商店街の夏祭りの日、娘が突然走り出した。「あそこのたこ焼き屋さん、全然人いないね」その一言が、すべての始まりだった。妻を亡くしてから七年、お好み焼き屋を一人で切り盛りしながら、過去に蓋をして生きてきた。なのに、あのぼろぼろの店で出会った女性の作るたこ焼きは、忘れられない妻の味とそっくりで。彼女もまた、一人で娘を育てながら店を畳もうとしていた。「もう私の心は決まっているので」そう呟く彼女に、う…

商店街の夏祭りの日、娘が突然走り出した。「あそこのたこ焼き屋さん、全然人いないね」その一言が、すべての始まりだった。妻を亡くしてから七年、お好み焼き屋を一人で切り盛りしながら、過去に蓋をして生きてきた。なのに、あのぼろぼろの店で出会った女性の作るたこ焼きは、忘れられない妻の味とそっくりで。彼女もまた、一人で娘を育てながら店を畳もうとしていた。「もう私の心は決まっているので」そう呟く彼女に、う...

俺が二十五歳の時に妻と出会った。気が合った俺たちはすぐに結婚し、娘を授かった。今までの人生で一番幸せな日々を共に過ごしていた。しかしその幸せな生活は一瞬にして消えてしまった。娘を出産する際に妻は亡くなってしまったのだ。

俺は生まれたばかりの娘を一人で育てなければならなくなった。だが、妻が亡くなったことをなかなか受け入れられず、しばらくは仕事も手につかなかった。それでもいつまでもそうしているわけにはいかない。俺は安定した仕事を探すことにした。

そんな中、日頃から買い物で利用している商店街の中に空きスペースを見つけた。とっさにお好み焼きを売りたいと思った。なぜお好み焼きか。それは妻が亡くなる前、二人で食べに行ったお好み焼きの味がずっと忘れられなかったからだ。あの店の味を再現できれば、これからも妻との思い出を大切にできる気がした。

俺の名前は墓田州。今年で三十三歳になる。娘のケを一人で育てながら、地元の商店街でお好み焼き屋を営んでいる。開店当初は人が集まらず頭を悩ませることもあった。そんな時に、この商店街にずっと住んでいる年配の夫婦が店を訪れた。二人は昔からこの町で食料雑貨店を営んでいて、商売経験は豊富だった。その日から二人は俺の店を気にかけてくれ、頻繁に来てくれるようになった。特に旦那さんは俺を励ましながら旬の食材を教えてくれたり、接客のこつをアドバイスしてくれた。

さらにその夫婦は、寂しそうに妻のことを語る俺を見てお見合いの話を持ってくることもあった。しかし気持ちの整理がついていない俺はお見合いには乗り気ではなかった。一方、娘のケは俺が再婚することに対して前向きだった。

「ねえパパ、私にもママが欲しいな」

娘からのその言葉に、俺は申し訳ない気持ちを感じていた。こうして俺は年配夫婦とケに支えられながら、なんとかお好み焼き屋を営んでいた。

「ケ、準備はできた?」
「うん、大丈夫。もうすぐ始まる時間だね」

今日は年に一度の夏祭り。俺たちの店も屋台を出すことになっていた。祭りが始まる前に少し時間があったので、俺とケは商店街をぶらぶら歩くことにした。するとケは少し先にある一軒の店を指さした。

「あそこのたこ焼き屋さん、全然人いないね」

ケが指さしたのは、外観がぼろぼろで今にも潰れてしまいそうなたこ焼き屋だった。看板の「たこ焼き」という文字もかすれて読めるか読めないかというほどだった。そしてケの言う通り店内には誰もいない。

「確かに人は入ってないね。それにしても、かなり古そうなお店だね」

俺は今までこの店の存在にすら気づいていなかった。だがケはなぜかこのたこ焼き屋のことが気になっているようだった。

「まだ時間あるし、たこ焼き食べてみよう」

そう言って俺の方を見た。店頭にはいくつかパックに詰められたたこ焼きが並んでいるが、出来上がってからしばらく時間が経っているようだ。

「あんな放置されたたこ焼きなんて美味しくないんじゃない? うちのお好み焼きの方がよっぽど美味しいよ」

俺はそう言って店を横切ろうとしたが、ケはそのたこ焼き屋に走って行ってしまった。俺が慌てて後を追うと、その店にはベンチに座っている女の子が一人と、店内で作業をしている女性の姿があった。

