工場の主任をしていた私に、銀行から送り込まれた新社長が面と向かってこう言い放った。「あなたは老害なんですよ。引き下がる以外にやれることはありません。というか、老害だから頭も働かないでしょうね」。個人面談と称して高齢の職員を次々と退職に追い込み、ついには私の番が来た。退職届を突きつけられ、即刻工場から出ていけと冷たく笑われたあの瞬間、四十八年勤めた職場が音を立てて崩れていくのを感じた。同僚たち…

工場の主任をしていた私に、銀行から送り込まれた新社長が面と向かってこう言い放った。「あなたは老害なんですよ。引き下がる以外にやれることはありません。というか、老害だから頭も働かないでしょうね」。個人面談と称して高齢の職員を次々と退職に追い込み、ついには私の番が来た。退職届を突きつけられ、即刻工場から出ていけと冷たく笑われたあの瞬間、四十八年勤めた職場が音を立てて崩れていくのを感じた。同僚たち...

山川さん、あなたは老害なんですよ。引き下がる以外にやれることはありません。というか、老害だから頭も働かないでしょうね。

銀行から送り込まれてきた新社長は、傲慢な自説を展開して周囲を震え上がらせた。個人面談と称して高齢の職員を呼び出し、世代交代の名目で退職を迫り、会社から追い出そうとするのだ。

あの、もう少し別の言い方があるだろう。普通は空気を読んで、自分からやめるもんですよ。

面と向かって俺に暴言を浴びせ、新社長は退職に関する書類を机の上に置いた。文句がなければ記入を済ませて私に渡せ。そして即刻工場から出ていけ。そう言って冷たく笑った。

わかりました。そこまでおっしゃるのでしたら、しぶしぶ受け入れます。

こうして俺は会社を去った。しかし、それは俺の終わりではなかった。新社長自身の転落の始まりだったのだ。全てを失い、這い上がるきっかけすら掴めないまま、彼は海の底へ沈んでいくことになる。

俺の名前は山川剣。六十六歳の町工場の職員だ。地元の工業高校を卒業し、学校の紹介で入社した工場に勤めて四十八年になる。今は定年後の再雇用制度を利用して働いている。工場は金属加工の専門工場で、俺はそこで旋盤工として経験を積み重ねてきた。

十八歳で仕事を始めてからというもの、職場環境は大きく変わった。業務工程の多くに機械が導入され、事務や経理の場でもパソコンを使うのが当たり前になった。仕事に必要な機械の設定と使い方を覚えて作業を任せられるようになり、時には繊細な手作業が必要な場面で腕を振るう。職場は町工場らしく下請けの仕事を受けているが、職人一筋の姿勢で取り組んでいる。

同僚たちの平均年齢は高く、俺に至っては一番の年長者だ。いつの間にか、俺は後輩たちのまとめ役という立場に収まることになっていた。本当に心苦しい限りだ。

いつまでも変わらない日々が続くと思っていた矢先、社長の牧田さんが職員たちを集めた。社長は苦々しく切り出し、自分が仕事から離れなければいけなくなったと打ち明けた。

私に持病があるのは、みんな知ってるだろう。どういうわけか、今更になって調子が良くないんだ。

社長は若い頃から患っていた病気があった。しばらくは症状の進行を抑えていたが、ここのところ検査の結果と数値が良くないらしい。これからは入院が増える。入院だけじゃなく、治療に時間を割かねばならん。

無念を滲ませた社長は、退任と後任の社長について触れた。社長には後継者と言える人物がいなかった。子供はおらず、職員たちの中から後継者を選ぼうとしていたが、日々の忙しさに追われてそれは叶わなかった。

銀行と相談して、今後の業務拡大も視野に入れて協力を仰ぐことにした。私の後は、銀行から伊藤さんという人物がやってくる。

工場にとってのメインバンク。長年融資を受けていた町の銀行から、経営に精通した人物が送り込まれてくる。社長は静かに語り、引継ぎに向けて準備を進めた。

新社長はどんな人なんだろうな。俺たちより学歴があるのは間違いないだろうな。

ああ、それはそうだな。

伊藤さんの社長就任前、俺は同僚とそんなことを言って笑っていた。工場と長年付き合いのある銀行から来るのだから、うちの事情も分かっているはずだ。俺も同僚も、自分たちの前向きな希望を根拠に、そんなことを思っていた。

