「おばあちゃん、今日遠足なんだ。でもパパとママ、海外旅行に行くって、朝5時に出ちゃった」――11月の凍える朝、玄関に立っていた10歳の孫は、300円だけを握りしめて震えていた。遠足のお弁当を、たった300円で済ませようとした親。私は37年の保育士経験で、もう限界だと悟った。息子夫婦に注ぎ込んだ援助は総額2800万円。それなのに、孫は夜、カップ麺で一人で過ごしている。そして彼の日記には、信じら…
朝7時、玄関のチャイムが鳴った。手にしていたマグカップを落としそうになった――その瞬間、胸騒ぎがした。ドアを開けると、10歳の孫・相馬が立っていた。リュックを抱きしめ、今にも泣き出しそうな顔で。11月の冷たい朝の空気が、小さな体を震わせていた。 「相馬、どうしたの? こんな朝早くに」 涙で濡れた頬、寒さで青くなった唇。相馬は震える声で言った。 「今日、遠足なんだ。でもパパとママ、海外旅行に行くって、朝5時に出ちゃった」 息子夫婦が、大切な遠足の日に子供を置いて海外旅行。信じられなかった。 「お弁当は300円だけ渡されたけど、スーパーも開いてなくて……」 300円。たった300円で、10歳の子供の遠足の弁当を済ませようというのか。私は心の中で何かが崩れ落ちるのを感じた。夫の正人も起きてきて、事情を聞くと顔を真っ赤にして怒り出した。 「なんてことだ。あの親は何を考えているんだ?」 私は震える相馬を抱きしめながら、心の中で決意を固めていた。もう、これ以上は許さない。 「相馬、おばあちゃんが特製弁当を作ってあげるから、顔を洗ってらっしゃい」 保育士として37年の経験を生かし、手際よく弁当作りに取りかかった。唐揚げ、卵焼き、たこさんウインナー――相馬の好きなものを詰め込んでいく。 「おばあちゃん、ありがとう」 相馬の安心した表情を見ながら、私は普段の生活について尋ねた。 「いつもご飯はどうしてるの?」 「夜はカップ麺が多いかな。パパとママは外で食べてくるから」 私の手が止まった。カップ麺。10歳の成長期の子供に。 「給食費は払ってくれてるけど、習い事は全部やめさせられた。お金がないって」 お金がない。冗談じゃない。私たちが援助した頭金800万円でマイホームを買い、今回はハワイ旅行。それなのに、子供にはカップ麺。 正人が新聞を投げ出して立ち上がった。 「これは虐待じゃないか」 「そうね。でも今は、相馬を笑顔で送り出すことが先よ」 私は怒りを押し殺し、弁当を包んだ。相馬を遠足に出発させる直前、正人が送っていくと申し出た。 「おじいちゃんが来るまで送っていくから」 「うん。おばあちゃんの弁当、クラスで1番豪華だよ」 相馬の笑顔に、私の心は痛んだ。この子は本当の愛情に飢えている。37年間子供たちを見てきた私には、それが痛いほど分かった。 もう我慢の限界だ。息子夫婦には、きちんと責任を取ってもらう。 ……相馬を送り出した後、私は台所で一人、過去を振り返っていた。息子の大翔が結婚すると言ってきた時、私たちは心から祝福した。結婚式の費用500万円、新居の頭金800万円、家具の購入費200万円。貯めてきた老後資金から惜しみなく援助した。嫁の誠子との初対面も思い出す。上品な笑顔で「お母さん、よろしくお願いします」と頭を下げた彼女に、私は娘ができたような喜びを感じていた。 しかし変化は3年前から始まった。相馬が小学校に入学した頃、誠子の態度が急変したのだ。 「お母さん、相馬の送り迎えお願いできます? 私、仕事が忙しくて」 最初は心よく引き受けた。保育士として子供と接することは、私の生きがいでもあったから。だがそれは始まりに過ぎなかった。 「お母さん、今月も生活費が足りなくて5万円貸してもらえませんか?」 「お母さん、相馬の習い事の送迎もお願い」 「お母さん、土曜日も預かってください」 気がつけば、私は無償の家政婦のような扱いを受けていた。 ある日、誠子の本音を偶然聞いてしまった。友達との電話だった。 「うちの義母、保育士なの。底辺でしょ。恥ずかしくて友達に紹介できない。お金は持ってるみたいだから、使えるだけ使わないと損よね」 私の全身から血の気が引いた。37年間、子供たちの成長を見守り、多くの家族を支えてきた私の仕事を「底辺職」呼ばわり。 正人に相談すると、彼も怒りをあらわにした。 「もう援助はやめよう」 「でも、相馬のためにもけじめは必要だわ」 私たちは援助を断ることにした。すると大翔から電話がかかってきた。 「母さん、なんで急に冷たくなったんだ? 俺たち家族だろ」 「大翔、あなたたちは自立すべきよ」 「自立? 母さんたちは金持ってるんだから援助するのは当然だろ」 当然。私は言葉を失った。その後も要求は続いた。車の購入費、家族旅行の費用。断るたびに大翔は私たちを責めた。 「自己中な親だ」 「金の亡者」 「老後は面倒見ないぞ」 そんな言葉を浴びせられながらも、私は相馬のことを思って耐えてきた。 今朝、相馬を送り出してから30分後、大翔から電話が来た。 「母さん、勝手に弁当作らないでよ。300円で十分だろ」 … Read more