「いらっしゃいませ」

ケが店の前に行くと、ベンチに座っている小さな女の子が話しかけてきた。その少女の声に反応して、店の中から女性も笑顔を見せてくれた。

「たこ焼き一つください」

元気よくケが言うと、女性は笑顔でうなずき、焼きたてのたこ焼きをパックに詰めてくれた。

「はい、お待たせしました。暑いので気をつけてくださいね」

彼女の言葉通りたこ焼きはまだ熱そうだったので、少し冷ましてからケに食べさせようと思い、俺は一口たこ焼きを食べてみた。すると驚いたことに、そのたこ焼きは意外にも絶品だった。俺が驚いているのを見て、ケも食べたそうな表情をしている。

「ケ、これすごい美味しいよ。食べてみて」
「本当だ。めちゃくちゃ美味しい」

俺とケはそのたこ焼き屋の味の素晴らしさに感動した。店内の女性も俺たちのことを嬉しそうに見ている。こんなに美味しいたこ焼きを提供しているのに、外観で損をしているなと思っていると、ケが無邪気に質問し出した。

「どうしてこんなに美味しいのにお客さんがいないんですか?」

俺はそれを聞いてすぐに謝った。

「これ、ケ。失礼だろ? すみません」

それでも女性は笑顔のままで理由を教えてくれた。

「ここの近くに有名なたこ焼き屋さんがあって、そこはトッピングの種類も豊富だし、毎月のように新商品も出しているんです。だからお客さんはみんなそっちの店の方に行っちゃうんですよね」

確かに個人で店を営んでいる身としては、有名な大手チェーンは手ごわい存在だ。ケはその有名なたこ焼き屋も気になったようで、実際に店を見てみたいと言い出した。

「じゃあ、そっちの店にも行ってみる」

俺たちは店を後にして、近所の有名なたこ焼き屋に向かった。たどり着いたその店は遠くからでも分かるほど見た目が派手で、カウンターの上には様々なトッピングが並んでいた。メニューを見てみても斬新なアイデアのたこ焼きがたくさんあり、見た目にもインパクトがある。俺たちは実際にたこ焼きを一つ注文して食べてみたのだが、これまた意外なもので、味はそんなに美味しいものではなかった。確かにトッピングは豊富だが、たこ焼きの味自体がいまいちだった。

「味はさっきのお店の方が全然美味しいね」

ケは率直な意見を口にしたが、俺もケと同じ意見だった。たくさんの味から選べるのは魅力的だし、チェーン店ならではの低価格も強みだと思うが、肝心なたこ焼きを味わった時の満足感は、さっきの店の方がつば抜けて良かった。

気づけば夏祭りの開始時間に近づいていたので、俺たちは慌てて自分の店に戻った。そして夏祭りも賑わったまま無事に終わり、俺たち家族にはいつもの日常が戻ってきた。

しかしそれからの俺は嫌な予感を感じながら、もやもやした日々を送っていた。その理由は、この商店街から数キロ先にできる予定の大規模なショッピングモールだった。年配夫婦の旦那さんが持っていたチラシを見せてもらうと、その大型ショッピングモールにはお好み焼き屋の大手チェーン店も入るらしいのだ。

「これはまずいね。あの店は家族連れにも人気だし。人が流れていっちゃうかもしれないよ」

確かに彼の言う通りだ。ショッピングモールがオープンする前に、うちの店をもっとたくさんの人に知ってもらわないとお客さんが取られてしまうかもしれない。とはいえ、この状況を打開できるようなアイデアがぱっと浮かんでくるわけでもない。俺がお好み焼きを作りながら考えていると、店の扉がガラガラと開いた。

「いらっしゃいませ」

店にやってきたのは、以前訪れたぼろぼろのたこ焼き屋の女性と、ベンチに座っていた女の子だった。

「え、あなたは」

彼女もすぐに俺のことに気がついたようで驚いていた。その女性はアネと名乗った。一緒にいる女の子はアネの娘らしく、エミと言うらしい。その日は偶然ケも店にいて、俺たちはアネとエミに挨拶をして、年配夫婦の旦那さんにも二人のことを紹介した。