しかし実際に対面した伊藤新社長は、愛想のない、どこまでもビジネスライクな人だった。

私は事業計画の見直しが急務だと考えています。業務のスリム化もその中には含まれている。この工場は将来性があるのに、それを生かせていない。

就任挨拶を厳しい言葉から始めて、伊藤さんは自分の用意している今後のプランを説明してくれた。今後、新規設備とシステムの導入を検討しています。それから、それに伴う人員の入れ替え。具体的には、一部社員の若返りを進めていきたい。

伊藤さんの計画は、なかなかに手厳しいものだった。職員たちの若返りを促進する新規設備とシステムの導入は、古い世代の多い工場には耳の痛い話だ。そんな話に俺も気を引き締めて、工場の将来を思った。だが、その前に新社長との顔合わせが待っていた。

工場の主任をしております、剣と申します。これからよろしくお願いいたします。もし工場のことで何かありましたら、いつでもお話しください。

俺は特に気取らず、いつも通りの自分で挨拶をした。しかし伊藤新社長は硬い表情を崩さず、俺が握手を求めるとしぶしぶ手を差し出した。

どうも。まあ、あなたとは追い追い。

ちらりと俺を見ただけで、それからはぼそぼそと話す。まあ、後で簡単に話をさせてもらうので。

さっと握手をかわして、二言三言言うだけ。伊藤新社長との初対面は、そうしてあっけなく終わった。

伊藤新社長の指揮の下、工場は本格的に動き始めた。社長肝入りの新システムが総務の人員管理部門に取り入れられ、工場では導入する新機械の選定が始まる。そんな流れの中、俺は自分と同世代の同僚から衝撃的な報告を受けることになった。

山川さん、俺は今日限りだ。今日でここをやめるよ。

え、何だ? どういうことだ?

いや、伊藤さんが面談を始めただろう。そこで、本来なら定年なんだからって言われてな。

同僚の言葉に、俺もはたと思い出す。職場環境の改革と同時に、新社長は社員や職員たちとの面談を予定していた。その面談が実際に始まると、その場で六十歳以上の社員と職員が退職を迫られたというのだ。

まあ、俺たちは元から再雇用の身だからね。何を言われても仕方ないけどよ。俺たちはもうここには必要がないってことなんだろうな。

いや、そんな、だからって、そんな急に。

言われてみたら、そういうもんなんだから。

同僚はぼんやりとしていた。突然の退職要求を受け入れざるを得なくなり、何もかもが寝耳に水。納得いかない気持ちはあるが、年齢や再雇用の人間だと言われたら、新社長の言い分が分からないでもない。同僚はぼんやりした顔のまま、工場を去った。

同僚の背中を見送った俺は、翌日に面談を控えていた。おそらく自分にも厳しい話が出てくる。社長に何を伝え、どう振る舞えばいいのか。それが分からないまま、俺は面談の時間を迎えていた。

昨日、辞めていただいた方々がいましてね。

俺を社長室に招き入れた新社長は、単刀直入にそこから話を始めた。私はこれから若い世代を雇用していきたいと考えています。そのためには、世代交代からスタートしなければいけない。

そうですね。就任の時にも、そうおっしゃっておられました。

ああ、覚えていらっしゃる。

ええ、まあ。

けれど、空気を読もうとはしないですね。

え、何ですか?

新社長は椅子にゆったりと腰かけて、不敵な笑みを浮かべていた。

まあ、はっきり言いますよ。私の考えではね、六十歳以上は老害ってやつだ。だから、自分から進んで辞めていってもらいたいんですよ。

それは、あの、何ですか?

抵抗なさいますか?

俺が口を開くと、新社長の大きなため息が響いた。

いや、伊藤社長の姿勢も分かります。しかし、少し性急すぎませんか? もう少し段階を踏んでいただかないと、仕事が滞ります。

自分がいらないと言われても、どこかで受け止めないといけない年齢。それは分かっていても、突然のリストラ宣告に腹が立った。自分が工場からいなくなるとして、その後のことをどうするのか、そんな話もできていない。せめて仕事を若手に引き継ぐ。その時間を用意していただかないと、辞めるにしても、いきなりでは本当に困ります。

そうやって言い訳してごねるわけですか?

