「旦那は鈴本組の若頭よ。あんたのチンピラなだけの夫とは次元が違う」そう言い放ったはるかさんが、私の顔に紅茶をかけたのは、昼下がりの公園だった。 半年の間、彼女は息子を近所の子どもたち全員に無視させ、私をママ友の輪から締め出していた。私はずっと黙って耐えてきた。夫の素性を隠して、この町で普通に生きていくために。…

「旦那は鈴本組の若頭よ。あんたのチンピラなだけの夫とは次元が違う」そう言い放ったはるかさんが、私の顔に紅茶をかけたのは、昼下がりの公園だった。 半年の間、彼女は息子を近所の子どもたち全員に無視させ、私をママ友の輪から締め出していた。私はずっと黙って耐えてきた。夫の素性を隠して、この町で普通に生きていくために。...

夫が誰か、私はその場で初めて理解した。はるかさんは私の顔に向かって紅茶をかけると、ニヤリと笑った。周りのママ友たちはさすがにやりすぎだと顔を曇らせている。びしょ濡れの顔を拭きながら、私は彼女を睨みつけた。

私は、自分と家族を傷つけたこの女に、想像を絶する地獄を見せてやりたいと思った。そして、その思いは天に届くことになる。

名前は高子。三十歳の専業主婦。二十歳年上の夫・誠と、小学二年生の息子・宗介と三人暮らしだ。誠が宗介の小学校入学を機にこの町へ引っ越してきた。近所には同学年の子が多く、母子ともすぐに仲良くなれた。特に地域のボスママ的存在であるはるかさんとは気が合い、どんどん親しくなっていった。

だが、もう半年ほどまともに会話をしていない。きっかけは書道の習い事だった。宗介に書道を習わせたいと思った私は、顔の広いはるかさんにいい教室を尋ねた。彼女は息子の孝太君が通う書道教室を紹介してくれた。宗介は熱心に通い、どんどん上達した。そして、学校の冬の書き初め展で特選を取ったのだ。

私は宗介と抱き合って大喜びし、盛大に祝った。初めて自分の力で勝ち取った証である賞状を部屋に飾った翌日、買い物帰りにはるかさんに会ったので、お礼も兼ねてその話をした。すると、はるかさんは「自慢するなんてうざい人」と言い放ち、それから挨拶を無視されるようになった。

私は自分が舞い上がりすぎて誤解を与えたのだと反省し、何度も謝ろうとした。だが、はるかさんは目も合わせてくれない。悩んだ末に他のママ友たちに相談すると、口を揃えて「はるかさんはプライドが高い人だから、しばらくそっとしておいた方がいい」と言われた。すぐに元に戻れるよ、と励ましてくれた彼女たちだったが、事態は一変する。

相談から一週間後、宗介がボロボロ涙を流して学校から帰ってきた。聞くと、近所の友達全員に「仲間に入れてあげない」と言われたらしい。理由を聞くと、お母さんたちがそう決めたからと謝られたそうだ。来る日も来る日も宗介は仲間に入れてもらえなかった。

担任に相談しようかと考えたが、学校ではみんなと仲良く過ごしているらしく、仲間外れにされるのは放課後だけだったので、私もどうすることもできなかった。いつかそのうち近所以外の気の合う友達を見つけられるだろうと、温かく見守ることにした。

夕方買い物帰りに、楽しそうに遊ぶ子供たちの姿を見るたび、なぜここに宗介がいないのかと胸が締めつけられた。一度公園ではるかさんたちがおしゃべりしている現場に駆け寄ったが、ママ友たちは私の姿に気づくとさっと逃げていった。そんな惨めな私を見て、はるかさんはニヤリと笑った。

半年近くが経った今日、最悪な事件が起きた。お昼頃、公園の前を通ると、はるかさんとママ友たちが立ち話をしていた。いつものように気づかぬふりをして通りすぎようとすると、はるかさんに呼び止められた。

「高子さん、あなたもこっちに来て一緒におしゃべりしましょうよ」

私は一瞬迷ったが、宗介のためだと覚悟を決めて輪の中へ入った。ママ友たちは気まずそうな顔をしている。

「誘ってくれてどうもありがとう。あなたが一人で寂しそうに歩いてたから、優しい私は声をかけずにはいられなかったのよね。みんな、誰かさんがいなくなってからすごく距離が近くなったのよ。なぜだかわかる?」