「あの後、実際に大手チェーンの店にも行ってみたんですけど、アネさんの店のたこ焼きの方が圧倒的に美味しかったです」

俺がそう報告すると、彼女は嬉しそうな表情を見せたが、どこか複雑そうだった。するとアネは、店を畳もうとしていることを俺たちに告白した。俺は驚いてその理由を尋ねると、アネを始めた経緯から語ってくれた。

話を聞くと、彼女の店は元々彼女の祖父母が営んでいたらしい。店をついだアネは当時結婚していたようで、旦那と共に経営をする予定だった。ところが次第に旦那と意見が食い違うようになってしまい、最終的に離婚したという。それから一人でエミを育てながら店を続けてきたが、なかなか客足は伸びず、この祭りが最後のチャンスだと思っていたらしい。それでも現実は甘くなく、お客さんが増えることはなかった。そこでアネは店を畳むことを決めたらしい。

「もう私の心は決まっているので、エミのためにも次の仕事を探さなくちゃ」

アネは寂しそうな表情でそうつぶやいた。俺も同じ商売をするものとして、彼女の気持ちは痛いほどよく分かる。そしてそれまで黙って話を聞いていたケが突然口を開いた。

「私、またアネさんのたこ焼きが食べたいな」

するとそれを聞いたエミも身を乗り出して言った。

「私もママのたこ焼き食べたい」

無邪気な笑顔でそう言った。二人の素直な言葉に、アネは目に涙を浮かべていた。すると今度は年配夫婦の旦那さんが話に入ってくる。

「それなら、ここで働くといいよね。シ君」

あまりにも突然の提案に俺は言葉を失った。正直今は常連のお客さんのおかげでなんとか黒字を保っているが、人件費を増やすほどの余裕はない。しかしその一方で、俺はアネの作るたこ焼きの味の良さを認めているのも事実。彼女がうちの店で働いてくれるのなら即戦力になるとも考えた。そしてケも気に入っている彼女のたこ焼きを、いつかは復活させてあげたいとも思っていた。

俺は店の現状と自分の思いを天秤にかけて揺れ動いていたのだが、ケと旦那さんの熱い視線に、ついついうなずいてしまった。これを見ていたケと旦那さんは嬉しそうに喜び、アネも安心した表情を見せ、俺に頭を下げた。

「本当にありがとうございます。私にできることは何でもしますから」

こうしてアネはうちの店で働くことになった。数週間が経つと店の回転率が上がり始め、徐々に客が増えているようにも感じた。それでも大手チェーン店と戦うにはまだ力不足だ。もしここで負けてしまえば、これまで必死に築いてきた全てが台無しになってしまう。その恐怖心は俺の中で日に日に大きくなっていった。

そんなある日、俺はアネにその気持ちを打ち明けることにした。

「あんな大手の店と戦えるかどうか、正直不安なんですよね」

普段ならこんな弱音を人に吐くことはないのだが、アネに対してはなぜか自然と話していた。俺の告白にアネは真剣な表情で答えた。

「大丈夫ですよ。愛情のこもった手作りのこの店の味は、大手には出せません。だから私は絶対に勝てると思ってますよ」

その自信に溢れた言葉に俺ははっとした。

「そうか。この店にはこの店なりの武器があるんだ」

俺はアネの言葉を受け止めてゆっくりうなずくと、彼女もにこっと笑い、同じようにうなずいた。俺は彼女の心強さと、一緒にいる時の安心感を感じるようになった。

そんなある日のこと、ケは放課後にエミと一緒に遊んでいた。俺たちが店で働いている間は、こうしてケがエミの面倒を見ることが多かった。二人が散歩から帰ってくるとすぐに俺の方に駆け寄ってきた。

「さっきね、アメリカンドッグを食べながら歩いている高校生がいたんだよ。すごい美味しそうだった」

ケがそう言うと、隣でエミもうなずいている。

「エミも散歩しながら食べたい。それでね、お好み焼きもそんな風に食べ歩きができたらいいんじゃないかって」

ケの提案に俺とアネは顔を見合わせた。確かにうちのお好み焼きをたくさんの人が食べ歩きすれば、それだけで売り上げにつながるし、うちの店の新たな武器になるかもしれない。ケの一言が俺たちに希望の光を与えてくれたのだ。