新社長は俺の訴えを鼻で笑った。そして声を強めて、俺に突きつけた。

あなたは前社長の恩で雇われただけ。それなのに、そんな分際で生意気極まりない。

新社長に生意気だと断罪され、俺は言葉を失った。

あなたは老害なんだ。私の言うことをここで聞いて、引き下がる以外にやれることはありませんよ。というか、老害だから頭も働かないでしょうね。

あの、もう少し別の言い方が。こうでも言わないと通じないでしょう。

新社長は俺に淡々と暴言を浴びせ、退職に関する書類を突き出した。文句がなければ、記入を済ませて私に渡せ。そして即刻工場から出ていけ。そんなことを言い、冷たく笑った。

とりあえず退職金は出しますから。

わかりました。

真面目な対話を求めても、新社長に思いが伝わるわけもない。そう悟った俺は、書類を引き寄せてペンを持った。社長の視線を浴びながら記入を済ませ、退職を受け入れる。

そのまま工場に戻ると、若手たちに退職を伝えた。

急な話で申し訳ないが、私も人員整理の対象になった。君たちに引き継ぎが十分にできないというのは、本当に気がかりだ。だが、君たちならもう十分に仕事ができる。困ったことがあれば、個人的に連絡してくれ。

あの、山川さん、本当に辞めるんですか?

俺の退職の挨拶に、若手が呆然と呟いた。しかしその後は沈黙が続く。誰もが首を傾げ、何が起きているのか分かっていない。

さあ、俺がいなくなっても、仕事があるのは変わらないんだ。そんな顔をせず、頑張ってくれ。

状況が飲み込めていないのは俺も同じ。前日に辞めていった同僚と同じ、寝耳に水だった。最後は空元気で若手に的外れな励ましの言葉をかけ、長年勤めた工場を後にした。

まだ少し先だろうと想像していた退職後の暮らし。何の予告もなく目の前にやってきた新しい生活に、俺はなかなか馴染めそうもなかった。

退職した次の日、俺はいつも通りに目が覚めて朝食を食べた。そこから先の時間の過ごし方も、工場にいるリズムで動こうとして、やることがなく落ち着かない。どうしたら慣れるのか頭を抱えていると、工場から電話が入った。退職から三日目のことだ。電話の相手は、伊藤新社長だった。

あ、あんたたちがいないから、工場が動かせないんだ。このままじゃ納期が、大手との案件が焦げつく。とにかく来て、なんとかしろ。

伊藤新社長の焦った早口が、俺の耳に刺さった。話を聞いてみると、どうやら工場から六十歳以上の職員が続々といなくなったらしい。というよりも、伊藤新社長の人員整理が完了していたようだ。その結果、工場から貴重な手作業ができる人間が消えていた。作業工程がほとんど機械化されていると言っても、作業の仕上げにある微調整には人の手がいる。機械が見過ごした小さな誤差を、手作業で研磨して整えるのだ。

若い連中で、それができるというのがいないんだよ。

何だよ。どうなってるんだ?

どうなってるんですかと言われましても。

電話口で怒る伊藤新社長に、俺は一息ついて返した。私が退職すると報告したら、私と同世代は切られる前に辞めると言ってましたがな。

何だよ、それ。

ですから、その通りです。俺が退職したその日、荷物をまとめていった俺に、同世代の職員が声をかけてきた。数人の職員は、全員が口を揃えて、新社長に首にされる前に辞めたいと言っていた。俺はそれを止めも何もしなかった。決断はあくまでもそれぞれがすること。そして本当に退職してしまうのであれば、伊藤新社長が理性を働かせて引き止めるべき。俺はそう考えていた。それに、いくらなんでも新社長も職員の頭数と役割ぐらいは真面目に計算しているのだろうと思っていた。工場に本当に必要な人数だけは残して、回し続けられる体制は残せるのではないか。俺は別に、誰でも同じ仕事ができるんだろうと思って、だからいらない年寄り連中を切ったんだよ。

何なんだよ、あんたらは。当てこすりか、八つ当たりか。

新社長は俺の反論に、盲に言い切った。自分に非はないと言い、俺にどうにかしろと求めるばかり。

とにかく、あんただけでも。それか、年寄りを連れて工場に来い。このままじゃ、ここがなくなるぞ。

懇願する様子もない新社長に、俺はため息をついた。そして電話に向かって一言叫んだ。

私はもう知りませんよ。

電話を切る直前、新社長が何か喚いているのが耳に入ったが、無視をした。そのまま電話を切って考える。俺はそれから同年代の職員たちに連絡を入れた。工場が立ち行かなくなるのは、自分としても見過ごせない。そんな窮状を打開するため、俺は同年代の仲間と立ち上がった。

