「おまえが弟の嫁か。若くして一人身とは気の毒だ。だが心配するな。この義兄が全て取り計らってやる。」そう言って、夫の兄はにたりと笑った。あの瞬間、彼女は見抜いた。この男は財産を奪いに来たのだと。そして数日後、棍棒を持った荒くれ者どもが庭へなだれ込んできた——。

「おまえが弟の嫁か。若くして一人身とは気の毒だ。だが心配するな。この義兄が全て取り計らってやる。」そう言って、夫の兄はにたりと笑った。あの瞬間、彼女は見抜いた。この男は財産を奪いに来たのだと。そして数日後、棍棒を持った荒くれ者どもが庭へなだれ込んできた——。

「おまえが弟の嫁か。誠に気の毒なことだ。若くして一人身になってしまったとは。だが心配するな。この義兄が全て取り計らってやる。」

マン兵はそう言ってにやりと笑った。おきよはその笑みの奥に、欲の光がぎらついているのを見逃さなかった。

「取り計らうとおっしゃいますと?」

「他でもない。弟がいないとなれば、この家の田も今や持ち主がいないも同然だろう。こういうものは、当然本家であるこのわしが管理するのが筋というものだ。そうしてこそ家が散らばらずに済む。そうだろう。」

本性を現したのである。マン兵は弟が死んだものと決めつけ、その財産をそっくり飲み込みに来たのだ。

おきよはその根性を即座に見抜いたが、表には出さなかった。むしろ大らかに笑いながら言い返した。

「お兄様、そのお言葉は少々早うございます。私の夫はまだ亡くなっておりません。」

「なんだと?死んでいないだと?」

「はい。山へ入ったまま行方知れずと言うだけのこと。死んだという証はどこにもございません。ですからこの家の財産の持ち主は、今も私の夫のままでございます。」

マン兵の顔がわずかに歪んだ。しかしすぐにまた薄気味悪く笑いながら、話をそらした。

「ふん。まあいい。いつまでも音沙汰がなければ死んだも同然。生きてどうする。おまえもまだ気が抜けていないようだな。それはさておき——」

マン兵の視線が庭の巣箱へと向いた。

「あの巣箱は一体何だ?噂に聞くにおまえが貴重な蜜を作っているそうじゃないか。あの蜜は江戸ではわずかな量でも高値で取引されるそうじゃないか。ほう。これは我が家に器量の良い嫁が入ったものよ。」

マン兵の小さな目が巣箱を舐め回すように欲に光った。財産も財産だが、今度はその貴重な蜜にまで目をつけ始めたのである。おきよはその視線を見逃さなかった。

マン兵はその日のうちに花れに下ろし、まるで主人のように振る舞い始めた。乏しい食事に文句をつけ、おじが言い返すと手をあげようとした。およばあさんがかばうと、マン兵はこの家が自分のものになれば嫁も娘も追い出してやると言い放った。

マン兵のその言葉に、おきよの両の目に怒りの火が灯った。しかしこの嫁はやたらに腹を立てはしなかった。代わりに心のうちで固く誓った。この貪欲な義兄から、必ずこの家を守り抜いて見せようと。

その夜、おきよは寝る間際に老人を尋ねた。胸の苦しくて堪らなかったのである。

「おじい様、あの義兄がこの家の財産をそっくり飲み込もうとしています。私一人でどうすれば良いのでしょう。」

老人はしばらく黙ってうつむいていた。それからぽつりと口を開いた。

「お嬢さん、世の中というのは力だけで勝つものではない。ああいう手合いは己の欲に目がくらんで、必ず自らの足元をすくうものよ。お嬢さんはただ、今まで通り蜂を大切に飼い、人としての道を守っておればよい。」

老人はごま塩のあごひげを撫でてにやりと笑った。

「あの蜂たちが、全て片付けてくれるじゃろう。」

おきよはその言葉の意味を全て組み取れたわけではなかった。しかし老人のその不思議な目ましを見るとなぜか心が落ち着いた。何か頼もしいものが背後に控えているような気がしたのである。

