部長の「お前を解雇する」という一言で、十年以上かけてきた研究も、給料を削って積み上げた夜も、全部が消えた。展示会で見せた試作品が突然トラブルを起こし、無実の罪を着せられたのだ。絶望で何も考えられなかったあの瞬間、一人の小学生が近づいてきて、こう言った。 「もしやめるんなら、ママの会社で働いてくれませんか?」…

部長の「お前を解雇する」という一言で、十年以上かけてきた研究も、給料を削って積み上げた夜も、全部が消えた。展示会で見せた試作品が突然トラブルを起こし、無実の罪を着せられたのだ。絶望で何も考えられなかったあの瞬間、一人の小学生が近づいてきて、こう言った。 「もしやめるんなら、ママの会社で働いてくれませんか?」...

部長の「お前を解雇する」という言葉がエントランスホールに響いた。子供たちの前で、俺は無実の罪を着せられた。大学時代から十年以上、全てをかけて開発してきた次世代バッテリー。誰もが夢物語だと笑い、無駄な研究だと否定し続けた技術を、自分の給料を削ってまで研究してきた。それなのに、こんな形で夢が打ち砕かれるなんて。

絶望に打ちひしがれた俺の前に、一人の少年が駆け寄ってきた。

「もしやめるんなら、ママの会社で働いてくれませんか?」

そのまっすぐな瞳に、俺は不思議な温かさを感じた。ただ、その時は知る由もなかった。この出会いが、俺の人生を、そして世界のエネルギーの未来を大きく変えることになるとは。

俺、桂高吉が働く感動電気株式会社は、設立から半世紀以上が経つ。家電から産業機まで幅広い分野で実績を積み上げてきた企業だ。本社ビルは駅から徒歩十五分ほどの場所にあり、少し老朽化した外観をしているが、七階建ての堂々とした佇まいが長年の歴史を物語っている。

俺が所属するのは開発第三部の電源開発。主にスマートフォンやタブレット向けのバッテリー開発を担当している部署で、社員数は二十名ほどだ。新入社員から五十代のベテランまで、年齢層は様々だ。働き始めて半年が経った頃、俺は部長に話を持ちかけた。

「部長、バッテリーの新しい開発案について、お時間をいただけませんか?」

部長に企画書を見せた。次世代バッテリーの開発案だ。俺が大学生の頃から打ち込んできたものだ。大学時代、誰にも理解されなかった研究。それを実用化するために、必死に働いてきた。

部長は企画書に目を通し、しばらく考え込んだ。

「…面白い。すぐに詳細を詰めてくれ。中に準備できるか?」

その言葉に、俺の心は大きく跳ねた。ようやく、自分の研究が認められるのだ。

数日後、部長に呼ばれて会議室に入ると、そこには開発部の偉い人たちが集まっていた。

「桂くん、君のバッテリーの試作品を、来月の展示会で発表してもらいたい」

ほう、やっとでかい話が来た。俺は展示会に向けて、試作品を完成させるために毎日遅くまで残って作業した。

展示会当日。会場には大勢の来場者が詰めかけていた。俺たちのブースには、会社の関係者や記者たちが集まっている。俺はブレゼンの準備を整え、壇上に立った。

「本日は、当社が開発した次世代バッテリーについて発表させていただきます」

プレゼンが始まった。俺の言葉に、会場からは驚きの声が上がる。バッテリーの性能や安全面を説明し、デモンストレーションを行う。反応は上々だ。

だが、その時だった。突然、スピーカーから耳障りな音が響き、スクリーンが真っ暗になった。

「なに…?」

会場がざわつき始めた。スタッフが慌てて対応するが、トラブルは一向に収まらない。俺は必死に説明を続けようとしたが、歯止めが利かない。

「おい、何やってんだ!」

部長の声が響く。俺は恥ずかしさと焦りで、頭が真っ白になった。展示会は失敗に終わり、会社からの信用は一気に失墜した。

数日後、部長室に呼び出された俺は、解雇を言い渡された。

「お前を解雇する。会社のイメージを損なっただけでなく、貴重な試作品を台無しにしたこと、重く受け止めろ」

「どんな、そんな…。あのトラブルは、俺のせいじゃない。誰かが妨害したんだ!」

「言い訳はいい。お前はクビだ。」

弁解も虚しく、俺は会社を追われた。

絶望の中、荷物をまとめて会社を出ようとすると、エントランスで一人の少年に出会った。

「もしやめるんなら、ママの会社で働いてくれませんか?」

少年の目は真剣だった。俺はその言葉に、なぜか心を動かされた。

「詳しく聞かせてくれるか?」

「ママはね、バッテリー会社を経営してるんだ。でも、最近はずっと悩んでるみたいなんだ。あなたの研究を聞いて、ぜひ協力してほしいって」

少年の案内で、俺は母親の会社を訪ねた。そこは、小さな町工場だった。だが、そこには最新の設備が備わっていた。社長である少年の母親・藤原さゆりは、優しい笑顔で出迎えてくれた。

「あなたの研究、聞きました。うちの会社で、ぜひ実現させましょう」

藤原社長は、俺の研究に深い理解を示してくれた。そして、再び開発を続けることを許してくれた。

数ヶ月が過ぎ、俺はついに新型バッテリーを完成させた。その性能は、既存のバッテリーをはるかに超えるものだった。

藤原社長は、そのバッテリーを大手自動車メーカーに売り込んだ。相手は興味を示し、正式な契約を結ぶ運びとなった。

「桂さん、おめでとう。あなたの研究は、世界を変える」

その言葉で、俺の涙が溢れた。あの時、絶望の淵にいた俺を救ってくれたのは、一人の少年の言葉だった。

そして、俺は知った。あの展示会でのトラブルも、解雇も、すべては同僚の嫉妬が原因だったことを。調べれば、俺の試作品を遠隔操作で妨害する細工が施されていた。

でも、もう過去は問わない。今の俺には、情熱を注げる場所がある。

十年後、俺の開発したバッテリーは、世界中のスマートフォンに搭載され、電気自動車の未来を担うまでになっていた。

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