「こいつは田舎者で話にならないので帰らせますね。」
得意先の社長が同席する正談の場で、俺の上司・池田さんが平然とそう言い放った。少し前まで下受け工場で働いていた俺が本社の営業部に配属され、自分の部下になったことが気に入らないのだろう。だが、いくら何でも大切な場でそれを言うことはない。
俺は思わず声を上げようとした。ところが、俺より先に動いたのは得意先の社長秘書だった。鬼のような形相で池田さんを睨みつけ、声を荒げる。
「何をおっしゃっているんですか。失礼なのはあなたの方です。帰るべきなのはこの方です。」
あまりの剣幕に、池田さんは目を丸くして固まってしまった。
俺の名前は竹内はじめ。最近まで有名企業の下受け会社にあたる工場で働いていた。社長や社員の人たちにはとても良くしてもらっていたので、離れるのは寂しかった。だが、自分の能力を高めるためには移動も必要だと、その気持ちを飲み込んだ。
今は東京にある本社の営業部に移り、不慣れな業務を覚えようと毎日走り回っている。やっぱり東京はあの田舎と比べると息が詰まる感じがする。そんなことを独り言ちながら、今日も資料を本送していた。
倉庫で資料整理をしていると、先輩が扉を開けた。
「おい、竹内。課長が呼んでるぞ。」
俺はその言葉に「うげっ」と思いながらも、顔に出さないように返事をした。
「はい。今行きます。」
なぜ俺が不快に思うのか。その理由は、上司の池田さんという人物がなかなかに嫌な性格をしているからだ。
営業部に配属された初日、挨拶をしようと彼の元へ向かった時のこと。緊張しながら自己紹介をすると、池田さんの表情は冷めきっていて、歓迎していないことがありありと伝わってきた。
「はあ。君、前まではどこにいたの?」
「下受け会社にあたる工場で勤務しておりました。」
「……かよ。」
緊張していたからなのか、池田さんがぼそっと呟いたからなのか、俺にははっきり聞こえなかった。その日は気のせいだと思い、気にしないことにした。しかし、ここで働くにつれて彼の本性が次第に分かってくる。
まず、池田さんは俺を呼ぶ時「田舎者」と呼ぶようになった。挨拶の時に聞いた言葉が気のせいではなかったと知った。その上、まともに営業の仕事は教えてもらえず、お茶出しやデータ整理などの雑用ばかり押し付けられる。初めこそ「入って日が浅いからか」と思っていたが、配属から二ヶ月経ってもまともな仕事が与えられない。これは嫌がらせだと気づいた。
だが、会社での池田さんの評判は良いらしい。部長などの上役の前では、仕事の成果をひけらかさず謙虚に振る舞っているからだ。そして上役がいなくなった途端、部下にとても横柄に接する。その変わり身の速さには呆れてしまう。
さらに、池田さんは仕事の押し付けや手柄の横取りなどを日常的に行っている。過去に部長へ報告しようとした者がいたらしいが、部長の池田さんへの信頼は厚く、取り合ってもらえなかった。それどころか、そのことが池田さんにバレ、その人は脅される形で退職していったという。同僚たちは池田さんの所行を見て見ぬふりをし、半ば諦めるように受け入れている。俺が来てからは、池田さんが俺を集中的にいびってくるようになり、同僚からは「ターゲットになってもらえて助かった」とまで言われた。腹立たしかったが、言ってきた奴が俺の前のターゲットだと聞いていたので、恨むこともできなかった。
結局、いつかちゃんとした営業の仕事に携われることを信じて、毎日の嫌がらせに耐え続けるしかなかった。
そんなある日、俺と池田さんは部長に呼び出された。池田さんが担当している得意先の正談に、俺も同行しろという指示だった。
「ああ、はい。承知いたしました。営業の現場に連れて行って、竹内にも経験を積ませろということですね。お任せください。」
