「確かお前、高卒だろ?無能とは関わらない」 商談先の担当者が、俺の学歴を知るなり嘲ってきた。その言葉に俺は耐えた。でも、彼はさらに踏み込んで俺の家族まで侮辱した。堪らず俺は、商談の席で決断を下した。――多額の契約金を目の前にして、俺はそれをつき返したのだ。彼の顔色が一瞬で変わった。翌日、会社中が騒然となった。上司から呼び出された俺に告げられた言葉とは…? 👇…

「確かお前、高卒だろ?無能とは関わらない」 商談先の担当者が、俺の学歴を知るなり嘲ってきた。その言葉に俺は耐えた。でも、彼はさらに踏み込んで俺の家族まで侮辱した。堪らず俺は、商談の席で決断を下した。――多額の契約金を目の前にして、俺はそれをつき返したのだ。彼の顔色が一瞬で変わった。翌日、会社中が騒然となった。上司から呼び出された俺に告げられた言葉とは…? 👇...

「確かお前、高卒だろ?」

病院の待合室で、初対面の男が開口一番そう言ってきた。商談先の担当者・病井は、俺の履歴書を見るなり嘲笑を浮かべた。

「うちの会社は高学歴の人間ばかりなんだ。無能とは関わらない。正談は諦めることだな」

俺はその言葉を無視した。すると病井は、俺の無反応が気に入らないようで、さらに畳みかける。

「今時高卒なんて珍しいよな。よっぽどの理由がないとありえないだろう。もしかして親父さんのギャンブル絡みとか?それとも親の浮気が原因で勉強が手につかなかったとか?」

よくもまあ、ありもしないことをペラペラと。俺の拳が震えたその瞬間、商談室のドアが開き、水希さんが戻ってきた。

水希さんは病井の姿を見るなり眉をひそめた。俺は水希さんに向かって、契約に関するある重大な決定を告げた。

俺の名前は成瀬竜之助。おもちゃ製造会社「トイズファンタジー」で働く27歳だ。実はこの会社は、俺が生まれた頃に親父が創業した会社である。物心つく頃から、親父やその仲間たちが作り上げた試作品のおもちゃに囲まれて育った。

親父の発想力は豊かで、少年の心を見事にくすぐる商品ばかりだった。そんな環境で育った俺は、無意識のうちに「大きくなったら親父の会社で働く」ことが当たり前だと思っていた。

商業高校を卒業後、トイズファンタジーに入社した。大学に行きたい気持ちがなかったと言えば嘘になる。体格にも恵まれていたのでスポーツ推薦の話も一時は持ち上がっていたが、家庭の経済的事情もあって就職を選んだ。

でもその選択は間違っていなかったと、胸を張って言える。何より今は働くことが楽しくて仕方ないからだ。

トイズファンタジーはおもちゃ業界ではかなり小さなメーカーだ。だから大手のように新商品を発表しても、必ず販売してもらえるとは限らない。日の目を見ないまま消えていく商品だってある。

新商品が生まれるたび、いくつもの販売店に売り込みをかける。そうしてやっとお客さんの元に商品を届けることができるのだ。

俺は同じ会社の仲間たちと新商品を開発するのも好きだったが、それ以上に取引相手との商談が好きだった。商談は基本的にほぼ俺が担当している。つまり、みんなの汗と涙の結晶である新商品が成功するか失敗するかは、全て俺の手にかかっていると言っても過言ではない。このスリルがたまらない。

もちろん好きだからと言って緊張しないわけではない。毎回手のひらが汗ばむほど気を張っている。

「商談というものは常に緊張感を持って臨まなければならない」

親父からそう教わったからだ。俺は今日も親父の教えを胸に、商談相手の元へ向かっていた。

今回引っ下げてきた新商品は、小学校中学年から高学年を対象にした少女向けの商品だ。その名も「アクスタメーカー」。名前の通り、自分でアクリルスタンドを作れるおもちゃである。

