弟の結婚式の披露宴で、俺は自分の席に貼られた札を見て立ちすくんだ。そこには「中卒のゴミ男」と書かれていた。
周りの祝福ムードとはまるで噛み合わない、冷たい文字。俺が硬直していると、背後から嫌な笑い声が聞こえた。振り返ると、新婦の両親が俺の反応を面白がるように立っていた。
「これはあなたたちがやったのか?」
俺が怒りを飲み込んで尋ねると、新婦の父親は嘲笑うような目つきで口を開いた。
「ああ、中卒の君にふさわしい札を用意してやったんだが、お気に召さなかったか? 君のような中卒は恥でしかない。中卒が我が家と親戚関係になるなど、言語道断だ。このような晴れやかな場に出ようなどと思わず、ゴミにふさわしい場所へ帰りたまえ」
あまりに露骨な侮辱に、俺は言葉を失った。これまでの苦労や誇りまで踏みにじられたような気がして、胸が張り裂けそうになる。だが、その直後のことだ。
「兄の正体を知らないんですか?」
弟の拓也が、抑えきれない怒りを滲ませながら、新婦の両親に静かに問いかけた。
俺の名前は優太。ある家の長男として生まれた俺には、拓也という大手企業に務める弟がいる。今は独立してそれぞれ離れて暮らしているが、ある日、久しぶりに拓也から電話がかかってきた。
「兄さん、久しぶり。元気?」
「ああ、変わりないよ。お前はどうだ?」
「俺も元気でやってるよ。今日は兄さんに報告があってさ」
拓也はそこで一旦言葉を切ると、やや躊躇してから口を開いた。
「実は俺、今度結婚することになったんだ」
「本当か? おめでとう」
喜ばしい知らせに、俺は心の底から喜んだ。
「なんだか言いにくそうにしてたから、悪い話かと思ったじゃないか」
「ちょっと照れ臭かったんだよ」
恥ずかしそうに笑う拓也に、それもそうかと思う。俺はまだ結婚していないが、そういう話を拓也にするとなると、やはり気恥ずかしくなるだろう。何はともあれ、久しぶりの電話がおめでたい話で本当に良かった。
「お相手はどういう人なんだ?」
「彼女は川端美子って言って、製薬会社の社長令嬢なんだ。優しいだけじゃなく、芯が強い素敵な女性で、俺のことも心から理解してくれてるんだ」
まるでのろけのようだが、拓也がここまで言うのだから、美子さんはきっと素晴らしい女性なのだろう。俺は弟の幸せそうな声を聞きながら、電話口でそっと微笑んだ。
「それで兄さんが忙しいのは分かってるんだけど、もし都合が良ければ、結婚前に美子に会ってほしいんだ」
いきなりそんなことを言われ、俺は戸惑い目を白黒させた。
「俺が美子さんに会うのか? どうして?」
「だって兄さんは俺の親代わりじゃないか」
これまでとは打って変わった真剣な声で拓也は言った。そのセリフに、俺はしばし黙り込む。
俺たち兄弟はごく普通の一般家庭に生まれたが、幼い時に両親をなくしている。両親は交通事故に巻き込まれ、あっさりとこの世を去ってしまったのだ。残された俺たちを引き取って育ててくれたのは母方の祖父母だった。彼らは俺たちを可愛がってくれたが、それほど裕福な暮らしをしているわけではなかった。
年寄り2人が暮らしていく分にはそれでも良かったのかもしれないが、いきなり子供が2人も増えれば、それまでの収入でやっていけるわけがない。俺たちは貧しい生活を強いられるようになり、小学生時代は学用品も満足に揃えられないような暮らしをしていた。
それでも祖父母はなんとか俺たちを食べさせないようにと頑張って仕事をしてくれていた。年々年老いていく祖父母にこれ以上苦労させたくなかった俺は、中学を卒業後は就職を選択し、中卒として働くことを選んだのである。
俺が働き出したおかげで家計は安定し、拓也は高校と大学に進学することができた。そのため拓也は俺のことを親代わりと言って、ずっと感謝してくれているのだ。
「お前の気持ちは嬉しいけど、俺が中卒のせいでお前に迷惑をかけることにならないか」
