中学の同級生と再会した。彼女は今や取引先の社長夫人だ。昔からわがままで、ひどい言葉を平気で投げかけてくる女だった。その性格は四十歳を過ぎた今もまるで変わっていなかった。
「あんたの会社は、うちの会社がないと生きていけないんでしょ。ちゃんと私に尽くして、仕事がもらえるように頑張りなさいよ」
彼女は、私が抵抗できないと思っているようだ。平然とそんなことを言ってのける。私はもちろん、すぐに反論した。
「私に逆らうなんて生意気ね。別にいいわよ。私の一言で、あんたの会社なんてどうにでもなるんだから。そうね……取引を中止しちゃおうかしら」
それは脅しだろう。契約を解除したら、大きな損失になる。だからこそ、うちの小さな工場はいつも苦労しているのだ。彼女は自分の言うことを、何が何でも聞かせようと必死なようだ。だが、それでも私は思い通りに動くつもりはなかった。
「どうぞ、ご自由にどうぞ。社長夫人」
私は取り乱すことなく、彼女の申し出を受け入れた。取引を中止して困るのは、どちらなのか。身をもって知ればいい。
私は長岡弘樹。実家は町工場で、工業部品を作っている。今では私が二代目として会社を継ぎ、工場を動かしている。今でこそ少しは良くなったが、少し前までは経営状態がいいとは言えなかった。
父は少しでも現状をよくしようと、朝から晩まで働き詰めだった。いつ倒れてもおかしくないほど働く父の姿は、見ていて辛かった。しかし、父が頑張って働かないと、工場はいつ潰れてもおかしくなかった。
そんな中でも、父は従業員を第一に考えていた。優しい父の姿は、今でも忘れられない。従業員を優先していたため、我が家はいつも食べていくのがやっとという生活水準だった。
「お前たちには、いつも苦労をかけてすまないな」
「俺たちは大丈夫だよ。父さんこそ、あまり無理しすぎないでね」
父は、苦しい生活をさせている私たちに申し訳なさを感じているようだった。従業員を大事にし、社長でありながら一番頑張っている父は、私の誇りだった。
「あんたんち、本当に小さな工場よね」
そんな心ない言葉を投げかけてくる同級生が、一人いた。
「なんで、そんなひどいこと言うんだよ」
「別に、私は本当のこと言っただけでしょう。というか、あんまり近寄らないでくれる? 私にまで貧乏がうつるじゃない」
人の環境を馬鹿にし、喜んでいる。それが、中学の同級生だった。
「あれ、俺の体操着がない?」
あの日、体育の時間が始まる前に、自分の体操着が見つからなくなった。かばんを探しても、ロッカーの中を探しても、どこにもない。どうやら盗まれたらしい。
「ああ、それなら、さっき燃えるゴミの日に出したわよ」
にやにやしながら、あの女が言った。
「何で、そんなことをするんだ!」
「だって、あんたの体操着、いやらしいほど染みだらけだったんだもん。あんなもの、他の人が見たら恥ずかしいでしょ」
彼女は、私が貧乏であることをからかい、私の持ち物を壊したり隠したりしていた。教師に言っても、彼女の父親が学校の役員だったため、何もしてもらえなかった。結局、私は彼女のいじめに耐え続けるしかなかった。
その彼女が、今や取引先の社長夫人として、私の前に現れたのだ。
「昔は散々いじめてくれたのに、今度は取引先の社長夫人か。まったく、世の中は広いようで狭いな」
私は、彼女の脅しを無視した。すると、彼女は慌て始めた。想像していた反応と違ったからだろう。
「ちょっと、私の話を聞いてるの? いいわよ、本当に取引を止めるからね」
「ええ、どうぞ。ただし、あなたがその選択を後悔しないようにね」
私は、彼女の会社が、うちの工場に依存していることを知っていた。うちの工場がなければ、彼女の会社は製品を作れなくなる。彼女は、私が弱い立場にあると思っているようだが、実際は逆だ。
数日後、向こうの会社から連絡があった。やはり、取引を継続したいと言ってきたのだ。私は、彼女にこう伝えた。
「取引を継続するのは構いません。ただし、これからは対等な関係でいきましょう。昔のように、一方的に言うことを聞かせるのはやめてください」
彼女は悔しそうだったが、引き下がるしかなかった。そして、私は思った。どれだけ立場が変わっても、人を馬鹿にする人間は、結局は自分が苦しむのだと。
私は、父から受け継いだ誇りを胸に、これからも自分の道を歩んでいく。


