「俊助君、逃がさないよ」 そう言って、45歳の伯母が俺の背後から抱きついてきたのは、彼女が家に泊まりに来た初日の夜のことだった。30歳の独身男の家に、突然泊まることになった綺麗な伯母。親戚だからと冷静を装ったが、彼女はどんどん距離を詰めてくる。「私のこと、好きにしていいよ」と言って、夜はまだ始まったばかりだと笑う。戸惑う俺に、彼女は衝撃の真実を明かし始めた。俺たちは親戚じゃなかった?…

「俊助君、逃がさないよ」 そう言って、45歳の伯母が俺の背後から抱きついてきたのは、彼女が家に泊まりに来た初日の夜のことだった。30歳の独身男の家に、突然泊まることになった綺麗な伯母。親戚だからと冷静を装ったが、彼女はどんどん距離を詰めてくる。「私のこと、好きにしていいよ」と言って、夜はまだ始まったばかりだと笑う。戸惑う俺に、彼女は衝撃の真実を明かし始めた。俺たちは親戚じゃなかった?...

母から突然電話がかかってきたのは、いつも通り静かな週末の夕方だった。30歳の独身、彼女いない歴30年の俺、前田俊助にとって、母のマシンガントークは昔から変わらない日常の一部だ。無口で大人しい俺の性格は、おそらくずっと母の話を聞いて育ったことが原因だろう。

「俊助、元気?」
「うん、まあ元気だよ」
「来週の3連休、何か予定ある?」
「いや、何もないけど」
「あんたも相変わらずね。実はちょっとお願いがあるの。トモ子がね、その連休を利用してそっちに旅行に行くんだって。だから俊助の家に泊めてあげて欲しいのよ。観光の案内もしてあげてね」

トモ子。母の妹で、俺のおばさんだ。45歳で母とは15歳も離れている。確かに小さい頃からよく家に遊びに来ていて、母とは本当に仲が良かった。だが、何年も会っていない。しかも俺の記憶にある彼女は、若くて綺麗で、まるで歳を感じさせない魅力的な女性だった。

「ちょっと待ってよ。俺の家に泊まるの? それはさすがに…」
「ああ、ちなみにもうトモ子には俊助の家に泊まれるって伝えてあるから。適当に理由をつけて断ろうとしても無駄よ。どうせ彼女もいないんでしょう? 将来彼女ができた時の練習だと思って、大人しく引き受けなさいよ」

母は俺の返事を待たずに、得意の早口でまくし立てる。練習って何だよ。正直、不安しかない。だが、断ったところで変わるまいと、俺は渋々承諾した。

「はあ、分かったよ」

気にしすぎだ。一応親戚だし、きっと大丈夫だろう。俺は自分にそう言い聞かせた。

3連休の前日、トモ子からメッセージが届いた。
「俊助君、明日から3日間よろしくね」
その短文を読んだだけで、なぜか変な緊張感が走る。

当日、最寄り駅まで迎えに行くと、遠くから明るい声が聞こえてきた。
「俊助君!」
彼女はこちらに向かって走ってきて、俺の記憶にある姿よりもさらに大人っぽく、綺麗になっていた。そして、あろうことか、そのまま俺に抱きついてきたのだ。

「ちょ、ちょっとトモちゃん!」
「超久しぶりだね! こんなに男前になっちゃって」
彼女は笑いながら俺の頭を撫でる。昔から変わらず、俺を子供扱いする。それは分かっているのに、彼女から香る柔らかな匂いに、俺の鼓動は速くなっていく。

「トモちゃん、恥ずかしいってば」
「ごめんごめん。あまりにも嬉しくてつい」

俺は彼女と一定の距離を保ちながら、荷物を置くために家へ戻った。その後は2人で散歩をし、カフェで休憩し、夕方には居酒屋で軽く飲んだ。俺はそこまで酔っていなかったが、トモ子はけっこう酔っているようだった。

