「特許使用料が5000万? どう考えても高すぎるだろう。ぼったくり詐欺師は消えろ」 取引先の新部長にそう言われ、俺は40代のエンジニアとして初めて怒りを爆発させた。技術の価値を一切理解せず、俺の特許を「詐欺」と切り捨てた男。しかも、その原因を作ったのは、彼が「口答えするから」と首にした、俺の一番の理解者だったんだ。…

「特許使用料が5000万? どう考えても高すぎるだろう。ぼったくり詐欺師は消えろ」 取引先の新部長にそう言われ、俺は40代のエンジニアとして初めて怒りを爆発させた。技術の価値を一切理解せず、俺の特許を「詐欺」と切り捨てた男。しかも、その原因を作ったのは、彼が「口答えするから」と首にした、俺の一番の理解者だったんだ。...

技術の価値を知らない新部長は、俺の特許技術を「五千万円のぼったくり」と切り捨てた。翌日、彼の会社の全システムが完全に停止することも知らずに。

俺の名前は今井。45歳のフリーランスエンジニアだ。いくつか特許を持っていて、その使用料が主な収入源になっている。

特に、何十台ものロボットが同時に動いても衝突を回避し、最短ルートを計算できるアルゴリズムの特許は、倉庫業界で広く使われていた。配送業界大手の会社とも契約があり、そこで働く森という、俺より少し年下のエンジニアとは仲が良かった。

森は俺の技術に食いつき、質問攻めにしてきた。真面目で勉強熱心な男だ。彼は今、俺の特許技術を使って、段ボールの重さや形で置き場所を決める新しいシステムを開発しているところだった。トラックへの積み込みも楽になり、場所も最小限で収まるという。

「今井さんの特許があれば、僕のシステムも最強になりますよ」

そう言われて、俺は鼻が高かった。

だが、森のシステムの開発中に事態が変わった。森の上司である部長が、新しい人物に変わったのだ。他社から来たという50代の川田という男が新しい部長になった。

俺も挨拶に行ったのだが、川田はこう言った。

「倉庫のシステムの特許だっけ? これな、こんな金額払ってまでオタクに頼む意味ってあるのか」

質問というよりも、完全に馬鹿にした口調だった。俺が技術について説明しても、「へえ、これで」とそっけない返事しかしない。

現場を知らない役職者というのは、往々にしてこの手の特許を理解しようとせず、使用料に文句をつけてくる。川田もそういうタイプだった。それからも、川田は俺が行くたびに嫌味を言ってきた。

「さすがに特許技術って詐欺みたいなもんだよな」

そう言われた時は、頭に来て言い返そうとした。だが、その時、近くで作業をしていた森君が口を挟んだ。

「部長、何言ってるんですか。今僕たちが開発しているシステムは、今井さんの特許技術があってこそです。失礼ですよ」

森君が川田を睨むと、川田は機嫌を悪くして言い放った。

「お前は生意気だな。口答えする暇があったら、さっさと新しいシステムを完成させろ」

俺は心配になって尋ねた。「森君、あんな言い方して大丈夫か?」

森君はため息をついた。「俺、あの人嫌いなんですよね。システムってものを理解していないし、理解しようともしない。俺のシステムのことも誤解しているようで困ってるんですよ」

どうやら川田は、森君のシステムが開発されれば、俺のシステムは必要なくなると勘違いしているらしい。しかし、俺のアルゴリズムは倉庫全体の交通整理役だ。森君のシステムは、その土台の上に乗って初めて真価を発揮する。範囲が違うから、どちらも必要なのだと何度説明しても、川田には理解してもらえなかった。

それから1ヶ月後、特許システムの契約更新のため、俺は川田のところへ向かった。しかし、アポを取って行ったのに、川田は「あれ、なんで来たの?」と言ってきた。

「特許システムの契約が2年ごとですので、その更新とメンテナンスに伺いました」

俺が冷静に答えると、川田は見下すように言った。

「新しいシステムが完成したんだ」

森君のシステムが完成したのか。俺は嬉しくなった。だが、川田の次の言葉が、俺を現実に引き戻した。

「特許使用料って、5000万だったよな。どう考えても高すぎるだろう」

俺が説明しようとすると、川田は遮って言った。

「ああ、もういい。君の話は回りくどいんだよね。さっぱり頭に入ってこない。もう君の特許は必要ないんだよねえ」

「自社のシステムが完成したんだ。わざわざ高い金を払う必要はないんだよ」

「自社のシステムって、森君のシステムですよね。でも森君のシステムは、俺のシステムが土台にならないと使えないものですが……」

俺が困惑していると、川田は鼻で笑った。

「森? ああ、いたな、そんなやつ。俺に口答えばかりしてくるから、先日首にしたよ。このシステムは、前に俺がいた会社のエンジニアを引き抜いて作らせたAIシステムだ」

森君が首になっただと? 俺が驚いていると、川田はにやりと笑った。

「君ね、人の心配してる場合じゃないよ。君の特許技術は必要ない。特許使用料だとか言って、5000万もぼったくる詐欺師は消えろ。これからは自社のAIで十分だ」

さすがに我慢の限界だった。

「ぼったくり詐欺師だと? ふざけるな!」

45年生きてきて、取引先にこんな言葉をぶつけたのは初めてだった。だが、後悔はなかった。むしろ、すっきりしていた。

「お望み通り、今すぐ消えます。再契約はできませんよ。いいんですね?」

川田は余裕の笑みを浮かべた。

「再契約なんてするはずがないだろう。君はバカなのか? 自社のAIシステムが完成したのだから、ぼったくりの特許はいらないんだよ」

「わかりました。では、失礼します」

俺は川田の横をすり抜けて立ち去った。

会社を出た俺は、森君の携帯に電話をした。森君は、いつもより覇気のない声で電話に出た。

「今、川田部長に会ってきたよ。契約の更新に来たんだけど、自社のシステムが完成したから、俺の特許技術はいらないって言われてな。それと、森君が首にされたって聞いて気になって……」