俺たちは翌日からすぐに新商品の開発に取りかかった。そして試行錯誤の末、お好み焼きを串に刺した商品「串巻き」を売ることにした。これならアメリカンドッグのように食べ歩くこともできて、小腹を満たすこともできる。俺とアネは何度も試作品を作っては子供たちに食べさせて感想を聞いた。しかしこの串巻きというのは作るのがなかなか大変で、生地が多すぎると重みで下に落ちてきてしまうし、薄くしすぎると本来のお好み焼きの満足感を得ることができない。俺たちは何度も失敗をしながらも、家族同士で助け合い、改良に改良を重ねて、ついにうちの店オリジナルの串巻きが完成したのだ。

数週間後、最初は常連さんに向けて新商品を試食してもらうことにした。味だけでなく食べやすさにもこだわったうちならではの串巻きはとても好評だった。自信を持った俺たちが実際に新商品を販売してみると、部活や学校帰りの学生が串巻きを買ってくれるようになり、少しずつうちの店の名前と新商品の串巻きが広まっていった。

そして新商品の売れ行きを見て勢いに乗った俺は、さらにあることを思いついた。それはアネの作るたこ焼きをうちの店で出すということだ。店を畳んだとはいえ、アネの中には自分が作るたこ焼きの味をこれからも残していきたいと思っているだろう。だから俺はアネに提案をした。

「今度はアネさんの作るたこ焼きをカップに入れて販売してみませんか? 手軽に楽しめるっていう点では串巻きと同じような効果が得られると思うんです」

提案を聞いてアネは驚いた表情を見せたが、俺にはその表情が嬉しそうにも見えた。

「それ、いいアイデアかもしれません。私やってみたいです」

アネの心の奥に眠っていた料理人としての熱い思いが、再び燃え始めた瞬間だった。早速その日の夜からアネは新商品の開発を始めた。この商品に関してはアネが中心となって毎晩遅くまで研究をしていた。その努力が実り、最終的に出来上がったカップたこ焼きは、時間が経っても外はカリカリで中はトロトロ。これまたうちの自慢の商品が一つ出来上がったのだ。

串巻きと並べてカップたこ焼きの販売を始めると、狙い通りたくさんの人が購入していってくれた。そしてこれらの新商品が売れていくにつれて店に訪れるお客さんも増えていき、これまでなかったほどの忙しさを感じるようになった。

「新商品、大ヒットですね」

アネが俺の耳元でささやいた。俺は何よりアネが心の底から喜んでいるのを見られたのが嬉しかった。その一方で、俺は妻のマホのことも忘れられずにいる。彼女が生きていれば、娘の三人でこのお好み焼き屋を営んでいたかもしれない。マホは真面目で強くて、人に優しい女性だった。そんな彼女ならきっと俺の背中を押してくれるだろう。

そんなある日の営業終了後、アネも帰宅して店に一人残った俺は店内の清掃をしていた。すると棚にしまってあった一通の白い封筒が落ちてきた。俺はその封筒を拾い上げると、それは亡くなったマホから結婚前にもらった手紙だった。もらった当時はとても嬉しくていつも持ち歩いていたのに、彼女が亡くなった後はそれを読めずにいた。しかしこの時の俺はなぜかその手紙を読みたいという気持ちになり、封筒の中からそっと便せんを取り出した。

「私はあなたの優しさと愛情にいつも救われています。本当にありがとう。でもね、時には自分のことを一番に考えてほしいの。みんながきっと応援してくれるはずだから」

俺は数年ぶりに妻からの手紙を読むと、少しずつ涙で視界がかすんでいった。当時のマホの気持ちが、今になって俺の心に染み渡る。

「俺は前に進まなくちゃいけないんだ。ケのためにも、自分自身のためにも」

ひょっとしたら俺は、マホに愛されていた自分に別れを告げること自体を恐れていたのかもしれない。それでも自分の人生を前に進めるためには、過去の自分を宝箱にしまって、新しい自分を見つけに行く勇気を持つことが必要なんだ。俺はアネの優しくて穏やかな人柄と、彼女といる時の安心感に惹かれていた。そんなアネをマホのように失いたくない。

こうして俺が一人で悩んでいる間にも時間は進んでいる。その間にも何かできることがあるはずだ。俺は頬を両手でぱちぱちと叩き、自らを鼓舞して、自分の気持ちを素直に伝えることを決めた。

