義母から「今から切るの?気が利かないわね」と言われた瞬間、私は笑顔を作るので精一杯だった。九月の終わり、毎年恒例の義実家でのバーベキュー。準備も買い出しも片付けも全部私。夫は義父と酒を飲み、義母は焼けた肉を一人で食べ、私の小皿は「空だと思って捨てた」と。夫に愚痴れば「野菜を切って焼くだけだろ、簡単だろ」と吐き捨てられた。でも数週間後、私はある決断をした。息子を実家に預け、二人だけで義実家へ向…

義母から「今から切るの?気が利かないわね」と言われた瞬間、私は笑顔を作るので精一杯だった。九月の終わり、毎年恒例の義実家でのバーベキュー。準備も買い出しも片付けも全部私。夫は義父と酒を飲み、義母は焼けた肉を一人で食べ、私の小皿は「空だと思って捨てた」と。夫に愚痴れば「野菜を切って焼くだけだろ、簡単だろ」と吐き捨てられた。でも数週間後、私はある決断をした。息子を実家に預け、二人だけで義実家へ向...

夏休みが終わり、九月の終わりになると、あの季節がやってくる。子供も大人も楽しめるバーベキューシーズンだ。いい天気の下でお酒を飲みながらお肉を食べる。私だって昔からあの時間は好きだった。でも準備や片付け、買い出しに野菜のカット、そして誰かが肉を焼かなくてはならない。楽しい反面、大変でもあることは皆さんもご存知だろう。

「みんなでバーベキューやらない?うちの庭でやろうよ」

そう誘ってくる人に限って、何もしない。もちろん全員がそうだとは言わない。でも、これは私の母の話だ。

私はエリカ。もうすぐ二十九歳になる専業主婦で、六歳になる息子と三十五歳の夫がいる。夫とは学生時代からの付き合いで、大学を卒業すると同時に結婚し、翌年には息子を授かった。夫の両親は息子をそれはもう可愛がってくれる。そして、とにかくイベントごとが大好きなのだ。

年末年始やクリスマスはもちろんのこと、これからの時期に頻繁に開催されるのがバーベキュー。私はこの時期が毎年苦痛で仕方がなかった。義実家は無駄に庭が広く、やたらとバーベキューをやりたがる。

かと言って、バーベキュー道具を持っているわけでもない。やると決まったら、我が家から道具一式を準備しなくてはならない。それだけではない。食材の準備もすべて我が家がやるのが決まりだ。もちろん料理の下準備や肉を焼くのも、嫁である私の仕事。義家が用意してくれているのは、バーベキューの場所とドリンクだけ。ドリンクと言っても、夫の両親が好きなお酒と、息子が好きなジュースだけ。私が飲むものは用意されておらず、自分で買っていくか、息子のジュースを一緒に飲むことが多かった。

そして夫は義父とお酒を飲むため、車の運転はいつも私だ。だからお酒は飲みたくても飲めない。それがまた腹立たしいポイントでもある。義実家までが遠く、車でも二時間くらいかかるから、行くまでも大変なのだ。

今年もバーベキューシーズンに突入し、早速義母からお誘いの連絡が夫に入った。夫は私に確認せず、独断で承諾をする。予定があったとしてもお構いなしだ。息子にもすぐ伝えてしまうので、息子は大喜び。そんな光景を見てしまうと、私が断れるはずがなかった。

「週末、晴れますように」

二人でテルテル坊主まで作り始めていた。そしてバーベキュー開催の週末。いつも通りすべて準備をして義実家へ向かう。前日まで雨が降ることを期待していたが、最悪なことに晴れだ。義母は晴れ女なのだろうか。それともテルテル坊主の効果なのだろうか。私はため息をついた。

バーベキューの準備をして、私は食材を焼く下準備を始めた。野菜を切っていると、義母が言った。

「今から切るの?家で切ってくればすぐ焼けるのに。気が利かないわね」

早速嫌味を言われたが、私は無視をして準備を続ける。そしていざ肉を焼き始めると、待ってましたと言わんばかりに義母が近寄ってきた。

「あら、いい匂いだわ。もうこれ焼けたから食べていいわよね」

お腹を空かせて隣で騒ぐ息子を差し置いて、肉をごっそり取っていき、一人で食べ始める。もちろん「ありがとう」などという感謝の言葉はない。私は急いで次の肉を焼いて、息子に食べさせた。