俺がそう説明すると、森君は声のトーンを変えた。

「自社のシステムが完成? あの人がそう言ったんですか? それ、俺が作ってたシステムですよ。あの人が前の会社から連れてきたとかいうエンジニアが、俺の作成途中のシステムを持っていったんです」

「俺のシステムは、今井さんの特許技術があるからこそ成り立つ。そう何度も川田部長に言ったんですけど、『そんなものはいらない』の一点張りで。それでも食い下がったら、『上司の命令は聞かないのか』って、首になりました」

俺は怒りで手が震えた。技術を正しく理解し、守ろうとしてくれた唯一の人間が、こんな形で潰された。

「森君、そのシステム、一緒に完成させないか? 俺たちの最強のシステムを、業界に売り込もう」

思いつきではあったが、話しているうちに、それは確信に変わっていった。俺たちはエンジニアなんだ。森君だって、俺のように独立してフリーランスになればいい。翌日、森君が俺の事務所にやってきて、システムについて話し合った。やはり、俺の特許技術と森君のシステムが組み合わされば、最強のものになる。

そうと決まれば、早々に技術を完成させ、売り込みをかける会社をピックアップしようとしたその時、俺のところに川田から連絡が来た。

「い、今井、助けてくれ」

随分慌てた様子だ。

「どうしました? 新システムを導入したという自慢ですか?」

「そのシステムを導入したんだが、全車のシステムが停止した。完全に止まってしまって、何も作業ができないんだ。これでは損害が大きくなる一方だ。ひとまず、昨日までのシステムに戻したい」

俺は通話をスピーカーにし、森君にも聞こえるようにして言った。

「そうですか。それは大変ですね。だが、無理ですね。詐欺師が行ったところで何もできませんし、俺の特許システムを復旧させるつもりもありません」

川田は「そこを何とか」と繰り返すが、俺は断り続けた。そこへ森君が「話してもいいか」とジェスチャーしてきたので、俺は頷いた。

「川田部長、あなたに首にされた森です。新システムって、俺が作ってたシステムですよね。何か新しい機能は追加しました?」

「森? なんでそこに!」

川田は驚いたが、それよりも全システムが止まっていることが重要だと気づいたようだ。

「いや、エンジニアはそのまま完成させたと言っていたはず。それが何か関係あるのか?」

森君はその答えを聞いて笑い出した。

「もしかして、あのまま完成させたのに、今井さんの特許システムの契約をやめたんですか? そんなの、システムが動かなくなるに決まってるでしょう」

森君はあくまでも俺の特許技術があることを前提にシステムを作っていた。だが、川田はそこを理解せず、森君の作っていたシステムを別のエンジニアに完成させるよう命令したのだ。土台を失ったシステムなど、動くはずもない。

「川田さん、どうせ俺の話を聞かなかったように、森君の話も碌に聞かなかったんですよね。本当は聞かなかったんじゃなくて、話を聞いたところで理解できなかったのかもしれませんが」

俺がそう言うと、隣で森君が笑った。川田は「失礼なやつだ!」と怒鳴る。

「そうですか。そのような人に説明する気もないので、あとは自力で頑張ってください」

そう言って、俺は電話を切った。すぐに森君がパソコンの画面を開いた。

「これ見てくださいよ」

そこには、物流システムが完全停止し、クレームが殺到。損害賠償は大変な金額になるだろうと書かれた、川田の会社のネット記事が表示されていた。

俺たちはすぐに森君のシステムを完成させ、他社に売り込んだ。すると、数社が導入してくれることになったのだ。俺たちはさらに進化したものを作るため、2人で会社を立ち上げた。

1ヶ月が過ぎた頃、川田から再び電話があった。あの威圧的な声はどこへ行ったのか。電話越しに聞こえてくるのは、怯えるようなか細い声だった。

「今井社長……。お願いです。戻ってきてください。契約金は1億。いや、2億でも出します」

もちろん、俺は首を横に振った。

「無理ですね。俺は森君と新しい会社を立ち上げました。あの特許システムはすでに他社に導入していますし、何より、あなたを助けたいなんて気持ちは微塵もありませんから」

すると川田は、森君に泣きついた。

「森! 森はそこにいますよね! 森君からも言ってくれ! 同じ会社だった仲間だろ!」

森君も当然、首を横に振った。

「部長。あ、元部長でしたね。『口答えする暇があったら完成させろ』ってあなた言ったじゃないですか。だから、さっさと完成させましたよ。邪魔する人間がいないと、こんなに早く完成するんだって思いました。今井さんとさらにここから進化させていくつもりですよ。もちろん、あなたとは契約しませんけどね」

俺は言った。

「川田さん、そういうことなんで、自社で何とかしてください。それと、せめてAIやシステムについてもう少し勉強した方がいいですよ」

絶望しているであろう川田の顔を想像しながら、電話を切った。

その後、川田は森君からパワハラで訴えられ、さらに会社にも多大な損害を与えたとして、見事に首になったらしい。森君が元に聞いたところ、川田は損害賠償も請求されているが払えず、自宅や車を売却し、家族には見放され、古いアパートでひっそりと暮らしているという。

あの傲慢な契約破棄が、俺に最強のパートナーとの出会いをもたらした。俺たちは開発をさらに進め、別の業界にも進出。あの小さな2人の会社が革命を起こしたと、世間を騒がせている。

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