この日も池田さんは部長にいい顔をしていた。ちらりと隣を見ると、媚びるような笑みを浮かべているように見えた。きっと、部長命令だから心よく受け入れているふりをしているが、本当は嫌なんだろうな。そんなことを考えていると、俺たちの声が届かなくなるほど部長が離れた途端、池田さんの顔が豹変した。声を聞かなくても怒りが感じ取れるほどだった。
「ちっ、なんでこいつなんか……。ああ、くそ。とりあえず話は後だ。」
つかつかと足早に去っていき、俺はその場に置き去りにされた。
それから数日が経ち、正談の前日になった。それまで何度か池田さんに正談の話を聞こうとしたが、「他の仕事が忙しい」と取り合ってくれなかった。それでいて、当日の相談に必要な大量の資料作りを俺に丸投げしてきた。俺は同僚や先輩にアドバイスをもらいながら、黙々と作業を進めるしかなかった。今までまともに教えてもらえなかったから、何度もつまずいてしまった。
「今日は徹夜だな。」
会社の窓から見える景色は真っ黒で、俺は椅子に深く腰かけて体を伸ばしながら呟いた。エナジードリンクを片手に作業を再開し、数時間後、窓から朝日が差し込み始めた頃にようやく終わった。
正談当日の朝。徹夜で苦戦していた資料作りが完了した。配布用に印刷していると池田さんが出社してきた。朝日で目をしょぼしょぼさせながらその姿を見ていると、池田さんはキョロキョロと見回した後、俺と目が合うとその足でこちらへ来た。
「竹内、資料作りは終わってるか?」
これまで何も言ってこなかったのに、突然進捗を気にしてくる。寝不足のためか、苛立ちを感じながらも、なるべくにこやかに答える。
「おはようございます、池田さん。資料作りは完了しています。今、相手方に配布する資料を印刷しています。」
「そうか。印刷が終わったら見せろ。」
そう言って俺が持っていた資料の一部をかっさらうと、そのまましばらく目を通し始めた。
「ああ、まあいいだろう。これは。」
「あの……何か不備がありますでしょうか?」
「いや、問題ないだろう。今日は正談に担当者だけでなく、得意先の社長も出席することになったらしい。できればもっと分かりやすくして欲しかったが、もう時間的に無理だろう。」
今まで無関心だった奴が何を言っているんだ。あまりの怒りに手がぴくっと動いてしまったが、話の内容を冷静に整理する。
「社長も出席されるのですか?」
「そう言っただろう。もう一部資料を刷っておけ。」
「承知しました。」
まさか社長まで出席するとは思わなかった。何度も確認した資料だが、少し心配になり再度チェックする。よし、問題はないな。確認を終えた途端、徹夜の疲労に加えて正談のプレッシャーが一気に肩にのしかかってくる。気のせいではないほど体が重いが、気合いを入れ直すために自分の頬を軽く叩いた。
「頑張ろう。」
約束の時間が近づき、池田さんと俺は正談相手の元を訪れ、会議室に案内された。担当者と挨拶を交わしていると、俺に気づいた担当者が話しかけてくる。
「そちらの方は以前はいらっしゃいませんでしたよね。」
「初めまして。竹内はじめと申します。先日、本社の営業部に配属されました。」
緊張しながらも挨拶し、名刺を出そうとしたところで邪魔が入った。
「失礼いたしました。気が回らず申し訳ございません。こいつは新人のものです。かなり田舎から来たもので、至らぬ点が多々あるんです。彼は今回ただの付き添いですので、気にしないでください。」
池田さんが俺の自己紹介の途中に割り込んできたのだ。俺の姿を隠すように前に出て、強引に意識をそらそうとしてくる。
「いえ、大丈夫ですよ。えっと、竹内さんでしたね。」
担当者は少し驚いたようだったが、気にせず微笑みながら話しかけてくれる。
「は、はい。」
「彼のことは本当に気にしないでください。今日に至るまでも数々のミスをしていまして、そちらにご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。」
