義母説得成功。お金だけ出させて、私たちはハワイへ行く。そんな投稿が、私の嫁のSNSに並んでいた——私はそれを、空港の出発ロビーで、目の前で「旅費だけ置いて帰って」と切り捨てられたあとに見つけたんだ……67歳、初めての海外旅行、パスポートも新調した……はずだった。家族のためだと、200万円、退職金を差し出した……なのに、息子も嫁も、私の母ではなく、「本当の家族」を連れて行くつもりでいた……「お…

義母説得成功。お金だけ出させて、私たちはハワイへ行く。そんな投稿が、私の嫁のSNSに並んでいた——私はそれを、空港の出発ロビーで、目の前で「旅費だけ置いて帰って」と切り捨てられたあとに見つけたんだ……67歳、初めての海外旅行、パスポートも新調した……はずだった。家族のためだと、200万円、退職金を差し出した……なのに、息子も嫁も、私の母ではなく、「本当の家族」を連れて行くつもりでいた……「お...

成田空港の出発ロビーで、私は信じられない言葉を耳にした。嫁の七奈さんが、冷たくこう言い放ったのだ。
「旅費だけ置いて帰ってもらえますか?」

私は藤崎け子、67歳。42年間、看護師として働いてきた。夫を亡くしてからは、女手一つで息子の健太を育て上げた。この日をどれほど楽しみにしていたことか。人生で初めての海外旅行。家族みんなでハワイへ行く。そう聞いて、私は迷わずに200万円を援助した。パスポートも初めて作り、新しい服も買って、この日を心待ちにしていた。

なのに、七奈さんに続いて健太もこう言った。
「悪いけど、今回の旅行、母さんは行けないから。」

「え、どういうこと?私も一緒じゃないの?」

私の声が震える。その横で、七奈さんの母親である雅子さんが、にっこり笑っている。

「私は行きますけどね。」

胸が締めつけられるような感覚が広がっていく。一体何が起きているのか。

思い返せば、私はこれまで全てを息子家族に捧げてきた。健太を大学まで出して、今は医療機器メーカーで立派に働いている。42年間の看護師生活で貯めた退職金と貯金、その多くを私は健太家族のために使ってきた。結婚式に250万円、マンション購入の頭金に400万円、車の購入に200万円、孫の陸と桜の教育費は月6万円を5年間、それだけで360万円になる。それに、孫の保育園や学童への送り迎えだって週に3回、夕食作りも週に4回も、全て無償でやってきた。これまでの戦除したお金は、気づけば1000万円を超えていた。それでも、長年働いて貯めてきたお金があったからなんとかやってこれた。

今も私は、週5回の訪問看護のパートで働き続けている。息子家族のために少しでも役に立ちたいと思ってきた。

でも、七奈さんのお母様である雅子さんとは、扱いが全く違った。雅子さんは海運業者の奥様でとても裕福だから、健太夫婦は月に1回、雅子さんを高級レストランに招待している。一方、私はファミレスでしかも割り勘だ。雅子さんは毎週孫に会えているそうだし、誕生日には雅子さんには15万円もするエルメスのバッグをプレゼントしたそうだ。私の誕生日はと言うと、3000円くらいのお花だけだった。

そんな中で迎えた今回のハワイ旅行だった。2ヶ月前のことだ。健太が私に相談してきた。
「母さん、家族でハワイに行きたいんだ。リクも桜も喜ぶと思うし。でもお金がね。」