そんなことになっていたのか。

俺は仲間たちと、前社長の牧田さん宅を訪ねた。療養中の牧田さんに心労を与えてしまうのは申し訳なかったが、こればかりは黙っているわけにもいかなかったのだ。

伊藤さんとは事前に何度も会って、しっかりと人柄を見たつもりだったんだが。そうか、そうだったのか。

俺が新社長から聞いたことを包み隠さず明かすと、牧田さんは打ちひしがれたように絞り出した。牧田さんの思いで退任を決め、信用できると感じた人に工場と会社を譲ったつもりだった。しかし、信用した人はとんでもない本性を隠していた。牧田さんは伊藤新社長への絶望を感じているようだった。

あの、私にとって社長はあなたなんです。伊藤さんは社長になると思わないうちに来てしまいました。

ああ、そうかもしれないな。

工場や会社への思いは、あなたの方が強いはずです。

気づくと俺は、前社長に呼びかけていた。自分たちも工場の危機に立ち向かおうとしているが、牧田さんにも協力をしてほしい。

少し待ってもらえるかな。

しばらく沈黙が続き、牧田さんが腰を上げた。電話を手に取ると、どこかに電話をして話を始める。

お世話になっております。ええ、その節は本当に助かりました。

話が進み、電話の相手が銀行だと分かった。会話の端々に伊藤新社長の名前が出てくる。そして牧田さんは、現在工場がどうなっているのか、俺から聞いた話を銀行側に報告していた。

え、そんな。それはどういうことでしょうか?

牧田さんの顔色が変わり、声が小さくなる。それからしばらく、牧田さんは俺たちの様子を伺いながら真剣に相手の言うことに頷いていた。

ええ、はい、わかりました。私も準備を。

牧田さんは顔を上げると電話を切り、俺たちに向き直った。

工場へ行こう。詳しい事情は、到着までに話す。

俺と仲間たちは、そう言う牧田さんにせかされ、慌ててその後ろに続いた。

工場に到着した時、俺と仲間たちは怒りと失望がない交ぜになった軽い興奮状態だった。だが不思議なもので、頭は妙に冷静ですっきりとしていた。

おや、牧田さん。どうしました? 現状視察でしょうか?

俺との電話の時はあれほど怒っていたはずの伊藤新社長が、牧田さんに慇懃に挨拶する。いや、もう何もご心配することはないはずですよ。しかし、新社長の顔には引きつった無理やりな笑顔が浮かんでいた。おそらく、自分の力で困難を乗り越えられるとは思っていないのだろう。

いいんですよ。ご自宅でしっかりと療養なさっていただいて。

新社長はぺらぺらと喋り、どうにか牧田さんを追い返そうとしているようだった。その態度に、牧田さんは愛想笑いも見せずに言った。

伊藤さん、あなたのことは包み隠さず銀行さんに伝えましたよ。それから、ここに山川君たちがいる理由。あなたがどう思うか伺いたい。

それは、新社長は少し後ずさると、牧田さんの顔と俺たちの顔を見た。そして開き直って吐き捨てた。

私はね、牧田さん、この冴えない会社と工場のためにやったんですよ。いらない人間を切って、ここを改善するためにね。

顔が笑顔のまま引きつっていたところを見ると、新社長にも多少の焦りはあったのだろう。しかし、自分の主張だけは自信たっぷりに言い切っていた。

全く、呆れた人だ。それに私も騙されたとは。

牧田さんがうなだれると、俺の仲間たちが駆け寄り、近くの椅子に座らせた。俺は牧田さんに変わって、言いたいことを引き継いだ。

牧田さんも、私たちも怒っていますよ。

何で? ああ、あれか。自分の無実の訴えか。

いいえ、あなたにです。先ほど牧田さんから、あなたが銀行で何をしていたか聞きましたよ。ここでもそうだが、本業でも、あなたは汚いやり方を好むようで。

あ、何のことだ?

