母が亡くなった数日後、施設から預かった荷物を整理していると、私宛ての手紙を見つけた。最初の一行には「兄や姉に気づかれないように読んでほしい」と書かれていた。震える手で読み進めると、そこには母が兄と姉から受けていた仕打ちの数々が記されていた。ボイスレコーダーを再生した瞬間、私は耳を塞ぎたくなった。「おい、ババア、さっさと動けよ」——兄の声だった。そして最後のページには、ある金庫の場所と暗証番号…

母が亡くなった数日後、施設から預かった荷物を整理していると、私宛ての手紙を見つけた。最初の一行には「兄や姉に気づかれないように読んでほしい」と書かれていた。震える手で読み進めると、そこには母が兄と姉から受けていた仕打ちの数々が記されていた。ボイスレコーダーを再生した瞬間、私は耳を塞ぎたくなった。「おい、ババア、さっさと動けよ」——兄の声だった。そして最後のページには、ある金庫の場所と暗証番号...

手紙の一番最初には、兄や姉に気づかれないように読んでほしいと書かれていた。母が私に残してくれた手紙だ。私は震える手で読み進めたが、そこには衝撃的な内容が記されていた。そして最後のページには、ある金庫の場所と暗証番号が書かれていた。

この手紙こそ、兄と姉が必死に探していた母の遺言だった。私は読み終え、もっと母のことを気にかけてあげればよかったと深く悔やんだ。手紙を片手に急いで金庫の場所へ向かう。誰にも見られていないことを確かめ、暗証番号を入力し、中を開けた瞬間、私は目を見開いた。金庫の中身を見て、私はある決意を固めた。

私は高松、二十八歳の会社員だ。今は元気に働いているが、昔は本当に体が弱かった。小学生の頃は体育の授業すらまともに受けられず、風邪を引くたびに入院することもあった。三人兄弟の末っ子で病弱だった私を、母はいつも優しく育ててくれた。物心がついた頃に父が亡くなり、それからは母が一人で私たちを支えてきた。

当時、母は自分の仕事があるにもかかわらず、兄や姉の世話を後回しにしてまで私の看病に明け暮れてくれた。そのことに私は申し訳なさを感じていた。それでも母の献身的な支えのおかげで、私は無事に大人へと成長した。

大学に入り、私は一人暮らしを始めることにした。母は「家から通えばいいじゃない」と言ってくれたが、距離があったため私は断った。「大丈夫だよ、お母さん。長期休みにはちゃんと帰ってくるから」と約束すると、母は少し寂しそうな顔をした。

それでも、「何かあったらすぐ連絡するのよ」と言う母に、私は「約束する」と応えた。すでに社会人だった兄と姉が母の面倒を見てくれることになり、私は感謝していた。兄は結婚して子どももいたので、母も寂しくはないだろうと思った。

大学の長期休暇には毎回帰省し、母と楽しく過ごした。兄や姉も孫たちを連れてきてくれて、賑やかな時間が流れた。卒業後は会社に就職し、忙しい中でも時間を見つけて実家に帰った。帰省すると、母は孫たちと楽しそうに遊んでいた。兄も姉も顔を出してくれて、兄弟揃って楽しいひと時を過ごせたことが、私は何より嬉しかった。

数ヶ月後、そんな穏やかな日々に、母から突然の電話がかかってきた。

「もしもし、お母さん。どうしたの?」

「いやね、みなが住んでいるところに遊びに行きたいなって思ったの。だめかしら?」

母からそんな言葉を聞くとは思っていなかったので、少し驚いた。でも、会いたいと言ってくれる母の言葉に、私は喜んで時間を作った。

数日後、私は溜まっていた仕事を大急ぎで片付け、上司に話をつけて有給をもらった。駅まで母を迎えに行き、改札から出てくる母を探した。すぐに見つけたが、なぜだか母が元気に見えなかった。昔はあれだけ顔色ひとつ変えずに元気だった母なのに。

私は気を取り直して声をかけた。

「あ、お母さん、ここよ」

「ああ、みな。急にごめんなさいね」

「うん、大丈夫。今日はいっぱい楽しもう」

そう言っても、母は私の仕事が忙しかっただろうと心配してくれた。私は笑顔で大丈夫だと伝え、その日は一緒に観光を楽しんだ。母が心から笑っている姿を見て、私は本当に嬉しかった。最初に感じた元気のなさは気のせいだったのかもしれない。