「トモちゃん、大丈夫? 水飲む?」
俺が心配して声をかけると、彼女はニコッと笑って水を受け取り、一気に飲み干した。

「ああ、お風呂入らなきゃ。でももうちょっと酔いが覚めてから入るから、俊助君が先に入っててね」

俺は頷き、風呂場へ向かった。3日間、俺はちゃんと耐えられるだろうか。そんなことを考えながらシャワーを浴びていると、突然、風呂の扉がガラッと開いた。

「え?」

振り返ると、そこには裸のトモ子が立っていた。

「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて目を背ける俺に、彼女はけろっとした様子で言った。
「何恥ずかしがってるのよ。昔はこうやって一緒にお風呂入ったでしょ」
そう言いながら、湯船に入ってくる。昔と今じゃ全然違うだろう、と言っても、彼女は一切気にしていない様子で体を洗い始めた。

俺はできるだけ彼女を見ないようにして、早くこの場を脱出しようとした。だが、トモ子はそんな俺にぴったりとくっついてきた。

「俊助君、逃がさないよ」
「いや、逃してよ」
「だめよ」
「なんでだよ」
「俊助君が可愛いから」

どんな理由だよ。この状況、色々とまずいでしょう。確かに昔は仲が良かったけど、実家を出てからはほとんど会っていないし、今日が久しぶりの再会だ。親戚なのに、こんな距離感でいいわけがない。そう思っているのに、彼女が湯船に浸かっている姿を視界の端で捉えてしまう。親戚である以前に、俺は男だった。

「トモちゃん、俺なんかボーッとしてきたから、もう出るよ」
俺は強引に風呂場を抜け出した。

落ち着け、落ち着け、俺。俺たちはただの親戚で、年だって離れてる。俺のことなんて、男性として見てない。昔と何も変わっていないんだ。だが、体は正直で、心臓の高鳴りは収まらない。

そうだ。トモちゃんが出てくる前に寝てしまおう。そうすれば、気づいた頃には朝になっているはず。

俺は寝室のベッドに入り、必死に眠ろうとした。しばらくして、トモ子が寝室に入ってくる気配がする。俺は寝たふりを決め込んだ。

「あれ? 俊助君、もう寝ちゃったの?」

彼女の声が聞こえても、俺は微動だにしない。すると、今度は彼女が俺のベッドに入ってきて、背後からそっと抱きしめてきたのだ。

我慢の限界だった。俺は小さな声で言った。
「トモちゃん、布団はそっちだよ」

「やっぱり起きてたんだ」
「起きてるけど、もう寝るよ。だからトモちゃんも自分の布団に入って」

「一緒に寝たらいいじゃん」
「無理でしょ」
「どうして?」
「どうしてって、俺たちは親戚同士でしょ? それに俺はもう子供じゃないんだよ。トモちゃんみたいな綺麗な人がこんな近くにいたら、親戚でも我慢できなくなっちゃうから」

正直にそう伝えると、トモ子は少し黙ってから言った。
「そうだよね。俊助君ももう大人だよね」
「うん」
「じゃあ、3日間も泊めてもらうんだから、私も大人なお礼をしないとね」
「は?」

「私のこと、好きにしていいよ」

何を言っているんだ? 俺の困惑をよそに、彼女は楽しそうに笑う。俺の言っていることが全然伝わっていない。どうしたらいいんだ、と思っているうちに、彼女は無理やり顔を近づけて、俺にキスをした。

「夜はこれからだよ」
彼女は余裕の表情でそう言った。

だからだめだって。俺は拒否しつつも、体はすでに彼女を求めていた。彼女も俺の断りが本気じゃないことを見抜いているのだろう。黙って、もう一度キスをされた。そのキスがあまりに心地よくて、俺はつい受け入れてしまった。理性なんて、もう消えかけていた。

「私のオトナ、受け取ってくれる?」

俺はもう頷くことしかできなかった。女性との経験がない俺だったが、彼女が手取り足取りすべてを導いてくれた。気づけば、俺は心から癒されていた。冷静さを失って、ただ本能のままに彼女を求め、俺たちはどうしようもない関係に陥っていた。

終わった後も、俺は彼女を抱きしめたままだった。
「甘えん坊なのは今も変わってないのね。でも続きはまた明日」

そんなことを言われて、俺はモヤモヤしながら眠れないまま一夜を過ごした。

翌朝、2人で朝食を取るが、昨日のことばかりが頭をよぎり、俺は早く夜にならないかと思っていた。この日は一緒に観光を楽しんだ。本当にデートをしているようで、心が躍った。そして、その晩も前日同様、一緒に風呂に入り、当然のように体を重ねた。