牧田さんがここに来る前に、銀行へ連絡を入れたんです。工場の窮状を聞いて、銀行に相談しようとしたんですよ。そしたら、あなたの行動が銀行でも問題になっていると、牧田さんはそれを知らされたんですよ。

牧田さんは銀行との電話で、伊藤新社長の職員時代の不正行為について知らされていた。牧田さんから社長職を引き継ぐ前、伊藤新社長は複数の中小企業を相手に不正融資を行っていたのだという。融資に関する審査業務を担当していた際に、企業に対してワイロを要求し、受け取っていたのだ。

資金繰りに苦労している会社を相手に、審査で目をつぶってやるからお金をよこせと。そう言っていたそうですね。

そ、そんなの銀行の言いがかりだ。俺の足を引っ張ろうっていうのが、あっちにも大勢いるんでな。

いいえ、どうやら事実なんだと、牧田さんも我々も感じました。

新社長は銀行員として、あまつさえ不正な行為をしていた。不安を抱える企業の不安を煽り、自分の懐にお金を入れ、銀行には何の問題もないと報告して、企業に融資をさせた。だが案の定、融資先は破綻状態となり、融資が焦げつく。あなたの元々の所属先でも、あなたのことは大問題になってるそうですよ。銀行では今、伊藤新社長の不正を調査している真っ最中だそうだ。そして近いうちに、本人に事情聴取を行う予定だった。そこまでの話を、俺と仲間たちは牧田さんから聞かされていた。

それで、伊藤さん。何か言いたいことはまだありますか?

俺が最後に尋ねると、伊藤新社長は首を振った。

知らない。俺には関係ない話だね。

俺や牧田さんたちから目をそらし、新社長が部屋の隅に行って黙り込む。黙ったとしても、あなたはもうここにはいられませんよ。俺がそう言うと、工場に新社長に馴染み深い人々が現れた。

すみません。お待たせしてしまって。

伊藤新社長の銀行での同僚たちが姿を見せ、牧田さんや俺たちに頭を下げる。工場に来る前、牧田さんは銀行との電話の最後に、工場での合流を約束していた。

後のことは、私どもにお任せくださいますでしょうか?

銀行員たちが牧田さんに頼み込み、了解を得る。そして伊藤新社長に、銀行に戻るよう告げた。

言いがかりもいい加減にしろ。自分を貶めたいだけだ。名誉毀損で訴える。

新社長はそう叫び、派手に抵抗する。大声をあげるが、誰も聞かない。最終的に新社長は、銀行の上司と関係者に連れられて、連れて行かれた。

嵐が過ぎ去り、俺たちは何も言わずに立ち尽くした。最初に口を開いたのは牧田さんで、俺たちに頭を下げて詫びた。

もう一度、今後のことをよく考える。誰にも迷惑をかけず、本当に工場を立て直す方法を用意するから、しばらく待っていてくれ。

俺と仲間たちは牧田さんの言葉を受け入れ、その労をねぎらった。工場や会社を持っているというのは、誰もが同じではない。俺たちは仕切り直しに向けて動き出そうとしていた。

その後、事態は順序よく片付いていった。伊藤新社長は、不正とワイロを受け取っていた罪で、まずは銀行を懲戒解雇になった。そして今は警察のお世話になり、裁判を控える身。輝かしい身分と家族も失ったようで、自分の言葉を聞いてくれる弁護士の存在だけが励みになっているらしい。

そして工場と会社には、伊藤さんに追いやられた人間たちが戻っていた。俺と仲間たちは工場に戻り、きびきびと滞った仕事を終わらせた。

山川社長、今日の予定は?

ああ、おい、やめてくれよ。

同僚に社長と呼びかけられ、俺は苦笑いする。あの騒動の後、牧田さんは工場の再建策の一つとして、俺を社長に任命した。実績と経験を考えて、俺に任せるのが牧田さんの考えだった。

私ができる限り君を支える。だから、君に社長になってもらいたい。

俺の手を取り強く握った牧田さんの熱意に負け、俺は社長職を引き受けた。だが、俺の社長職はあくまでもつなぎだ。社長候補に挙げられた若手が、まだ習得していない技術や知識を身につけ次第、引き継ぐ予定だ。

俺はそれまでの間、以前のように工場の仕事を取り仕切り、デスクワークもこなしている。慣れないことはまだ多いが、未来を意識しながら自分のすべきことを考えていた。次の社長に完璧な工場と会社を渡すために、俺は誠心誠意を忘れず、仕事に励んでいる。

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