俺は当時の選択を後悔していないし、中卒であることを恥ずかしいとも思っていない。しかし世間では学歴を重視して、中卒であることをよく思わない人たちがいることも知っている。美子さんがそういう人たちと同じであると決まったわけではないが、拓也の人生がかかっていると思うと、どうしても不安になってしまうのである。
こんな風にためらっていると、拓也は力強く「大丈夫」と言った。
「美子は学歴で人を判断するような人じゃないし、兄さんは誰かに馬鹿にされるような人間じゃない。俺がここまで来れたのも全部兄さんのおかげじゃないか」
俺を励ましつつ感謝の言葉を口にする拓也に、俺は照れながら「ありがとう」とつぶやく。
「それに美子にはもう兄さんが中卒であることは伝えてあるんだ。彼女はそんなこと全然気にしてないよ」
すでに美子さんが俺の事情を知っていると聞き、少しほっとする。実を言えば、今はちょうど時期的に都合が良く、美子さんと会うこと自体は可能なのだ。弟の相手が気になるのは確かだし、結婚に支障が出ないのであれば会ってみてもいいかもしれない。そう思い、まだ少し不安は残っていたものの、俺は美子さんと会うことを了承した。
すると拓也は明らかに嬉しそうな声になり、「また連絡する」と言って電話を切った。その後、俺は拓也と何度かメールのやり取りを行い、3人で会うのに都合が良い日を相談し合う。そして1週間後に会うことを決め、ドキドキしながら約束の日を迎えた。
堅苦しい店じゃない方がお互いに気楽でいいだろうということで、会う場所は拓也の家の近くにあるファミレスにした。待ち合わせの時間より少し早くそのファミレスに着くと、すでに拓也と美子さんは店の中にいて、拓也が「こっちこっち」と手を振って見せる。隣では長い黒髪の女性が俺に軽く頭を下げていた。
俺もお辞儀を返し、彼らのいるテーブルへと近づく。2人は俺の到着を待って立ち上がり、拓也が俺と美子さんにお互いのことを紹介してくれた。
「兄さん、こちらが俺の婚約者の川端美子さん。美子、俺の兄の富長優太だ」
「初めまして。川端美子です。お兄さんのことは拓也さんからいつもお話を伺っています」
「優太です。いつも弟がお世話になっています」
俺たちは一通りの挨拶を済ませると席に落ち着き、簡単な食事を頼んだ。そこで改めて目の前にいる美子さんのことを観察する。彼女は常に穏やかな笑みを浮かべており、見るからに優しそうな人だった。また、それが見かけだけでないことが、少しの会話だけでよくわかった。
「美子さんからお兄さんは家族のために中学を出てすぐに働いたって聞いて、すごく尊敬してたんです。今日は会えて本当に光栄です」
キラキラした目でそんなことを言うものだから、俺は恥ずかしくなって思わず目を伏せてしまった。そんなに尊敬されるほどの人間ではないが、彼女が心から俺のことを賞賛していることが分かり、素直に嬉しさを感じる。
「こっちこそ、美子さんみたいな素敵な女性が拓也の相手で本当に良かったと思っています。こんな弟ですが、どうかこれからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」
俺たちはそれからも他愛ない話で盛り上がり、別れ際に拓也と美子さんが結婚式の招待状をくれた。郵送しても良かったが、できれば直接渡したかったのだという。俺はありがたくそれを受け取り、彼らの結婚式を楽しみに待った。
それから半年ほどが経ち、今日はいよいよ拓也と美子さんの結婚式の日だ。俺は用意しておいたスーツに着替え、髪型を整えて式場へと向かう。受付には2人の友人らしきドレス姿の女性たちが立っており、招待客たちに笑顔を見せていた。
俺もご祝儀を用意し、受付へと並ぶ。しばらくして俺の番が回ってきたので、俺は拓也の兄として受付をしてくれている人たちに挨拶をした。
「富長拓也の兄の優太と申します。本日はお世話になります」
