「ね、って何ですか?」——バイト上がりの駐車場で、大きさんが突然「明日、俺たち上がり一緒だよね。飲みに行かない?」と言ってきた。ホワイトデー前の忙しいシフトで疲れていた私は、その場で丁寧に断った。「すみません、用事があるんです」と。なのに彼は「ツンデレさん?」と笑い、「じゃあバイト上がったら店の前に集合ね」と勝手に決めて去った。翌日、私は本当に彼氏とのデートの約束があったのに、大きさんは「個…

「ね、って何ですか?」——バイト上がりの駐車場で、大きさんが突然「明日、俺たち上がり一緒だよね。飲みに行かない?」と言ってきた。ホワイトデー前の忙しいシフトで疲れていた私は、その場で丁寧に断った。「すみません、用事があるんです」と。なのに彼は「ツンデレさん?」と笑い、「じゃあバイト上がったら店の前に集合ね」と勝手に決めて去った。翌日、私は本当に彼氏とのデートの約束があったのに、大きさんは「個...

夏野ちゃん、お仕事お疲れ様。
大きさん、お疲れ様です。

いや、今日もお客さんすごかったね。ホワイトデー直前なのは分かってるけど、残業2時間超えはきついわ。
うちのお店はバレンタインからの流れで期間限定フェアをやってますもんね。毎年こんな感じだって聞きましたよ。

ところでさ、夏野ちゃん。
はい。
明日シフト入ってたよね。
はい、入ってますよ。
実は俺もなんだけど、上がりの時間も俺たち一緒なんだよ。
ああ、そうなんですか。
だからね。
ね、って何ですか?
あれ?夏野ちゃんって実はツンデレさん?
ツンデレ?
ま、そういうところも可愛いんだけど、今回は男の俺がさしてあげようじゃないか。
だから何ですか?
バイト上がったらさ、飲みに行かない?
ああ、すみません。その日は用事がありまして。それに私、お酒飲めないので。
あれ、そうなの?だったら食事でもいいよ。ここで無理じしたら嫌われちゃうもんね。
いえ、ですから用事がありまして。
いやいや、明日はホワイトデーだよ。そんな特別な日にツンデレは発揮しなくていいから。
すみませんが、本当に用事があるんです。
まあ、そんなところもいいと思うけどね。じゃあバイト上がったら店の前に集合ね。
ですから用事があるんですってば。
明日楽しみにしてるよ。

夏野ちゃん、もうダメじゃないか。いくら俺がバイト上がり遅くなったからって、帰っちゃうのはひどくない?
上がるのが遅れたのはトラブルがあったからで、仕方のないことなんだよ。
まあいいや。実はね、居酒屋の個室を予約してあるんだ。年末にバイト中まで忘年会をやったあの居酒屋だから。
ああ、そうそう。
夏野ちゃん、お酒飲めないって言ってたけど、あれ俺へのちょっとしたアピールのつもりだったんでしょ?本当可愛いよな。今夜は許してあげるよ。
あの、大きさん、さっきから何なんですか?私、今日は用事があるって言いましたよね。そちらのお誘いはお断りしたはずです。
へえ。まだツンデレ続けてるの?
本当に何度言われても帰れない予定なんです。
今日はそういうのいらないって言ったでしょ。今どこにいるんだい?
当初の目的地に向かっているところですが。
ああ、そういうことね。では失礼します。
オッケー。オッケー。じゃあまた後でね。