池田さんはなおも、あることないこと言い立てて邪魔をしてくる。ついには俺を睨むような目で見て、耳元に顔を近づけた。
「田舎者は邪魔だから帰れ。」
俺にだけ聞こえる声でそう言ってきた。車内だけでなく、こんな場でもそんなことをするとは。驚きで顔が固まってしまい、何も言い返せなかった。
「まあまあ、池田さん。誰でも始めは慣れないものです。せっかく来ていただいたんですし、竹内さんも参加してください。」
担当者が場を取り成すように言ってくれたおかげで、池田さんは俺から離れた。俺からは見えなかったが、きっと部長に向けるような取り繕った顔をしているんだろう。慌てて返事をすると、担当者は優しそうな笑顔を浮かべた。
「緊張しているとは思いますが、リラックスしてくださいね。ぜひ竹内さんのお話もお聞かせください。」
その言葉に、俺の心も少し温かくなる。強張っていた顔にも、ようやく笑みが浮かべられるようになった。
「この田舎者がお話できるようなことなんて何もないですよ。」
せっかく人が緊張をほぐせそうな時に、池田さんは横やりを入れるように言い放った。ああ、俺の上司がこの人だったらな。思わず担当者を見て考えてしまった。
「ところで、本日は社長も参加されると伺っているのですが。」
「はい、その予定です。もうすぐ参ると思いますよ。」
担当者がそう言った時、会議室の扉をノックする音がした。
「ちょうど参ったみたいですね。」
担当者が「どうぞ」と言うと、得意先の社長が秘書を連れて会議室に入ってきた。少しほぐれていた緊張が舞い戻ってきたかのように、俺は背筋をピンと伸ばす。
「初めまして。お世話になっております。私は営業部の池田と申します。本日はよろしくお願いいたします。」
俺は池田さんに続いて挨拶をしようとする。
「初めまして。私は……」
「失礼いたしました。こいつは今回同行しているだけのただの田舎者でございます。ご迷惑をおかけするかもしれないので、すぐにでも帰らせます。」
担当者の時と同様、話している途中に割り込んでくる。俺は思わず「池田さん!」と叫びたかったが、俺が行動するよりも早く、目の前にいる二人が動いた。どちらも驚いたように目を見開き、秘書に至っては身を乗り出すように池田さんに詰め寄った。
「何をおっしゃっているのですか。なんて失礼な物言い。帰るのはあなたの方です。この方は。」
秘書の言葉を聞いて、俺は無意識のうちに口を開いていた。
「浜中さん、行っちゃだめです。」
言った直後、自分の失態に気づいて慌てて口を押さえる。秘書の浜中さんも「思わず」といった様子で口を閉じた。しかしもう遅かった。担当者と池田さんの顔を見ると、何が起こったのか分からないといった表情で、なかったことにできない状況だった。
浜中さんと俺がしばらく「あちゃー」といった顔で目配せをし合っていると、池田さんが口を開いた。
「おい、こちらの方とは知り合いなのか?」
浜中さんの方を指さして言う。どうしようもないことは分かっていたが、なるべく気をはぐらかそうとしていると、それを見かねたのか社長が答えた。
「君の部下のはじめは、俺の甥だ。秘書の浜中とも、はじめが小さい時から何度も顔を合わせている。」
その言葉に担当者と池田さんは驚き、さらに目を見開いて固まってしまった。今の営業部でも前の工場でも秘密にしていたが、俺は得意先の社長の甥なのだ。社長は俺の母の弟に当たる人だ。そして実を言うと、本社に移動になったのもおじさんが影響していた。
おじさんは結婚しているが子供に恵まれなかった。会社の後継をどうするか考えた時に白羽の矢が立ったのが、得意先の子会社の工場で働いていた俺だった。おじさんから後継にしたいと伝えられたのが半年前。俺も小さい頃からお世話になっているおじさんの気持ちに応えたかったので、その提案を受け入れることにした。そしておじさんが工場の社長に、会社経営をしていくにあたってビジネスの勉強と経験を積ませたいと直談判し、それが叶って今ここにいる。