「さあ、なぜでしょう?」

「分かるわけないわよね。じゃあ教えてあげる。高子さんって、いつも自慢ばかりでつまらない人間だからよ。価値観も合わないし、一緒にいるとすごく疲れる。みんなもそう思うよね」

ママ友たちは揃ってはるかさんに同調した。

「そうだったんですね。じゃあもう話しかけないでもらっていいですか?」

「何よ、あなた。その態度、そういう開き直るところが大嫌いなのよ」

「私もはるかさんのこと好きじゃありません。親同士のいざこざに子供たちを巻き込むなんて、最低な人間だと思います」

「なんですって? 大体あなたの息子がみんなに嫌われて仲間外れにされているだけじゃないの?」

「いいえ、それはないです。だって学校ではみんな仲良く遊んでいますから。子供たちはお母さんの言いつけを忠実に守って従っているんです。まだ小学二年生の子供ですから、お母さんの言うことが全てなんですよ」

「孝太は宗介君とは学校でも一言も話していないって言ってたわ。宗介君が嘘ついてるんじゃないの?」

「みんなはどう? 無視してるはずですよ。ちゃんと子供に言い聞かせたから」

「ほら、やっぱり無視するように言い聞かせてるじゃないですか」

「あ、それは揚げ足取りしないで。ほら見てよみんな。高子さんって性格が歪んでるでしょ。私、本当にこの人に苦しめられてきたんだから、みんなも気をつけてよ」

「私のことが気に食わないなら、それは全然構いませんよ。でも、子供に無視を強要するなんて、お子さんたちがかわいそうじゃないですか? だって学校では宗介と仲良くしてくれてるってことは、はるかさんたちがしていることは間違っていることだと、子供心に分かっているんですよ。だからお母さんたちの目がない学校では、宗介と仲良くできてるんです。それが子供たちにとってどんな残酷なことか、わからないんですか?」

「はあ。先に見下した態度を取ってきたのは高子さんじゃない? それなのに自分が全て正しいって顔してるの、むかつくんだけどねえ。みんなはどう思う?」

「はるかさん、その『みんなはどう思う?』って聞くのやめてもらえません? 私ははるかさんに話しているんですよ」

「何よ、あなた。さっきから上から目線で偉そうに。そういう人を舐めた態度が許せないのよ。これは少し痛い目を見て分からせないといけないわね」

「痛い目を見て分からせるって、随分と物騒なこと言うんですね。私も相当な覚悟を持ってここに来てるので、受けて立ちますよ」

「さすが夫がチンピラなだけあって根性が座ってるみたいねえ。高子さんのご主人もヤクザなんですか?」

ママ友たちがざわついた。私は上手にご近所付き合いをするため、誠の素性がバレないように気をつけていたのだが、はるかさんはそんなことを全く気にせず話を続ける。

「そうなのよ。高子さんの旦那さんは、うちの旦那と一緒のヤクザなの。だけどね、うちの旦那と違って小さな組織の端っこのヤクザだから、大したことないわ」

「今、夫の職業のことなんて関係ないでしょ。私ははるかさんと話をしているのよ。何度も同じこと言わせないで」

「まだ私にそんな態度を取るんだ。ふう。分かったわ。だったらあなたのことはもう知らない。私が旦那に頼めば、あなたなんてすぐに消してくれるんだから。高子さんが悪いのよ。この私を敵に回したんだからね」

そう言うとはるかさんは夫に電話をかけ、今すぐここへ来てほしいと伝えた。偶然にも彼女の夫は公園の近くにいたようで、五分もかからずやってきた。

「ほら、もう旦那がすぐそこまで来てるわ。これであなたもあなたの家族も終わりね」

「そうやってずっと人の力に頼って生きてきたのね。弱い人ほど味方をたくさん作るっていうものね。はるかさんは弱くてずるい。最低な人間よ」

我慢の限界が来て、私ははるかさんに言い返した。すると、はるかさんは大きく目を見開いて叫んだ。

「旦那は鈴本組の若頭よ。あんたのチンピラなだけの夫とは次元が違う」

はるかさんはそう言いながら、飲みかけの紅茶を私の顔にかけた。周りのママ友たちはさすがにやりすぎだと心配そうな顔をしている。私はびしょ濡れの顔を拭きながらはるかさんを睨みつけた。彼女はそんな私をニヤニヤした顔で見ている。

