公園で娘が泣き叫びながら走ってきた。「助けて!」その瞬間、私は人生が変わる出来事に巻き込まれた。足をくじいた母親を家まで送り届けたが、表札を見て高校時代の恐ろしい噂を思い出した。彼女はかつて「制裁を加えるヤンキー娘」と恐れられた朝子だった。シングルマザーとして苦労する彼女に手を差し伸べた私は「体目当てで優しくしてくる人、たくさんいるんですよね」と冷たく拒絶された。怒りと屈辱でその場を去ったが…

公園で娘が泣き叫びながら走ってきた。「助けて!」その瞬間、私は人生が変わる出来事に巻き込まれた。足をくじいた母親を家まで送り届けたが、表札を見て高校時代の恐ろしい噂を思い出した。彼女はかつて「制裁を加えるヤンキー娘」と恐れられた朝子だった。シングルマザーとして苦労する彼女に手を差し伸べた私は「体目当てで優しくしてくる人、たくさんいるんですよね」と冷たく拒絶された。怒りと屈辱でその場を去ったが...

実の娘と連れ子、ふたりの娘を持つ父として俺は今日も家族のために働いている。俺の名前は教一。平凡だけど幸せな毎日を送っていた。そんな俺が今の家族と出会ったのは、今から七年前のことだ。

二十七歳の秋。天気のいい日曜日で、仕事も休みだった。写真撮影が趣味の俺は、近所の公園へ紅葉を撮りに出かけた。公園には親子連れやデート中のカップルが大勢いて、できるだけ人の少ない場所を選んで歩いていた。

その時、前方から幼稚園くらいの女の子が走ってきた。泣きながら叫んでいる。

「助けて!」

一体何があったのか。女の子は尋常ではないほど取り乱していた。ママはどこにいるのか、何があったのか。聞いても泣き叫ぶばかりでまともに話せない。これは普通じゃないと直感し、俺は彼女と一緒に母親のところへ急いだ。

そこには地面に座り込んで足首を抑える女性がいた。

「大丈夫ですか?」

「はい。少し足をくじいただけです」

そう言って女性は気丈に振る舞うが、足をくじいたせいで立つのは無理そうだった。

「タクシーでも呼びましょうか?」

「いえ、うちはすぐ近くなんです」

「そうは言っても、歩いて帰るのは無理でしょ?」

しかし女性は「できます」と言いながら立ち上がった。

「だ、大丈夫なんですか?」

「昔はもっとボロボロになるのが当たり前でした。こんなのかすり傷です」

「もっとボロボロって…」

一体どんな状況だよ、と突っ込みたくなったが、女性が歩き始めたのでとにかく追いかけた。

「待ってください。心配なんで送りますよ」

俺は彼女の肩を支え、家の前まで送り届けた。実を言うと背負って運びたかったが、女性は自分で歩くと言って譲らなかった。

彼女の家は本当に近所で、なんと五分で到着した。年季の入ったアパートの一階の角部屋が彼女たちの家らしい。

表札の苗字を見た瞬間、俺は引っかかりを覚えた。

「すみません。昔どこかで会ったことはありますか?」

「ないです。でも、私は有名人だったので知っているのかも。実は学生時代、ちょっとヤンキーしてまして」

この瞬間、俺は高校時代のとある噂を思い出した。俺たちの三つ下の学年にとんでもないヤンキー娘がいるという噂。とても美人だが、気に入らない相手には徹底的な制裁を加える人物と恐れられていた。確か名前は朝子。

恐る恐るその件について話すと、彼女は少し気まずそうに笑った。

「…はい。それ、私です」

素直に認めた。

「足を洗った今は、普通のシングルマザーですけどね」

「じゃあ、ここで娘さんと二人暮らしを?」

俺は再度アパートを見回す。貧乏な大学生時代に住んでいた部屋と酷似していた。彼女たちは苦しい生活を強いられているのだろう。シングルマザー故の苦労は明確だった。

「俺、近所に住んでます。だから何か手伝えることがあったら言ってください」

思わず俺は学生時代の苦しさを思い出し、そう申し出ていた。しかし朝子ははっきりと拒絶する。

「ありがとうございます。でも、必要ありません。体目当てで優しくしてくる人、たくさんいるんですよね」

「お、俺はただ心配で…」

「そうやって恩を売って迫ってくる人も、腐るほど見てきました」

「俺もそうだって言うんですか? 失礼じゃないですか?」

あまりにもひどい言いように、俺は驚いたし、同時に怒りも覚えた。朝子は確かに美人で、女性的な魅力に溢れている。体目当ての男が現れるのも最もだと思うが、俺はただ貧乏の苦しさを知っているからこそ何か力になれないかと思った次第なのだ。