「おいしい」

笑顔で食べる息子を見ると、私も笑顔になれた。とはいえ、ずっと息子を見ながら焼き続けることは難しい。

「あなた、ちょっと見ててくれない?私、焼くので忙しいのよ」

「え?お酒飲んでるから無理だよ。お前が見ててくれよ」

「料理しながら見られるわけないでしょ。なら、あなたがお肉焼いてくれる?」

私が強く言うと、今度は義母が口を挟んだ。

「料理を夫に任せるなんてありえないわよ」

その光景を見ていた義父が気を遣って、息子と遊び始めてくれた。私は夫を睨むと、夫はすぐに目をそらしてまたお酒を飲み始める。

義母もお腹がいっぱいになり、お肉への箸が止まった。そうすると、やっと私がお肉を食べられるはずなのだが、置いてあったはずの私の小皿とお箸が見当たらない。どこを探してもないので義母に聞くと、

「あのお皿、あなたのだったの?空だと思ってさっき捨てちゃったわ」

という義母の顔を見て、私は思った。これはわざとに違いない。私に嫌がらせをしているんだ。

「なら、夫からお皿借りるので大丈夫です。お構いなく」

私は義母にそう言って、夫のお皿を奪ってお肉を食べようとした。だが、その頃にはお肉はほとんど残っておらず、残っているのは誰も食べない冷めた野菜ばかり。もちろん冷めたお肉や野菜が美味しいはずもなく、私はそのまま片付けを始めた。

皿洗いを終えて、次は机の上の片付けだ。飲み終えた缶やお菓子のゴミで溢れている。義母が何もせずにぼーっと座っていたので、私が言った。

「お母さん、二人でやる方が早いですし、一緒にさっさと片付けちゃいませんか」

「なんでよ。気づいたあなたが片付けるのが普通じゃない?」

そう言って義母は家の中に入ってしまった。

「その言葉、しっかり覚えておけよ」

私は小声で言った。そして一人で片付け始める。そのやり取りを見ていた義父が謝ってきた。

「ごめんね」

義父は物静かで少し気が弱く、気の強い義母にはいつも頭が上がらない。でも気にかけてくれたことが嬉しくて、私は笑顔で答えた。

「大丈夫ですよ」

やっと片付けが終わり、次は家へ帰る準備だ。もちろん運転は私。夫はお酒が入って上機嫌で助手席に乗り込んだ。私はずっと立ちっぱなしで焼いたり片付けをしたりして、体はへとへとだ。早く帰ってお風呂に入って寝たい。そんな私の横で、夫は眠たそうにしている。それに腹が立ち、私は愚痴を吐き出した。

「いつも準備も片付けも私だけなのって、おかしくない?」

「エリカが最初に気づいたんだったら、気づいた人がやるべきなんじゃないの?終わった後に騒ぐなよ。その時に言えよ。野菜を切って焼くだけだろ。あんなの簡単だろ」

夫は吐き捨てるように言ってきた。

「簡単なわけないじゃない。ありがとうとか、お疲れ様とかも言えないの?」

そんな私の言葉を無視して、夫は鼻歌を歌い出す。その態度に怒りが込み上げてきたが、私はぐっと耐えた。

数週間後、また義母からバーベキューのお誘いが入った。いつも通り予定を確認せずに承諾をする夫。今回は理由をつけて息子を私の実家へ預け、二人だけで義実家へ向かった。あることを決行したかったからだ。

義母は大好きな孫がいないと分かると不機嫌になった。だが、いつも通りバーベキューの準備をして、さあ始めようという雰囲気になった時、私は座ってお酒を飲み始める。そんな私の行動を見て、義母と夫が近寄ってきた。

