「お前は毎日、画面の前に座っているだけだな。無能が。」
その言葉が、俺の限界を超えさせた。俺は佐藤健太、43歳。大手IT企業で課長として働き、部下からの信頼も厚いと自負していた。数ヶ月前に他社から引き抜かれてきた鈴木部長の高圧的な態度には、ずっと耐えてきたが、部下たちが傷つけられるのを見るのはもう我慢ならなかった。
「俺がいなくなると大変なことになると思いますが、そこまで言われて黙っていられないので、やめます。」
そう言って、用意していた辞表を部長に差し出した。部長は鼻で笑いながら、「お前にできることは部下でもできる。無能はさっさとやめろ」と受け流した。俺は何も言わずにその場を去った。妻のみか子だけが、俺の心の支えだった。
数日後、会社から何度も着信があった。無視していたが、しびれを切らした社長からの電話で、取引先から大量のクレームが来ていることを知らされた。俺が開発した飲食店予約システムは、俺にしか更新できない部分が多く、放置すれば会社は多額の損害を被ることになる。仕方なく会社へ向かうと、社長は謝罪し、復帰を懇願してきたが、俺は断固として拒否した。
「このような部長がいる会社に戻るつもりはありません。部下を尊重しない上司は、会社の成長を止めます。」
そう告げると、隣にいた部長は気まずそうに目をそらした。そして、俺はこう付け加えた。「友人の会社からヘッドハンティングの話があり、次の就職先は決まっています。そこには、人を罵倒するような者は誰もいません。」
実は、俺は外食が好きだったことから、飲食店向けの予約システムを数年かけて開発した。今では当たり前となっているが、当時は画期的で、導入する店舗は2300店舗にも登った。あのシステムが、今回のような問題を引き起こすことになるとは思いもしなかった。新会社でも、この経験を活かしてやっていくつもりだ。会社には部下への謝罪を伝え、最後に田中と目が合った。彼はサムズアップの笑顔を見せていた。もしあの会社が変わらなければ、田中も引き抜いてやろう。そう思って、俺は会社の扉を後にした。