まあ、上司が上司だったため、まだ十分な勉強はできていない。今回の正談への同行を命令した部長は俺の素性を知らない。これは本当の偶然だったが、おじさんは俺が行くと知って、俺の仕事ぶりを見るために半ば強引に正談へ参加してくれていた。その話を聞いた時、中学の授業参観を思い出して気恥ずかしい気持ちになる反面、おじさんは俺に会社を任せられるか見極めているのだと思うと、身が引き締まる思いもした。おじさんが部屋に入ってきた時に緊張したのは、そのせいでもある。
「おい、上司からそういう風に思われていたなんてな。そんな人物がいるのを知っていたら、初めの配属も考え直したんだが。君は営業部の池田と言ったな。覚えておこう。」
そう言っておじさんは笑みを消し、鋭い眼光で池田さんを見つめた。その視線に耐えられず、池田さんは慌てて頭を下げる。
「も、申し訳ございません。社長の甥御さんとは知らなかったのです。大変失礼いたしました。」
「ほう。君は人の立場で一百八十度態度を変えるのかい? それに、頭を下げるべき相手は私ではないと思うのだがな。」
池田さんの謝罪はおじさんに取り合ってもらえず、むしろ追い打ちをかけるように言われて言葉を失う。やがて恐る恐る俺の方を振り向き、おじさんの角度から見えないのをいいことに、口を開き、唇を悔しさで震わせながら睨むような視線を向けてきた。俺はその表情に一瞬怯んだものの、怒られたり睨まれたりする理由はないと思い直し、すっと視線をおじさんの方へ向けた。
その姿を見てため息をついたおじさんは、担当者の肩を軽く叩き、池田さんを見ながらはっきりとした口調で言った。
「正談は中止だ。君のような人間がいる会社に、任せられることは何もない。帰ってくれ。」
「ですが、社長! 私たちは長く付き合ってきました。私に失礼があったことは認めます。ですが、竹内君に失礼なことを言ったからと正談を打ち切るのは軽率ではないでしょうか。」
おじさんの元に追いすがるようにして主張する池田さん。いつも部長にしているごまをするような笑みではなく、命乞いをするような必死さが見て取れる表情だった。俺への鬱憤が少しだけ晴れた気がする。しかしおじさんはその姿にうんざりしているようで、呆れた顔をして切り捨てた。
「話にならないな。君がこれまで築き上げた信頼を、自分で打ち砕いた自覚がないようだ。会社に帰って報告するといい。」
そう言って、おじさんは足早に会議室を去っていった。
池田さんはその姿を見送った後、慌てて俺に近づき、両肩を掴んでくる。
「おい、竹内。社長は君の叔父なんだろ? なら、もう一度俺が話ができるように取り付けてこいよ。まあ、できるだろ。」
「無理だと思いますよ。社長は道理を曲げない人です。俺の頼みだからと言って、甘くしてくれるような人ではありません。」
おじさんがあそこまで不快に思い、怒りをあらわにしたのは、平気で人を見下す池田さんの態度が原因だ。俺の頼みだからではない。きっと、縁戚関係のない他の誰かの立場でも、おじさんは同じことをしていただろう。そう言ってもなお言いすがってくる池田さんの手を、俺は肩から外した。
「俺にはどうすることもできません。」
はっきりと伝えると、池田さんはその場に膝をついてしまった。そんな彼をよそに、俺は担当者と浜中さんの方を向いて頭を下げた。
「お騒がせして申し訳ございませんでした。」
「竹内さん、大丈夫ですよ。少し驚いてしまいましたけどね。」
担当者はそう言って苦笑いを浮かべる。一方、浜中さんは手で口元を覆い、潤んだ目をしていた。
「私の方こそ申し訳ございません。つい、カッとなってしまい。まさか、あんな言い方をする方がいるとは……。」