夏野ちゃん、俺もう予約した個室に入ってるんだけど。まだかな?まだかな?うーん。
またツンデレしちゃってるのかな?俺のナツのちゃん。うきゃ、行っちゃった。早くおいでね。待ってるよ。
夏野ちゃん、さすがにそろそろ来てくれないとな。いくら俺でも怒っちゃうぞ。
おい、ツンデレも可愛いけどさ、彼氏になる俺をしょっぱなのデートで待たせちゃうのはさすがにアウトだと思うぞ。
おい、夏野。せっかく予約していた居酒屋の個室の時間が無駄になっちゃったじゃないか。
さすがにもう怒ったぞ。ツンデレにも度ってものがあるんだよ。お前のはやりすぎだ。焦らせばいいってもんじゃない。
まあ、今からでも素直に来れば許してやる。駅南口のホテルに宿泊予約してあるから、そこへ来い。ロビーで待ってるからな。今夜はお仕置きも兼ねて、朝まで存分に可愛がってやる。

へ、何これ?
お、やっと来たか。やめる気になったか。ずっと既読無視とか、ツンデレにもほどがあるっつうの。
あの、何度も断りましたよね。ツンデレでも何でもなく、最初から大きさんのところへ行くつもりはないんですが。
は?え?なんで?
いや、それこっちが聞きたいんですけど。私は何度も用事があるからって断ってます。なのになんでそんなことになってるんですか?正直怖いし、気持ち悪いです。
というか、私彼氏いますんで。
は?
今日は彼氏とデートだったんです。変なLINEやめてください。
ま、俺に告白しといて何言ってんだ?
え?告白?私が大きさんにですか?
そうだよ。俺、その返事をするために今日のデートをセッティングしたんだぞ。なのに彼氏がいるとか、ふざけんな。
ちょっと待ってください。
俺の気持ちを持て遊びやがって。
私、大きさんに告白なんてしてませんけど。
はあ。このLINEを読んで、告白すらなかったことにする気か。
ですから告白してませんってば。
だって夏野ちゃん、俺にバレンタインチョコくれたじゃないか。
え、バレンタインチョコ?
2月14日のことだよ。俺のロッカーにこっそり手作りチョコを忍ばせてたじゃないか。実はさ、最初の数日は誰だか分からなかったんだ。チョコに添えてあったメッセージカードには「あなたのことが好きです」って書いてあるだけだったし。でも何日かして、夏野ちゃんの名前の略だって気づいたんだよ。

私、2月14日は県外の親戚に用があって、元々シフト入れてなかったんです。お店には行ってないから、チョコをロッカーに忍ばせることはできませんよ。
は、じゃあ……
告白したのは私ではないということです。
え、そんな嘘だろ?当日のシフトはお店に確認してもらえば分かることです。
じゃあ、誰が俺に告白したんだよ。
申し訳ないですが、私には分からないです。
夏野ちゃんじゃないなら、もう誰なのか検討もつかないよ。
私に言われても。従業員の誰かに心当たりを聞いてみたらどうですか?
だったら夏野ちゃんが聞いてくれ。
え、私?
俺が直接聞いちゃったら、なんかロマンがないだろ。頼むよ。俺の初めての彼女になる人なんだよ。初めて受けた告白が、そんな可愛いやり方だなんて。俺、もうそれだけで惚れちゃったんだよ。お願いだよ。
分かりましたよ。
え、探してくれるの?
見つかるかどうかは保証できませんよ。一応、分かりそうな人に聞いてみるだけです。結果がどうなっても、大きさんから文句は言わないと約束してください。
分かった。する。心から約束する。だから探して。俺の愛するナツノちゃん。

少し待っててください。のり子さん、こんばんは。こんな時間にすみません。ちょっとお知恵をお借りしたくて。
こんばんは、夏野ちゃん。どうしたの?
実は大きさんから、ちょっと厄介な頼まれ事をしてしまいまして。
大き君って、バイトの?
はい。バレンタインデーに、誰かからチョコをもらったそうなんですけど、知らないうちにバッグに入っていたとかで、相手が誰だか分からなくて困っているみたいで。
あら、でもどうして夏野ちゃんにそんな話をしたのかしら。
私の名前の略だと思ったそうです。でも、私は違うので。
まあ、そうだったのね。
それでのり子さんは、お店に長く勤めてますし、少しでも心当たりがあればと思って。
それ、実はね、私よ。
え?
私が大き君のバッグにチョコを忍ばせたの。もちろん本命チョコ。

ああ、大きさんどうも。
そんなに落ち着き払った返事しないでよ。どうしてのり子さんがここに来てるの?
みんな、なんで東京行きのことを知ってるの?
いや、男性社員用の独身寮の話だよ。
え、なんで?

