中学時代に私を不登校に追い込んだ男が、十数年ぶりに目の前に現れて言い放った言葉は、「お前みたいなのを招待した奴、誰だ?…

中学時代に私を不登校に追い込んだ男が、十数年ぶりに目の前に現れて言い放った言葉は、「お前みたいなのを招待した奴、誰だ?...

「こんなところで何してるんだ? ここはエリートの俺たちが来る懇親会だぞ。それにしてもお前、相変わらず貧乏臭いな。」

ある企業に招かれた懇親会で、僕は十数年ぶりに意外な人物と再会した。それは決して嬉しい再会ではなく、声をかけられてもすぐに反応できないほどだった。彼がしつこくて陰湿なのは中学時代に嫌というほど思い知っている。

「お前みたいなのを招待するなんて頭おかしいんじゃないか? 誰だよ、きっちり処分してやらないとな。」

皮肉な笑い方は相変わらずだった。しかし、僕を招待したのが誰かを知ったら、彼はきっと笑っていられないだろう。

僕の名前は山口タケシ。デザイナー兼イラストレーターとして働いている。物心ついた時から絵を描くことが好きだった。今はこうして好きなことを仕事にできているが、これまで全てがうまくいったわけではない。勉強も苦手、運動も苦手。本当に絵を描くことしか脳がないのが子供の頃の僕だった。

休み時間にサッカーや鬼ごっこをしている男子たちに比べて、教室で絵を描いている僕は「女みたいだ」と馬鹿にされ、わざと邪魔をされたり、笑いものにされたりと、同級生から随分嫌がらせを受けた。大人しくて言い返せない僕への嫌がらせは長く続き、中でも一番ひどかったのは中学時代だった。

クラスのリーダーである安藤は、頭が良くて運動も得意で、誰よりも目立つことが大好きだった。他の誰かが目立とうものなら、すぐに馬鹿にしたり悪口を広めたりして、自分より目立つことを阻止した。そのくせ先生や先輩にはかわいがられる。ある意味、リーダーになる才能があった。周囲はそんなリーダーに従うことでトラブルを避けていた。僕もそんな風に振る舞う同級生の一人に過ぎなかった。

ある地域主催の展示会で、僕の絵が賞を取ったことがあった。全体朝礼で校長先生に呼ばれ、学校全体から拍手をもらった時は、僕も心から誇らしく嬉しい気持ちになった。しかし、この表彰のせいで安藤が、今まで気にも留めなかった僕の存在を認識してしまったのだった。

「山口君の絵が、この度、絵画部門で最優秀賞を受賞しました。みんな、拍手。」

教室に戻っても祝福ムードで、先生も喜んでくれた。しかし、そんな僕を見て安藤は気に入らない様子で手を挙げた。

「先生、何がすごいんですか?」

リーダーの発言に、クラス中が凍りついた。先生は「最優秀賞は喜ばしいことだ」とか、僕の受賞した絵をわざわざ見せて「素敵な絵でしょ」とフォローしてくれたが、教室が凍りついたことで安藤の狙いは成功していた。彼が気に入らない絵を褒めてはいけないのだ。それ以降、隣の席の子は僕と目を合わせなくなったし、誰も僕に話しかけなくなった。

しばらくそんな状態が続いても、先生や親には相談できなかった。なぜなら彼は大人に好かれる術を知っている優等生だったからだ。暗くて口下手な僕が何か言ったところで、どうにもならない。教室ではいつの間にか一人で過ごすことが多くなった。今までも一人で絵を描いて過ごしていたことに変わりはないが、自分の意思で一人で過ごすことと、周囲から一人にされることでは精神的な辛さが全く違っていた。

