「お前じゃなくて、リホと結婚する。」
職場で出会った同僚と婚約し、私は幸せの絶頂にいた。結婚式まであと1ヶ月というところで、突然、彼から一方的に婚約を破棄されたのだ。
「悪いな。リホが俺の子供を妊娠したんだ。」
リホは私の実の妹。これまで何度も私の恋人を奪ってきた、あの妹だ。
「なんであんたが私の彼を取るのよ!」
「お姉ちゃんよりも私の方が似合ってるんでしょ。それに、彼は私を愛してるって言ってるよ。」
リホは勝ち誇ったように笑った。
「式の費用は俺が持つ。これで勘弁してくれ。」
「婚約破棄の慰謝料は払ってもらうわよ。」
「はあ?妹がこれから出産しようってのに、ひどい言い方だな。だからお前は振られるんだよ。」
彼は謝罪の言葉一つなく、当然のように去っていった。私は呆気に取られて、何も言えなかった。
翌日、母が私のアパートにやってきた。
「大丈夫?」
「うん。でも、仕事は辞めようと思ってるの。」
私は彼と同じ職場で働いていた。一方的に裏切られた以上、彼の顔を見るのも辛かったのだ。
「辞める必要はないわ。ここで踏ん張りなさい。」
「でも、顔を合わせるたびに思い出しちゃうから。」
「それなら、少し休みを取ってゆっくりしなさい。その間にきっと状況も変わるわ。」
母は何か考えているようだった。とにかく、私は衝撃と悲しみに打ちのめされていた。
私は香里、26歳。大手百貨店で販売員として働いている。数ヶ月前、同じ販売部のエースである大友と付き合い始めた。彼は私より4つ年上で、ハンサムな顔立ちだった。だから、社内でも多くの女性に人気があった。私なんかが彼に選ばれるなんて思ってもみなかった。私はどちらかと言うと地味な顔立ちで、性格もおとなしい方だ。積極的にアピールするタイプでもない。
しかし、ある日、彼の方から食事に誘ってくれたのだ。その席で「付き合ってください」と申し込まれた。
「どうして私なんですか?もっと素敵な女性はたくさんいますよ。」
「千里さんの落ち着いた雰囲気が好きなんだ。」
その言葉が嬉しくて、私は心から幸せだった。ただ、一つだけ心配事があった。
私には一つ違いの妹・リホがいる。彼女は小さい頃から私のものを欲しがる癖があった。高校生の時、初めて付き合った彼氏も、大学生の時に付き合った彼氏も、気づかないうちにリホに奪われていた。
「お姉ちゃんの彼氏は私がもらうからね。」
リホは冗談めかして言っていたが、実際にやったのだ。だから、今回も彼を奪われるかもしれないという不安が常にあった。それでも、大友は私を選んでくれた。リホとは違う、真面目な人だと思っていた。
そう思っていたのに…。
婚約破棄から数日後、リホが私の家にやってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「何しに来たのよ。」
「彼と結婚するんだ。祝福してくれない?」
「ふざけないでよ。あんた、また私の彼を奪ったんでしょ。」
「お姉ちゃんにはもっとふさわしい人がいるって。だって彼は私を選んだんだから。」
リホは笑顔でそう言った。私は無性に腹が立ったが、何も言い返せなかった。母に話しても「リホはそういう子だから」と取り合ってもらえないだろう。
私は会社を休み、実家に戻ることにした。家にいると、二人の幸せそうな姿を思い浮かべてしまい、気が狂いそうだったからだ。
実家の自室でぼんやりとしていると、リホが部屋をノックして入ってきた。
「お姉ちゃん、ちょっと話があるんだけど。」
「何よ。」
「彼、もしかしてまだお姉ちゃんのこと好きかも。昨日も私に『リホのこういうところはお姉ちゃんに似てるな』って言ってたの。」
「何が言いたいのよ。」
「私、不安になったの。お姉ちゃんが邪魔するんじゃないかって。」
「私はもう関わらないわよ。」
「本当?約束してよ。」
リホの態度に、私はさらに嫌悪感を募らせた。何も奪っていない。なのに、まるで私が悪者のように扱われている。
「約束できないわ。あなたたちのことはもう知らない。」
そう言って、私はリホを部屋から追い出した。
それから数日後、会社の同僚から連絡が来た。
「大友さんとリホさんが結婚するって聞いたんだけど、本当?」
「知らない。関係ないから。」
「でも、大友さん、リホさんと会うたびにあなたの話ばかりしてるよ。『俺のせいで千里さんを傷つけた。やり直せないか』って。」
その言葉に、私は混乱した。彼はリホと結婚するのに、そんなことを言っているのか?
「もういい。私は何も聞かないつもりだから。」
「いや、そんなの可哀想だよ。俺が大友さんを説得してやろうか?」
「やめて。余計なことはしないで。」
電話を切った後、私は考えた。彼がまだ私を好きだなんて、本当なのだろうか。もしそうなら、リホは一体何のために…。
そんな時、リホが突然家に飛び込んできた。
「お姉ちゃん!彼から逃げて!」
「はあ?」
「彼、暴力を振るうんだ。話し合いにならないの。私、お腹の子がいるから逃げられないけど、お姉ちゃんは逃げて!」
リホの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。私は驚いた。彼はそんな人だったのか?
「本当なの?」
「本当よ。今すぐ危険なの。信じて。」
リホの言葉に、私は信じられない思いだった。しかし、彼女の姿を見て、嘘ではないと感じた。
結局、私はリホと共に実家を離れ、しばらく身を隠すことにした。そして、その後、真実を知った。大友は暴力癖があり、リホも私も被害者だったのだ。リホは彼に脅されて私の彼氏を奪うことを強いられていたのだ。
私たちは警察に相談し、大友は逮捕された。リホは私に泣きながら謝った。
「お姉ちゃん、ごめん。全部私のせいだと思ってた。でも、全部彼に操られてたの。」
「もういいよ。私も責めるべきだったけど、あなたも被害者だったんだね。」
私たちは和解した。そして、リホは子供を産み、私たち姉妹は絆を取り戻したのだった。
あの日の出来事が、私にとって忘れられない試練だったことは確かだ。しかし、そのおかげで本当の妹との関係を築くことができた。
私は今も百貨店で働いている。いずれは幸せになるだろう。あの経験がなければ気づけなかったことだが、自分を大切にしてくれる人を見つけることが大事だと、今は強く思う。