「ねえ、お肉焼かないの?早く焼いてよ」

二人で言ってきたが、私は首をかしげて答えた。

「あれ?気づいた人がやればいいんですよね。前回、二人ともがそう言ってたことですよ。お肉焼いてないと気づいたなら、自分でやってください」

「おい、野菜も切ってないじゃないか。早く切ってくれよ」

夫が言うが、私は笑顔のままだ。

「野菜を切ることなんて簡単なことだって言ってたわよね。なら自分でやればいいんじゃない?簡単なんでしょ」

そう言うと、夫は危なっかしい手つきで野菜を切り始めた。こんなんじゃ火が通らないよ、というくらいの厚みで切っている。まあ、私には関係ない。私は自分用に買ってきた大好きなお酒とおつまみだけで、今回のバーベキューを堪能するつもりでいたからだ。義母は私を睨みながらずっとぐちぐち言っているのが聞こえていたが、もちろん私は片付けにも一切手をつけなかった。

「あなた、片付けまでしない気なの?」

義母が声を荒げて言ってきた。

「お母さん、片付けしなきゃと気づいてるなら、やってくださればいいんですよ。私に言いましたよね。気づいた人がやればいいのよって。私、気が利かないので片付けに気づきませんでした。先に気づいたのはお母さんですもんね」

私は笑顔で答えた。

「あなた、生意気ね。いい加減にしなさいよ」

そう言って義母が私に空き缶を投げつけてきた。その時だ。

「こら!何をしてる?」

振り返ると、義父が立っていた。

「今まで文句も言わずやってくれてたんだから。今度からは、お前が一人で全部やりなさい」

義母は、普段全く反抗しない義父が声を荒げたことにびっくりしている様子だった。

「これ以上、エリカちゃんに嫌味を言うようなら、俺が許さないぞ。すぐに家から追い出してやるからな」

義父は義母に追い打ちをかけた。義母は少し不満ありげな顔をしていたが、しぶしぶと片付けをやり始める。私は義父にお礼を言った。

「これくらいしか俺にはできなくて。怒るのに慣れてなくて、申し訳ないね」

義父は照れ笑いをしていた。

「全然です。すごく嬉しいです。助かりました」

義母の片付けもやっと終わり、家へ帰る準備を始めると、夫が騒ぎ出した。

「お前がお酒飲んだから、車で帰れないじゃないか。俺、明日仕事なのにどうするんだよ」

「私の父と母が、息子連れて迎えに来てくれるから大丈夫よ。あ、でもごめんなさい。四人乗りの車で、チャイルドシートもあるし、あなたは乗れないから、気をつけて帰ってね」

私は夫を置いて車に乗り込み、一人先に帰宅した。夫は何か叫んでいたが、無視した。それもそのはず。義実家は駅からも遠く、田舎町だ。バスと電車を乗り継いでも二時間以上はかかるだろう。義母も義父もお酒を飲んでいたから、車は出せない。

「いつも助手席で楽して帰ってたんだから、今日は自分の足で帰ってください」

それが私の仕返しだった。

家に帰ると、息子は私の両親と遊園地に行ってきたようで、楽しそうにいろいろ報告をしてくれた。その話が終わると、今日買ってもらったぬいぐるみを抱きしめたまま、息子は寝てしまった。今回、私の両親には前もって話した上で協力してもらい、作戦を決行したのだった。

「これで二人とも反省してくれるといいわね」

母がそう言っていた。その夜遅くに帰宅した夫は疲れ果てていたが、今回のことで頭を冷やしてくれたのだろう。今までのことを謝ってきたのだ。私は許したが、今後は義実家でのバーベキューやイベントごとには参加しないと断言してやると、夫はしぶしぶ承諾した。

それ以来、一切義母からのバーベキューのお誘いは来なくなった。だが、義母はしばらく私の愚痴を言っていたそうで、それを聞いた義父が激怒したらしい。「その性格を直さないと離婚する」とまで言ってくれたようで、それから義母は人が変わったように大人しくなったのだとか。一見義母の方が強く見えていたが、普段優しい義父の方が、案外強いのかもしれない。

夫も心を入れ替えてくれて、それからは料理の手伝いをしてくれるようになった。たまに家族三人だけでバーベキューをしている。もちろんお肉も焼いてくれるようになり、私はお酒を飲みながらお肉を堪能することができるようになった。息子と遊びながらするバーベキューは、とても幸せだ。

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