吹雪の晩、実の息子に家を追い出された老夫婦が、行き倒れの一人の少年と出会いました。食べ物も、着る物も、何も持たない二人が、すり切れた羽織一枚を、その見知らぬ子供に掛けたのです。その後、少年は言いました。「拾ってくれた人が言っていた。助けられたら、恩を返さねばならないと」…

吹雪の晩、実の息子に家を追い出された老夫婦が、行き倒れの一人の少年と出会いました。食べ物も、着る物も、何も持たない二人が、すり切れた羽織一枚を、その見知らぬ子供に掛けたのです。その後、少年は言いました。「拾ってくれた人が言っていた。助けられたら、恩を返さねばならないと」...

吹雪の晩、一軒の古びた病のそばの小屋に、年寄りの夫婦がたどり着いた。行く当てのない二人を待っていたのは、凍えきった一人の少年だった。

その日、総兵とお雪は、一人息子の大輔から家を追い出された。大輔は、妻の言葉に従い、年老いた両親を真冬の吹雪の中へ放り出したのだ。

「せめて、この冬だけは…」
お雪が土間に手をついて訴えても、息子の目は最後まで父母を見ようとはしなかった。

「父上も母上も、これ以上この家に置くことはできぬ」

総兵は何も言わなかった。ただ、仕事場に立てかけたままの未完成の箏を一度だけ見つめ、妻の手を取って家を出た。

吹雪は容赦なく二人を襲った。杖をつく総兵と、その腕にすがるお雪は、言葉もなく歩き続け、やがて山際の崩れかけた小屋にたどり着いた。風をしのぐだけのその場所にも、寒さは容赦なく染み込んだ。

お雪が、たった一枚の羽織を少年に掛けた。

総兵が目にしたのは、小屋の奥で縮こまる小さな影だった。唇は紫色に変わり、動く気配もない。だが、息はあった。

言葉は要らなかった。二人はその少年を守ることにした。

少年は鉄之助といった。親の顔も、自分がどこから来たのかも、ほとんど覚えていない。ただ、拾ってくれた老婆から言い聞かされた言葉だけを胸に刻んでいた。

「助けられたのなら、その恩を返さねばならぬ」

鉄之助は、凍える夜の中、崩れたかまどの残り火を探し出し、かじかむ手で石を打ち続け、ようやく火を起こした。翌朝からは、村へ下りて食べ物を乞うた。冷たく追い返されることもあったが、芋を半分分けてくれる家もあった。

お雪の病は、日ごとに重くなった。鉄之助は、薬を求めて村中を駆け回った。金のない少年に薬を渡す医者はおらず、鉄之助は涙ながらに働きを申し出て、重い斧で薪を割り、ようやく一服の薬を手に入れた。

夜、小屋に戻ると、鉄之助は手に入れた食べ物をまず夫婦に差し出した。自分は空腹に耐えながら、お雪の息遣いが乱れるたびに跳ね起きた。

「なぜ、そこまでしてくれるのだ」
熱が少し引いたある日、お雪が尋ねた。

「拾ってくれたおばあさんが、恩を返さねば人ではないと言っていた」
鉄之助はそう答え、少し迷ってから付け加えた。
「でも、今はそれだけではない。おばあとおじいのそばにいると、なぜか胸が温かくなるのだ」

お雪は涙をこぼし、震える手で「うちの子、うちの子」と呟いた。

ある日、お雪の容体が再び急変した。鉄之助は、藁にもすがる思いで旅の薬売りにすがった。薬売りが教えてくれたのは、険しい崖にしか生えない薬草のことだった。子供一人では無理だと止める薬売りの手を振りほどき、鉄之助は雪の山へと駆け出した。

崖は、目もくらむほど高く、冷たい岩は滑りやすかった。指先から血が滲み、膝を岩に強く打ちつけながら、少年は登った。足場が崩れ、体が宙に浮いた瞬間、反射的に伸ばした指が岩の縁に引っかかった。下を見れば、深い谷底があるだけだった。死にものぐるいで体を支え、再び登り始めた。

ようやく崖の割れ目に目的の草を見つけた時、指先は感覚を失っていた。なんとか袖の内側に押し込むようにして、鉄之助はその命の草を懐へとしまい込んだ。

小屋に戻ると、総兵が立って待っていた。血まみれの少年を見た老人の顔が、恐怖に歪んだ。鉄之助は自分の傷よりも先に、その小さな手のひらの草を総兵に差し出した。薬草を握らせた途端、少年は力なくその場に崩れ落ちた。

総兵は、動かぬ鉄之助の手当てをしながら、古い巾着が破れているのに気づいた。中から現れたのは、立派な会見。その鍔には、雲の中に翼を広げた鳥の紋が打たれていた。

この子は、ただの物乞いではない。

翌日、鉄之助が目を覚ますと、総兵はその会見の来歴を尋ねた。鉄之助が知っているのは、8年前、黒岩に近い山道で倒れていたところを老婆に拾われたということだけだった。

数日後、総兵は初めて一人で市へ下りた。寺の門前に張られた一枚の紙に、老人は足を止めた。ある家が、8年前に行方知れずとなった孫を探しているという。見分ける品として、鍔に雲と鳥の紋を打った会見があると書かれていた。