一日で全部を回り切ることはできず、「また次に来た時に案内してね」と母が言うので、「約束だよ」と私は笑った。母も同じように笑い返してくれた。次に来る日のために、新しいプランを立てようと決めた。

夕日が落ち始め、そろそろ帰りの時間になった。

「お母さん、駅に送るよ」

「そうね。もうそんな時間なのね」

寂しそうな声を出す母に、私は胸が締め付けられた。帰りの電車の時間が近づくほど、母の表情は沈んでいく。それでも母は、「子どもたちや孫たちが待っているから帰るね」と自分を奮い立たせるように言った。

「いつでも連絡してきてね。今日は本当に楽しかったよ」

「母さんも楽しかったよ。いい思い出ができたわ」

「これからも、いっぱい作ろうよ」

「そうね。みな、体には気をつけるのよ」

「うん。またね、お母さん」

笑顔で別れたが、あそこまで寂しそうな母を見るのは初めてだった。少し不安になりながらも見送り、私は心の中で決めた。「今度から、こまめに電話しよう」と。

しかし数日後、突然の知らせが来た。珍しく兄からの電話だった。

「もしもし、みな、元気にしてるか?」

「もしもし、兄さん。元気だよ。電話してくるなんて珍しいね。どうしたの?」

「みな、落ち着いて聞いてくれ。母さんが、亡くなった」

「え、嘘?」

「本当だ。できるだけ早く帰ってきてくれ」

そう言って兄は電話を切った。私は現実を受け入れられなかった。ほんの数日前まで、母と一緒に遊んでいたのに。あの日、母は何の異変も見せなかった。楽しかった記憶が頭の中をぐるぐる回った。

「ダメだ。こんなことで弱気になってたら、お母さんに怒られる」

そう思って気を取り直し、帰る準備をした。

実家に帰ると、兄と姉が出迎えてくれた。葬式の準備は全部引き受けてくれたらしく、私は礼を言った。兄は「俺が長男だから当然だ」と言ってくれた。

葬式には近所の人たちも大勢来てくれた。母は近所付き合いも上手な人だったので、多くの人に惜しまれていた。私は母の最後の顔を見たとき、涙が止まらなかった。兄の嫁がそっと支えてくれた。

葬式が終わり、家に帰った。兄が「今日はみんなで見送れて、母さんも喜んでるだろう」と言い、姉も「みなが帰ってきてくれて、喜んでいたでしょうね」と続けた。その言葉に私は少し安心した。心のどこかで、兄や姉が何かを隠しているのではと疑っていた自分がいたが、それは考えすぎだったのかもしれない。

「みな、しばらく家にいるんだろう? 母さんのことで色々と動かないといけないから、子どもたちを見ていてほしいんだ」

「分かった」

「あ、そういえば母さん、みなに会った時、何か言ってなかったか?」

「いや、特に何も聞いてないけど」

「そうか」

それ以上、兄は何も聞いてこなかった。

次の日から兄は忙しそうに動き回り、姉は「何かあったら言って」と家に帰っていった。私は兄の子どもたちの面倒を見ながら、母に関する書類を整理していた。すると、母が亡くなった場所が実家ではなく、実家から離れた介護施設だと判明した。

「え、施設? 私はお母さんが施設に入っていたなんて聞いてない」

兄や姉からも、そんな話は一切聞いていなかった。相談もされていない。私は彼らが何かを隠していると感じ、一人になった時間を見計らって、母が入れられていた施設を訪ねた。

まずは母の世話をしてくれたことへの感謝を伝えた。そして施設の人から聞いた話に、私は愕然とした。母を施設に入れてから、兄も姉も誰一人として姿を見せなかったというのだ。もしそれが本当なら、母は誰にも看取られず、一人で亡くなったことになる。

「ナツ子さんはとても穏やかな方でした。みなさんのお話をよくしてくれていましたよ」

「そうそう。自慢の娘で、誰よりも頑張り屋だから、時々心配になるって言っていましたね」

施設の人たちは、母が亡くなる直前までの様子を教えてくれた。私はその場で泣き崩れた。施設の人が優しく肩を撫でてくれた。

私が知らない間に、母は施設に預けられていた。母は一体どんな気持ちだったのだろう。あの日、もっと母の話を聞いてあげればよかった。そうすれば、母の現状に気づいてあげられたかもしれないのに。