「もう明日で終わりか」
トモちゃんがポツリと呟いた。
「そうだね。明日の夕方には帰らないといけないから、一緒に寝れるのは今日が最後だよ」
「なんか寂しくなるね」
「うん」

しばらく沈黙が流れ、俺は意を決して聞いた。
「私たち、親戚なのにこんなことになって良かったの?」

「やっぱり良くないよね。分かってたのに止められなかった。ごめんね」
彼女はそう言って、少し間を置いた。
「じゃあ、もし私が親戚じゃなかったら、俊助君はどう思う?」
「え?」

「実はね、私と俊助君のお母さんって、本当の姉妹じゃないんだ」

俺は言葉を失った。あれだけ仲の良い2人が、血の繋がりのない姉妹だった? 彼女は穏やかな表情で、ゆっくりと過去を語り始めた。

「私がお姉ちゃんと出会ったのは、私がまだ5歳の頃。私の家は母子家庭だったんだけど、母は本当にどうしようもない人だったの。家に彼氏を連れ込む時は、私を家の外に追い出してね。私は幼稚園にも通ってなくて、玄関先でずっと座ってた。家の中からは聞きたくない母の声が聞こえてくるから、耳を塞いでじっとしていたの」

「そんな時に、私に声をかけてくれたのがお姉ちゃん、俊助君のお母さんだったの。『こんなところで1人で何してるの?』って。私は『家に入れないから待ってる』って言ったら、『じゃあ、入れるようになるまでお姉ちゃんとおしゃべりしよう』って言ってくれて。その日から、お姉ちゃんは度々私のところに来てくれて、いつもたくさん話をしてくれたの」

「母は私を邪魔者にしか見てなかったし、あの男も一緒だった。ボロボロの服しか着せてもらえなかったし、ご飯だってまともに貰えなかった。だから、毎回私のためにお菓子を持ってきてくれるお姉ちゃんは、天使みたいな存在だった。お姉ちゃんがいてくれたから、私は生きてこられたんだと思う」

「でも、時間が経つにつれて家庭環境はさらに悪くなって、家にいること自体が嫌になった。そして私が9歳になった時、お姉ちゃんが結婚するって言ったの。私はお姉ちゃんが結婚したらもう会えなくなると思って、素直に祝福できなかった。それでもお姉ちゃんは、『私のことを忘れないし、見捨てない』って言ってくれた。『私のこと、可愛い妹だと思ってる』って」

トモ子の話によると、俺の母は彼女が外に追い出されているのを数年前から知っていたらしい。心配していたが、勇気がなくて声をかけられなかったのだという。ある日、母はとうとう彼女を助けることを決意した。学校にも友達がいなくて、家でも1人ぼっちだったトモ子にとって、母は唯一の味方だった。

「お姉ちゃんの旦那さんも事情を知っていたから、私にすごく親切にしてくれて、たくさん助けてくれたの」
そして、母が結婚するとすぐに妊娠して、俺が生まれた。

「俊助君は、ちっちゃくて可愛かったのを今でも覚えてるわ。私ね、俊助君に会うために何回もお姉ちゃんの家に行ったことがあるの。俊助君を抱っこすると、とっても温かくて。その温かさが忘れられなかったし、俊助君が特別な存在だってずっと思ってた」

そんな風に時間は流れ、トモ子は20歳になり、会社で働き始めた。しかし、その会社ではひどいパワハラやいじめに遭っていた。メンタルは極限状態だった。

「親からも嫌われてた私だから、やっぱりどこに行っても嫌われちゃうんだなって思ったよ」
「その時も私を助けてくれたのは、お姉ちゃんだけだった。私のことを心配してくれて、ずっと話を聞いてくれたの。『いじめなんて絶対に許せない』って、会社まで乗り込んできてくれたこともあったのよ」
その頃から、母は誰に会ってもトモ子のことを妹として紹介するようになった。

「だから、血が繋がってなければ戸籍だって一緒じゃないけど、私たちは姉妹なんだ」

俺は母のことを優しくて強い人間だと思っていたが、想像していた以上にかっこいい人だった。母のことが誇らしく思えた。

「親戚じゃないって知ってたから、俺のことをこんなに誘ってきたの?」
「まあ、それもあるけど」
トモ子は突然言葉をつまらせた。
「正直、お姉ちゃんから背中を押されたっていうのもあるんだ」
「え? 母さんから?」

