あの日、中学の同窓会で、俺は地元で一番の高級ホテルの大広間の受付に立っていた。懐かしい顔ぶれが次々と集まり、みんなで中学時代の話に花を咲かせていた。ところが、遅れてきた元同級生の佐治マサルが、婚約者の平田さんを連れて現れた途端、空気が一変した。「こんな高級ホテル、中卒にはもったいないから、さっさと出ていけ」と、彼は俺に向かって吐き捨てたのだ。その言葉に、俺は耳を疑った。幼い頃から一緒にいた彼…

あの日、中学の同窓会で、俺は地元で一番の高級ホテルの大広間の受付に立っていた。懐かしい顔ぶれが次々と集まり、みんなで中学時代の話に花を咲かせていた。ところが、遅れてきた元同級生の佐治マサルが、婚約者の平田さんを連れて現れた途端、空気が一変した。「こんな高級ホテル、中卒にはもったいないから、さっさと出ていけ」と、彼は俺に向かって吐き捨てたのだ。その言葉に、俺は耳を疑った。幼い頃から一緒にいた彼...

「こんな高級ホテル、中卒にはもったいないから、さっさと出ていけ。」

今日は中学の同窓会。元同級生の希望で、地元で一番の高級ホテルを押さえた。ところが、元同級生は突然そんなことを言い出し、俺を追い出そうとしたのだ。

「お前が俺の友人だなんて、どの口が言ってんだ。いくら中卒の田舎者でも、互いの釣り合いくらいわかるだろう。」

中学の頃から、少し周りを見下すようなところはあった彼だ。それでも、仲良くやれていると思っていた。しかし、それは俺の一方的な勘違いだったらしい。

「そうか。俺たちは友達じゃなかったんだね。」

俺は念のため、相手に確認するように尋ねた。すると元同級生はゲラゲラと下品に笑った。

「そんなわけねえじゃん。ほら、お前みたいな田舎も丸出しの奴がいたら、俺たちまで恥ずかしいだろ。さっさと出ていけよ。」

友達だと思っていた元同級生の姿にショックを覚える。これ以上、元同級生のみにくい姿を見ていたくなくて、俺は黙って会場を出ていくことにした。もう知ったこっちゃない。俺は嘲笑を浴びせられながら帰宅した。だが、その一時間後、彼は集まったみんなの前で赤っ恥をかき、さらには自身の全てを失うはめになるのだった。

俺の名前は大谷信。俺の家は田舎の中にある。だが先祖がそこら一体の庄屋だったこともあり、現在も広大な土地を持つ名家の家柄だ。それもあってか、ここが村から町になっても、今でもご近所からは丁寧に挨拶をされたり、近所で困ったことが起きると誰かが祖父や両親へ相談しに来たりということが度々ある。

けれど、俺は小さな頃から、そんな田舎臭い地元も、土地だけは持っているがさほど金持ちというわけでもなく、面倒ごとだけ押し付けられる実家のことも嫌っていた。今考えれば反抗期なども重なっていたのだと思うが、当時の俺は他の同級生たちと同じく、都会というものに過剰な憧れを抱いていたのである。

そして中学三年生に上がってすぐの頃、友人の佐治マサルが突然、自分は都会の学校に進学すると言い出した。

「え、おい、マサル、それ本当か?」

マサルもまた、俺と同じように常々この田舎から抜け出したいと口にしていた人間だ。だが中学生である自分たちにはできることも少なく、マサルも俺も自身の現状を嘆きつつも、具体的な行動を起こしてはいなかった。俺の素っ頓狂な問いかけに、マサルは大真面目に頷く。

「親にはこれから話すけど、でも俺は本気だ。いつまでもこんな田舎でグダグダくすぶってるのなんて、うんざりなんだよ。俺はこんなとこで人生終わりたくない。」

この友人は確かに昔から頭が良く、周りが知らないことをよく知っていた。その分、彼には周囲の人間を見下しているような面もあったが、俺からしてみれば、そんなところもまた大人っぽくてかっこよく映っていたのだ。

「そっか。マサル、やっぱすげえな、お前。」

賞賛の声をあげた俺を、彼は無言で一瞥するだけだったが、それでも良かった。都会の学校か。そして俺もまた、マサルと一緒に都会の高校を受験したいと願うようになったのである。