「浜中さん、いいんですよ。ところで、なんでそんな涙目に?」
俺は戸惑いながら尋ねてみた。
「こんなに小さかったはじめ君が、こんなにしっかりとされた姿を見て……。嬉しくなって。長く社長に仕えていますが、こんなに嬉しいことはありません。きっと社長もお喜びになるでしょう。」
感情が爆発したのか、そのまま話し続けようとする浜中さんに待ったをかけた。
「浜中さん、嬉しいですが、ここでは恥ずかしいのでやめてください。それに、相談もこんな形になってしまったわけですし、私たちがここに長居しても迷惑です。失礼させていただきますね。」
まだ感動し続ける浜中さんをなだめ、担当者に挨拶して会議室を出る。池田さんは力なく項垂れていたので、俺は腕を引っ張って無理やり得意先を後にした。
本社に戻ると、その足で部長のところへ向かった。道中、俺が池田さんの腕を引っ張る様子を、社員たちが興味半分・怖さ半分でじろじろと見てくる。正談に行く前の池田さんとのあまりの変わりように驚いた部長が、何があったのか聞いてくる。
「ど、どうしたのかい。君。なんでそんなボロボロなんだ。それに、正談はもう終わったのか? もっと時間がかかると思っていたのだが。」
そう言われても反応を返さない池田さんの代わりに、俺が口を開いた。
「部長、本日の正談なのですが……。あの正談の場で何があったのか、お話しします。」
俺は自分の素性を隠しつつ、一部始終を打ち明けた。そして正談が破綻し、今後おそらく取引に支障が出ることを伝えると、部長は目を見開き、声を張り上げた。
「池田君! なんてことをしてくれたんだ!」
そのまま池田さんは別室に連れて行かれ、その日は彼の姿を見ることはなかった。どうやら自宅謹慎を命じられ、こっそり帰ってしまったらしい。
その後、池田さんが出社できない状況の中で、社員たちに聞き取り調査が行われた。そこでこれまでの数々の悪業が明るみに出たらしい。もちろん俺も、ごまかすことなくはっきりと伝えた。会社は池田さんを平社員に降格させ、営業部からも姿を消させた。いわゆる窓際部署へ移動させられたと聞いている。そして、さらにその一ヶ月後、彼は自ら退職を申し出たそうだ。会社内で池田さんの悪業と正談が破綻したことは有名になり、居づらくなったことで辞めたんだろうと思う。
池田さんが辞めたのと同じ頃、あの得意先から「担当者を変更するのであれば、正談をやり直してもいい」と部長に連絡があったようだ。
そして今、俺は部長に呼ばれている。
「竹内君、池田君の件は本当に申し訳なかった。」
「いえ、部長が謝ることではありません。」
「そう言ってくれて、本当に助かるよ。それで、君を呼んだ理由なんだが。あの得意先から担当者を変えてくれと連絡があったのは知っているね。私は君に任せたいと思っているんだ。」
「さすがに、私には荷が重いです。」
俺に白羽の矢が立ったが、あの優しい担当者に俺の素性がバレているので、頑張って断る。向こうもやりにくいだろうし、俺自身、自分の実力で勝負したい。
「そうか。確かに君も気まずいだろうな。分かった。他の人に任せるよ。でも、今後君に任せたい仕事も出てくる。その時は引き受けて欲しい。いいか?」
「もちろんです。期待に応えられるよう、頑張ります。」
その言葉に部長はにこりと笑い、俺は部長室を後にする。自分の席に着き、胸を撫で下ろして深呼吸する。部長も分かってくれたようでよかった。せっかくの経験を積む機会だったが、自分の力で勝負したいのも本当だ。いつまで素性を隠していられるかは分からないが、バレるまでは知識と経験を身につけ、自分の力がどこまで通用するのか試してみたい。それまでは、このスリルを楽しみながらここで働いていこう。
同僚たちにバレないように口元が緩まないよう注意しながら、俺はパソコンに向き直った。
