「自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないんだよ。」
そう言われたのは、私がまだ小さかった頃。大人になった今でも、その言葉は心に刻まれている。でも、それを守れない大人がいる。残念なことに、私の義姉がそうだった。
彼女は気づくのが遅い。自分が同じ目に遭って初めて、ようやく理解するタイプらしい。だから私は決めた。この復讐を実行しよう、と。そして、私は見事に成功させた。今だから話せるこの話を、どうか最後まで聞いてほしい。
私は華、30歳の専業主婦。3歳の娘がいる。夫の啓太は営業職で出張が多く、心配だという理由で、結婚してから義実家で暮らしている。当時は、義両親のほかに、義姉の里沙子も一緒に住んでいた。もともとは彼氏と同棲していたらしいが、相手の浮気が原因で別れて、当然のように義実家の一部屋を占領していた。
里沙子は、私の想像をはるかに超えるモンスターだった。派遣社員の仕事も「失恋中だから」と休止し、毎日家でゴロゴロしたり、義母と買い物に出かけたりしている。家事を一切しないくせに、気に入らないことがあればすぐに怒り出す。目玉焼きが半熟じゃないという理由で怒鳴り散らし、挙句にはゴミ箱に捨てた時は、正直頭がおかしいと思った。
「嫌なら自分で作れよ。ここはホテルじゃないんだぞ。」
そう言いたいのを必死にこらえたのは、言い返したら最後、娘に甘い義両親に責められるからだ。働かずに遊んでいる娘に、何の注意もしない義母。何が楽しいのか、ニヤニヤしているだけの義父。夫は里沙子に注意してくれたが、弟という立場は私が思うより軽いらしい。里沙子はどこ吹く風だった。
里沙子のモンスターぶりは、わがままな性格だけではなかった。非常識さも相当なものだった。私が無事に娘を出産した日、夫に連れられて義両親と共に里沙子も現れた。私の両親が娘を抱っこしているのを見るなり、里沙子は私を睨みつけた。
「なんであんたの親が先に抱えてるのよ。あんたは嫁に入ったんだから、うちのパパとママに抱いてもらってからでしょ。先に自分の親に抱かせるなんて、嫁の自覚がないわね。」
「まあまあ、里沙子、きつく言わないの。」
そう言って義母を振り返る里沙子。
「ええ、里沙子の言う通りね。」
わけがわからないまま、義母も頷く。うちの両親は関わりたくないと言わんばかりに、適当に謝って娘を義母に抱かせた。満足げな里沙子の思考が理解できなくて、怖くなった。娘も何かを感じたのか、急に泣き出した。
「お腹が空いたのかな?」
そう言って義母から娘を返してもらい、私は授乳室に逃げ込んだ。すると、なんと里沙子が勝手についてきた。しかも、突然写真を撮り始めたのだ。
「やめてください。」
思わず声をあげた私に、里沙子は馬鹿にしたように笑う。
「何焦ってるの? 授乳でしょ。羞恥心とかあるの? 女意識するとか、マジでキモいんだけど。」
「ふざけたこと言ってないで、さっさと消えろよ。」
夫はそう怒ってくれたが、里沙子はスマホから視線を外さない。
「パパとママには送ったけど、知り合いにも送っていいわよね?」
「嫌です。やめてください。」
私が必死に止めると、里沙子は不満そうに舌打ちをした。
「授乳は神秘的なことなんだから、恥ずかしがる方がおかしいわよ。ただでさえ子供産んでたるんだ体なんだから。そんな体見て、誰が女を感じるのよ。バカバカしい。」
あまりの無礼さに夫が切れて、里沙子を追い出してくれたが、私の写真はすでに義両親に送られ、その後親戚にも回っていたのを知ったのは、その後のことだ。
出産後はホルモンバランスが崩れて、体に不調が見られることがある。私の場合は、ひどい肌荒れとして現れた。娘のお披露目の時、親戚の前で里沙子は私の肌を指さして笑った。
「前からひどかったけど、その汚さはマジありえない。よくこんなのと結婚したよね。愛想尽かして浮気しちゃったりして。」
それだけではない。娘の育児にかかりきりの私を見かねて、家事を手伝おうとした義母に、里沙子はいつも通り言った。
「やらせとけばいいわよ。産後は病気じゃないんだから。ママに甘えてんじゃないわよ。」
里沙子の言葉は、出産後の不安定な私の心に深く刺さった。涙が止まらなかった。夫は慰めてくれたが、里沙子への怒りは収まらなかった。あの時、私は心の中で固く誓った。いつか必ず、思い知らせてやる、と。
そして、その時が来た。里沙子が同じ目に遭う時が。私は計画を練り始めた。この復讐が、私にとっての正義なのかはわからない。でも、彼女にだけは、自分がされて嫌なことをした代償を払ってもらうことにした。
復讐の方法は、至ってシンプルだった。里沙子が私にしたことを、そのまま返せばいい。彼女の心が折れるような、完璧な方法を。
私は里沙子の部屋にこっそりカメラを仕掛けた。もちろん、バレないように。そして、彼女が好き勝手に過ごす姿を録画し続けた。義両親に内緒でのんびり過ごす姿、仕事もせずに昼間からテレビを見ている姿、私の悪口を言っている姿。すべてを記録した。
ある日、里沙子が友達を連れてきて、家で勝手にパーティーを開いた。私はそれを待っていた。録画した映像を、義両親に見せたのだ。義両親は驚き、怒った。里沙子がどれだけふざけた生活をしていたのか、ようやく理解したようだった。
「里沙子、あんた、何やってるんだ!」
義父が怒鳴った。里沙子は青ざめた。
「ち、違うの! これは…」
言い訳しようとする里沙子に、私は冷たく言い放った。
「自分がされて嫌なことは、人にしてはいけないんだよ。」
里沙子は何も言えずに、その場に立ち尽くした。私は満足だった。私が受けた屈辱を、ようやく彼女に思い知らせることができたのだから。結果、里沙子は義実家を追い出され、行き場を失った。私は、自分の復讐が成功した瞬間、心の底からスッキリした。
その後、里沙子がどうなったかは知らない。でも、私の人生は、ようやく平穏を取り戻した。あの日、私は学んだ。理不尽な思いをしたら、それをやり返すことでしか、気が済まないこともあるんだと。自分がされて嫌なことは、人にしちゃいけない。その言葉の意味を、彼女が本気で理解する日が来ることを願っている。