翌朝、マン兵は本格的に動き始めた。この家の財産がどれほどあるか、隠し金がどこにあるか探り回ったのである。マン兵はおきよに粘ばついた口調で近づき、それとなく探りを入れた。

「ところで、財産の証文をどこに隠したか知っているか?この兄がしっかり預かっておいてやろう。おまえのような女子が持っていても、しまいには盗まれるのが落ちだからな。」

おきよは内心で鼻で笑った。証文を横取りしようという魂胆が丸見えだった。表向きは知らぬ顔で答えた。

「まあ、お兄様。証文がどこにあるかは私もよく存じません。夫がどこに隠したのか、帰ってこなければ分からないでしょうね。」

「ふん。じれったいことだ。」

マン兵は証文が見つからず苛立った。しかしおきよが素直に差し出すはずもなかった。実のところ、おきよは証文のありかを知っていた。夫が山へ入る前、誰にも知られぬ場所に隠しておいたのである。おきよはそれを命に変えても守り抜く覚悟であった。

その後もマン兵はあの手この手で証文や蜜を狙ったが、その度におきよにかわされ、狙いはことごとく外れた。恥をかかされ続けたマン兵は腹を決めた。もはや小細工では埒があかぬ。力づくで押し通すより他にないと。

果たしておきよの予感は外れていなかった。山向こうの大きな家に戻ったマン兵は、晴れた顔で酒を飲みながら晩飯をかっ食らっていた。それから家来を呼び、鋭く命じた。

「このままでは済まさぬぞ。何度も邪魔されたくらいで引き下がるわけにはいかぬ。今度は力づくで押し通す。町へ行って、腕っぷしの立つ荒くれ者どもを何人か集めてこい。」

マン兵の目が恨みに光った。今度は荒くれ者どもを引き連れて、力づくで押し入る積もりなのであった。

それから三日ほど経った朝のことである。木戸がガラリと開き、棍棒を持った荒くれ者の一団が、マン兵を先頭に庭へなだれ込んできた。

「さあ、あの巣箱をそっくり叩き壊せ!この家の財産は今日、わしが全て取り上げてやる!」

およばあさんとおじは怯えて部屋に逃げ込んだ。おきよは巣の前に立ちはだかったが、棒を持った十人の男の前では力づくで叶うはずもなかった。

だがその時、おきよの脳裏に老人の言葉が蘇った。『蜂は心を見抜く生き物じゃ。』

おきよはとっさに機転を利かせた。怯えたふりをして後ずさりしながら、庭の真ん中、実は最も蜂の多い一群を指さした。

「どうかあちらの奥の巣箱だけはお許しください。手前のこちらは空でございますから、壊すならどうかこちらから。」

欲に目のくらんだマン兵は、その言葉をそっくり逆手に取った。

「ふん。それなら手前の蜜の詰まっていそうな方から叩き壊せ!」

荒くれ者たちは棍棒を振りかざし、庭の真ん中、巣のちょうど中心へとどっと寄せた。おきよの狙い通り、十人の男たちがぎっしりと蜂の巣箱に囲まれたのである。おきよは素早く巣箱の外へと退いた。

その瞬間だった。荒くれ者の一人が棍棒を振り下ろし、最も大きな巣箱をまともに叩いた。激しい衝撃に隣の巣箱まで傾き、怒り狂った蜂の群れが黒い雲となって一斉に舞い上がった。

荒くれ者たちは棒を投げ捨てて悲鳴を上げ、顔を覆って我先に木戸へ殺到した。マン兵もまた鼻先を刺されながら、垣根を乗り越えようとして体を引っかけ、悲鳴をあげて逃げていった。