だが進路指導が本格化した夏、俺の提出した進路希望先を巡って、家は大混乱に陥った。今まで比較的俺のやることに口を出してこなかった祖父や両親が、揃って大反対したのだ。

「お前は地元にいればいい。」

「そうよ、信、あなたはこの大谷家の長男なんだから、これからもこの土地で生きて、この土地のために貢献できる大人になりなさい。それが大谷の家に生まれた者の使命なのよ。」

母は大谷家の長女として生まれ、今も市役所に務めているのだが、そこで出会った父を婿に取った人で、地元愛も人一倍強い。俺からしたら、家だなんだとそんな古臭い考え方がそもそも何センスなのだが、ただの中学生でしかない身で家族の強い反対に会ってしまえば、もうどうしようもない。結局そのまま秋が来て冬となり、次の春が来る頃には、マサルだけが都会の高校へと進学した。俺はそんなマサルを羨ましく見送ることしかできず、地元での生活を続けることになったのだった。

さて、それから十年以上の時が過ぎ、俺も三十歳半ばになった。その日、俺は仕事の都合でとある高級ホテルに赴いていた。そして何気なくロビーに目を向けると、そこに懐かしい男の姿を見つけたのである。こちらに視線を感じたのか、その人物もふと顔を上げ、驚いた様子で俺を見た。

「もしかして、マサルか?」

「信……信だよな。」

中学を卒業してから一度も会っていなかった奴に、その日、俺は久々の再会を果たしたのである。

「うわ、何年ぶりだ? なんだよお前、あれから一回も連絡よこさないし。」

「ああ、うん。俺もちょっと色々忙しくてさ。それより、こんなとこで会うなんてすごい偶然だな。今日は仕事か?」

俺の言葉へ曖昧に苦笑して、マサルは首をかしげる。

「そう、仕事でちょっとな。俺、観光業でさ、ここの地域の営業やってるんだ。マサルは?」

「そうなんだ。あ、うん。俺も仕事で。」

聞けば、マサルは高校卒業後、有名大学の法学部へ進学したらしい。そしてその後はなんと議員秘書として働いているとのこと。

「え、やっぱりマサルはすごいな。まあ昔から頭良かったもんな。それにすっかり垢抜けてるし。俺、お前がこっち向くまで本人かどうか半信半疑だったよ。」

そう言って笑う俺に、けれどマサルはふんと鼻を鳴らして口を開く。

「そういうお前は、あの頃から少しも変わってないな。相変わらず呑気そうな顔してる。」

皮肉にそう返す彼の目には、どことなくこちらを見下したような色があった。けれど、そういえば彼は昔から俺だけでなく周囲全てに対してそういうところがあったのを思い出す。きっと彼は頭が良い分、田舎が嫌いだ何だと言いながら具体的な行動を起こすこともなく、周りでグズグズしている人間たちが歯痒く映っていたのだろう。それに、実際こうして立派に働いているマサルは、ちゃんと努力して自身の夢を叶えたのである。だからやっぱり、そういうところがかっこいいと、俺は素直にそう思った。

今は彼もちょうど休憩時間だということで、暫くの間、中学時代の話で盛り上がる。

「なあ、同窓会をやらないか。」

同窓会。突然の提案に、俺は思わず首をかしげる。彼が口にするにしては、なんとなく意外な単語だ。だがマサルは大きく頷いて続けた。

「ほら、俺、高校行ってから地元の連中ともほとんど会ってなかったからさ、みんなどうしてるかなと思って。」

中学時代の彼は、それこそ同窓会なんて参加しなさそうな生徒であった。だが、それでも互いに三十半ばを超えれば、自分でも思いもかけなかった懐かしさが湧いてくるのかもしれない。そう思い、俺は笑顔で彼に賛同する。

「同窓会か。うん、いいと思うな。」

「それじゃあ、会場はこのホテルにしないか。このホテル、ここら辺じゃ一番の建物だろ。それなら俺が予約を入れるよ。俺、ちょっと仕事でツテがあるから。多分、通常より安くできると思うし。」

「本当か? それはありがたいな。こんなとこで同窓会できれば、みんな喜ぶよ。」

俺の返事に、マサルも嬉しそうに顔をほころばせた。そうしてマサルが幹事となり皆に声をかける一方、俺はホテルの予約やその他細々としたことを引き受けることとなった。

さて、それからしばらくして同窓会当日。こうして集まる機会があまりなかったためか、みんなの出席率もよく、会場となっているホテルの大広間はあちこちで旧交を温め合う声が響いている。マサルは残念ながら急な仕事で遅れてくるとのことなので、俺は一人で受付を担当していた。