私は迷わず答えた。
「いいわよ。私も一緒に行ってもいいんでしょう?初めての海外旅行ね。」

健太は笑顔でこう言った。
「もちろん、母さんと一緒に行きたいんだ。」

その言葉を信じて、私は200万円を援助した。67歳にして初めてパスポートも作り、新しい服も買って、この日をどれほど心待ちにしていたことか。

でも、出発前日に七奈さんから来たのは、冷たいメッセージだけだった。
「明日は10時に空港集合です。」

それだけだった。

そして今、空港で突きつけられたこの現実。私は3人に追いすがった。
「待って。どういうことなの?私も一緒に行くのよ。」

健太が面倒そうに言う。
「母さん、実は最初から3人分しか予約してないんだ。」

「でも、200万円は4人分の旅費として渡したはずよ。」

すると七奈さんが遮るように言った。
「お母さん、現実を見てもらわないと。あなたと一緒じゃ、私たちが恥ずかしいんですよ。」

その言葉に、胸が押しつぶされそうになる。
「顔だって皺だらけだし、ファッションセンスもないし、英語も話せないでしょう。」

雅子さんが余裕の表情で言う。
「私はこう見えて70歳だけど、若く見えるでしょう?海外旅行にも慣れてるの。」

七奈さんがさらに追い打ちをかける。
「それにお母さん、教養がないじゃないですか。」

健太まで言った。
「母さんと一緒だと、ハワイのレストランに行った時に恥をかくんだよ。マナーとか分からないでしょ。」

「健太、あなた本当にそう思ってるの?」

健太は目をそらした。
「しょうがないだろ。七奈だって、自分の母さんの方が一緒にいて楽しいんだよ。」

そして、こう付け加えた。
「お金だけ出してくれればいいから。それくらい分かってよ。」

周りの人たちが、私たちを見ているのが分かった。
「あの年寄り、置いて行かれるのかしら。かわいそうに、仲間外れにされちゃって。」

そんな声が聞こえてくる。私の目に涙が浮かんできた。すると七奈さんが小声で言う。
「あ、泣かないでください。周りに見られて恥ずかしいので。」

健太も冷たく言い放つ。
「母さん、いい加減にしてよ。もう子供じゃないんだから。」

雅子さんが勝ち誇ったように笑った。
「あら、お金出したからって一緒に行けると思ったの?世間知らずね。」

そして、こう言った。
「空気読めないんですか?あなたみたいな価値のない老いたる老人。誰が一緒に旅行したいと思うのよ。」

さらに衝撃的なことを、七奈さんが言い始めた。
「そういえば、陸と桜にも、『おばあちゃんは貧乏だから旅行には行かないよ』って話したんです。」

孫たちにそんなことを……。健太が平然と答える。
「だって本当のことだろ。母さんの退職金なんて大したことないし。」

七奈さんが続ける。
「私の母は海運業者の妻だから、年金も多いし品があるんですよ。お母さんとは違って。」

雅子さんがにっこり笑った。
「そうそう。私たち、本当の家族ですものね。」

そして、こう言い放った。
「お母さんは、外の人ですから。」

3人はもう保安検査場に向かおうとしていた。せめて、説明を……。67年間生きてきて、こんな扱いを受けるなんて……。

七奈さんが1000円札を数枚取り出した。そして、私の足元に投げつけた。
「もういいですから。タクシー代、これで足りるでしょう。」

健太が言う。
「じゃあね、母さん。もう連絡しないでよ。静かに暮らしてくれればいいから。」

雅子さんが最後に言った。
「私たち、本当の家族の邪魔しないでくださいね。これからハワイで素敵な時間を過ごすから。」

3人は笑いながら去っていく。すると、リクと桜が振り返って、こう言った。
「バイバイ。貧乏ばあちゃん。」

私は床に散らばった1000円札を見つめていた。

この瞬間、私の中で何かが完全に切れたような気がした。

震える手でスマートフォンを取り出した。いや、もう手は震えていなかった。目は冷たく光っていたように感じる。

さあ、始めましょうか。

私は空港ロビーのベンチに座った。もう涙は流れていない。冷静にスマートフォンを操作する。

旅行予約サイトにログインした。

この旅行は、やはり私の名義で予約されていた。それなのに、私だけが置き去りにされる。こんなに不尽なことがあるでしょうか? さらに画面をスクロールすると、オプション追加の履歴が次々と出てくるではないか:
高級ホテルへのアップグレードに10万円、スパ予約に15万円、レンタカーの豪華版に8万円、高級レストランの予約に14万円……これらも全て、私のクレジットカードから引き落とし予定になっている。

合計すると、245万円。私が必死に働いて貯めたお金……。その私のお金を、息子夫婦は何の罪悪感もなく使おうとしていた。

ふと、七奈さんのSNSを見てみようと思った。以前、孫の陸と桜の写真を見せてもらうために、アカウントを教えてもらっていた。そこに投稿されていた内容に、私は息を飲んだ。

