突然やってきた新社長は、まるで嵐のように毎日をかき乱した。朝一番の朝礼で、あいつは平気な顔で言い放った。
「お前ら社員に発言権はない。全て俺が決めるんだ。お前らは従っていればいいんだよ。」
俺は30年以上、この旅行代理店で働いてきたベテランだ。浅井社長のもとで、俺たちは力を合わせて小さな会社を支えてきた。自信はあった。経験があるからこそ、意見も言えると思っていた。
だが、新しい社長は全く聞く耳を持たなかった。むちゃくちゃな指示を押し通し、現場を混乱させた。俺は我慢ならず、抗議した。
「その指示では、現場が回りません。もう少し社員のことも考えていただけないでしょうか。」
新社長は鼻で笑った。
「年取っただけのベテランが、偉そうに何を言ってるんだ。うるさい。お前みたいな無能は黙って仕事をしてればいいんだよ。お前が足を引っ張ってるんだ。」
俺は自分が無能だとは思っていなかった。同僚に迷惑をかけているつもりもなかった。しかし、新社長はさらに続けた。
「これだから老害じじいは。さっさと退職してくれないか。お前がいなくなれば、無駄に払ってた給料も減る。そしてその分、有能な社員を雇えるんだ。」
その言葉に、俺の中で何かが折れた。何を言っても無駄だと感じた。翌週、俺は退職届を出した。新社長はニヤリと笑って、書類を握りつぶした。
だが数日後、意外な電話が鳴った。新社長からだった。声は慌てていた。
「お、おい。早く会社に戻ってこい。すぐにだ!」
俺は呆れて笑ってしまった。自ら招いた混乱の重みに、鬼の首を取ったような新社長が潰れかかっていた。電話の向こうで、取引先からのクレームの嵐が聞こえる。俺が作ってきた人脈を、そして俺という30年の信頼を、あいつは捨てたのだ。
新社長は言った。「頼む。何とかしてくれ。お前しかいないんだ。」
俺は冷ややかに返した。「自分で巻いた種は、自分で何とかしてください。私はもうあなたの会社の人ではありませんから。」
しかし、それで終わらせるのは惜しかった。あいつに、いつだったかの本当の重みを思い知らせたくなった。俺は新社長をさらに絶望の底へ突き落とすことにした。
「ところで、あなたが私を追い出したその裏で、何が起きてると思います?」
電話の向こうが沈黙した。俺は続けた。
「私が30年間育ててきたのは、この会社ではありません。私自身の信用と、そしてあなたが失った大事なもの…。」
新社長の息を飲む音が聞こえた。俺は静かに、電話を切った。