だが、朝子は俺の話を聞き入れず、大きな音を立てて玄関を閉めてしまった。

なんでこんな失礼なことを言われなきゃいけないんだ。その日、俺は腹立たしい気持ちを抱えたまま帰宅した。そしてしばらくの間、彼女たちと会わないようにもした。公園の近くを意図的に避け、会う可能性を少しでも減らしたのだ。

しかし、翌月。俺はスーパーで彼女を見かけることになる。

ただ娘はおらず、朝子と男が二人で買い物をしている最中だった。

俺にはあんな風に言ったのに、他の男はいいのかよ。心の中で怒りが湧いてきた。どうしても気になって、俺は朝子と男の様子を目で追った。

すると何やら様子がおかしいことに気づいた。男の方は笑顔で朝子に話しかけているが、一方朝子は眉間にしわを寄せている。はっきり言って、仲むつまじいという様子ではない。

それを目にした時、以前朝子から拒絶された時のことを思い出していた。あの男がいわゆる恩を売って関係を迫ってくる男なのだろうか。だとしたら彼女はどうしたらいいか困っているに違いない。

さすがに迷ったが、俺は放っておけないと判断した。すぐ様二人の前に行き、話しかける。

「お久しぶりです。今日は彼氏さんも一緒で」

当然二人は俺を見て驚いたが、朝子はすぐに口を開いた。

「この人は彼氏じゃなくて、他人です。知り合いです」

朝子の言葉を聞くなり、男は舌打ちして立ち去った。

ともかく俺は自分の行動が正しかったことに、ひとまず安堵した。

「どうしてまた助けてくれたんですか?」

一方、朝子は困惑していた。

「心配だったからです」

また変に疑われたらどうしようと思ったが、今日の朝子は素直だった。

「ありがとうございます。先日は疑ってすみませんでした」

「分かってくれたのならいいんですよ」

とは言ったものの、どこか気まずい空気が流れてしまう。すると朝子が「お詫びと言っては何ですが」と切り出した。

「で、お茶でも飲んでいきませんか?」

「え?」

「娘があなたに会いたがっているんですよ」

「娘さんが?」

娘さんとは、あの日公園で会った子だ。それにたくさんの言葉を交わしたわけでもない。不思議には思ったものの、俺は彼女の家に向かった。

例のボロアパートは、室内も狭く古い。しかし掃除が隅々まで行き届いて清潔だった。部屋の中では娘さんが一人で留守番をしていた。しかし俺たちを見るなり、明るい笑顔を向けてきた。

「あ、ママ、パパ!」

「パパ?」

思わず驚いて聞き返すと、朝子は説明してくれた。

「あなたが、亡くなった夫に似ているって。だから会いたがっているんです」

そして朝子は、部屋に置かれている写真を渡してくれた。そこには赤ん坊を抱きかかえた朝子と、一人の男性の姿があった。

「そんなに似てますかね?」

俺は思わず呟いてしまう。どう見ても俺とは似ていない男がそこにいたからだ。

「私もあまり似てるとは思わないです。でも…さっき、もしかしたら優しいところはそっくりかもって感じました。偽物の優しさじゃなくて、本当の真心が。あの子は最初から気づいていたのかもしれません」

そう言いながら娘さんを見る朝子のまなざしは、本当に優しかった。夫の死後、女で一つで娘を育ててきた。強くて優しい母の目だ。

「亡くなった夫は、ヤンキーだった私をまともな人間にしてくれたんです。とっても優しくて、人助けをしようとして、最後は自分が事故に遭って死んじゃったんです。バカな人でしたよ」

