社員旅行で部長にだけ「高卒無能」と言われ、ペラペラの寝袋を渡されて高級旅館から追い出された。同僚たちは笑うだけ。その夜、俺は凍える夜空の下で誓った——絶対に思い知らせてやると。だが、戻ってきた時には、もう手遅れだった。部長が握りつぶそうとしたあの安全報告書が、会社を揺るがす大問題になっていた。そして今、俺のスマホに、ある人物から電話がかかってきた。その一言で、俺の運命が大きく変わり始めた。…

社員旅行で部長にだけ「高卒無能」と言われ、ペラペラの寝袋を渡されて高級旅館から追い出された。同僚たちは笑うだけ。その夜、俺は凍える夜空の下で誓った——絶対に思い知らせてやると。だが、戻ってきた時には、もう手遅れだった。部長が握りつぶそうとしたあの安全報告書が、会社を揺るがす大問題になっていた。そして今、俺のスマホに、ある人物から電話がかかってきた。その一言で、俺の運命が大きく変わり始めた。...

「高卒無能に部屋を用意してやるの、忘れてたわ」

社員旅行で訪れた高級旅館。部長はそう言って笑いながら、俺にペラペラの寝袋を差し出した。

「宿代がもったいないだろ。秋の夜空の下でキャンプ気分を味わうのも悪くないんじゃないか」

「忘れた」と言いながら、それを用意周到に持ってきている。俺はその瞬間、すべてを悟った。同時に怒りが込み上げてきて、体が震えそうになった。だが、ここで怒りを爆発させるわけにはいかない。

「……わかりました」

俺は抵抗せず、旅館を出た。部長やその取り巻きたちは、俺の後ろ姿を見て笑っている。だが、そうしていられるのも今のうちだ。俺は部長を絶望のどん底に叩き落とし、最高の復讐を果たしてやる。それだけを心に決めて、俺は暗闇の中へ歩き出した。

──俺の名前は渡辺大輔。34歳。地元の建築関連企業に勤める鳶職だ。技術系の高校を卒業し、工業系の資格を生かして就職したのは18歳の時。以来、この会社と現場ひと筋でやってきた。

鳶職としての技術はあるが、会社からの公式な扱いは平社員。地元に根ざした会社とはいえ、首都圏に本社を置く一定規模の企業で、社員には大卒や院卒の優秀な連中も多い。今の時代、高卒というだけで、それだけで肩身が狭い。

「こいつも優秀だけどな。学歴が足を引っ張ってるよな」

表向きは普通に接してくれる同僚や同期たちも、俺がいないところではこんなふうに陰口を叩く。資格があっても、高卒だから社内での出世は望めない。それが俺の立ち位置であり、自分自身で理解しなければならない事実だった。

「何考えてるんだ。候補はこちらが主導権を握るもんなんだぞ。俺が営業の連中に丸め込まれて、何のために俺が同席したんだ」

俺の所属する建築関連の部署には、1年前に同業他社から転職してきた金子部長という人物がいる。大手建築関連企業の管理職で、国立の工科大学を卒業。その前は有名企業付属の工科研究所に在籍していた経験もある研究者だった。経歴を買われてハイクラス転職枠で俺の勤め先にやってきたわけだが、その部長はかなりプライドが高い。

「お前、営業の言うことを聞きやがって。お前な、脳みそ入ってるのか」

部長は、現場の意見を伝えた俺に、いきなり怒鳴りつけた。俺はただ、安全上の問題を正直に指摘しただけだったのに。

しかし、それ以来、部長は俺を目の敵にするようになった。打ち合わせでは毎回のように俺の意見を否定し、ちょっとしたミスでも大げさに怒鳴る。周りの社員たちも、部長に合わせて俺を冷たく扱うようになった。

「おい、渡辺。なんでそんな態度なんだ」

「すみません」

俺は謝るしかなかった。部長の前で言い返せば、さらに立場が悪くなるのは目に見えている。

耐え続けた。毎日が針のむしろだった。だが、辞めるわけにはいかない。ここで逃げ出したら、今までの苦労が無駄になる。技術を認めさせるまでは、絶対に辞めてやらない。

そして迎えた社員旅行。部長は、俺にだけ寝袋を渡して、旅館から追い出そうとした。

「部長、これはいくらなんでも酷すぎるんじゃないですか」

俺がそう言うと、部長はニヤリと笑った。

「なに言ってるんだ。会社のルールだろ。宿泊費の予算がないんだよ。高卒の平社員に、高級旅館の部屋を与えるわけにはいかないんだぞ」

周りの社員たちも、何も言わなかった。いや、笑っていた。俺の姿を見て、面白がっているようだった。

俺はそれ以上何も言わず、旅館を出た。夜風が冷たかった。秋の夜空には星が瞬いていたが、俺の心は暗く沈んでいた。

──その時だった。

俺のスマホが鳴った。見知らぬ番号からだった。

「もしもし」

「あ、渡辺さんですか? 私、国土交通省の者ですが……」

俺は思わず足を止めた。国土交通省。なぜそんなところから電話が?

「突然すみません。実は、あなたが提出された安全報告書について、お話を伺いたくて」

安全報告書。それは、俺が数ヶ月前に部長の指示に従わず、独自に上司の上司宛に提出した書類だった。現場で発見した重大な構造上の欠陥を、正直に報告したものだ。

「それは、どういう……」

「あなたの報告がなければ、重大な事故が起こっていた可能性があります。詳しいことは、ぜひ直接お会いしてお話しさせてください」

俺の心臓がドキドキと鳴った。この電話が、すべてを変えるかもしれない。だが、俺はただこう言った。

「……わかりました。いつですか?」

電話を切った後、俺は深く息を吐いた。部長が俺を追い出したあの夜。あの瞬間から、何かが動き出していた。

そして、約束の日。俺はスーツに着替え、都内の国土交通省のオフィスを訪れた。対応してくれたのは、若い女性職員と、白髪交じりの男性だった。

「渡辺さん、お会いできて光栄です。あなたの報告書、非常に高く評価されています」

男性はそう言って、書類の束を取り出した。それは、俺が提出した安全報告書のコピーだった。

「実は、この報告書がきっかけで、あなたのお勤めの会社の複数の工事現場で、安全基準の重大な違反が発覚しました」

俺は言葉を失った。まさか、そこまで大事になっているとは思っていなかった。

「会社側は、報告書を握りつぶそうとしていました。ですが、あなたの勇気ある行動のおかげで、私たちは動くことができました」

その言葉を聞いて、俺は自分の選択が正しかったことを確信した。部長のパワハラに耐えていた日々。そして、この報告書。すべてが繋がっていたんだ。

後日、会社で大規模な調査が行われた。金子部長は、安全対策の不備と、俺へのパワハラ行為を問われ、更迭された。そして、俺は……。

「渡辺さん、来月から安全統括室の室長を務めてほしい」

社長から直接、電話がかかってきた。高卒で、室長。俺は信じられなかった。だが、それは現実だった。

「えっ、でも俺、高卒の平社員ですけど……」

「そんなことは関係ない。あなたの実績がすべてだ」

俺は、あの日、部長に追い出された夜を思い出していた。あの時、俺は決めたんだ。絶対に復讐してやると。

でも今、俺は復讐というよりも、正義を貫いたんだと思う。部長は、自分が間違っていたことを思い知っただろう。

俺の物語は、まだ始まったばかりだ。

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