その瞬間、受付をしている女性たちの顔が強張った。そして何やら戸惑ったような表情で、おどおどと「よろしくお願いします」と挨拶を返す。何かおかしな格好でもしているだろうかと自分の見た目をチェックするも、特に何か変わったところはない。しかし彼女らはそれから俺とは一切目を合わせず、次の招待客の相手を始めた。まだぎこちない様子はあるものの、俺以外の人たちに対しては笑顔で接している。
俺は彼女たちの様子に疑問を感じつつも、直接尋ねることができず、首をかしげながら受付から離れた。すると向こうからやってきた年配の男女と目が合い、彼らが笑みを浮かべながら俺に近づいてくる。
「これはこれは、拓也君のお兄さんだね」
「そうですが。そちらは?」
「ああ、失礼。私は美子の父です。後ろにいるのが美子の母」
彼はそう言うと懐から名刺を取り出し、それを俺に渡した。そこには「川端」という名前と「製薬会社の社長」という肩書きが印刷されてある。
「美子さんのご両親でしたか? 私は拓也の兄の優太と申します。本日はよろしくお願いいたします」
俺は彼らに丁寧に挨拶をし、それから今は名刺の用意がないことを謝った。今日は仕事関係の人間にも会わないし、名刺は必要ないと思って持ってこなかったのだ。こんなことなら数枚用意しておけばよかったなと考えていると、美子さんの父親が笑顔のまま言った。
「いや、無理をせずとも結構。どうせ名刺などないような仕事をしているのだろうから」
さらりととんでもない暴言を吐く美子さんの父親。俺は呆気に取られて彼の顔を見つめてしまった。よくよく見ると、先ほどまでの笑顔も気持ちの良いものではなく、彼の目にはこちらを見下すような色が浮かんでいる。後ろに控えている母親の表情も父親と似たり寄ったりだ。
俺は不快感を覚えるが、顔には出さずに冷静に返した。
「それはどういう意味でしょう?」
「そのままの意味だよ。聞けば君は中卒だそうじゃないか。中卒ごときがまともな職につけるわけがないからな。名刺なんか持ってなくても仕方ない」
彼は面と向かって俺のことを見下し、愉快そうに声をあげて笑った。その後ろでは母親も笑みを浮かべている。彼らの態度にさすがに頭に来たが、ここで騒いで拓也の結婚式を台無しにするわけにはいかない。そう考え、俺は拳を握りしめながらぐっとこらえ、なんとかその場をやり過ごそうとした。
何も言い返さない俺を見て、美子さんの父親は勝ち誇ったような顔をする。
「まあ、エリートの弟さんに迷惑をかけないよう、大人しくしておくことだな」
そして腕時計を見て「そろそろ時間だ」と言うと、美子さんの母親を連れてその場を立ち去った。1人残された俺は無言で屈辱に震えていたが、周囲の人たちの視線に気づき、気まずさを感じながら場所を移動する。
弟の結婚相手である美子さんが素晴らしい女性だったから安心して式への参加を決めたのに、まさかその両親があんな人間だったとは。何をどう間違えたらあの2人から美子さんのような子供が生まれるのだろう。もう2度と関わり合いになりたくない人種だが、美子さんと結婚する以上、縁はいつまでも続く。俺は暗い気持ちを抱えながら、重い足取りで式場へと向かったのだった。
予想だにしないトラブルに見舞われ気持ちが沈んでいた俺だったが、拓也と美子さんの結婚式自体はとても素晴らしいものだった。2人の幸せそうな姿に、俺の心も少し晴れていく。式は滞りなく終わり、続いては披露宴だ。俺は他の招待客について歩くように披露宴会場へと向かい、自分の席を探す。
俺の席はすぐに見つかったが、その席札を見て俺はぴたりと動きを止めた。そこには俺の名前と共に「中卒のゴミ男」という文字が書かれていたのだ。
俺は驚きつつも、先ほどの受付の女性たちの反応を思い出し、なぜ彼女たちが妙な顔をしていたのかを察した。おそらく彼女たちはこのことを知っていて、俺に対してどのような態度を取れば良いか分からず戸惑っていたのだろう。
自分の席を見ながら硬直していると、背後からクスクスと嫌な笑い声が聞こえてきた。振り返ると、そこには美子さんの両親が立っていて、俺の反応を面白がっているようだ。俺は怒りを覚えながらもなんとかこらえ、「これはあなたたちが?」と尋ねた。その問いに、美子さんの父親が嫌な笑みを浮かべたまま口を開く。