この商品を最初に提案したのは、なんと今年入ったばかりの新入社員の女性だった。若い感性が生んだこの企画は、社内でも大きな話題になっていた。俺はその商品を抱えて、指定された商談室へ向かった。

商談室には、すでに担当者の水希さんが待っていた。水希さんは俺より10歳近く年上でありながら、きちんと礼儀正しく接してくれる人物だ。仕事は細やかで正確、レスポンスも早い。そのおかげでまだ30代でありながら、営業部の次期部長と噂されているほどだ。

席についた俺は、早速アクスタメーカーを水希さんに見せた。水希さんはかなり興味を示してくれた。

「面白いですね、これ。実際に手に取ってみても?」

「もちろんです」

俺が手渡すと、水希さんは真剣な表情で商品を検討し始めた。その目はプロの目だった。やはりこの人なら分かってくれる、と思ったのも束の間だった。

「ちょっと失礼しますね」

水希さんが席を外した後、病井が入ってきたのだ。そして冒頭の言葉が続いた。

「お前の会社、今年新入社員入れたらしいな?やっぱり無能でも雇わなきゃいけないからか?」

病井はなおも嘲弄を続けた。

「まあ、お前みたいな高卒がいる時点で、この取引自体が疑わしいんだよ。本当にまともな商品なのか?」

俺はその言葉に何も言い返せなかった。水希さんがいれば、きっと訂正してくれただろう。でもその場にいない。俺は歯を食いしばって耐えた。商談をぶち壊すわけにはいかない。この商品は、新入社員の彼女が一生懸命考えた企画なのだから。

水希さんが戻ってきた。病井は水希さんを見て、ニヤリと笑った。

「水希さん、ここの担当でしたっけ?ご苦労さまです。まあ、こんな大会社の営業部長が、こんなチンケな会社の相手をするのも大変でしょうけどね」

水希さんはその言葉に微かに眉を動かしたが、何も言わなかった。代わりに、俺の方を向いた。

「成瀬さん、続きをやりましょう」

俺は水希さんに、あることを告げた。

「水希さん。すみません、今日の商談はこれで終わりにさせてください」

水希さんは一瞬驚いた表情を浮かべたが、何かを悟ったようにゆっくり頷いた。

「分かりました。また改めて日を改めましょう」

「いえ。水上さん。この話、白紙に戻させてください」

水希さんの顔色が変わった。病井は呆気にとられた表情で俺を見ている。

「正気ですか?せっかくここまで来たのに」

「ええ、正気です。こんな人間と取引する会社には、この商品を届けたくない」

病井は怒りで顔を赤くした。

「何を偉そうに!高卒の分際で!お前みたいな無能が!」

俺は病井の言葉を遮って言った。

「確かに俺は高卒です。でも、この商品は俺一人で作ったものじゃない。会社のみんなで、汗を流して作り上げたものです。それを、あなたの偏見で貶される筋合いはありません」

病井はさらに何か言おうとしたが、水希さんが手を挙げて制した。

「――成瀬さん。お気持ちは分かりました。私の方から、会社に報告しておきます」

水希さんは病井を一瞥した。

「病井さん。あなたの今日の言動、全て報告書にまとめておきますので」

病井の顔色が青ざめた。水希さんは業界で知らない者はいない人物。その報告がどれほどの影響力を持つか、病井も理解していた。

俺はアクスタメーカーを片付けて席を立った。水希さんが俺の後ろで小さく声をかけた。

「成瀬さん。また、良いお取引をしましょう」

「ええ。必ず」

その後、水希さんの報告によって病井は会社から処分を受けたと聞いた。そしてトイズファンタジーの商品は、別の大手販売店を通じて多くの子供たちの手に渡ることになった。

新入社員の彼女が企画したアクスタメーカーは大ヒット商品となり、今でもトイズファンタジーの看板商品として愛され続けている。俺は今日も、親父の教えを胸に新しい商談へと向かう。

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