涙が止まらない私に、施設の人が言った。

「実は、ナツ子さんから預かっているものがあるんです」

「母からの預かり物ですか?」

「はい。こちらで使われていた荷物もあるので、一緒に持って帰ってもらえますか?」

私は施設に置きっぱなしだった母の荷物を受け取り、深く頭を下げて施設を後にした。

家に帰り、荷物を整理していると、一通の手紙を見つけた。宛て先は私、差出人は母だった。手紙の一番最初には、「兄や姉に気づかれないように読んでください」と書かれていた。

私は震える手で手紙を開いた。そこには、母が兄と姉から嫌がらせを受けていたという内容が記されていた。さらに、母はその証拠として、写真とボイスレコーダーを残していた。

恐る恐る、ボイスレコーダーを再生する。

「おい、ババア、さっさと動けよ」

「はい、ごめんなさい」

兄が母を奴隷のように扱う声が聞こえてきた。私は思わず耳を塞いだ。

「お母さん、今まで気づかなくて、本当にごめん」

悲しみと怒りと後悔が混ざり合った涙が、止まらなかった。そして手紙の一番最後には、ある金庫の場所と暗証番号が書かれていた。これこそ、兄と姉が必死に探していた母の遺言だった。

「母さん、ありがとう」

私は手紙を読み終え、さらに涙を流した。母は遺産のことを、私にだけ教えてくれたのだ。私は手紙の内容を兄や姉に知られないよう、弁護士に相談した。弁護士は「この手紙については、兄や姉に何も言わなくていい」と言ってくれた。

ある日、私は兄に母のことを尋ねた。

「ねえ兄さん、お母さんのことで少し聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「私ね、お母さんが亡くなる数日前に会ってたの。その時、少し元気がないように見えたんだけど。兄さんたち、お母さんを邪魔者扱いとかしてないよね?」

「え? 俺たちがそんなことするわけないだろ。俺たちを育ててくれたのは母さんだぞ」

「そうだよね。でも、昔は私の体が弱かったせいで、兄さんも姉さんもお母さんにかまってもらえなかったりしたから、恨んでたんじゃないかなって思っちゃって」

「例えそうだとしても、昔のことだ。みんなだって好きで体が弱かったわけじゃない。それくらい俺たちだって知ってるさ」

「うん。ありがとう。ごめんね、急に変なこと聞いたりして」

「たく、本当だ」

兄たちが母に嫌がらせをしていたのか、私は探りを入れてみたが、兄たちは認めず、隠し続けた。私はもう彼らを信用できないと思い、仕事に戻るという理由で実家を離れた。

やがて、私だけが遺産のことを知っているのではないかと勘づいた兄が、探りを入れてきた。

「兄さん、どうしたの? 私、最近仕事が忙しいんだけど」

「みな、お前、俺たちに隠してることないか?」

「え? 一体何のこと?」

「例えば、母さんの遺言とか遺産とか」

「そんなの知らないわ」

「本当か?」

あまりにもしつこく聞いてくるので、私はつい強い口調になってしまった。

「本当に何も知らない。何? 私を疑ってるの?」

「だって、直前まで母さんに会ってたのはお前だし、仲良かったじゃん。遺言が出てこないのもおかしいだろ」

母をいじめておいて、金の行方が気になっている兄に、私は怒りが爆発した。

「てか、私も言わせてもらうわ。逆に隠してることあるでしょ? 私、知ってるんだからね。兄さんたちがお母さんに嫌がらせしてたこと」

「だから、やってないって言ってるだろ」

「そんなこと言っていいの? 実は私、兄さんたちがお母さんに嫌がらせしてた証拠を持ってるのよ」

「お前、どういう意味だよ。誰がそんなもの…」

明らかに動揺する兄。やっぱり、嫌がらせをしていたことに間違いはなさそうだ。

「そんなこと、私が話すと思ってる? これを出すところに出せば、兄さんたちがどうなるか分かるでしょ?」

「お前…」

何も言えなくなった兄は、乱暴に電話を切った。証拠を持っていることをちらつかせたおかげで、兄をやりこめることには成功した。しかし、そのせいで兄は私が遺産について何か知っていると勘づいてしまったようだ。

この日を境に、兄はしつこく電話をかけてくるようになった。

「兄さん、しつこいよ」

「うるさい。お前が正直に答えたらいいだけだ」

「だから知らないって言ってるでしょ。それに今、仕事で忙しいの」

毎回のように遺産や遺言のことを問い詰めてくる兄に、私も負けじと言い返した。それでも兄は諦めようとせず、私は兄の携帯を着信拒否にした。すると今度は、家にまで押しかけてきた。