「ちょっと、何するのよ。飲み物をかけるなんてありえない」

「高子さんが先に私に喧嘩を売ってきたんでしょ? 今すぐひざまずいて謝って」

「なんで私が謝らなきゃいけないのよ」

私ははるかさんを突き飛ばした。はるかさんの夫はその光景を見て硬直した。

「とのり、今見てたでしょう?」

「ああ、なんてこと? ああ、私の旦那を怒らせちゃったね。もうこれで取り返しがつかなくなりましたよ」

「さっきからなんてことをしてるんだ。こんなことをして、ただじゃ済まされないぞ」

「そうよ。高子さん、ただじゃ済まされないよ。私に暴言を吐いただけでなく、突き飛ばすなんて。たまたま怪我がなかったから良かったものの、これで骨折でもしていたらどうするのよ。あなたの旦那さんじゃ責任取れないんだからね」

すると、とのりさんははるかさんに目もくれず、私に近づいてきた。

「誠に申し訳ございませんでした。俺のバカ嫁が飲み物をぶっかけるなんて、大変失礼いたしました」

「とのり、何言ってるの? どうして謝ったりするのよ。まずは突き飛ばされた私の心配をするのが当然でしょ。高子さんなんてどうでもいいじゃない」

「うるせえ。お前、黙っとけ」

とのりさんははるかさんを睨みつけると、私に向き直った。

「本当に申し訳ございません。あなたがどういうお方かを、うちの嫁は何も知らないんです。どうかお許しください」

「だからさっきから何を言ってるのよ。高子さんが何だって言うの? ただの専業主婦よ。とのりがぺこぺこする必要なんてないわ。それに、高子さんの旦那さんはとのりと同じヤクザだけど、ただの端っこのヤクザよねえ。高子さん、前に自分でそう言ってたわよね」

「確かにはるかさんにそう言いました」

「ほら見てご覧なさい。とのりが鈴本組の若頭だって知って驚いたでしょ。だから言ったのよ。あなたの旦那さんとは次元が違うって」

「お前、バカ野郎。これ以上、織田さんに失礼なことを言うな。お前のせいで織田さんが濡れているんだ。ごめんなさいの一言も言えないのか。織田さん」

「どうしてとのりはこの人の名字を知っているの? さっきから高子さんのことばかり心配してるし。もしかして浮気相手なんじゃないでしょうね」

「そんなわけないだろう。織田さんは、鈴本組が傘下に入れてもらっている組織の組長の奥さんだぞ。傘下百の組を牛耳る巨大組織の組長だ。それなのに俺より下っ端のヤクザだって? 何があったか知らないが、嫌がらせなんかをして、これで俺が首になったらどうするんだよ。そうなったらお前も孝太も道連れなんだぞ」

「まさか傘下に入れてもらってる組って、高子さんの旦那さんのところなの? 高子さんが組長の奥さんなんて、そんなわけないわよ。だって組長さんって五十歳ぐらいの方よね。高子さんは三十歳だから、二十歳も年が離れているなんて、いくら何でもおかしいわよ。とのり、よくこの人の顔見てみなさいよ。きっと人違いしているんだわ」

「浮気相手だとか人違いだとか、現実逃避してないでよく考えてみろ。俺が名字を言い当てた時点で、人違いなわけないだろ」

「本当に組長の奥さんなの? 高子さんが? 嘘でしょ?」

はるかさんは恐る恐る顔を上げて私の方を見た。私はこくりと頷いた。はるかさんは真実を知り、顔を真っ青にさせていく。

「はるか、頼むから早く織田さんに謝ってくれ。うちの組長に知られたら、ただでは済まないぞ」

「高子さん、さっきはごめんなさい。私、本当にあなたにひどいことばかり言ってしまって。紅茶をかけるなんて、どうかしていたんだわ。今までのことは全て水に流して、もう一度仲良くやっていきましょうよ。君のためにもその方がいいわよ。孝太たちには、もう二度と宗介君を仲間外れにするなとちゃんと話すから。それでいいわよね」

「今のが謝罪? 私には上から目線の物言いにしか思えなかったけど。それに、はるかさん、ごめんなさいね。私はあなたが私や宗介にしたことを許すつもりは、一ミリもないから」

