何てことをするんだ、このクソババア!」

その突然の衝撃的な暴挙を目撃していた周りの人たちが騒ぎ出し、誰かが再び110番通報した。先ほどまでいた警察官たちが、今度は本当に心底うんざりしたという表情で現場に引き返してきた。

「やれやれ……今度は一体何があったんですか?」

秋保は現行犯だ。言い逃れのしようもない。多くの目撃者もいる。彼女は器物損壊という明白な犯罪の容疑で、その場で警察官に取り押さえられ、今度こそ逮捕されてしまった。パトカーの後部座席に押し込められ連行される彼女の後ろ姿は、ただただ滑稽にしか見えなかった。

その後、警察から連絡を受けた夫の辻さんが慌てて警察署に駆けつけ、被害者である動画配信者の若者に必死で謝罪した。破損したスマートフォンの弁償費用と、おそらくはかなりの額になったであろう示談金を支払うことで、なんとか示談を成立させ、被害届の提出だけは免れたらしい。秋保は警察から前回以上に厳しい厳重注意を受け、なんとかその日のうちに釈放された。

しかし、辻さんの手で家に帰りついた秋保を待っていたのは、これまでにないほどの激しい怒りの鉄拳だった。近隣住民からの証言やインターネット上の情報で、これまでの秋保の数々の言動、そして今回の逮捕騒動の一部始終を知った辻さん。彼のついに長年溜め込んできたものが爆発してしまったのだ。

「いい加減にしろ、秋保!お前のその際限のない行動のせいで、この俺がどれだけ世間から後ろ指を刺され、恥をかかされ、迷惑を被れば気が済むんだ!お前のせいでご近所にも顔向けできない!」

そして事態を決定的に悪化させたのが、あの動画配信者によってネット上に拡散されてしまった秋保の逮捕の映像と、それに付随する数々の悪意あるコメントだった。

「近所で有名な迷惑女、警察相手に大暴れしてスマホ破壊で現行犯逮捕」

そんなセンセーショナルなタイトルと共に面白おかしく編集された動画は、瞬く間に再生回数を伸ばした。動画内では匿名扱いではあったし、ほどなくして非公開にはなったが、ネットは怖いもので拡散は止まらなかった。映っている服装や状況から、近所の人々や辻さんの職場の人々にはそれが秋保本人であるとすぐに特定されてしまったらしい。

「もう無理だ。限界だ。お前とはこれ以上、一日足りとも一緒に暮らしていくことなどできない。俺はお前には心の底から本当にうんざりしたんだ」

そう言い放つと、辻さんはすでに記入と捺印を済ませていた離婚届を秋保の目の前に叩きつけたという。まさに自業自得、身から出た錆としか言いようがない哀れな結末だ。

しかし、驚くべきことに話はこれだけではまだ終わらなかった。離婚届を突きつけられ、夫からも見放され、社会的にも完全に孤立無援となった秋保。普通の人間ならここで自分の行いを深く反省し、心を入れ替えるだろう。だが彼女は違った。その全ての怒りと憎しみの矛先を、こともあろうに再び全ての元凶と思い込んでいる私に向けたのである。

数日後の深夜、私たち夫婦が寝静まっていた時間帯に事件は起こった。突如、家の外でガシャンッ、バキッというガラスが割れるような物騒な音が響き渡った。驚いて飛び起き、窓からそっと外を覗くと、信じられない光景が広がっていた。鬼のような形相の秋保が、どこから持ち出したのか金属製のバットを振り回し、我が家の玄関ドアや窓ガラスを狂ったように破壊しているではないか。

「裕介!出てこい!この裏切り者どもめ!よくも私をこんな惨めな目に合わせてくれたな!お前たちのせいだ!絶対に許さない!八つ裂きにしてやる!」

完全に上の空だ。もはや正気の沙汰ではない。私たちは恐怖で身が縮みながらも、すぐに警備会社に通報し、同時に警察にも110番通報した。秋保は玄関のドアを壊破ろうとしたり、リビングの大きな窓ガラスをバットで叩き割ろうとしたり、まさに錯乱状態だった。やがて我が家に設置されている防犯システムが作動し、けたましい警報音が鳴り響くと同時に、設置されたカメラの映像がリアルタイムで警備会社の監視センターへと配信された。

秋保はリビングの窓ガラスを完全に叩き割り、そこから不法に家の中へ侵入してきた。そしてリビングに置かれていた高価な調度品や、夫が大切にしていたオーディオセット、私の趣味の絵画などを手当たり次第に金属バットで殴りつけ、破壊し始めた。その一部始終は全て複数の監視カメラによって鮮明に記録されていた。

ほどなくして警備会社からの通報を受けた警察官が、前回よりもさらに大勢現場に駆けつけてきた。家の中で文字通り破壊の限りを尽くしていた秋保はまたも現行犯だ。今回は住居侵入及び悪質な器物損壊という、より重大な犯罪容疑である。

「またか……とんでもない女だなあ」

現場に駆けつけた警察官たちも、さすがに呆れ果て、半ばうんざりした様子だったという。秋保はその場で取り押さえられ、三度目の逮捕となった。さすがに今度ばかりは、辻さんの示談金などで解決できるような状況ではなかった。秋保は起訴され、裁判の結果、これまでの経緯や犯行の悪質性が考慮され、実刑判決を受けることになったと後日辻さんから報告があった。

そんな嵐のような騒動から数ヶ月が過ぎた。私たちの暮らしにはようやく本当に穏やかで平穏な日常が戻ってきた。辻さんとは正式に離婚が成立し、彼自身も長年秋保の言動に悩まされ続けてきた被害者の一人だったのかもしれない。彼は私たちに何度も何度も頭を下げて謝罪に来た。

そして元凶である秋保は今、刑務所の中だ。もう私たち夫婦の生活を脅かす存在はいない。今回の一連の出来事をきっかけに、私たち夫婦はこれからの人生について、そして二人の関係について改めて深く話し合った。

「ふ香、本当に本当に済まなかった。姉のことでお前にずっと辛い思いと迷惑をかけ続けてしまって」

夫は心の底から申し訳なさそうな顔で、何度も謝罪した。

「いいのよ、裕介さん。あれはあなただけのせいじゃないわ。それよりも、これからはもっともっと私たち二人で過ごす時間を大切にしていきたいわね」

私たちは互いに仕事のペースを少しだけ落とし、定時で帰宅する日を増やしたり、週末には必ず二人で出かける時間を作ったりと、意識的に夫婦で過ごす時間を増やすことに決めた。リビングのソファーに二人で座り、旅行雑誌のページをゆっくりとめくりながら、次の旅行先について笑顔で話し合っている。

「ねえ、裕介さん、今度はどこに行きましょうか?もう少し近場の温泉でものんびりするのもいいかもしれないわね」

「そうだなあ。いや、思い切って海外なんてどうだ?ハワイとかいいかもしれないなあ」

穏やかで満ちたりた時間が、ゆっくりとそして優しく流れていく。窓の外には美しい夕暮れの空がどこまでも広がっていた。もう私たちのさやかな平和を乱すものは何もない。これからはただ二人で寄り添いながら、静かにそして心豊かに、残りの大切な人生を一歩一歩歩んでいくだけだ。

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