「覚えてないと思うけど、俊助君はずっと私と結婚するって言ってたんだよ」
「え、そうなの?」
「その度に私は『できたらね』って適当に流してたんだけど、お姉ちゃんは本当にそうなったらいいのにって思ってたの。だって自分の息子と妹が2人揃って幸せになるなんて、そんなに嬉しいことはないでしょ」

実は母は、俺が30歳になっても独身だったら結婚して欲しいと、前からトモ子に相談していたらしい。今回の3連休も、母が仕組んだ計画だったのだ。

俺はこのお泊まり計画の黒幕が母だということを知って驚愕した。まさに、俺は母の思惑通りの術中にはまったわけだ。

「でも俺は後悔していないし、むしろ一緒に過ごしたこの2日間は本当に幸せだった。母とトモ子がいなかったら、俺は一生こんな経験はできなかったと思う」

2人には感謝しないといけない。

こうして2日目の夜が明け、最終日を迎えた。この日も観光をしたが、昨日と違う点は、俺たちはしっかりと手を繋いでいたことだ。本当に幸せな時間だったが、幸せだったがゆえに、あっという間に彼女が帰る時間になってしまった。

それでも俺たちは毎日連絡を取り合い、月に1回は会うようにした。そんな関係を続けて半年が過ぎた頃、俺は完全にトモ子のことが好きになっていた。そして、人生初の告白をすることにした。

経験したことがないくらい緊張して、恥ずかしかったが、トモ子は俺の告白を受け入れてくれた。俺たちは本当に付き合うようになったのだ。

しかし、しばらくの間、俺たちは母に黙っておくことにした。理由は簡単だ。先日の3連休の計画を勝手に決められた、その仕返しのためだ。

その後も交際は順調に進み、付き合ってから7ヶ月が経った頃、俺は彼女にプロポーズをすることにした。
「トモちゃん。小さい頃から知ってる人と結婚するって、なんだか変な気分だけど」
「俊助君となら、きっと幸せになれる。根拠なんてないけど、そうなれるって信じてるから。これからもよろしくね」

俺のプロポーズは見事に成功し、結婚に向けての準備を始めた。そして、やっとこのタイミングで母に俺たちの関係を告白した。

「え、そうなの? っていうか、あんたたち、わざと黙ってたでしょ!」
母は嬉しそうに驚いていたが、しばらくすると突然涙を流し始めた。

「トモ子、こんな未来が訪れるなんて想像してなかったわ。あんなに暗い表情だったトモ子が、今はこんなに幸せな顔してるんだもん。あの時声をかけてよかった」
「お姉ちゃん、私を今まで守ってきてくれて、本当にありがとう」
「当たり前でしょ。私はトモ子のことを妹以上に大切に思ってるんだから。だから、いつかトモ子にも幸せな家庭を築いて欲しいって。辛い過去になんか負けずに幸せになって欲しいって、ずっと思ってたのよ。しかも、その幸せにする相手が俊助だなんて、こんなに素敵なことはないよ」
「俊助はね、大人しいし、男らしくはないかもしれないけど、優しくて真っすぐな子なの。きっと2人なら幸せになれるよ。本当におめでとう」

母の言葉に、俺もトモ子も自然と涙していた。同時に、俺は今まで以上に彼女を幸せにしようと強く思った。

こうして俺たちは入籍し、本物の家族になった。それまでは遠距離だったため会う頻度も少なかったが、今ではずっと一緒にいられて幸せな日々を送っている。

気づけば結婚から7年が経った。今でも俺たちは、1日1日を大切に過ごしている。母は時々俺たちの家にやってきては、「仲良くやってるのか」「幸せなのか」としつこく聞いてくる。それだけ母は俺たちのことを大切に思ってくれているのだ。

今でも俺とトモ子の出会い方は特殊だと思うが、俺は彼女と結婚できて本当に幸せだ。母が幼い頃のトモ子を救ってくれたように、今度は俺が大人になった彼女を支えていく。彼女はもう一人じゃない。俺たちはこれからも穏やかに、自分たちのペースでゆったりと幸せに生きていこうと思う。

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