はるかさんはその場にしゃがみ込み、うなだれた。

「高子さん、私たちもはるかさんと同罪よね。どうしてもはるかさんには逆らえなかったの。はるかさんの旦那さんがヤクザだと知ってから、怒りを買うのが怖かったのよ。本当にごめんなさい」

ママ友たちは一斉に頭を下げて謝った。

「私はみんなのことは怒っていません。きっとはるかさんに脅されているんだろうと思っていましたから。でも、もう少し勇気を出して、子供たちの目線に立ってあげて欲しかったなとは思います」

ママ友たちは私の話を聞くと、心からごめんなさいと謝った。

「何よ、みんな。私のせいにするつもり? 汚い人たちね」

「汚いのは、はるかさん、あなたよ。やっぱり全然反省していないようね。とのりさんはすぐに私に謝罪をしてくれたから申し訳ないとは思うけど、今回のことを夫に報告させてもらうわ」

「待って、もう一度だけでいいからチャンスをください。本当にごめんなさい」

はるかさんはすがるような目で私を見た。しかし、私は無視して誠に電話をかけた。

「どうしたの?」

「あのね、誠に話があるんだけど、今いいかな?」

「うん、いいよ。何でも話して」

「宗介を仲間外れにしているはるかさんに喧嘩を売られちゃって。はるかさんがヤクザの旦那さんに私を消してもらうって言い出して、今旦那さんが来たの。そしたらその人、鈴本組の若頭だっていうの」

「誠、知ってる? 誰だそいつは? 俺には誰のことかさっぱりわからないな。ただ、鈴本組は傘下に入ってる組で間違いないな」

「はるかさんの旦那さんは私に気づいてすぐに謝ってくれたんだけど、私はどうしてもはるかさんのことが許せないの」

「分かった。じゃあ、鈴本組の組長に俺から連絡を入れて連れて行くよ。お前のところの若頭がとんでもないことをしてくれたなって。直接話した方が早いだろうしな。そのまま公園で待ってろと伝えておいてくれ。俺を怒らせたらどうなるか思い知らせてやるってな。高子、向かうから、もう安心していいからな」

「うん。ありがとう」

私が電話を切ると、はるかさんたちは体を震わせていた。

「本当に旦那さんに連絡したんでしょうか? はるかを殺らしめるために電話をしているふりだったりしませんか?」

「本当に夫に連絡しました。俺を怒らせたらどうなるか思い知らせてやると伝言です。あと、鈴本組の組長も一緒にこちらに向かってるらしいです」

「なんてことだ。はるかのせいで、俺の命を差し出せと言われたらどうしてくれるんだ? もし俺がそんな目に会いそうになったら、迷わずお前を売るからな」

「そんな。私、こんなことになるなんて思っていなくてね。とのりがどうにかしてくれるんだよね。だってとのりは鈴本組の若頭でしょ。きっと組長が助けてくれるはずよ。組長は自分の組員を家族のように思ってくれる優しい人だもの」

「そんな的外れなこと考えてるのかよ。組長は俺たちのことなんて助けてくれるわけないだろう。相手は組長だぞ。鈴本組が傘下から外されてしまったら、もうやっていけないんだ。組長を敵に回してまで俺たちを助けようなんて思うわけがない」

「だったらヤクザなんてやめて、高子さんの旦那さんが来る前に逃げようよ。逃げることさえできたら、鈴本組の組長も諦めてくれるでしょう」

「逃げれたら安全だと思ってるのか? 百の組を牛耳ってるんだぞ。俺たちを探し出すことなんて朝飯前だ。俺たちに逃げ道なんてどこにもない。大体お前は極道の世界を舐めすぎなんだよ。逃げるとか守ってもらえるとか、考えが甘いんだよ」

「でもさ、やってみないとわからないじゃない」

「うっ、何がやってみないと分からないんだ」

振り返ると、鈴本組の組長が仁王立ちしていた。そして、鈴本組長はとのりさんを見るなり、大股で近づき一発殴った。

「とのり、何してくれてんだよ。織田さんから連絡をもらって耳を疑ったぞ。若頭であるお前が、こんなことをしでかすなんて」

「組長、誠に申し訳ございません。俺のせいで」

はるかさんはとのりさんが目の前で殴られたことがショックだったのか、私にすり寄ってきた。私ははるかさんの手を振りほどいていった。

「いい加減にしなよ。自分の都合が悪くなった時だけ媚びに出てきて。私は騙されないわよ。はるかさんの顔は、もう二度と見たくないわ。同じ町に住んでると思うと虫酸が走る」

