長男が突然、「結婚する」と切り出したのは、家族揃っての夕食の席だった。私は箸を止め、隣に座る娘のももかも、驚いたように兄の顔を見つめた。
ほんの数ヶ月前まで、結婚はまだいいと言っていた息子からの、あまりにも唐突な報告だった。
「お相手はどんな人なの?どこで出会ったの?」
私と娘は矢継ぎ早に質問を浴びせた。息子は一つずつ丁寧に答えた。彼女の名はアカリさん。息子と同い年の三十歳。仕事はコンビニの週二日勤務で、友人の紹介で知り合い、交際期間は半年ほどだという。
交際半年での結婚。正直、私は心に引っかかるものを感じた。純粋で恋愛経験の少ない息子が、相手をしっかり見極められるとは思えなかった。娘も「早すぎる」と反対したが、息子はもう決めた様子だった。
すぐに顔合わせの日がやってきた。初めて会ったアカリさんは、確かに人当たりの良さそうな女性だった。だが、ももかに挨拶をした瞬間、彼女の態度が変わった。
「あれ?はる君って、妹いたんだっけ?」
彼女はももかを頭の先から爪先までじろじろと見渡した。何か引け目を感じているのか、それ以来、彼女はももかに対して嫌な態度を取るようになった。さらに、結婚後も家族と交流を続けると言った息子に対して、彼女ははっきりと言い放った。
「何言ってるの?結婚したら、実家の家族なんて関係ないわよ。私は自分の家族には会いに行ったりしないし、信じられない」
私は返す言葉を失った。その場は何とか収まったものの、彼女の言葉は私の中で引っかかり続けた。
そして、彼女が家に遊びに来た時のこと。彼女は突然、私に家の掃除を押し付けてきた。
「仕事の方は、もうやめたから。うちの家賃収入もあるし、これからは定期的に来て家事をやってよ」
彼女は私のことを「家にずっといる規制中にはぴったり」と笑う。家賃収入のことは家族しか知らない秘密だった。それを彼女が知っているということは、息子が話してしまったのは明らかだった。
「そんな財産があるなら、うちは安泰ね」
彼女の目が、お金に輝いているのが分かった。だが、もう後には引けなかった。息子は結婚し、私はアカリさんのいいなりになっていった。
掃除をしても、買い物から帰ると「やり直し」と言われる。こき使われる日々。言い返せない自分が情けなかった。そして、ついに彼女は言ったのだ。
「年金暮らしとは絶縁するから」
突然の絶縁宣言。動けなくなる前に、私を捨てるつもりだと言う。私は震える声で、しかしはっきりと尋ねた。
「なら、私の財産は本物の娘にあげるわね」
彼女は驚いた顔をした。彼女が私の財産を狙っていたことに、ようやく気づいたのだ。その直後、息子とももかが迎えに来た。私は全てを話した。彼女が私にしたこと、財産目当てで息子と結婚したという白状も。
「お金にしか目がない人はかわいそうだわ」
アカリさんは開き直った。それに対して、息子がようやく口を開いた。
「俺の家族を大切にしない人とは、家族にはなれない」
息子はアカリさんに離婚を告げた。二人は離婚し、アカリさんは実家を追い出されたと聞いた。私は改めて思う。私の家族は、ここにいる二人娘と息子こそが、一番の宝物だと。