「ああ、中卒の君にふさわしい札を用意してやったんだが、お気に召さなかったか」
まるで挑発するようにそう言うと、彼は俺に嘲りの視線を向けながら続けた。
「私は製薬会社の社長として世間からも認められている。そんな私の家と付き合うには、それ相応の格ってものが求められるんだよ」
「格ですか?」
「そうだ。君の弟の拓也君は育ちはいまいちだが、大手企業に勤務しているエリートだ。川端家にもふさわしい。しかし」
彼はそこで一度意味ありげに言葉を切ると、俺のことをまじまじと見ながら馬鹿にしたように笑った。
「君のような中卒は恥でしかない。中卒が我が家と親戚関係になるなど言語道断。このような晴れやかな場に出ようなどと思わず、ゴミにふさわしい場所へ帰りたまえ」
彼のあまりにもひどい言い草に、俺は言葉を失った。そして彼らへの怒りや自身の学歴への後悔など、様々な感情が湧き上がってくる。心に大きなダメージを負ったままその場に立ち尽くしていると、そこに綺麗に着飾った拓也と美子さんがやってきた。彼らは幸せそうな笑みを浮ばせていたが、その場の空気がおかしいことを察し、2人揃って眉を潜める。特に拓也は俺の様子がいつもと違うことにすぐ気づき、心配そうに声をかけてきた。
「兄さん、何かあったのか?」
俺が何と答えようか迷っている間に、美子さんの両親がほがらかに笑って「なんでもない」風を装う。彼らとのトラブルを拓也に話すべきかどうか葛藤していると、テーブルを見た美子さんが驚愕の表情を浮かべた。そして口元を抑えながら悲鳴のような声をあげる。
「何これ?」
どうやら俺の席札に気づいたようだ。彼女が慌てて拓也に席札のことを教えると、拓也もぎょっとしたような顔をした。
「父さんとお母さんがこんなことをしたの? 一体どういうつもりよ?」
娘に気づかれて少し気まずそうな顔をしていた2人だったが、すぐに開き直ってふんぞり返った。
「本当のことだろうが。こいつは中卒なんだろ? 中卒は恥だって教えてやってるんだ」
「そうよ。我が家とは格が違うって知らないみたいだから、忠告してあげたの」
「ひどい」
美子さんは青ざめた顔で絶句し、それから厳しい顔になると鋭い目で自分の両親を睨んだ。
「会社潰されるわよ」
そのセリフに彼女の両親は軽蔑の顔をする。そこに鬼の形相になった拓也が割り込み、怒りのこもった低い声で訪ねた。
「兄の正体を知らないんですか?」
2人の様子にやや戸惑いつつも、美子さんの父親は王兵な態度を崩さず、冷笑を浮かべてなおも俺を見下す。
「中卒の兄に対した正体などあるわけがないだろう」
すると我慢の限界に達したのか、拓也が真っ赤な顔をして彼らに怒鳴った。
「いい加減にしてください。兄はアメリカの製薬会社で新薬の研究をしている立派な研究員です」
拓也の言葉に、美子さんの両親は息を飲み、「まさか」とつぶやきながら俺のことを見る。俺は確かに中卒だが、働きながら通信制の学校で学び、独学で科学技術の研究を続けてきたのだ。SNSを通じて発表を続けていたところ、それがアメリカの一流製薬会社の目に止まり、スカウトされたのだった。現在はそこの研究所で働いており、多数の新薬を世に送り出している。普段はアメリカで暮らしているので、今日は拓也の結婚式のために一時帰国中だ。
拓也から美子さんに会ってほしいと言われた時は、ちょうど仕事の関係で日本にいたため、すぐに会うことができたのだった。俺の名前は製薬の研究者として医療業界では有名なのだが、なぜか美子さんの両親は俺のことを知らなかったようだ。
拓也から俺のことを聞かされた2人は、戸惑い焦りの様子を見せる。そんな両親の姿に、美子さんは呆れた顔でさらなる事実を告げた。
「優太さんが特許を持っている新薬をうちの会社でも扱っているのを知らないの? 会社の売上にも大きな影響が出るくらいの重要な新薬なのに」
それを聞いた美子さんの両親は顔面蒼白になり、ころりと態度をひっくり返した。