3週間前の投稿。
「義母説得成功。お金だけ出させて、私の母を連れて行くことに。あのババアと旅行とか絶対無理(笑)」

心臓がドキドキと音を立てるのが分かる。コメント欄には友人たちからの返信。
「天才」
「義母様」
「老害は金だけ出してろ」

そんな言葉がたくさん並んでいる。私はさらにスクロールした。

2週間前の投稿。
「ギボったらまだ自分も行けると思ってるみたい(笑)初めての海外旅行だって浮かれてる。当日まで黙ってよ。」

私が初めてパスポート申請に行った頃だ。あの時の私の嬉しそうな顔を、七奈さんは笑っていたんですね。

1週間前の投稿。
「空港で置き去りにする計画、完璧。ババアの顔が楽しみ。絶対泣くわ(笑)」

新しい服を買って健太に見せた日のことだ。
「母さん、その服、旅行に着ていく服?すごく似合うよ。」

健太はそう言って笑っていた……。あれも全部、演技だったんですね。

そして昨日の投稿。
「明日がついに本番。義母の絶望した顔を写真撮ってやろうかな。」
ハッシュタグが並ぶ。「#金だけ出せ」「#ハワイ」。

いいね数は247件もついていた……。247人もの人が、私の屈辱を楽しみにしていた……。全て計画的だったんですね……。最初から私を騙すつもりだった。そして、ネタにして笑い物にするつもりだった……

手が震えてきた。でも、怒りで震えているのか、悲しみで震えているのか、自分でも分からない。

私は健太とのメッセージ履歴を開いた。2ヶ月前の、健太からのメッセージ。
「母さん、家族でハワイ行きたいんだ。リクも桜も喜ぶと思う。でもお金がね。」

私はすぐに返信していた。
「家族みんなでいいわよ。パート代で貯めたお金だけど、家族のためなら200万円、私が出すわ。」

あの時、私はどれほど嬉しかったことか……。孫たちと一緒に海外旅行に行ける……。そう思うだけで胸がいっぱいになった。

健太の返信。
「ありがとう、母さん。子供たちといっぱい思い出作ろう。初めての海外旅行、楽しもうね。」

この言葉を、何度読み返したことか……。

1ヶ月前のメッセージ。
「予約完了した。母さんの席もちゃんと取ったから、ビジネスクラスにしたよ。」

私は嬉しくて、「楽しみね」と返していた……。ビジネスクラス……。健太は私のことを大切に思ってくれているんだと、そう信じていた……

そして1週間前、七奈さんからの冷たいメッセージ。
「明日10時空港集合です。」

それだけだった……。

あの優しい言葉も、全部嘘だったんですね……。騙してお金だけ奪う計画……。それが最初からあった……

ふと、半年前の出来事を思い出した。偶然、雅子さんと会った時のことだ。
「あら、け子さん、まだパートやってるの?大変ね。」

雅子さんは嘲笑うように言った。私は答えた。
「え、訪問看護は体力いりますが、やりがいがありますよ。」

雅子さんは鼻で笑った。
「私の主人は海運業ですから、優雅に暮らしてますの。70歳なのにこの若さ。」

そして、こう続けた。
「七奈たちには、貧乏な方のおばあちゃんには近づかないようにって言ってあるんです。教育に悪いから。」

あの時、私は何も言えなかった……。「あ、そうですか」と答えるのが精一杯だった……。今思えば、あの頃から全て計画されていたのかもしれない……。私を利用する計画が……

私は深呼吸をした。スマートフォンの画面を見つめる……。そこには「予約キャンセル」というボタンが表示されていた……

67年間、誠実に生きてきたつもりだ……。42年間看護師として、人の命に寄り添ってきた……。夜勤も厭わず、患者さんのために働いてきた……。息子のために、全てを捧げてきた……。「美味しいものを食べさせたい」「良い教育を受けさせたい」そう思って、自分のことは後回しにしてきた……

でも、もう我慢する必要はないんですよね……。

今度は、私の番です……

私の指が、ゆっくりとボタンに向かっていく……。心は、不思議なほど静かだった……「これが正しい選択なのだ」と、そう感じていた……

指がボタンに触れる瞬間、私は小さく微笑んでいたように思う……。

指がボタンに触れた……。画面が切り替わり、キャンセル手続きの画面が表示される……。

私は一つ一つ、丁寧に確認していった……。

まずフライトのキャンセル……。還金額は178万円……キャンセル料が20万円かかる……。次にホテルの5泊……。返金額は9万円で、キャンセル料は1万円……。レンタカーのキャンセル……返金額7万円、キャンセル料1万円……。そしてスパや高級レストランなど、全てのオプションをキャンセルした……還金額12万円、キャンセル料2万円……。

