「お前、俺の荷物はどこにやったんだ?」夫が新居のリビングで顔を真っ赤にして怒鳴った瞬間、私は心の中で笑った。1週間前、彼は何の相談もなく「両親と同居する。断るなら離婚だ」と一方的に命令してきた。在宅ワークの私を飯使い扱いし、浮気までしていることを知りながら、彼は私が従順な妻だと思い込んでいる。私は平然と返した。「荷物なら全部、愛人の住所に送っておいたわよ。隠し子用のベビー服もね」夫の顔が一瞬…

「お前、俺の荷物はどこにやったんだ?」夫が新居のリビングで顔を真っ赤にして怒鳴った瞬間、私は心の中で笑った。1週間前、彼は何の相談もなく「両親と同居する。断るなら離婚だ」と一方的に命令してきた。在宅ワークの私を飯使い扱いし、浮気までしていることを知りながら、彼は私が従順な妻だと思い込んでいる。私は平然と返した。「荷物なら全部、愛人の住所に送っておいたわよ。隠し子用のベビー服もね」夫の顔が一瞬...

夫が義両親を連れて新居にやってきた日、私はすべてを覚悟していた。

「1週間で引っ越しの準備をしろ。両親と一緒に住むことにした。断るなら離婚だ」

在宅ワークをしていた私に、夫のタクトはそう一方的に告げた。初耳の話だったが、彼はすでに決定事項として私に伝えてきた。義両親も言いくるめてあるのだろう。

私は平静を装って頷いた。

「わかったわ。1週間あれば十分よ」

夫は私が従順だと満足そうに笑い、出張へと向かった。彼は私が何も知らないと思っている。だが、私はすべて知っていた。夫の浮気も、愛人との間に隠し子がいることも。そして、彼が私をどれだけ蔑ろにしてきたかも。

1週間後、義両親が新居を訪れた。私は先に引っ越しを済ませ、丁寧に掃除をし、家具もカーテンも義母の好みに合わせて用意した。玄関をくぐると、義母は嬉しそうに目を細めた。

「新しい家は気持ちいいわね」

リビングに通すと、義父が紙袋を差し出した。

「先日、被害旅行に行ってきたんだ。お土産だよ」

高級そうな和菓子が入っていた。私は「タクトさんが帰ってきたら出しますね」と告げ、お茶だけを淹れた。

義両親はソファに腰をかけ、同居を提案してくれてありがとうと礼を言った。私が同居を持ちかけたと思っているようだ。私はあえて否定せず、家の中を案内した。共有スペースと義両親の部屋だけの短い案内だ。2階には夫婦の寝室と子供部屋がある。将来を想像して喜ぶ義両親を見て、少しだけ心が痛んだ。2階の子供部屋を使う未来は来ないだろう。

インターホンが鳴り、夫が帰ってきた。出迎えると、夫は無表情のまま玄関を上がり、廊下に置かれたダンボールに目をやった。リビングの隣の洋室のドアを開けると、一瞬で不機嫌になった。

「おい、まだ片付けが終わっていないじゃないか。俺が帰るまでにやっておけと言っただろう」

夫の部屋には机と椅子があるだけで、カーテンすらついていない。他の部屋と違って、明らかに生活できる状態ではなかった。もちろん、わざと私が手をつけなかったからだ。

「ここにあなたの荷物なんて何もないわよ」

「はあ? そういう冗談はいいからさっさとしろよ」

「そう言われてもね」

「てめえ、ふざけんな!」

夫が怒鳴ると、驚いた義両親がリビングから出てきた。義母が私をフォローしようとするが、夫の怒りは収まらない。私は平然ともう一度言った。

「ここにあなたの荷物はないの。あなたの荷物は全部、愛人のところに送っておいたわよ。もうここに帰るつもりがないのかと思って」

夫の顔色が瞬時に変わった。真っ赤だった顔が白くなる。その変わりように思わず笑ってしまった。夫は私を鋭く睨みつけるが、義両親の前で手を出すわけにはいかない。

「愛人ってどういうことなの? タクト」

義母に問い詰められ、夫は慌ててでたらめを並べる。

「それは清美の勘違いだ。会社の飲み会で一緒だった同僚を勝手に勘違いしたんだ」

まだごまかせると思っているようだ。私は追い打ちをかけるため、1つの証拠を取り出した。宅配便の送り状だ。夫はそれをひったくると、宛名を見て目を見開いた。間違いなく愛人の名前だったからだ。さらに品名を見て、息を飲んだ。私が送ったのはベビー服だった。

「子供も生まれていたんだってね。知らなかったからお祝いが遅くなってごめんなさいね。1歳の誕生日祝いに女の子用を買っておいたわよ」

夫は口をパクパクさせるだけで何も言えない。義母が震える声で確認する。

「あんた、愛人だけでなく隠し子までいるの?」

私は夫が隠そうとしていることを義両親に伝えることにした。

「新居への引っ越しは1週間前にタクトさんから突然言われたことです。もちろんお2人との同居もその時に初めて聞きました。逆らったら離婚すると脅されました」

「そうだったの……つまり、タクトは妻である清美さんには何の相談もなく、勝手に私たちとの同居を決めたわけだな」

「お2人との同居は嫌ではありません。むしろ私も歓迎です。ただ、何も相談してくれなかったことが悲しかったのです」

夫は的外れなことを言い始めるが、義両親には届いていない。私はスマホを取り出し、録音データの再生ボタンを押した。数日前の夫との会話がリビングに響き渡る。

「こんなもの食えるか。作り直せよ」

「お前なんか養う価値もないんだ。ちゃんと飯使いとして役割を果たせよ。ただ飯食わすなんてないんだから。働け。在宅の仕事なんて高校生のバイト代よりも少ないんだ」

義両親は驚愕の表情で固まっている。私は別の音声ファイルを再生した。

「子供を産めない血管品の嫁。お前は存在価値ゼロだな」

義母は震える手で口元を覆い、涙を浮かべた。夫が日々私を飯使いのように扱い、いびっていたことが明らかになった。義両親は信じられないといった表情を浮かべ、私の訴えが真実だと理解してくれたようだ。