総兵は、震える手で懐に触れた。胸の内で、二つの思いが戦った。この知らせを届ければ、鉄之助は恵まれた暮らしを取り戻せるだろう。しかし、あの子を手放さねばならぬかもしれない。たった一冬の間だが、鉄之助は総兵にとって、実の息子にも劣らぬ存在になっていた。

総兵は一晩考え、翌朝、名主の元へ向かった。自分の子に追い出された恥も、これからの孤独も、すべて飲み込んで、真実を告げた。名主は、すぐさまその家、髪桶へと案内した。

髪桶の当主、宗衛門は、白髪の目立つ老人だった。総兵が会見と巾着を差し出すと、その顔色は真っ白に変わった。左肩にある三日月の痣のことを聞かれ、孫の名前が鉄丸だと聞かされ、すべてが一致した時、宗衛門は声を上げて泣いた。

「お前こそ、8年前に見失った我が孫じゃ」

その日の夕暮れ、宗衛門は家来を連れて小屋を訪れた。孫を屋敷へ連れて帰ると言う宗衛門に、しかし鉄之助は動かなかった。総兵とお雪の前に立ち、少年は涙をこぼしながら言った。

「血は繋がっておらんが、この二人は私にとって親でございます。この二人がおらねば、私はあの雪の晩、もう死んでいた。置いていくことはできませぬ」

その言葉を聞いた総兵は、鉄之助の肩を掴み、宗衛門の方へと押しやった。

「早く行け。良い場所で良いものを食べるのだ。この子のおかげで、わしらは命をつないだ。それだけで十分じゃ」

しかし鉄之助は、老人の手を握って離さなかった。押し合ってはまた握る。それが繰り返されるうち、生涯涙を見せまいとしてきた総兵の目からも、涙がこぼれ落ちた。

宗衛門は、その光景を静かに見つめていた。そして、歩み寄り、鉄之助の手が握る総兵の手の上に、自分の手を重ねた。その上に、お雪の震える手も重なった。

「この二人も共に屋敷へ連れて行く。この子がこの二人を親と思うなら、わしもまた、そのように敬おう」

その言葉に、鉄之助はようやく声を上げて泣いた。8年の悲しみも、飢えた日々も、崖で手が滑った瞬間も、すべてがその涙と共に溶けていくようだった。

その晩、四人は連れ立って山を降りた。鉄之助は体の弱ったお雪を駕籠に乗せ、自分は総兵の傍らを歩いた。

髪桶の屋敷は、冬の夜にも温かな明りが漏れる大きな屋敷だった。宗衛門は自ら女中たちに特別な膳を用意させた。最初こそ戸惑いを見せていた使用人たちも、鉄之助が幼子のようにお雪の世話を焼く姿を見るうち、その表情は温かいものへと変わっていった。

その頃、大輔の元にも、両親が髪桶に迎えられたという噂が届いていた。縁を利用しようと考えた大輔は、屋敷を訪ね、店を立て直すためにもう一度戻って箏を作ってくれと頼み込んだ。

「父上の腕が泣ければ、店はもう立ち行かぬのだ」

総兵は静かに首を横に振った。
「屋敷を返すと申しても、お前が壊した家族の絆は、もう元には戻らぬのだ」

大輔はそれ以上、何も言えなかった。不正な証文は名主の前で効力を失い、屋敷だけは正式に大輔に譲られた。しかし、仕事場は閉じさせられ、看板と道具は引き上げられた。かつて木を削る音が響いていた場所には、もう何の音もなかった。

冬が過ぎ、春が訪れた。髪桶の庭では、老木が新しい芽を吹き出し、お雪の体も日増しに回復していった。

ある日、宗衛門が総兵に、仕事場を一つ用意させたいと言った。

「職人の手を休ませては、その腕が死んでしまう。それは、あまりにも惜しい」

総兵は自分の両手を見下ろし、ゆっくりと頷いた。そして、新しい仕事場で、まずかつての仕事場から引き取ってきたあの未完成の箏に取りかかった。鉄之助は、その音を好んで聞きに来た。総兵が中へ招き入れると、少年はいつかこれを一緒に仕上げさせてほしいと言った。総兵は、目を潤ませながら頷いた。

鉄之助は、総兵から木の選び方、糸の張り方を学び始めた。お雪から針仕事も教わった。秋、総兵は長い歳月を経て、あの箏をようやく完成させた。鉄之助も、初めて小さな稽古用の箏を仕上げた。素朴なものであったが、その音は美しく響いた。鉄之助がそれを抱えてお雪の前に差し出すと、四人はその音に耳を澄ませた。

それは、あの雪の夜に始まった、血のつがらない家族の物語だった。真冬の吹雪の中で、たった一枚の羽織がつないだ、温かな春の物語だった。

それから幾年月が流れ、鉄之助は総兵から受け継いだ箏作りの技を磨き、やがて名の知れた職人になった。冬になると、彼は度々あの山の小屋を訪れ、崩れた屋根の下で、あの雪の夜のぬくもりを胸に刻み直したという。

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