「あの賞を取らなければよかったんだ。」

そんな考えが浮かんだ時は、自分の絵を否定してしまったようで悲しくなった。そのうち僕は中学に行くことが嫌になり、休むことが次第に増えて、ついには不登校になった。

三年生になっても、僕はただ部屋の天井を見つめ、このままこの部屋を出ずに好きな絵を描いて暮らすにはどうすればいいかということだけを毎日考えて過ごし、高校進学のことなど考える余裕もなかった。そんな風に過ごしている息子を怒るでもなく、温かく受け入れてくれた両親の気持ちを考えると、今でも胸が痛む。

「タケシ。高校進学のことなんだが、こんな学校があるんだけど…どうだろう。」

両親から芸術系の専門学校への進学を提案され、思い切って進学を決めたことは、振り返ってみても正しい選択だったと思う。気持ちを新たに専門学校へ通った僕は、徐々に自信を取り戻していった。学校には絵や芸術に関心がある人たちが集まり、男子生徒ももちろんいて、すぐに友達ができた。中学までの暗い毎日を思うと、天国のような環境がそこにはあった。選択授業でデザインを選び、専門的なことを学ぶことで学習意欲が大きく変化した。

「あなた、デザイン科に来てから見違えるようにセンスが良くなっていくわね。期待してるわよ。」

講師にもそんな風に言ってもらえることが増え、自分の絵やデザインをもっとみんなに見てもらいたいと思うようになった。学園祭では毎年学校が主催する賞が行われ、学生たちの作品に触れ、自分にない発想やデザイン、色遣いに刺激を受けた。最終学年になる頃には、僕も周囲を驚かせるような作品を発表して最優秀作品に選ばれたこともある。その後も留学をしたり、個人事務所を手伝ったりと、がむしゃらに色々な経験を積んできた。

こうしてファッション業界を始めとするデザインの世界に携わってきた僕が、デザイナーとして仕事をするようになってから、気づけば二十年余りが経った。その間にも若手の新進デザイナーが次々と登場する中、若者に追いつかれないように常にアンテナを張り、自己のアップデートは欠かせない。そして今日は、取引先のとある企業の懇親会に招かれ、参加することになった。

懇親会と言っても大企業が主催しているだけあって、高級ホテルの会場で行われていた。受付を済ませて会場に入ると、まるで上質なパーティーといった雰囲気で戸惑った。このような派手な場所だと知っていたら来なかったのに、と僕はすでに滞在二分で後悔していた。慣れないスーツを着てきたおかげで外見的にはいくらか格好はついているが、まるで借りてきた猫のように静かに壁と一体化するしかなかった。あちこちで上がる歓声や笑い声を聞きながら、華やかな人たちを眺めた。僕は今後もずっとあんな風にはなれない人生なのだろうと、密かに思う。

「あれ? もしかして、山口タケシ?」

その声に、いきなり現実に引き戻された。フルネームで呼ばれたことを不思議に思い、僕は返事をしようと声の方に向かう。よく見ると、男性は元同級生で、なおかつ僕に嫌がらせをしていたクラスのリーダー、安藤だと分かった。まさかこんなところで会うとは思ってもいなかった上、突然現れた嫌いな奴に僕は一瞬面食らってしまった。

「相変わらず貧乏臭いのは変わってねえな。お前、今、何やってる人? スーツが馴染んで見えないけど、ちゃんとした会社で働けてるのか。」

優しい言葉遣いをしながらも、確実にバカにしている態度は昔と一つも変わっていなくて、僕は呆れつつも、思い出したくもない嫌な記憶が頭の中に蘇えるようで、必死に思考を停止させた。

「どうも。それより、なんでここにお前がいるんだよ。ここに来ていいのはちゃんと招待された人間だけなの? 分かってるのか?」

「はあ…」

僕は曖昧な返事をしてこの場を逃れようと思っていたが、安藤はなかなかしつこく絡みついてくる。嫌がらせを何度も繰り返すようなしつこい男が安藤だったと、思い出したくもない思い出の一端が蘇ってきてうんざりした。

「俺、この懇親会の主催企業の課長なんだよ。だから招待客は把握してるわけ。でも、その中にお前の名前なかったと思うんだけど。もしかして、勝手に入っちゃった? ちょっと、警備員さん!」