「高子、遅くなって悪かったな。それにしても、普段温厚な高子をこんなに怒らせるなんて。あんた、よっぽどのことをしたんだな。高子とはもう長く一緒にいるけど、ここまで怒った顔は初めて見るぞ」

「あなた、ごめんなさい。私も我慢できなくて」

「いや、高子は悪くないよ。宗介のことで毎日苦しんできたんだ。俺もどうにかしてやりたいと思ってたら、相手がまさか三下の一族だったなんてな」

誠は私を見てニコッと微笑み、鈴本組長に言った。

「それで鈴本さん、この落とし前はどうするんだい? お前のところの人間だろ? お前がどうにかしなきゃいけないんじゃないのか。内容によっては鈴本組の連帯責任ということで、お前の首を飛ばすことになるがな」

「わかりました。とのりを破門にさせていただきます。そうすれば家族も道連れに終わることになる。それでいかがでしょうか?」

「破門は勘弁していただけないでしょうか? また一から下っ端からで構いませんから」

「そんなこと言うな。俺に権限なんてないことぐらいわかるだろう。織田さんが納得する処分を下さないと、俺や鈴本組が潰されるんだぞ。それに、お前の嫁がやったことだろう。お前が責任を取らないでどうするんだよ」

「ええ、はい」

「だったら、選択肢を与えてやろう。悪いのはお前の嫁だからな。旦那ってだけで責任を取らされるなんて、かわいそうな気もするしな。よし。お前が全責任を背負い破門になって家族全員で地に落ちるか、嫁を組に差し出して家族を救うか。好きな方を選べ」

「とのり、何を迷っているのよ。もちろん私を守る方を選んでくれるわよね。ほら、孝太には母親が必要でしょ。私がいなくなったら孝太は生きていけないわよ。それなら、全員で地に落ちて苦労を分け合う方がいいじゃない」

「決めました。俺ははるかを差し出します」

「何をバカなことを言ってるのよ。正気?」

「俺は子供を守る方を選択するよ。でもはるか、安心しな。孝太には、はるかは事故で天国へ行ってしまったと伝えておくから。きっと最初は悲しむが、孝太なら受け止めて生きていけるさ。お前も子供のためを思うなら本望だろ。わざわざはるかのせいで、孝太に黒い十字架を背負わせる必要なんてどこにもないんだから」

「いやよ。こんなことで命を差し出すなんて。高子さん、お願いします。これからあなたの言うことを何でも聞きます。ママ友のみんなも黙って見てないで、一緒にお願いしてよ。私たち、今まで仲良くやってきたじゃない」

「高子さん、どうか許してください」

はるかさんは泣きじゃくり懇願したが、ママ友たちは誰も手を差し伸べることはなかった。

「じゃあ鈴本さん、後の始末はよろしくお願いしますよ」

「はい。本日は大変申し訳ございませんでした。これからもどうぞ鈴本組をよろしくお願いいたします」

鈴本組長は誠に深々とお辞儀をし、組員を呼びつけた。

「おい、お前ら。とりあえずこの女をアジトの地下に監禁しておけ」

はるかさんは引きずられるように連れて行かれた。

「やめて。高子さん、助けて。お願いだから」

はるかさんは私に救いを求めてきたが、私はゆっくりと首を横に振った。その哀れな姿を最後に、はるかさんがもう二度と現れることはなかった。

はるかさんがいなくなって数日後、私たちは子供たちに正直に話をした。仲間外れにしてごめんねと謝る子供たち。宗介と仲良くするなと間違ったことを言ってしまったと謝るママ友たち。はるかさんの代わりに、とのりさんは私やママ友、そして子供たちに心から謝罪をした。丁寧に話し合いを重ね、子供たちも理解してくれた。

そして、「もうみんなで公園で遊べるんだね」と嬉しそうに話す宗介を見て、私ははるかさんと戦って良かったと心の底から思った。

今日は近所のみんなでキャンプ場に来ている。そこにはとのりさんと孝太君の姿もあり、みんなで仲良く遊んでいる。私たちはこの先ずっと、家族ぐるみでいい関係性を築いていくだろう。

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