朝子は、シングルマザーになった後、近づいてくる男はみんな体目当てだったと語った。そしてあんな真心のある男性とは出会えないと諦めてしまったとも。

だけど――朝子はそう言いながら俺を見た。

「あなたと出会えて嬉しかったです。もしよかったら、これからもあの子と仲良くしてあげてください」

朝子は素直な気持ちを明かしてくれた。だから俺は、以前彼女に腹を立てた気持ちが消えていくのを感じた。代わりに、二人を支えたいと思い始めてもいた。

「パパ、遊んで!」

直後、娘さんに引っ張られて。俺にはちゃんと名前があるんだけどな。少しだけ困惑しながらも、俺は娘さんと一緒に遊び始めた。そんな俺たちを見守る朝子は、本当に嬉しそうだった。

この日を境にして、俺は休日にアパートへ遊びに行ったり、二人を連れて食事に行くようになった。同時に俺のカメラには、二人の写真がものすごい勢いで増えていく。娘さんは俺を本当の父親のように慕ってくれた。

誕生日会に俺を呼んでくれたのは、その証拠だろう。二人が作ってくれたごちそうや手作りケーキが並ぶ食卓。俺たちは心から楽しい時間を過ごすことができた。

元ヤンという先入観から、俺は朝子のことをだらしない性格で家庭的ではない人間と勝手に決めつけていた。しかし実際は逆だった。俺はひどい偏見を持っていたことを悟って恥ずかしくなる。俺は女で一つで頑張る彼女を尊敬した。助けになりたいと強く思ったし、気づかないうちに二人と過ごす時間が俺にとって一番大切な時間になっていた。

あっという間に、二人と関わるようになってから一年が過ぎた。娘さんが来週小学校に入学する、という話になった時、俺は切り出した。

「それならば、ランドセルを買おう」

「いいんですか?」

「これでも、あの子に何かしてあげたいんです。本当の父親のように慕ってもらえて嬉しいんで。何かそれっぽいことをさせてください」

俺の言葉を受けて、朝子は一瞬押し黙った。そして少し考えてから、聞いてくる。

「本当の父親になるつもりはありませんか? 私と結婚してくれませんか?」

「う、嘘ですよね」

当然、俺は驚いてしまう。娘さんはともかく、朝子は事故で死んだ夫のこともあり、再婚はないと思っていた。だからこそ、朝子の方から結婚を切り出されたのは予想外だった。

「嘘じゃありません。本気です」

「お、俺でいいんですか? だって、まだ前の旦那さんが忘れられないんじゃ…」

「忘れることはできないと思います。でも、いつまでも過去を見ていても仕方ない」

朝子は続ける。

「未来を考えた時、あなたに一緒にいてほしいと思ったんです」

意外ではあったが、俺は二人のことが大好きだし、今も半分家族のようなものだから断る理由なんてどこにもなかった。

「俺を選んでくれたこと、絶対後悔させませんから」

そして俺は、二人と家族になるという重大な決断を下した。つまり娘さんには、進学祝としてランドセルだけでなく、新しいパパができるというサプライズまで用意されたのである。

「これからは、パパと一緒に住むの?」

娘さんは本当に喜んでくれた。小学校と同じくらいパパが好きだと言って、俺が仕事から戻ってくると玄関まで走ってきて、今日あったことを教えてくれるのだ。娘さんは俺がプレゼントしたランドセルを六年間大事に使ってくれた。俺はそのことが嬉しくてたまらない。

一方、朝子は母親として俺たちを見守りながらも、妻として俺を愛してくれた。亡くなった夫のことを忘れるのはやはり無理だったようだが、それでも俺と未来を作ろうとしていた。

結婚から二年が過ぎた頃、俺と朝子の間に娘が生まれる。しかし俺たちは、二人の娘を平等に扱い、時には可愛がり、時には厳しく接した。姉妹の中も良好で、反抗期らしい反抗期も来ていない。できればこのまま立派な大人に育ってほしい。俺たちは力を合わせて、もうしばらく子育てを頑張ってみようと思っている。

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