あの日、銀行の窓口で若い行員にこう言われたんです。「貧乏人はATMでもしとけ」と。私は清掃会社を経営する65歳の社長です。いつも通り給料振り込みのため、作業服のまま郵便局に寄ったのが間違いでした。彼は私の服装を見て、見下すような目で笑ったんです。でも私は何も言い返さなかった。それが後々、あの銀行を揺るがすことになるなんて、あの時は知る由もなかったんです。私はその日、ある決断をしました——そし…

あの日、銀行の窓口で若い行員にこう言われたんです。「貧乏人はATMでもしとけ」と。私は清掃会社を経営する65歳の社長です。いつも通り給料振り込みのため、作業服のまま郵便局に寄ったのが間違いでした。彼は私の服装を見て、見下すような目で笑ったんです。でも私は何も言い返さなかった。それが後々、あの銀行を揺るがすことになるなんて、あの時は知る由もなかったんです。私はその日、ある決断をしました——そし...

「貧乏人はATMでも使ってろ」——窓口係の青年が、はっきり聞こえる声で言った。俺は柏木勇太郎、65歳。小さな清掃会社を経営している。父から継いで40年、社員たちと一緒に今も現場で汗を流してきた。会社は大きくないが、地域に愛され、社員同士も家族のようだ。清掃業なんてと馬鹿にする者もいるが、オフィスも商業施設も、俺たちがいるから綺麗に保たれる。そう信じて誇りを持って働いてきた。

銀行にはいつも窓口を利用していた。機械に疎いからだ。近くに大手銀行の支店があり、対応も良いので重宝していた。中でも最近入ったばかりの板倉という若い行員は、最初は感じが良かった。テキパキと仕事をこなし、笑顔も絶やさない。新人にしてはしっかりしていると思っていた。

だが二度目に窓口へ行った時、彼は小声で呟いた。「ねえ、2万円ぽっちで窓口まで来てんじゃねえよ」耳がいい俺にははっきり聞こえたが、大人げないし待っている人もいるので無視した。だがその後も担当が板倉になるたびに嫌味が続いた。最初は独り言のようだったのが、次第に聞こえるように、そしてわざと見下すように。それでも会社から近くて便利だから我慢していた。彼もそのうち興味を失うだろうと思った。

しかしある給料日、事態は決定的になった。朝からどうしても外せない現場作業があり、戻った時には時間がなかった。給料は朝10時までに振り込むのが俺の会社の決まりだ。着替える時間も惜しく、俺は汚れた作業服のまま銀行へ向かった。銀行内は混雑していた。番号札を取って待つと、呼んだのは板倉だった。めまいがしたが、並び直すのも無駄だ。

「きたねえ服」
窓口に着くなり、彼は顔をしかめて言った。俺は振込用紙を差し出したが、彼は見ようともしない。
「こんなボロボロの薄汚れた服で銀行に来て恥ずかしくないんですか?」
「朝から仕事があったんだ」
「銀行来る前にせめて着替えて来れますよね。そんな汚い格好で来るなんて普通考えない」

堪りかねて言い返すと、彼は見下すように笑った。
「あなたのこと、客だなんて思ったことありませんから」

その言葉に怒りを通り越して呆れてしまった。そして彼は最後にこう放った——
「貧乏人はATMでもしとけ」

俺は拳を握りしめ、言い争いをやめて並び直した。別の窓口で振り込みを済ませ、その足で息子に相談した。息子はネットでの振込を教えてくれた。最初は戸惑ったが、覚えれば銀行に足を運ぶ必要すらない。次の休みに駅前の銀行で新しい口座を開き、ネット登録を済ませた。そして翌日、今まで世話になった銀行を訪れた。

解約の手続きを申し出ると、行員は慌てて個室へ案内した。しばらくして店長の山田という男性が現れた。
「口座内の500億円全額を別の口座に移すとのことですが、よろしいですか?」
「ああ。駅前の銀行にな」

実は俺の口座には500億円が入っていた。法人と個人の二つを持っていて、普段は個人用を使っている。板倉は給料日の時も振込用紙すら見ずに罵倒していたが、あれは法人用の取引だった。

店長が解約理由を尋ねてきたので、正直に話した。
「板倉さんに『貧乏人はATMでもしとけ』と言われましたので」
店長は顔色を変え、板倉を呼びつけた。
「君はこの方に失礼なことを言ったらしいな。謝罪しなさい」
「は? 嫌ですよ。俺は間違ったこと言ってない」
「毎回毎回、少額のくせに窓口に来て迷惑だと言ったまでです」
「金額の大小で対応を変えるなど、教えたつもりはない。しかも柏木様は会社の経営者だ。500億円を解約されると言っているんだ」
「はあ? 500億? いつも少額だったのに」

俺は口を挟んだ。「それは法人用の口座じゃなくて、俺のプライベートの口座の方だよ。普段使ってるのはな」

板倉は一瞬固まり、急に態度を変えて頭を下げ始めた。
「反省してます。今後は気をつけます」
「店長から何度も注意されていたようじゃないか。治らないのは反省してないからだろ」
「人を下に見る態度が直らなければ、どこに行っても同じだ」

店長は板倉に言い渡した。
「君には責任を取ってもらう。地方の支店へ異動だ」
板倉は反抗したが、結局それを拒否し、自ら退職した。その後、彼は定職に就けず、アルバイトで食いつないでいると聞いた。小さな街だから噂はすぐに広がる。

俺は今、新しい銀行のネットサービスにすっかり慣れた。便利さに驚き、もっと早く試せば良かったと思っている。今回の出来事を教訓に、新しいことにも挑戦していこう。清掃会社の社長として、残りの人生も前を向いて働き続ける。

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