総還額は206万円、キャンセル料の合計は24万円になった……。

画面に表示される……
「キャンセルが完了しました。返金は3営業日以内に口座振り込まれます。」

206万円、戻ってくるんですね……。39万円の勉強代は、安いものだと思った……67年間の人生で学んだ、最も大切な教訓の代金です……

次に、私は証拠を集め始めた……七奈さんのSNS投稿を、全てスクリーンショットで保存する……。「義母説得成功」「ババア老害駆除」……そんな言葉が並んだ投稿、一つ一つを記録していった……。健太とのメッセージ履歴も保存する……旅行代金の振り込み履歴も、スマートフォンで写真を撮った……クレジットカードの明細も確認して、保存しておく……

証拠は、全て揃った……。長年看護の現場をやってきた私は、記録の大切さをよく知っている……カルテの記録、患者さんの状態の記録……全ては証拠になる……それは今回も同じことだった……

私はタブレットを取り出して、弁護士事務所にメールを送った……。
「詐欺での相談を希望します。証拠は多数あります。」

すぐに返信が来た……
「明日14時に面談可能です。お待ちしております。」

弁護士との相談……これで準備が整った……。

でも、私の準備はこれだけではない……。

ふと思い出したことがあった……健太夫婦のマンション……実は、連帯保証人は私だった……以前、契約書の写真をスマートフォンで撮っていたことを思い出した……月15万円の家賃……契約書を確認すると、やはり私の名前があった……

そして、私はある電話をかけることにした……健太の会社の人事部長さん……実は40年以上前、私が看護師として働いていた病院で一緒に勤務していた方だ……今では、健太の会社で人事部長をされている……
「もしもし、田中さん?お久しぶりです。藤崎です。」

「け子さん?お久しぶりですね。お元気でしたか?」

「え、元気にしていますよ……実は、息子のことで少しご相談が。」

「健太さんのことで?どうされたんですか?」

私は深呼吸をしてから、話し始めた……
「息子が、私のお金を騙し取ったんですよ。」

電話の向こうで、田中さんが息を飲む音が聞こえた……
「まさか……でも、それが本当なら、大変です……詳しく聞かせていただけますか?」

私は経緯を説明した……田中さんは、静かに聞いてくれた……
「け子さん、それは会社としても看過できない事態かもしれません……お手数ですが、会社での評価に影響することを、ご理解いただけますでしょうか?」

「わかりました。」

電話を切ってから、私は自分の銀行口座を確認した……これまでたくさんのお金を援助してきて、貯金はだいぶ減ってしまった……でも、幸いなことに大きな病気もせず、67歳の今も元気に働けている……体が動く限り、まだまだ働ける……そして3営業日後には、キャンセルした206万円が返金される……。

これまで息子家族のために使ってきたお金……これからは、自分のために使います……何より、誰にも縛られない自由が手に入った……それが、何よりも価値があると思えた……

私は弁護士にもう一通、メールを送った……健太夫婦のマンションの連帯保証人契約を解除したい……と……それから、孫たちへの教育費、月6万円の停止手続き、夕食作りと保育園の送り迎え、全て、今日で終わりにします……

さあ、始めましょうか……積み上げてきた私の人生を、取り戻す時なんです……

私は空港のカフェに入った……コーヒーを注文して、窓際の席に座る……温かいコーヒーの香りが、心を落ち着かせてくれた………。

窓の外を見ると、遠くに健太たちの姿が見えた……ここからはちょうど保安検査場がよく見える……3人ともまだ笑っている……まさか自分たちの旅行がキャンセルされているなんて、夢にも思っていないんでしょうね……

私は静かに微笑みながら、コーヒーを一口飲んだ……「そろそろ、気づく頃です……」

時計を見る……健太たちが保安検査場に向かう時間……さあ、どうなるでしょうか……

私は窓越に、健太たちの様子をこっそりと見ていた……3人は笑顔で、保安検査場の係員にパスポートを渡そうとしている……楽しいハワイ旅行が始まると、信じて疑っていない……。