すると、向こうから抜群のプロポーションをタイトなドレスで見せつけるようにして歩いてくる女性がやってきた。その彼女が受付の前で立ち止まる。

「もしかして、大谷君?」

俺に問いかけてくる、少し甘ったるいその口調に、俺はハッとした。

「平田さん?」

驚く俺に笑顔を見せて、彼女は頷く。

「そう、平田愛。わあ、何年ぶり? 大谷君、全然変わってないから、すぐにわかったよ。」

そういう平田さんは、今やすっかり大人の女性へと変わっていた。実は俺は中学の時、彼女のことが好きだったのだ。というか、あの中学に通っていた男子のほとんどは、彼女のことが好きだったと思う。こんなに完成された美しさこそ備えていなかったが、当時から彼女は美人として有名で、他所からも見物人が来るほどのみんなのマドンナ的存在だった。そんなマドンナに、俺はもちろん告白なんてする勇気はなく、むしろ同じクラスでありながらまともに会話したことすら数えるほどであった。そして彼女もまた、マサルと同じように都会の高校へと進学したため、今日まで会うことすらなかった。

「平田さん、綺麗になったね。あ、元から美人だったけどさ、さらにって意味で。」

「え、そうかな。でもありがとう。ドレス、奮発した甲斐があったな。」

そう言って、相手に甘えるような上目遣いでニコリと微笑む平田さんに、俺は思わず顔を赤くしてしまった。だがその時。

「俺の女に馴れ馴れしくするな。」

不機嫌そうな男の声が割って入ってくる。

「あれ? マサル? 早く来れたんだな。よかった。にしても、俺の……」

仕事帰りらしいスーツで姿を現したマサルが、鋭い目で俺を睨んでくる。

「俺、愛と三ヶ月前に婚約したんだよ。」

「え、そうなんだ。」

驚く俺をちらっと一瞥して、それから彼は俺と平田さんの間に体を滑り込ませると、こちらに見せつけるようにして彼女の腰に手を回す。そして平田さんは、マサルの態度にも困った声を出しながらも、まんざらでもなさそうな様子でされるがままとなっていた。

「二年前かな。君と再会して、それからご飯とか行くようになって。そういう流れだよ。いい機会だし、同窓会で発表しちゃえばって。てか、マサル君、くっつきすぎ。もう大谷君もびっくりしてるでしょ。」

平田さんが甘えた様子でそんなことを言う。だがマサルはさらに自身の体を婚約者へ寄せると、俺を完全に見下すかのようにして皮肉に口を吊り上げ、勝ち誇った笑いを浮かべる。

「別に、アホの田舎連中にどう思われてもいいだろう。むしろ俺は、奴らに見せつけたくて同窓会を開いたんだよ。お前らが呑気に遊んでる間に必死に勉強してたおかげで、今はこんないい暮らしができてますって。」

そしてマサルが平田さんの耳元で「お前みたいな美人と婚約もしたしな」と言えば、平田さんも「え、もう」などと形ばかり戸惑うふりをして腰をくねらせた。よく見れば、彼女の左手薬指には大きなダイヤモンドが嵌まった指輪が輝いている。俺の視線に気づいた彼女は、可愛らしく笑いながらも、どこか自慢するようにして俺の前に左手を掲げた。

「これ、彼に買ってもらったの。こんな大きい石じゃなくていいって言ったのに。」

「嘘つけ。大きいのじゃないと自慢できないって、散々言ってたんだろう。」

「ひどい。でもちゃんと大きいの買ってくれたから、マサル君のそういうところ好き。」

「そうなんだ。」

どうでもいいが、彼らが場所も考えずにイチャイチャするせいで、受付前が先ほどから混雑している。二人の婚約や、マサルの俺に対する急な態度の変化に戸惑いながらも、俺は見かねて声をあげた。