冗談のつもりか、からかうように安藤が警備員を呼ぼうとする。周囲もその様子が異様に映ったようで、少しざわつき始めた。

「やめてくれよ。ちゃんと招待されたんだ。」

中学から数十年経った今でも、安藤に強く言えない自分がもどかしい。

「今、フリーランスで君の会社と仕事させてもらってるんだ。だからちゃんと招待されてここに来た。間違いないよ。」

「はあ? 俺たちの仕事にお前も関わってるって言いたいの? どうせ下っ端の仕事だろ。そんなの誰でもできる仕事なのに、『大企業と仕事してます』なんて言うんじゃねえよ。」

そう言って安藤は僕の頭をこづいた。

「大体、お前みたいなのを招待した奴、誰? そいつ、マジで使えねえな。処分だな。処分。俺がお前と知り合いだって思われるのも恥ずかしいわ。で、どの部署で仕事してんの? 今後はお前に仕事を振らないように手配するわ。」

「そう。分かった。」

僕がそう言ったのと同じタイミングで、一人の年配男性が慌てた様子でやってきた。

「山口さん! 大変申し訳ありません! うちの社員が大変失礼な態度を取ってしまって。」

その男性は、このパーティーを主催している会社の社長である石川社長だった。社長は僕と安藤の会話を聞いていたらしく、目の前で深々と頭を下げた。その様子を安藤は戸惑ったように見ている。安藤は、どうして社長がこんなにも慌てて詫びているのか分からない様子で眉を寄せていた。

「社長、一体どうしたんですか?」

「安藤君、もう少し早くに止めるべきだったな。」

「どういうことですか?」

社長は大きなため息をついた。

「君が『処分してやろう』というのは、私のことかね。」

「え? 何のことですか?」

「この方を懇親会に招待したのは、この私だ。この会社の設立以来、専属で担当してもらっている敏腕デザイナーのことを、知らないわけではないだろう。」

「え? もちろん知ってます。これが何か?」

「この方が、そのデザイナーだ。」

「こいつがデザイナー? え、冗談ですよね。」

安藤はにわかには信じられない様子で、半笑いのような気まずい笑みを浮かべて社長を見た。

「いい加減にしろ。お前ごときが軽口を叩いていい相手じゃない。」

社長が会場中に聞こえる声で安藤を一喝する。僕はと言うと、僕の正体を知った安藤がどんな風に慌てるのか少し興味があったため、二人を生温かく見守っていた。安藤の顔色は面白いくらいに赤くなったり白くなったり、大忙しのようだ。

安藤が招待リストの中に僕の名前を見つけられなかったのも無理はない。僕は中学時代まで嫌がらせを受けたトラウマから、目立つような活動はしていない。デザイナーやイラストレーターとして仕事をする時は、本名も顔も隠している。いわゆる覆面だ。ほとんど人前に姿を見せないため、この会社でも僕のことを知っているのは社長と一部の幹部クラスの社員だけだった。

社長に一喝され、みんなに注目された安藤は、青ざめた表情で僕の顔を一瞬睨みつけたかと思うと、ついにはその会場から逃げていってしまった。その情けない背中を、僕は不思議な気持ちで眺めていた。自信満々で人を見下す印象しかなかった安藤の背中が、今日はなんだか小さく見えた。

「大変申し訳ありません。社員教育がなっておりませんで。」

「石川社長、この会社に安藤が務めていることは初めて知りました。実は、僕にとっては大問題なんです。もうすぐ契約更新の時期ですよね。このことを踏まえて、改めて検討させていただきたいのですが。」