その時です……係員が何か言っているようだった……健太の表情が変わったのが、遠くからでも分かった……驚いたような、信じられないような顔をしている……七奈さんも慌てて、係員に何か言っている……雅子さんは、怒っているようにも見えた……3人とも激しく動揺している様子が、ここからでもよくわかる……

そして健太が、スマートフォンを取り出した……。

私のスマートフォンが鳴る……

予想通り、健太からの着信だった……私は静かに微笑んで、電話に出た……
「もしもし。」

「ちょっと、母さん!何してるんだよ!今すぐキャンセルを取り消せ!」

健太の声は、パニックに満ちていた……窓の向こうで、健太が激しく動いているのが見える……私は冷静に答える……
「あら、健太じゃない……どうしたのよ?もう保安検査場?順調じゃないの?」

「順調なわけないだろ!! 」

「母さん、お願いだ!今すぐ予約し直してくれ!」

「え、だって、あなたたち『お金だけ置いて帰って』って言ったでしょう?だから、旅費は返してもらいましたよ。」

私の声は、とても穏やかだった……電話の向こうで、七奈さんが叫ぶ声が聞こえる……窓越に見ると、七奈さんが健太から電話を奪ったようだ……
「お母さん!ふざけないでください!今すぐ予約し直してください!私たち、ハワイに行くんです!」

七奈さんの声が震えている……遠くからでも、その焦りが伝わってきた……私は優しく答えた……
「あら、七奈さん……『老害』の私に、何を期待してるんですか?」

「何ですって!? 」

七奈さんの声が裏返る……窓の向こうで、七奈さんが何か叫んでいるのが見えた……
「それに、私はもう『外の人』ですから。本当の家族の旅行に、口出しできませんよ。」

「そんなこと言ってる場合じゃ……」

「あなたが、そう言ったんですよ……『私は外の人だ』って……。」

今度は、健太が電話を奪い返したようだ……窓越に、健太が頭を抱えているのが見えた……
「母さん、頼む!後で謝るから!今は本当にお願いだ!」

健太の声は、泣きそうになっていた……でも、私の心は動かない……
「謝罪は結構です……それより、楽しい思い出、作れそうですか?」

「母さん……!!

Thumbnail

「あ、そうだ……ハワイの素敵な写真、SNSに載せるんでしたよね?」

今度は、雅子さんが電話を奪ったようだ……窓の向こうで、雅子さんが激しく怒っているのが見える……
「け子さん、あなた、何考えてるの!? 楽しみにしてたのに!どうしてくれるの!? 」

私は静かに言った……
「雅子さん、あなたは私に、『お金だけもらっておけばいい』とおっしゃいましたよね?」

「それは……」

「言いましたよ……半年前、偶然お会いした時に……だから、お金は返してもらいました……それだけのことです。」

「け子さん、あなた……!! 」

「それに、『皺だらけで教養のない私では、一緒にいて恥ずかしい』んでしょう?だから、これでいいんですよ。」

健太の声が割り込んできた……窓越に見ると、健太が電話を奪い返したようだ……。
「母さん!聞いてたのか、空港での話を!?

「え、全部、空港で言われたことも、七奈さんのSNSも、全部、聞いていましたよ。」

七奈さんの悲鳴のような声が聞こえてくる……
「SNS!? どういうこと!? 」

窓の向こうで、七奈さんが真っ青な顔をしているのが見えた……
「ハッシュタグが『#金だけ出せ』でしたっけ?私の絶望した顔を、写真に撮る予定だったんですよ?」

「それはその……冗談で……」

「冗談?247人が『いいね』した、冗談ですか?」

七奈さんが言葉に詰まるのが、電話越しにわかる……。
「大丈夫……私も、スクリーンショット全部取らせていただきましたから……証拠としてね。」

健太が慌てて聞いてくる……
「証拠!? 母さん、何をする気だ!?

まさか……」

「え、明日、弁護士と相談するんですよ……詐欺罪について。」

「詐欺!? そんな……母さん……!! 」

窓越に、健太が絶望的な表情をしているのが見えた……
「それと健太、あなたの会社の人事部長さん、田中さんにも、お話ししましたよ。」

健太の声が裏返る……
「何!? 田中部長に!?