「えっと、ごめん。その話は後でゆっくり聞きたいから、とりあえず中に入ってもらえる? あ、そうだ。あと、マサルにはここの支払いのことで話があって。」

話を終わらせようと促す。だが、そんな俺の態度が気にくわなかったのか、マサルが再び俺を睨みつけてくる。そして彼は、ちっと舌打ちを一つ落とす。

「お前のそういうところだ。」

低い声で吐き捨ててきた。

「え、俺のそういうところって……」

「ただの呑気な田舎者のくせに、そういうとこだけ選んで偉そうに。名ばかりの家柄かなんだか知らないが、何が大谷家だ。土地だけ持ってて大して金持ちでもないのに、みんなして大谷さん大谷さんって。」

見たことがないような暗い顔をしたマサルが、そんなことを言ってくる。じっとりとした重さを持ったそれに、俺は思わず気圧されそうになりながらも、必死に首を振った。

「選んでるだなんて、そんなこと一回だって思ったことないよ。それに、俺から見たら、頑張って努力して自分のやりたいことを突き通してるマサルの方がよっぽど……」

「うっさいわ。お前はいつもさ、大した努力もしないで周りに流されて、でも気づいたらみんながお前には一目置いてる。」

ギロッとマサルが俺を睨めつける。

「お前の顔に泥を塗られた気分だったよ。お前の身分に誰もがへりくだるから、俺が今の地位を築けたと思ってる。そんなお前が、自分は大したことないって顔をして、みんなに優しくすればするほど、俺は惨めになるんだよ。あんな奴にも優しくして、さすが大谷の家だって褒められて。言っとくが、俺はそんなお前にまとわりつかれて大迷惑だったんだ。」

「そんな……俺、本当にそんなこと……」

「都会に出たのも、お前と離れるためだ。」

嘲るようなマサルの笑い声が、辺りに響いた。確かに中学時代、彼はみんなから仲間外れにされていたけれど、それは彼が常に周囲を見下していたからだ。彼が最初に周りを拒絶したから、周りも彼を拒絶した。それでも、彼の努力する背中を、俺はかっこいいと思っていたから。だから俺は彼のそばにいたのだけれど、それはマサルにとっては望んだことではなかったのだろう。そしてそれに気づかなかった俺は、呑気な田舎者と言われても仕方ないのかもしれない。

そう思い、言葉をなくした俺に、マサルは追い討ちをかけるがごとく言う。

「ああ、本当にお前と離れられて清々した。今じゃお前は田舎の四流観光案内。一方俺は、輝かしい学歴と議員秘書という肩書きを持ち、そしてお前の好きだった女まで俺のものと来た。」

「え、そうだったの? まあ、大谷君のお家の奥さんってのも、田舎にしては捨てがたいと思うけど。ごめんね。」

自身の婚約者の一言に、間の抜けた笑い声をあげる平田さん。それを止めるどころか、ニヤニヤと一緒になって笑うマサルが、さらに煽るようにして俺を見る。

「お前が俺の友人だなんて、どの口が言ってんだ? 中卒の田舎者でも、互いの釣り合いくらいわかるだろう。何がこのホテルにはツテがあるだ。調子に乗って格好つけてんじゃねえぞ。ツテって、どうせ前にもらったクーポンが使えるとか、そんなんだろ。」

笑うマサルに追従するかのように、平田さんもくすくすと肩を揺らす。そして二人は無慈悲にも、俺を追い出しにかかった。

「こんな高級ホテル、中卒にはもったいないから、さっさと出ていけよ。あとは俺がいい感じにやっとくから。どうせお前がいなくなっても、誰も何も困らないだろ。」

「まあ、そうよね。大谷君って、本当田舎者丸出しなんだもの。こんな人と同級生だって思われたくないわ。こっちまで田舎臭くなっちゃうじゃない。」

とどめの言葉を口にして、ケラケラと楽しそうに二人が笑う。友人だと思っていた相手のそんな姿を見たくなくて、俺はもうそれ以上何も言わず、彼らに背を向けてその場を後にしたのだった。

それから一時間後、俺は家に帰る気にもなれず、近所の居酒屋に入っていた。マサルがあんな風に思っていたなんて。そのことに打ちひしがれながら、酒をちびちびと飲む。その時、スマホが着信を知らせた。無視していると、一度切れて、そして間を置かず再度着信する。出る気になれず無視を続けていたが、しつこいので、俺は仕方なくその電話に出ることにした。すると、電話の向こうの相手は開口一番、こう怒鳴りつけてくる。