老人は縁側から煙管を吹かし、家族を屋内へ退かせた。しばらくすると興奮していた蜂たちは次第に巣の周りへ戻り、庭にはようやく静けさが戻った。

おきよは荒れ果てた庭を見回した。数十の巣箱のうちいくつかが傾き、蓋が外れていた。夫との夢を託した大切な巣が傷ついたことに、おきよの胸は締めつけられた。

「ああ、これをどうしよう。大事な巣箱がこんな有り様になってしまった。」

おきよは倒れた巣箱を見つめながら、その場で立ち尽くんだ。悪党ども追い払いはしたが、家族の暮らしを支える大切な巣が傷ついたことに胸を痛めた。

ところが老人がおきよのそばに歩み寄り、からからと笑いながら肩を叩いた。

「ふふ、お嬢さん、心配するな。巣箱が倒れたからと言って蜂が死ぬわけではない。もう一度立て直してやれば、蜂どもは自分の家に戻ってくるものよ。むしろ今日はこの蜂たちがお嬢さんを助けてくれたのじゃ。これほどありがたいことがあろうか。」

老人のその言葉におきよはようやく安心した。老人とおきよは倒れた巣箱を一つ一つ立て直し始めた。不思議なことに、散らばっていた蜂たちが老人の手つきに従って一匹また一匹と自分の巣箱へと戻っていった。まるで老人の言葉を分かっているかのようであった。

部屋に隠れていたおよばあさんとおじも、恐る恐る庭に出てきた。荒れ果てた庭を見て、ばあさんは口をあんぐりと開けた。それから嫁が無事なのを見ると思わずわっと涙をこぼした。

「おきよ、無事かい?ああ、こんな恐ろしい目にあって無事だなんて。よかった。よかったよ。」

ばあさんは嫁の手を強く握った。とつじょ、依頼初めて姑が嫁を抱きしめて涙を流したのである。おきよも鼻の奥がつんとした。

「おっかさん、私は大丈夫です。この蜂たちが私を守ってくれました。」

おじは庭に転がった棍棒を見つめ、たった今起きたことがまだ信じられぬというように目を丸くしていた。それからやがて姉の機知に関心して飛び跳ねた。

「姉さん、すごい!あの怖い人たちを蜂だけでみんな追い払っちゃった。姉さんはうちの大将だね!」

家族はそこでようやく張り詰めていた気が緩み、笑い声をあげた。引きがえるのように這って逃げていった荒くれ者たちとマン兵の様子を思い出すと、あまりにも滑稽であったのである。この数日の間、この家を押しつぶしていた恐怖が、その笑い声と共に雪のように溶けて消えていった。

その夜、ばあさんは黙って庭に出て、薪割りを始めた。今まで嫁一人に任せきりであった仕事である。おじが不思議そうに尋ねると、ばあさんはぽつりと言った。

「たまには私にもさせておくれ。お前ばかりに任せてきたことが多すぎたようだから。」

ところがその笑いがまだ収まらぬうちのことである。木戸の外からとぼとぼとした足音が聞こえてきた。おきよははっとして顔をあげた。もしやマン兵がまた別の一味を連れて戻ってきたのではと身を固くした。

足音は次第に近づいてきた。ところがその歩みはどこかおかしなものであった。片方の足を引きずるような、とぼとぼとした足音である。

木戸の影から一人の男の姿が浮かび上がった。杖をつき、片足を引きずりながら歩いてくる。籠を背負った山からたった今降りてきたかのような、全身が土埃りにまみれたその男が、木戸の前でぴたりと足を止めた。

おきよは両の目を皿のように見開いた。全身がその場に凍りついたように動けなかった。おきよの唇がわなわなと震えた。

目の前に立ったその男が、土だらけの顔でにっと笑った。人の良さそうなあの懐かしい笑みである。おきよがあれほど恋しく思っていた、まさにあの笑みである。

「おまえ、ただいま帰ったぞ。」

その一言に、おきよはとうとうわっと泣き崩れた。二か月余りも胸に焦がれ続けた夫が、死ぬことなく生きて、自らの足で歩いて帰ってきたのである。おきよは庭を駆け抜け、夫の胸に飛び込んだ。