「え、息子が母親の私からお金を騙し取ったこと、とても真剣に聞いてくださいましたよ。」

電話の向こうで、健太が呻くような声を出した……窓の向こうでも、健太が崩れ落ちそうになっているのが見える……
「母さん……そんな……!! 」

「でも、私にはまだ、伝えることがあります……それから、マンションの連帯保証人、解除させていただきますからね。」

「母さん、それは困る!そんなことされたら……!! 」

健太が叫ぶ……
「『外の人』が連帯保証人というのも、おかしいですものね。」

「母さん、お願いだ……!! 」

「それから……あと、陸君と桜ちゃんの教育費、月6万円……今月から、停止します。」

七奈さんの悲鳴のような声が上がった……窓越に見ると、七奈さんが泣き崩れているようだった……
「そんな!!

子供たちの習い事、全部できなくなるじゃないですか!! 」

「『貧乏ばあちゃん』には、お金がありませんから……」

私は淡々と続ける……
「それと、夕食作りも、保育園の送り迎えも、全て、今日で終わりです。」

「お母さん、待ってください!! お願いです!! 」

健太が泣きそうな声で言う……
「母さん、頼む!謝るから!本当にごめん!許してくれ!!

窓越に、健太が土下座しているのが見える……。
「許す?健太……あなたは、私に『もう連絡しないで』と言いましたよね?」

「それは……あの時は……」

「……これが、最後の連絡です。」

雅子さんが怒りをぶつけてくる……
「け子さん!! あなた、本当にこんなことして、許されると思ってるの!? 」

私は静かに答えた……
「雅子さん、本当の家族で、ハワイ旅行、楽しんでくださいね。」

「当たり前でしょう!! 私たちは本当の家族なんだから!!

「あ、でも……飛行機のチケットありませんでしたね。」

雅子さんが絶句するのが分かった……電話の向こうで、七奈さんが泣き崩れる声が聞こえてくる……窓越に見ると、七奈さんがその場に座り込んでいた……健太が必死に言う……
「母さん!? 待ってくれ!! 今からでもなんとか……!! 頼む!!

俺が悪かった!! 」

「さようなら……そして、二度と私の前に現れないでください……」

「母さん……!! 」

私は最後に、こう言った……
「誠実に生きてきた私を、『お荷物』扱いした報いです。」

そして、電話を切った……。

窓の向こうで、健太が私の名前を叫んでいるのが見えた……でも、もう声は届かない……

すぐにまた、着信が入る……健太から、七奈さんから、雅子さんから……何度も、何度も、着信が続く……窓越に見ると、3人とも必死に電話をかけている様子だった……でも、私はもう出ない……静かに、着信拒否の設定をした……

カフェのウェイトレスさんが、声をかけてくれる……
「お客様、お変わりいかがですか?」

私は微笑んで答えた……
「え、お願いします……今日はいい日だから、ゆっくり過ごしますわ。」

温かいコーヒーが、また運ばれてくる……一口飲むと、とても美味しく感じた……窓の外を見ると、健太たちは呆然と立ち尽くしていた……空港の出発案内板には「出発済み」の表示……もちろん3人は乗っていない……

私はコーヒーを飲み終えて、カフェを出た……空港の外に出ると、タクシー乗り場があった……タクシーに乗り込む……運転手が聞いてくる……
「お客様、どちらまで?」

私は答えた……
「素敵なホテルへ……お願いします。」

「ホテルですか?お泊まりで?」

「え、今日は、自分へのご褒美なんです。」

運転手さんが微笑む……
「それは良いですね……承知しました。」

タクシーが動き出した……窓の外の景色を見ながら、私は思った……「初めて、自分のために生きる……」そんな日が、来たんですね……

その夜、私は都内の高級ホテルにチェックインした……
「藤崎様、スイートルームへご案内いたします。」

フロントの方が、丁寧に案内してくださる……部屋に入ると、大きな窓から美しい夜景が広がっていた……東京タワーが、キラキラと輝いている……こんな贅沢をしたことは、ありません……

私はルームサービスで夕食を注文した……美味しそうな料理が運ばれてくる……一人で、ゆっくりと味わった……

スマートフォンを見ると、健太からの着信履歴が、147件もあった……七奈さんからメッセージも届いている……
「お母さん、お願いです……許してください……全部、私が悪かったんです。」