「どうなってんだよ、お前! 今支払いをしようとしたら、五百万って言われたぞ。お前、ツテで賄える程度だって言ってただろうが!」

そう言って怒鳴るのは、先ほどひどい言葉で俺を追い出したマサルだ。その大声に眉を寄せながらも、俺は淡々と答える。

「まあ、正規料金なら、そんなものだろうな。お前だって言ってたじゃないか。中卒には似合わない高級ホテルだって。」

すると、明らかに苛立った彼が、さらに大きな声をあげた。

「はあ? そんなの払えるわけないだろう! お前、あれほど自慢してたツテはどうなったんだよ!」

その言葉に、俺は思わず笑ってしまいそうになる。どうせクーポンだなんだと馬鹿にしていた人間のセリフとは、とても思えない。そして俺は電話口で、わざとらしく明るい声を出した。

「そうだ。俺、お前に言ってなかったことがあるんだけど。俺、なあ、実はそのホテルのオーナーなんだよ。」

その瞬間、マサルが絶句したのが電話越しに伝わってくるけれど、それには構わず俺は続けた。

「まあでも、せっかくの同窓会なんだし、みんなが喜んでくれればいいかなって、当初はだいぶ値引きしてたんだ。何より、マサルが幹事をやってくれるなら、俺はせめてお前の手助けになろうって。」

そうなのだ。都会の高校に進学できなかったことで、なぜかマサルはこちらのことを中卒と思い込んでいたようだが、俺はその後、地元から通える範囲の高校と大学で経営学をみっちりと学んだ。そうして俺は、生前分与で分けてもらっていた土地の一つを担保として銀行から金を借り、さらに大谷家が所有していた駅前の土地へ、新しくホテルを建てることにしたのだった。正直、三十半ばの今になっても、俺には大谷家の人間だからという自覚はあまりない。けれど、どうせここにいるのなら、祖父や両親があれだけ愛しているこの地元のことを、もう一度よく知ってみようと思ったのだ。そして子供の頃には見えなかったその魅力や問題点を探るうち、俺もまた徐々にこの土地のことを好きになっていった。どうにかしてこの土地のいいところをアピールできないかと考えに考え、今の時代だからこそできるネットを駆使した方法で外に発信し始めたのである。それと同時に、地域一体の観光業者のまとめ役として、俺は日々奔走し回っているのだった。それは何も、大谷家の人間だからではない。俺、大谷信という個人が自分で考え、自分で行動した結果である。そしてその原点となったのは、何かに負けても努力を惜しまなかった、いつか見た友の背中なのだけれど。俺は心のうちに湧いた感慨を噛みしめつつ、それから冷静に続けた。

「でも、お前は俺の助けなんか必要としてなかったんだな。それに、友人とも思われたくないようだったから、ホテルのオーナーとして、今回はきちんと正規料金を払ってもらうよ。」

電話口では、友だと思っていた男が何やら口汚く喚いている。だが、それを全て無視して、俺はさっさと電話を切ったのだった。

さて、それからどうなったかと言えば、マサルは結局五百万を支払うこととなった。しかしツテは元より、手持ちの現金とカードでもその金額は賄いきれなかったようで、同窓会の参加者たちが各々金額を分担して、ようやく支払い終えたらしい。また、俺に対しての暴言を聞いていた参加者の一人が、ネットでそのことをアップした。するとその件はまたたく間に拡散。議員秘書というマサルの肩書きが裏目に出たようで、雇い主である議員本人まで火の粉が及び、彼はその責任を取って、秘書をやめざるを得なかったとのことだ。そして、肩書きと仕事、社会的信用までを一気に失った婚約者を、平田さんはさっさと見切ったようである。あのダイヤの指輪は、慰謝料代わりに彼女がそのまま持っていったのだとか。

それからさらに数週間後、とある詐欺グループが逮捕されたとネットニュースに上がっていたが、そのうちの一人はかつて秘書をしていた、と記事は伝えていた。

俺は他の大きな事件に流されていくそのネット記事を読み終え、スマートフォンの画面をゆっくりと閉じる。ため息を一つ吐き、意識を切り替えた。さあ、今日もやるべき仕事は山積みだ。おかげ様で、この土地の観光ビジネスはなんとか軌道に乗ってくれている。俺は日々の仕事に精を出しつつ、これからもここで自分に何ができるのかを考え、行動を起こし続けていこうと、改めて誓ったのだった。

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