「あなた!生きていらしたのですね。私、私はきっと帰ってくださると信じておりました!」

満作は土埃りだらけの顔で人の良さそうな笑みを浮かべ、妻の背中をぽんぽんと撫でた。その大きな手のなんと温かかったことか。

「ああ、帰らずにおられるものか。お前に必ず帰ると約束したではないか。あの約束をどうして違えられよう。」

部屋から飛び出してきたおよばあさんも、息子の姿を見て卒倒せんばかりに驚いた。

「ま、満作!私の息子の満作!生きていたのかい?ああ、これは夢か。それとも幻か。」

ばあさんは息子の顔を両手で包み込み、涙をこぼした。幼いおじも兄の足にしがみついては泣いた。死んだとばかり思っていた者が生きて帰ってきたのだから、家中が泣きながら笑う大騒動となったのである。

涙の海が過ぎ去ると、家族は縁側に車座になって座った。おきよは夫の傷んだ足に薬草を塗りながら尋ねた。満作は語った。薬草を求めて山を彷徨う内、崖から足を踏み外し動けなくなっていたところ、あの旅の老人に助けられたのだと。その老人こそ、かねてから隣の里で蜂に通じた者として噂を聞いていた人物だった。意識を失う前、満作は老人に、もし自分が戻れなければ家に残した妻と蜂の夢を見守ってほしいと頼んだのだという。傷が癒えるまでの間、老人はこっそり山と里を行き来しては、この家の様子を見守っていたのだという。

老人はその話を静かに聞いていたが、やがて立ち上がり、こう言い残した。

「貧しい暮らしに負けず、人と金を立てるために元手をそっくり差し出し、幼い義妹を我が子のように可愛がり、それでいて夫が帰るという信念を一度も捨てなかった。その心根が気に入って、この老いぼれは蜂を飼う術を授けたまでのこと。蜂は心で飼うものじゃ。その心を忘れずにいれば、この蜂どもが末長くこの家に福を運んでくれよう。」

老人はそう言い残すと、白ひげを光らせながら山道へと入っていった。そしていつの間にか山へ戻り、その後二度と姿を見せることはなかった。村人たちは後になって、あの老人は山の神に選ばれた人だったのではないかと語り合ったという。

一方、荒くれ者どもに蜂に追われて里中の笑い者となったマン兵は、その恥辱に耐えかね、夜逃げ同然にその里を去っていった。財産を奪おうとした者が、己の欲のせいで里中の笑い者となって追われていったのだと、人々はいつまでも語り継いだ。

その晩、家では久方ぶりに家族全員が囲炉裏を囲み、温かい食事を共にした。死んだと思っていた息子が帰り、貪欲な義兄は追い払われ、庭には福を運ぶ巣箱がぎっしりと並んでいた。およばあさんは嫁の手をしっかりと握り、涙を浮かべて言った。

「おきよ、この姑がお前をどれほど邪険に扱ったことか。気が触れた嫁だと指をさしたこともあった。だがお前がいなかったら、この家はとうに散りじりになっていたはずだよ。私がどれほど辛く当たっても、お前は一度も家族を見捨てなかった。満作を信じ、おじを守り、この年寄りまで支えてくれた。これもみんなお前のおかげだ。本当にありがとう。」

おきよは姑のその言葉に目頭が熱くなった。とつじょ、これほど聞きたかった言葉はなかったのである。おきよは姑の手を握り返し、にっこりと笑った。

「おっかさん、何をおっしゃいますか。皆、家族ではありませんか。夫も帰ってまいりましたし、これからみんなで蜂を飼って、この貧しさをすっかり追い払いましょう。」

家族一同はその言葉に声を上げて笑った。窓の外には月明かりが巣箱の上に美しく降り注ぎ、庭では蜂たちが静かに羽を立てながら家を守っていた。

やがて夏が過ぎ、いつしか山里にも秋が訪れた。裏山の紅葉が赤く色づき、庭の柿の木には橙色の実がたわわに実った。そして庭の一角の小高い場所に並んだ数十の巣箱には、いよいよ本格的な蜜の季節が満ちていた。

おきよは夫の満作と共に、二度目の蜜取りに取りかかった。満作の足はすっかり治り、今では杖なしにしっかりと歩けるようになっていた。夫婦が並んで巣箱の前に立つ姿は、何ともむつまじいものであった。

