「離婚して。俺には好きな女ができた。その子、妊娠したんだ」
夫の言葉に、私は頭を真っ白にした。開き直った態度で告げられたのは、なんと浮気相手の妊娠報告。しかも相手は19歳。うちの長女と同い年じゃないか。
「気持ち悪い」— そう思った。娘と同い年の女の子を異性として見ていた夫が、心底気持ち悪かった。
私は43歳の普通の主婦だ。夫は大手食品メーカーの営業で、娘2人と4人で穏やかに暮らしてきた。…はずだった。
すべてが変わったのは、夫が突然おしゃれに目覚めたあの日からだ。細身のジーンズに若者向けのスエット、黒いキャップ。ヘアスタイルもワックスで決め始め、香水までつけるようになった。10代向けのブランドのロゴが、いかにも浮いているのに本人は気づいていない。
長女が言った。「パパ、浮気してるんじゃない?」
その言葉をきっかけに、私は夫の行動を調べ始めた。スマホの位置情報を確認すると、残業だと言った夜、彼は都心のマンションにいた。SNSを調べると、夫が最近フォローし始めた若い女性のアカウントが見つかった。住んでいる場所も、あのマンションの近く。
証拠を突きつけた夜、夫は認めた。開き直って、私と娘たちを家から追い出そうとした。
「この家は俺の名義だ。出て行ってくれ。俺には新しい人生を歩む権利がある」
私は娘たちとホテルへ移り、途方に暮れていた。慰謝料がもらえるまで、どうやって生活すればいいのか。そんな私に、長女が言った。
「ママ、ちょっとだけ私に任せてくれない?」
その時、長女の目が静かに光った。私には、彼女が何を考えているのかまだ分からなかった。
離婚から数ヶ月後、夫から突然電話が来た。
「みほだけ返してくれ!」
どうやら長女がSNSで父親の浮気を配信しているらしい。夫の会社でも噂になっていて、彼は必死だった。
「みほが俺のそばにいれば、親子の仲がいいって誤解も解けるはずだ」
「誤解?浮気は事実でしょ」
スピーカーに切り替えると、娘たちがにやりと笑った。
そう、SNSこそが長女の作戦だった。彼女は父親の浮気を日記形式で発信し、「娘と同い年の愛人を妊娠させた父から家を追い出された女子大生の実話」として、大人気になっていた。夫と愛人がホテルに入る様子や、家に入り浸る瞬間まで動画に収められていたのだ。
「でもね、パパには感謝してるよ」
長女の言葉に、夫が「は?」と困惑する。
「動画が人気のおかげで、私たちに支援がたくさん集まってるの。収益化もできてるし、いい収入源になってるんだ」
夫だけが悔しそうに言葉を失っていた。
「てか、パパの今度の奥さん、ちょっとやばいよ」と長女が続けた。
「その子、かなりの遊び人らしい。パパと付き合ってた時も、他に少なくとも2人の男がいたみたい」
私も思わず口を滑らせた。「じゃあ、そのお腹の子は…」
娘たちは静かに頷いた。
「俺の子じゃない…」
夫は呆然としていた。ざまあみろ、と思った。
結局、生まれた子は夫の子供ではなかった。離婚したいと言っても、再婚相手は応じない。血のつながらない子供を育てながら、夫は家庭もうまくいかず、会社でも悪い噂が絶えないまま、しがみついて働いていた。自業自得だ。
一方、私は弁護士を通じて離婚を進め、慰謝料と財産分与をしっかり獲得した。今は娘たちと3人で小さなマンションに暮らしている。私もパートから正社員になり、長女はSNSがきっかけで映像関係の仕事に。次女も姉に憧れて動画編集を学び、夢に向かって進学した。
ある日の朝ごはん。トーストを食べながら長女が言った。
「ねえ、ママ。あの時パパが浮気してくれて、ある意味良かったかもね」
「どうして?」
「だって、浮気するような男だよ。あのままだったら、私たちもっとつまんない生活してたかもしれないじゃん。今の方が絶対楽しいし、ママも笑ってるし」
「それはちょっと複雑な言い方ね」
でも、確かにそうかも。色々あったけど、私は今、幸せだ。娘たちという最高の財産がある。2人が悲しむことなく人生を歩んでいるのを見ると、私の子育ては間違っていなかったんだと思えた。
今夜の夕食は、2人の好物にしよう。ちょっと贅沢にしてあげるんだ。何かの記念日でもないけれど、ただなんとなく今日はいい日な気がしたから。それだけで、ご馳走を作る理由には十分だ。