今度は石川社長の顔が緊張しているのが分かった。

「とは、どういうご関係なのでしょうか?」

「できれば、僕の人生に関わって欲しくない人物なんです。本当に個人的なことで申し訳ないのですが、彼とは色々ありまして。」

「そうでしたか。今後は山口さんとの仕事には安藤を一切関わらせません。なので、どうか今後も変わらずうちの会社とお付き合いいただけませんか?」

社長の熱意に押され、どうするべきか考えた僕はある提案を思いついた。

「それでは、今回の礼儀のない態度に対する彼の処分を決めてください。内容は社長にお任せします。この内容によって、今後の御社との関係を考えさせていただきます。」

「分かりました。後日、この件についてご連絡を差し上げます。」

「お願いします。では、僕はこれで失礼いたします。」

そうして僕は会場を後にした。

この日からしばらく経って、そろそろデザイナー契約について答えを出さなければいけないというギリギリのタイミングで、石川社長から連絡が入った。

「連絡が遅くなってしまい、大変申し訳ありません。」

社長の話によると、あの懇親会の後、安藤を社長室に呼び出し、降格処分を命じたのだという。しかし、その処分について全く納得しなかった安藤は、僕との契約を切ってくれと抗議したらしい。安藤は、自分の課長としての能力にかなり自信があったに違いない。

「どうでしたか? 新しいデザイナーは見つかりましたか?」

「とんでもない。私はあなたのデザインが気に入って、創業当初からお願いしてきたんです。あなたのお忙しいスケジュールを知らなければ、専属になって欲しいと願い出ています。」

「ありがとうございます。専属ですか? 確かに、今の僕のスケジュールでは難しいですね。そんな風に思っていただいていたとは知りませんでした。」

安藤の要求を飲むつもりはさらさらなかったが、安藤は降格処分を受け入れず、こちらもどうしたものかと困っていたんです。でも、意外なことが起こったんです。

「何かあったんですか?」

僕の問いに、石川社長が意味深な微笑みで続けた。

「私は安藤という男は仕事上ではそこそこ優秀だと思っていましたが、人間については恥ずかしながら理解していなかったんです。彼の社内での評判が、かなり悪かったことが分かったんです。」

社長と揉めているという噂は社内にすぐに広まった。すると、安藤をよく思わない社員たちが声を上げ始めたのだそうだ。社長に直接訴えてくる社員や、手紙で訴える社員が次々と、まだ在籍中の安藤の隙を見て報告に来るようになった。

「安藤さんは、気に入らない同僚や優秀な後輩がいると、達成不可能なノルマをわざと与えるようなやり方で追い詰めるんです。あれは完全に個人的な嫌がらせです。」

「安藤さんが追い詰めた社員は何人もいます。彼の下に着いた後輩のほとんどが精神を病んで、会社に来られなくなりました。表立ってはいませんが、安藤さんが原因だということはみんなが分かっていることです。」

中には現在進行形で嫌がらせをされているという匿名のメールも来るようになり、いよいよ事態は安藤の悪業を浮き彫りにしていった。僕が安藤のことを昔と変わっていないと思ったのは、あながち間違っていなかったのだ。この騒動をきっかけにして、正式に安藤を告発し訴えるという者も出てきたため、ついに安藤は自ら辞表を提出するはめになったという。

「きっかけを作ってしまった僕が言うのもなんですが、会社の方は大丈夫ですか? 安藤が辞めて業務に支障が出たり、反対する者もいたのではありませんか?」

「それが、以前よりも社内の雰囲気が良くなったんですよ。それに何の支障もなく業務も行われていますし、抗議する者や同情する者も、今のところ出てきていないようです。」

「そうでしたか。状況は分かりました。安藤がいないのでしたら、契約をお断りする理由はありません。では、改めて契約を更新させていただきます。これからもよろしくお願いします。」

「本当ですか? 安心しました。」

石川社長は心底ほっとしたように喜んでくれた。こうして僕は引き続き、石川社長の会社との契約を更新することになった。

僕にトラウマを植え付けた人間と、年を重ねた今になって対面することになるとは、神のいたずらだろうか。そんなことを思うような出来事だった。その後も僕は正体不明のデザイナーとして活動している。あの石川社長との専属契約はまだまだ先になりそうだ。僕のスケジュールは、数年先までいっぱいなのだから。

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