雅子さんからも……
「け子さん、大人なんですから、話し合いましょう。」

でも、私は全て、無視した……今更、何を言っても遅い……

翌日、私は弁護士事務所を訪れた……弁護士の先生が、証拠を丁寧に確認してくださる……
「藤崎さん、これは明確な詐欺罪が成立する可能性があります……SNSの投稿、メッセージ履歴、お金の流れ……全てが証拠として揃っています……そして、計画的な犯行……刑事告訴も可能ですよ。」

でも、私は少し迷った……実の息子を刑事告訴するというのは……。弁護士の先生は、優しく言ってくださった……
「お気持ちは分かります……では、民事での損害賠償請求はいかがでしょう?」

「それも、考えておきます……ただ、もう二度と、関わりたくないんです……私には、残りの人生を穏やかに過ごす権利があると思うんです……」

あの日から、1週間が経った……健太たち家族には、次々と問題が振りかかっていたようだ……健太は、会社で人事部長に呼び出されたそうだ……ボーナスの査定に影響が出ても、見送られた……マンションの管理会社からも連絡があったとか……連帯保証人が解除されたため、保証会社と契約することになり、追加費用が発生したそうだ……陸と桜の習い事も、月6万円が払えず、3つのうち2つをやめることになった……夕食作りや保育園の送り迎えも、全て七奈さんが負担することになり、疲れきっているようだ……雅子さんに頼もうとしても、「私は忙しいの」と断られたとか……七奈さんが実家に泣きついても、「自業自得でしょ」と冷たく言われたそうだ……

健太は、公開していると風の噂で聞いた……
「母さん……俺は、取り返しのつかないことをしてしまった……」

そう呟いているそうだ……

一方、私の新しい生活は、とても充実していた……返金されたお金で、せっかくだから国内旅行を楽しむことにした……京都の高級旅館に泊まった……温泉にゆっくり浸かり、美味しい懐石料理もいただいた……一人旅の自由さ、誰にも気を使わない幸せ……こんなに心が軽いなんて、思いもしませんでした……旅先で出会った同年代の女性たちとも仲良くなった……
「やっと、自分の人生を生きられるようになった……」

そう話すと、皆さん共感してくださった……

訪問看護のパートも、少し減らすことにした……自分の時間をもっと大切にしたいと思った……その時間で、水彩画教室にも通い始めることにした……それから、読書会にも参加している……友人たちとの旅行も、計画することにした……穏やかで、充実した日々が続いている……

それから、1ヶ月が経ったある日のことだった……外出から戻ると、自宅の前に、健太が立っていた……随分やつれた顔をしていた……疲れきった様子が、見てすぐに分かった……
「母さん……」

健太は、その場で土下座をした……
「健太……?」

私は、静かに名前を呼んだ……
「本当にごめん……俺が、全部悪かった……許してくれとは、言わない……ただ、謝りたくて……」

私は、しばらく黙っていた……そして、聞いた……
「健太……あなたは、私に何と言ったか、覚えてる?」

健太は、俯いたまま答える……
「……『外の人』だと……『老害』だと……言った……」

「そうよね……だから、『外の人』に謝る必要なんて、ないのよ。」

「母さん……」

「母さんは、あなたたちが本当の家族で、幸せに暮らせることを願っています……さようなら。」

私は健太に背を向けて、家の中に入った……ドアを閉めると、健太の嗚咽が聞こえてきた……でも、私は振り返らなかった……もう、涙は出ないんですね……

私はリビングで、温かいお茶を入れた……窓から差し込む柔らかな光が、部屋を優しく照らしている……テーブルには、京都旅行の写真……水彩画教室で描いた作品……それらを見ながら、私は穏やかな笑顔になった……

ずっと、我慢してきた……でも、もう我慢する必要はない……自分を大切にしてくれない人のために、自分を犠牲にする必要はありません……今、私は本当に自由で、幸せです……これが、私の新しい人生の始まりなんです……

もしあなたも、同じような息のない扱いを受けているなら……一人で抱え込まないでください……あなたには、自分を守る権利があります……そして、幸せになる権利もあるんです……年齢は関係ありません……何歳からでも、新しい人生は始められます……勇気を持って、一歩踏み出してください……きっと、素晴らしい未来が待っていますから……