「どうしてここにいるのよ」

「お前が正直に答えてくれないからだろう」

「だから知らないってば」

「いいから、家の中を見せろ。絶対どこかに隠してるだろう」

普通、ここまでするだろうか。近所迷惑になるので、何とかしないといけない。

「兄さん、これ以上私にまとわりつくなら、ストーカーとして警察に通報するよ」

「はあ? お前、兄に対してそんなことをするのか?」

「私は本気だよ。それに今だって、すごく近所迷惑なの」

強い言葉で言うと、兄は周囲を警戒し始めた。近所の人たちが私たちを見て、ひそひそと何かを話しているのが聞こえた。さすがにまずいと思ったのか、兄は「また来る」と言って去っていった。私は「今度来たら本当に警察に連絡するから」と叫んだ。

それ以来、兄は姿を見せなくなった。しかし、このまま今の家に住み続けるのはまずいと思い、引っ越しを考えることにした。兄のことだから、私がいない間に家に入るかもしれない。それだけは避けたかった。

その時、私は母が残してくれた手紙に書いてあった金庫の場所と暗証番号のことを思い出した。私は手紙を持って、金庫の場所へ急いだ。誰にもつけられていないことを確認し、暗証番号を入力して中を開けた。

「これは…」

母が残した金庫の中身を見て、私は目を見開いた。なんと、数千万はあろうかというお金と、生前に買ったと思われる家の鍵が入っていたのだ。

「どうして…お母さん、いつの間に…」

私はお金と鍵の他に何かないか探した。すると金庫の一番下から、また一通の手紙が出てきた。そこには母の筆跡で、「私の幸せのために使ってほしい」という一文だけが書かれていた。

「お母さん、そこまで私のことを大切に思ってくれてたんだね」

私は金庫の前で涙を流した。母が亡くなってから、何度涙を流しただろう。

「ありがとう、お母さん。お母さんが残してくれたもの、大事に使うから。私もお母さんのことが大好きだよ」

泣くのはこれで最後にしよう。私はこれからのことを考えた。そして、自分の身の安全が一番だと考え、母が残してくれた家に引っ越して住むことにした。

これでしばらくは安心して過ごせるだろうと思っていた。しかし、穏やかな生活は長くは続かなかった。今度は姉が、私の家を特定して尋ねてきたのだ。

「みな、久しぶりね」

「姉さん、どうしてここが?」

「知り合いがたまたまあなたを見つけて、教えてくれたのよ」

「ああ、そうだったの。それで何か用事?」

「そのことなんだけどね。私、この前、旦那と離婚したのよ」

「え? あんなに幸せそうだったのに?」

「そうなのよ。それでシングルマザーになったの。それで、今新しい彼氏ができて遊びに行きたいから、ケータを預かって欲しいのよ」

「え? まあ、私の仕事がない日なら別にいいけど。でもその時は前もって連絡してよね。今日はたまたま休みだからいいけど」

「ありがとう、助かるわ。それじゃ今日はよろしくね」

そう言って姉はケータを預けて出かけていった。私は呆れるしかなかった。いくら離婚してシングルマザーになったからといって、子どもを預けて遊びに行くなんて。一人の子どもの母親として、それはどうなんだろう。

その後、姉は頻繁に連絡してきてはケータを預けに来るようになった。私の仕事が忙しくて返事ができないことが続くと、しまいには家の前にケータだけ置いて遊びに行ってしまう始末だった。最初の頃はケータがかわいそうだと思い家にあげていたが、ケータはかなり行儀の悪い甥だった。

ケータは常に家の中をうろうろしているような気がしてならなかった。目を離すと何をするか分からないケータを、いつまでも預かるわけにはいかないと思っていた。なぜなら、ケータが家に来るたびに、私の家の中から何かがなくなっていたからだ。最初は特に大事ではないものばかりだったので、私は怒らなかった。まともに働いているように見えない姉の代わりに、ケータは自分の生きる道を探しているようにも見えたのだ。しかし、私は最初に気づいた時点で叱るべきだったと、後で後悔することになる。

ある日、家事をしていると、ケータが私の部屋にいることに気づいた。

「ケータ、私の部屋で何をしてるの?」

「え、い、いや、これは…」

明らかに動揺し、慌てているケータ。私が声をかけたのと同時に、何かを隠すそぶりをしていた。

「ケータ、今隠したものを見せなさい」

「べ、別に何も隠してねえよ」

「嘘おっしゃい。ちゃんと見てたんだから」

「邪魔するな!」

私の質問に答える気がないケータは、私を押しのけた。その瞬間、ケータが何を握りしめているのかが見えてしまった。

「ちょっと…あれは私の財布」

いくら問題行動を起こしていても、そこにまでは手を出していなかったのに。さすがに私の財布を盗んだケータを、私は慌てて追いかけた。これは絶対に許せない行為だ。私は急いでケータを捕まえ、今回ばかりは初めて本気で叱りつけた。そして、これまでの問題行動もあり、我慢できなくなった私は警察に連絡をした。