「おまえ、本当にありがとう。わしがいない間に、この蜂たちをこれほど立派に育て上げてくれたのだから。これはみんなおまえのおかげだ。」

「何をおっしゃいますか。これはあなたの夢だったのではありませんか。私はただ、あなたが帰るまで守っていただけです。」

夫婦は互いを見つめ合い、声をあげて笑った。これから老人に教わった通り、丁寧に巣箱の蓋を開け始めた。ところが、今度の蜜はずいぶんと豊かだった。巣箱を一つ開けるたびに、その中には黄金色の蜜がこぼれんばかりに詰まった巣が幾重にも積み重なっていた。数十の巣箱から集められた蜜は、大きな瓶を一つ、また一つと満たしていった。やがて黄金色の蜜を湛えた瓶が、ずらりと何本も並んだ。

「こ、これが全部蜜だっていうのかい?」

およばあさんは庭に並んだ瓶の数々を見て、口を開けたまま言葉を失った。生涯貧しさの中で生きてきたばあさんの目に、その黄金色の蜜はまさに山積みの宝物のように映った。幼いおじは瓶の間を飛び跳ねて喜んだ。

「わあ、うちに蜜がこんなにいっぱい!もうお金持ちだね!」

この貴重な日本蜜蜂の蜜は、江戸へ運べばわずかな量でも相当な高値で売れた。その蜜の味が飛び抜けて良いという噂が江戸の豪商の間にまで広まると、我先にと買い求める者が列をなした。その蜜を売って、おきよはこれまでの借金をすっかり返した。家を奪うと迫った借金への借金も、ついに全て返すことができた。借金を返してもなお金が余り、おきよはかねてから望んでいた田を買い入れた。痩せた傾斜地ではなく、水はけの良い田である。牛も一頭買い入れ、幼いおじには色鮮やかな新しい着物も仕立ててやった。あれほど辛かった貧しさが、今や昔語りとなったのである。この全てが、気が触れていると指をさされながらも数十の巣箱を並べたあの嫁の機転から始まったことであった。

ある朝、おきよが庭から戻ると、およばあさんが台所で甘酒を作っていた。ばあさんはそれを両手で持ち、おきよの前へ差し出した。

「ここへ来て座りなさい。用事で疲れたろう。これを一口。」

おきよは驚いた。とつじょ、姑が嫁に自ら何かを差し出したことなど、一度としてなかったのだから。むしろいつも嫁をこき使い、邪険にしてきたばあさんである。その姑が自ら甘酒を用意して嫁に差し出すとは。

「おっかさん、そんな、勿体ない。私がどうして、こんな……」

おきよが恐縮していると、ばあさんは嫁の手にその碗をしっかりと握らせた。ばあさんの目元に、温かい笑みが柔らかく広がった。

「これは、この姑がお前にしてやるべき礼儀だったんだよ。私はこれまで目が曇っていて、こんなに大事な嫁を見誤って、どれほど辛く当たってきたことか。だが、あの機転としか思えぬ振る舞いが、この家を救った知恵だったんだね。私が悪かったよ。この甘酒一杯で、その詫びの気持ちに変えさせておくれ。」

おきよはとうとう目頭が熱くなった。姑のその心のこもった言葉に、これまでの寂しさが雪のように溶けていくようであった。おきよは甘酒の碗を両手で捧げ持ち、一口飲んだ。その甘く温かい甘酒が喉を通っていく味わいの、なんと美味であったことか。この世で一番甘い甘酒であった。

「おっかさん、本当に美味しゅうございます。こんなに美味しい甘酒は初めていただきました。」

おきよのその言葉に、ばあさんは満面の笑みを浮かべた。そばで見ていた満作とおじも、一緒になって笑った。家中にまさに笑いの花が咲いたのである。

その後、この家は少しずつ豊かになっていった。庭の巣箱では蜂たちが今日も静かに羽を休めている。縁側では満作とおよばあさんとおじが笑い合い、おきよはその輪の中で甘酒の碗を手に微笑んでいた。辛かった日々も、蛙のように這って逃げていった義兄のことも、もはや遠い昔話のようであった。この家に、とうとう本物の春が訪れたのである。

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