次の週末、忙しい営業時間を終えた俺はアネとケ、エミを呼んだ。

「今日は僕からみんなに伝えたいことがあります」

俺の改まった様子に三人も少し緊張しているようだった。そして深呼吸をして、俺はみんなの前で告白した。

「えっと、僕たち、家族になりませんか?」

その瞬間、アネの目からは涙が溢れ出した。

「それって、プロポーズですか?」

俺が静かにうなずくと、アネはにこっと笑った。

「本当に、私でいいんですか?」

気持ちが伝わったことに俺は安心した。

「当然じゃないですか。だって、アネさんなら」

俺が答える前に、ケが言ってアネに飛びついた。

「ママ!」

その隣ではエミもにこにこと笑顔を浮かべながら。

「シさんがパパになるの?」

「そうだよ。これからは僕がエミのパパだ」

俺はほっとすると同時に、これからの日々に大きな期待を持つことができた。俺が始めたこの店を一緒に守ってくれたアネ。そんな彼女と一緒に新しい人生を歩めることが本当に嬉しかった。

それから数週間が経ち、俺たちは一緒に住むことを決めて、アネとエミはひとまず俺の家に引っ越してくることになった。二人から四人になったことで最初は思うように行かないこともあったけど、毎日一緒に生活をしていく中で、俺たちは本当の家族になることができた。

「ケちゃん、エミ、ご飯の準備手伝ってくれる?」
「はーい」

今日はアネがご飯を作る日。ケもエミもいつも笑顔で協力してくれる。夕飯の支度をするアネの後ろ姿を見ながら、俺はしみじみと幸せを感じていた。ケとエミも同じ時間を共にしていく中で今まで以上に仲良くなり、いつしか本当の姉妹のようになっていた。アネはそんな二人のことを平等に可愛がり、俺も二人の娘のことがますます大事になった。こんな風に、俺たちは日を重ねるごとに家族の絆を深めていった。

それから一年が経ったある日、俺とアネは婚姻届を出し、正式に夫婦となった。それによって生活が大きく変わるということはなかったが、家族が増えるということは俺にとって気が引き締まる思いだった。

数日後、俺がいつものように店先に立っていると、ケが駆け足気味で店の中に入ってきた。

「ねえ、今エミと散歩してたら、この近くに新しいたこ焼きのお店ができてた。人もいっぱい並んでたよ」

二人はにこにこしながら、その店に行ってみたいと誘ってきた。その日はいつもより早めに店を閉めて、その新しい店に俺たち家族は全員揃って並んだ。そしてみんなで味の違うたこ焼きを食べ比べていると、ケは何かに気がついたようだった。

「ねえ、パパ、やっぱりママが作るたこ焼きが一番美味しいよ」

小声でそんなことを言うと、アネはふふっと笑った。アネに出会うきっかけになったのも、ケがアネの店を偶然見つけたことだった。こうして家族揃って仲良くたこ焼きを食べられているのも、あの時アネとエミがお店を続けてくれていたからで、さらにそれをケが見つけてくれたからなんだ。

「帰ったらみんなでママの作ったたこ焼きを食べよう」

帰り道、エミはケと手をつなぎながら嬉しそうにそう言って歩いていた。俺とアネはそんな様子を見て微笑みながら後ろを歩く。

その後も店は順調で、常連の年配夫婦も相変わらず足しげく通い続けてくれていた。二人に結婚の報告をした時にはかなり驚いていたが、幸せな報告に心から喜んでくれた。

「四人で力を合わせて頑張ってな。これからも俺たちはずっと応援してるから」

そんな心強い言葉をもらった俺は、今日も店に立っている。商店街で愛されていて、家族四人で経営している人気店。そこで提供されるのは、家族の愛情が込められたお好み焼きとたこ焼き。かつて俺が憧れていた世界が、今は自分の目の前に広がっている。そんな今の生活が俺にとっての宝物で、心の底から愛しいと感じていた。

「パパ、ママ、行ってきます」
「行ってきます」

いつもの通りの朝、同じ小学校に通う娘たちは楽しそうに手をつないで、笑顔で俺たちに手を振った。大きなランドセルを揺らしながら家を出ていく二人に、俺とアネも笑顔で手を振った。そして俺は玄関に置いている家族写真をじっと眺めて、今日も店に向かう準備を始める。

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