警察にはこれまでのケータの問題行動を伝え、姉のことも伝えたので、姉も呼び出された。

「一体何なのよ。せっかく楽しんでたのに」

「楽しんでた? 人に子供を預けて、自分一人で何を楽しんでたのかしら」

「そ、そんなことどうでもいいでしょ。それより、なんで呼び出されたのか説明してよ」

姉は自分がなぜ呼び出されたのか分かっていないようだったので、ケータが私の財布を盗んだことを伝えると、姉の顔は真っ青になった。小声でケータに何かを言っていたようだが、それだけで大体の検討はついてしまった。きっと姉は、兄から私が母の遺産を一人占めしているかもしれないと聞いて、ケータを送り込んでいたのだろう。実際、新しい彼氏と遊びたいという目的もあったとは思うが、兄とのことが絡んでいるのは明らかだった。

しかし、それにしてもやり方が粘着すぎる。私は人生で一番怒り狂っていた。

「姉さん」

「何よ」

「私、姉さんがやろうとしていることに、うすうす感づいてたの」

「な、何のことよ」

「とぼけても無駄よ。どうせ兄さんから色々と言われたんでしょ? でも残念、全部バレバレだからね」

「だから、何のことだって言ってるの!」

「まあ別に、ここで言わなくてもいいけど。この後、みっちり取り調べをされるでしょうから」

私がにっこりと笑うと、姉は体を震わせていた。多分、今の私は笑っていても目が笑っていないだろう。警察の人も少し引いているように見えた。

警察を呼んでから、ケータは一切顔を上げない。姉は体を震わせ、何も言えなくなっている。そんな二人は警察官に促され、一緒に警察署へ連れて行かれた。

「ふう。これでやっと、静かに過ごせる日々が戻ってくるだろう」

私は二人が連れて行かれるのを見送った後、家のリビングにあるソファーに倒れ込んだ。どっと疲れが出てきたように感じた。今までどれくらい気を張っていたのだろう。でも、これからは静かに過ごせるかと思うと、気が軽くなるのは当然だった。

それから数ヶ月、姉たちが警察にお世話になってからというもの、兄弟からの連絡は一切なくなった。ケータの窃盗事件も、未成年ということもあり軽めの処分で収まった。これからは姉に感化されず、まともに人生を歩んでほしいと思った。姉も姉で、しっかりとした証拠がないためそこまでの罰は受けていない。しかし、ケータが起こした事件と自身の犯した罪により、私に対して慰謝料を支払わないといけなくなった。そのため、新しい彼氏にも逃げられてしまったようで、姉は今、昼夜を問わず働き詰めだということを弁護士を通じて聞いた。

私はと言うと、母が残してくれたお金にはほとんど手をつけず、今でも堅実に仕事を続けている。せっかく母が私のためにと残してくれたものだ。これは大切に使っていきたいと思っている。

それから、私は少し遅めの恋愛をすることになった。同じ職場の先輩にあたる男性とお付き合いを始めたのだ。何でも、私の元気で明るい性格を気に入ってくれたらしい。とても優しく堅実な先輩なので、私は度々彼に頼りっぱなしのことがある。私もできるだけ自分の仕事は自分でやるようにしているが、こうして誰かに気にかけてもらえるのは本当にありがたいことだ。

その一方で、兄弟たちは当てにしていた母の遺産が自分たちの元に入ってくることはないと自覚しているにもかかわらず、未だに金銭トラブルを繰り返しているらしい。姉も昼も夜も働いていたのは最初だけだったようで、いつの間にか仕事をやめていたらしい。私に払わないといけないお金があることを忘れているのだろうか。兄からも、借金があるからお金を貸してほしいという連絡があったことを、弁護士を通じて聞いた。

本当に、困った人たちだと思う。しかし私は、兄や姉を許すつもりはないから、これから先は一生関わらないつもりだ。私は自分の幸せのために、兄弟たちのようにはならないと心に決めた。そして、優しかった母のことを忘れず、仲の良い家族を作ろうと、天国にいる母へと誓った。

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