のり子さんが、ゆっくりと話し始めた。
あのね、大き君。私、前からずっと君のことが好きだったんだよ。
は?
バレンタインの日に、勇気を振り絞ってチョコを渡したの。でも、君ったら私の存在に全く気づかないでしょ。メッセージカードに「あなたのことが好きです」って書いたけど、名前を書くのを忘れちゃってて。
それで、夏野ちゃんの名前の略だと勘違いしたの?
そう。でも、夏野ちゃんが違うって言うから、自分で調べたのよ。
それで、何で今になって?
ごめんね。ずっと言えなかったんだ。君が夏野ちゃんに告白すると聞いて、いても立ってもいられなくなって。
のり子さん……
私からの告白、受けてくれないかな?
えっと……
のり子さんからの告白を聞いて、大き君はしばらく呆然としていた。
まさか、のり子さんが俺に告白してくれるなんて……
正直、全然気づかなかった。
だって、君に気づいてほしかったんだもん。
のり子さん、俺でよかったら……
本当?
うん。俺でよかったら、お願いします。

夏野ちゃんは、そのやり取りを少し離れた場所で見ていた。大き君がのり子さんに想いを寄せていたこと、そしてのり子さんも大き君に想いを寄せていたこと。二人の気持ちが繋がった瞬間だった。
良かった……
夏野ちゃんは、そっと微笑んだ。
これで、大きさんの初めての彼女はのり子さんになるんだ。
夏野ちゃん!
のり子さんが、恥ずかしそうに声をかけた。
のり子さん、おめでとうございます。
ありがとう、夏野ちゃん。君のおかげだよ。
私何もしてませんよ。
そんなことないよ。君が大き君の告白を断ってくれなかったら、私は自分の気持ちを伝えることができなかった。
のり子さん……
夏野ちゃんも、いい人見つかるといいね。
はい。ありがとうございます。

後日、大き君と彼女になったのり子さんは、二人でお店に現れた。
夏野ちゃん、昨日はありがとう。
いえ、お二人がうまくいって良かったです。
ところで、夏野ちゃん。君に聞きたいことがあるんだけど。
何ですか?
君が言ってた「彼氏」って、本当にいるのか?
え?
大き君は、いたずらっぽく笑った。
いや、ただ気になっただけ。
私のこと、心配してくれてるんですか?
まあな。
大丈夫ですよ。私のことなら。
そう?ならいいけど。
大き君と話していると、のり子さんが優しく彼の腕を取った。
大き君、そろそろ行こう?
ああ、そうだな。
じゃあな、夏野ちゃん。また明日。
はい、お疲れ様です。

夏野ちゃんは、二人が仲良く歩いていく後ろ姿を見送った。
大きさん、本当に良かったね。
彼女ができて、あんなに嬉しそうな顔、初めて見た。
私も、誰かにこんな風に想ってもらえる日が来るのかな……

そう呟いて、夏野ちゃんは自分のスマホを見た。
「お疲れ様。今日も頑張ろうね」
彼氏からのメッセージに、彼女は優しく微笑んだ。
うん、ありがとう。

夏野ちゃんには、本当に彼氏がいた。それは決して嘘ではなかった。
大き君は、のり子さんとお似合いだった。
お互いに好き合っている二人の姿は、とても幸せそうで。
夏野ちゃんは、そんな二人を見ながら、自分の恋を大切にしようと思った。
今日も、お店は賑わっている。
バイト仲間の恋の行方を見守りながら、夏野ちゃんは今日も優しく笑うのだった。

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