夫はようやく口を開いた。

「日頃のストレスをついお前にぶつけてしまっていた。すまなかった」

だが、浮気については認めようとしない。

「俺は浮気なんてしていない。これはお前が俺に仕返しするために仕組んだことじゃないのか」

私は事前に準備していた封筒を取り出し、テーブルに置いた。中には探偵事務所に依頼して撮影された、夫と浮気相手が密会している写真の束が入っていた。1年分の追跡結果だ。

写真を見た義両親は沈黙する。義父が問いかけた。

「浮気はしていないと言うなら、この女性は誰なんだ?」

私は今までの経緯を話した。1年ほど前から夫の態度に変化が現れ、家では私をこき使い、仕事を理由に家に帰ってこなくなった。出張だと言っていた日に会社に電話して確認すると、有給を取っていて出社していないと言われた。次の出張日に行動を調査すると、案の定、浮気相手と旅行に行っていた。探偵に依頼して調べてもらうと、相手はマッチングアプリで出会った若い女性で、その女性との間には隠し子までいた。

義父の怒りが爆発した。

「お前というやつは、清美さんをこき使うだけでなく、裏切ることが許されると思っているのか」

義母も涙を浮かべて言った。

「そうよ。清美さんはお嫁さんとしてよくやってくれているわ」

すると夫はため息をついて開き直った。

「仕方ないだろう。子供もできたんだから。どうせ清美は俺の子を産むことができないんだ。父さんも母さんも孫ができて本当は嬉しいんじゃないのか」

「なんてことを言うの?」

夫の言葉は止まらない。

「いびってやれば離婚したいと言い出すと思っていたのに。読みが渋いな。お前みたいな家事しかできない女は、俺に捨てられると生きていけないから必死なんだな」

夫は当然のように浮気相手と再婚するつもりだと宣言した。義父が激怒し、夫の襟首に掴みかかった。振り上げた拳を私が慌てて止める。

「タクトさんには何を言っても無駄です。お2人の気持ちもきっと理解できない。本気で向き合うだけ無駄ですよ」

義父は震えながら手を引っ込めると、宣言した。

「お前とは絶縁だ。今後2度と家の敷居をまたぐな」

夫は嬉しそうに離婚届を取り出した。

「気が変わらないうちに早くサインしてくれ。慰謝料でも何でも払ってやるよ。ただしこの家は俺名義だから出ていけよ。俺とリカと子供と家族3人で暮らすんだからな」

私は離婚届にサインをし、義両親と一緒に家を出た。2人は申し訳なさそうに謝ってくれたが、私は気にしていなかった。

翌日、夫から電話がかかってきた。着信履歴は鬼のような数だった。出ると、夫の泣きそうな声が聞こえてきた。

「助けてくれ。なんとかしてくれ」

昨日、夫はウキウキしながら愛人リカの家を訪ねた。だが、迎えたのはリカではなく、小柄な男性だった。その男に脅され、恐怖のあまり逃げ帰ってきたという。

私は冷静に伝えた。

「私がリカさんに助言したのよ。タクトとの関係は早めに切りなさいってね」

電話の向こうで、何かを落とす鈍い音が聞こえた。夫がスマホを取り落とした音だ。

実は、リカの本命はその小柄な男性で、隠し子も夫の子供ではなく、その男性の子供だった。リカは本命の男性との間に子供がいる状況で、タクトとは遊びで付き合っていたのだ。私はリカから直接聞いて知っていたが、夫にはあえて伝えなかった。

夫は震える声で問いかけた。

「お前、知っていたのか? なんで?」

「知っていたとしても、あなたに言う必要はないでしょう。全ては浮気される方が悪いし、騙される方が悪いんだから」

夫が以前私に言った言葉をそのまま返した。夫はもはや言葉を失っていた。

その後、夫はリカの彼氏から慰謝料を請求されるだけでなく、会社の女子社員との浮気も発覚。既婚者と知った上での不倫だったため、その女子社員とともに会社を首になった。夫は借金に苦しみ、リカの男から斡旋された仕事に手を出したらしいが、その後どうなったのかは知らない。

私は夫からの連絡先をブロックし、新たな人生を歩み始めた。在宅勤務から解放され、会社からは正社員として復帰を打診された。未来に希望を抱きつつ、これから自分の人生を自分らしく築いていこうと心に誓った。

数年後、私は縁あって再婚した。今度の夫は真剣に私と娘に向き合ってくれる。彼は過去に娘が必要とした父親の役割を放棄した元夫とは正反対の人物だ。私は娘と新しい夫で同じ未来を見据えている。過去の苦しみを乗り越え、今度こそ幸せな家庭を築くことを心に誓って。

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