「も、申し訳ありません。これまでのこと、深く謝罪いたします」
美子さんの母親も必死になって頭を下げてくるが、彼らは自分たちの行いを反省しているわけではないだろう。ただ俺を怒らせたら会社が危ないと思い、辺だけ作ろうとしているに過ぎない。そんな人たちからいくら謝罪を受けたところで、許そうという気が起きるわけもない。
「いくら謝られても無駄ですよ。中卒を見下す人間の会社に協力するつもりはありません。今後、御社には私の特許は使わせません」
こう冷たく言い放つと、彼らは「そこをなんとかお願いします」と俺にすがってきた。どれだけ懇願されても俺が突っぱねていると、ついに絶望した2人がその場に崩れ落ちる。情けなく泣く彼らの姿を一瞥すると、俺は無言で会場を後にした。
さっさと帰ろうとしていた俺だったが、後ろから聞こえた拓也の声に立ち止まる。振り返ると、そこには俺を追いかけてきた拓也と美子さんの姿があった。
「うちの両親が本当にごめんなさい。俺からも謝らせてくれ。せっかく来てくれたのに、こんな思いをさせて本当にごめん」
「お前たちが謝ることじゃないさ」
必死になって頭を下げる2人に、俺は笑顔で言った。それでも美子さんは頭をあげず、深く腰を折ったまま謝罪を続ける。いつまでも謝り続ける美子さんに困ってしまった俺は、彼女の気持ちを軽くしてあげるためにも、その謝罪を受け入れることにした。
「分かったよ、美子さん。君の謝罪は受け入れる。その代わり、1つ条件があるんだ」
「はい。何でしょう?」
「君のことを許す代わりに、拓也を支えて幸せになってくれ。これが条件だ」
「え?」
美子さんは俺の言葉に目をパチクリさせていたが、見るみるうちに涙を浮かべると、何度も頷きながら「はい」と答えた。
「優太さん、本当にありがとうございます」
美子さんは涙を拭いながら、声を震わせてそう言った。隣では拓也までもが目を潤ませている。ずっと申し訳なさそうな顔をしていた美子さんだったが、気持ちに区切りがついたのか、ようやくそこで笑顔を見せてくれた。
「私、拓也さんだけじゃなく、兄として尊敬する優太さんとも家族としての絆を築いていきたいと思っています。だから、たまにはまた3人で会ってもらえますか?」
その言葉からは彼女の真剣な思いが伝わってくる。俺は彼女の気持ちを嬉しく思いながら、笑顔で「もちろん」と答えたのだった。
その後、披露宴は予定通りに行われたらしいが、美子さんの両親の姿はそこになかったようだ。どうやら両親の俺に対する言動に激怒した美子さんが、2人を追い出したらしい。
俺はといえば、美子さんの両親に宣言した通り、彼らの製薬会社との契約を正式に打ち切る意向を伝えた。これにより彼らの会社は主要な収入源を失い、業績が急速に悪化していった。美子さんの両親はこの責任を社内外から追求され、ついには会社を去ることになったようだ。
これは後から美子さんに聞いた話だが、美子さんの父親は先代から会社を継いだそうだが、どうもあまり熱心な経営者ではなかったらしい。現場の面倒な仕事は周りに押し付け、自分はいつも妻と一緒になって遊び回っていたという。そのため、業界の人間なら知っていて当然であるはずの俺の活躍も知らなかったのだ。ただ、おかげで早いうちに彼らの本性を知ることができたので、2人が俺のことを知らなかったのは返って良かったと言えるのかもしれない。
美子さんは結婚式が終わってから両親との関係を完全に断ち、拓也と協力し合って新たな家庭を築いているようだ。俺は結婚式の後またアメリカに戻ったため、その後2人とは会っていない。しかし彼らとはSNSで繋がっており、弟夫婦の幸せな様子は遠くからでも知ることができた。また、2人は頻繁に連絡もくれるので、離れていても家族としての絆を感じられる。
SNSにアップされている弟夫婦の微笑ましい写真を見ながら、俺は彼らの幸せを心から願った。そして、弟夫婦の成長を見守りつつ、自分の研究にさらに専念していこうと決意を新たにするのだった。



