光は工場の入口に立った瞬間、空気の違いを感じた。コンサルタントが指示を飛ばし、作業員たちは戸惑いながら動いている。ラインの設定が乱れ、小さなミスが積み重なっていた。光は黙って機械を見つめ、数値を確認した。
「設定を戻せばいいだけだ。」
光は工具を手に取り、初期値に戻した。三分後、ラインは再び動き出した。作業員たちの間に安堵の息が広がり、誰かが親指を立てた。
しかし、工場長の橋本は納得しなかった。
「たまたまだ。お前ごときが口を出すな。」
橋本は光を会議室に呼びつけ、説明書を乱暴に押し付けた。光は自分のノートを机に置いた。ページにはラインごとの機械の動きと改善点が細かく記録されていた。
「私は独学で学びました。現場をよく見て、数値を記録してきただけです。」
橋本はノートを睨みつけたが、反論できなかった。作業員たちは静かに光を支持した。やがて、橋本は事務所へ引き下がり、コンサルタントに電話をかけたが、光の成果は揺るがなかった。
数日後、光の父が工場を訪れた。
「光、お前は私の自慢の娘だ。」
「照れます。でも、自慢より現場が好きです。」
父は工具箱を手渡し、微笑んだ。光はそれを受け取り、再び現場へ戻った。朝の点検表には、光の細かなメモが増え続けている。若い作業員が質問に来ると、光は図面の隅を指で示し、丁寧に教えた。
工場は少しずつ変わり始めていた。光の努力は、数字にも形にも現れていた。



