「おばあちゃん、もう来なくていいって、ママが言ってた」…
「お母さん、私たち、関係を断ちたいんです」 その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になりました。今日も家族の大好きなハンバーグを作って待っていたというのに、まさかこんな言葉を聞くことになるとは思いもしませんでした。 私は木崎ちえみ、69歳になる元薬剤師です。10年前に夫を亡くしてからは、息子家族のために精を尽くしてきたつもりでした。 その日の夕方、いつものように息子の家で夕飯を作っていた時、息子の純平と嫁のはるかさんが帰ってきました。いつもなら孫たちも一緒なのに、今日は2人だけ。玄関で靴を脱ぐ息子の表情が、どこか硬く見えました。 「母さん、大事な話があるんだ」 純平はリビングのソファに座るなり切り出しました。隣に座るはるかさんは、じっと床を見つめています。 「どうしたの? 何か深刻な話?」 私が尋ねると、はるかさんがゆっくりと顔を上げました。そして、信じられない言葉を口にしたのです。 「お母さん、私たち、関係を断ちたいんです」 まるで心臓を掴まれたような衝撃でした。5年間、週の半分以上を孫の世話に費やしてきた私に、なぜこんなことを言うのでしょうか。あまりの衝撃に、私はしばらく言葉が出ませんでした。 台所からはハンバーグの香ばしい匂いが漂ってきます。孫のために作っていた夕食が、急に虚しく感じられました。 思い返せば、長女の夏帆が生まれてから5年間、私は毎日のように息子の家に通っていました。朝7時には家を出て、夜7時まで3人の孫の世話、保育園の送り迎え、習い事の付き添い、病気の時の看病。まるで第二の子育てをしているようでした。数えてみれば1820日。それだけの日々を費やしてきたのです。 経済的な支援も惜しみませんでした。孫たちの習い事、ピアノに水泳、英会話。月謝だけで1人5万円、3人で15万円。それを私が全額負担していたのです。通帳を見返せば、この5年間で900万円以上も使っていました。 「でも、それはお母さんが勝手にやったことでしょう」 はるかさんの言葉に、私は耳を疑いました。勝手に? 毎回頼まれて、断れずにいた私の気持ちを、彼女は知らないのでしょうか。 「はるかさん、あなたが『お母さんがいなければ仕事を続けられない』って泣いて頼んだじゃないですか」 すると、はるかさんは冷たい目で私を見返してきました。その視線に、私は手の先が凍るような思いがしました。これまでの温かい思い出が、一瞬で色褪せていくようでした。 はるかさんの冷たい視線を受けながら、私は深く息を吸い込みました。何か誤解があるのかもしれない。冷静に話を聞いてみようと思いました。 「関係を断ちたいって、具体的にはどういうことですか?」 純平が気まずそうに咳払いをしてから、口を開きました。 「母さん、実は……はるかから聞いたんだけど、母さんの教育方針が古いって、周りから言われているらしいんだ」 「古い? どういうことですか? 箸の持ち方とか、挨拶の仕方とかが、今の時代には合わないって?」 私は驚きました。礼儀を教えることが時代遅れだというのでしょうか。 「あなたも小さい頃、同じように教えたじゃないですか。それで立派に育ったでしょう」 「それはそうだけど……」 純平は言葉を濁しました。すると、はるかさんが待っていましたとばかりに口を挟んできました。 「お母さん、子供たちに悪影響なんです。時代遅れの価値観で。友達のお母さんたちからも、『おばあちゃんのしつけが厳しすぎる』って言われているんです」 悪影響。その言葉が胸に突き刺さりました。孫たちのことを思って教えていたことが、悪影響だなんて。 「でも、夏帆ちゃんは『ありがとう』がきちんと言える子に育っているじゃないですか。お友達のお母さんにも褒められましたよ」 「それとこれとは別の話です」 はるかさんはきっぱりと言い切りました。 「じゃあ、私にどうしろとおっしゃるんですか?」 「距離を置いて欲しいんです。子供たちとも、私たちとも」 その時、純平が慌てたように付け加えました。 「あ、でも、土曜日の習い事の送り迎えは、これまで通りお願いできるよ。はるかも土曜は仕事だし」 私は自分の耳を疑いました。関係を断ちたいと言いながら、都合の良い時だけ頼るつもりなのでしょうか。 「待ってください。今、関係を断ちたいとおっしゃいましたよね。保育園の送り迎えはもう必要ありません。それは親の仕事ですから」 はるかさんは涼しい顔で言いました。 「でも、習い事は別です。もう申し込んでしまっているし、お母さんも楽しみにしているでしょう」 楽しみ? 私は言葉を失いました。朝の送りも、夕方のお迎えも、全て彼らに頼まれてやっていたことです。それなのに、都合の悪い部分だけを「親の仕事」と切り捨てて、面倒な部分だけを押し付けるなんて。 「はるかさん、それは道理が通らないんじゃないですか」 「お母さんこそ、孫に会いたいから通っていたんでしょう」 その言葉に、私は愕然としました。確かに孫は可愛い。でも、毎日生活の時間を費やしているのは、息子夫婦を助けたい一心からでした。 「正直に言います」 はるかさんは背筋を伸ばして、私をまっすぐ見つめました。 「お母さんがいない方が、家族はうまくいくんです」 心臓が止まりそうでした。5年間、家族のために尽くしてきた私の存在が、邪魔だというのです。 純平も、はるかさんに同調するように言いました。 「母さん、少し距離を置いた方がいいと思うんだ。はるかも疲れているし」 「疲れている? … Read more