義母に犬の糞を素手で拾えと言われ、地面に押し付けられた瞬間、何かが私の中で完全に壊れた。あの日まで、私は夫のために我慢し続けていた。でも、「汚い犬の糞だから、汚いあんたの手で直接掴んで片付けるのがお似合いでしょう」というあの言葉で、私は復讐を決意した。証拠を録音し、町内会長に協力を頼み、私は反撃の準備を始めた。 続きが気になる人はコメントしてね。
乾いた破裂音とともに、義母が私の手から袋をひったくり、コンクリートの地面に叩きつけた。中身が飛び散り、鼻を突く悪臭が広がる。私は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。 「あら、汚いわね。早く片付けないとご近所迷惑になるじゃない。」 義母は歪んだ笑みを浮かべ、私を見下ろしている。罪悪感のかけらもない。まるで面白いおもちゃを見つけた子供のような残酷さだった。 「すぐに新しい袋とちりとりを持ってきます」と震える声で言いかけると、義母はかん高い声で遮った。 「何言ってるの?そんなもの必要ないわよ。聞こえなかったのかしら?汚い犬の糞だから、汚いあんたの手で直接掴んで片付けるのがお似合いでしょう。」 血の気が引いていくのが分かった。全身が恐怖と怒りで震え出す。この屈辱を私は決して忘れない。 私は安藤ゆい。ペンネームの三坂ゆいとして、コラムニストとして活動している。4年前に夫の尊と結婚し、彼の生まれ育ったこの町へ引っ越してきた。夫は長会議員として2期目を務める真面目で有能な人物だ。しかし、彼には弱点があった。女手一つで自分を育ててくれた母、安藤証子にだけは頭が上がらないのだ。 義母はこの町で絶大な影響力を持つご意見番だった。役員ですら彼女の顔色を伺う。そして、息子の功績を自分の手柄のように語るのが常だった。 「夜道が暗くて危なかった路地に街灯が増えたのも、うちの尊のおかげなのよ。その尊を育て上げたのはこの私なんですからね。」 そんな義母にとって、私は大事な息子を奪った女でしかないらしい。結婚の挨拶に訪れた日から、その認識は変わっていない。 「いい年をして漫画なんて書いていつまでお子ちゃま気分でいるのかしら。」 私の仕事を公然と見下し、存在自体を否定してくる。それでも私は、夫を一人で育て上げてくれた感謝を忘れたくなかった。少しでも義母の負担を減らし、関係を改善したい。その思いから、義実家で飼われている大型犬・高森の世話を自ら引き受けた。毎日顔を合わせるうちに、高森もすっかり懐いてくれた。 この散歩の時間は、地域の人々と触れ合う貴重な機会でもあった。道端で草むしりをする夫婦や、店の前を掃除している店員と挨拶を交わす。何気ない交流が、この町での私の居場所を作ってくれているようだった。 「おや、安藤さん。いつも高森君のお散歩ご苦労様ですなあ。」 ある朝、町内会長の山田さんが声をかけてくれた。 「おはようございます、山田会長。高森と歩いていると季節の移り変わりがよく分かって楽しいですよ。」 「それは何よりだ。証子さんもあなたのようなお嫁さんが来てくれて、本当に助かっているでしょうなあ。」 山田会長の屈託のない言葉に、私は曖昧に微笑んで頷くことしかできなかった。義母がどう思っているかは、他の誰でもない私が一番よく分かっているからだ。 しかし皮肉なことに、私が地域に馴染み人望を得れば得るほど、義母の態度は氷のように冷たくなっていった。嫁いびりは日に日に因縁じみたものになり、私の心をじわじわと蝕んでいく。 ある日の夕食時、私は得意の煮物を大皿に盛り付けて義実家へ届けた。野菜が苦手な義母のために、隠し味に蜂蜜を少し加えた特製だ。 「お母さん、夕飯のおかずにいかがですか?たくさん作ってきたんです。」 「あら、ありがとう。ちょうどお腹が空いていたのよ。気が利くじゃないの。」 義母は満面の笑顔でそれを受け取った。その表情に安心したのも束の間、彼女は受け取った大皿をひっくり返し、キッチンの生ゴミ用のゴミ箱へと逆さにしたのだ。 「ごめんなさいね。なんだか変な匂いがするから、とてもじゃないけど食べられたものじゃないわ。」 「そんな…味見もちゃんとしたのに、腐っていることなんて絶対にありません。」 私の抗議に、義母は心底軽蔑したような目を向けた。 「あら、私の鼻がおかしいとでも言うのかしら。それともあなたは腐ったものを平気で人に食べさせるような非常識な人間なの。」 あまりの言い草に言葉を失う私を、義母は冷たい目で見下していた。 さらに、漫画家としての仕事への妨害もエスカレートした。アシスタントを入れず一人で全ての作業をこなす私にとって、締め切り前の数日間はまさに戦場だ。義母はそのタイミングを正確に把握し、わざと深夜に電話をかけてくる。 深夜1時を回った頃、けたたましい着信音で集中が断ち切られた。画面には義母の名前が光っている。 「もしもし、ゆいさん、今すぐ家に来てちょうだい。急用ができたのよ。」 「こんな時間にですか?何か大変なことでもあったんですか?」 「電話で長々と話している暇はないの。いいからすぐに来なさい。」 嫌な予感を覚えつつ、万が一を考えて急いで向かう。しかし、そこで待っていたのは悪意に満ちた用事の数々だった。 「ああ、来てくれたの。戸棚の一番上にある大皿を取って欲しくてね。私じゃどうにも届かなくて。」 それは少し背伸びすれば義母でも簡単に届く高さだった。黙って皿を下ろすと、彼女はさらに要求を続ける。 「ついでにあそこの電球がチカチカするから交換してちょうだい。これからテレビの裏の配線が気になるから、全部綺麗に束ねてくれる?」 明け方近くまでかかって全ての作業を終えた私に、義母は感謝の言葉一つかけなかった。それでも私が不満を口にせず耐え続けていたのは、全て夫のためだった。母と妻の間で板挟みになり、心を痛めている夫をこれ以上悲しませたくない。いつかきっと誠意が伝わる日が来るはず。そう信じることで、かろうじて正気を保っていた。 しかし、そんな淡い期待はある日の午後、あまりにも突然に終わりを告げた。 その日も高森との夕方の散歩を終え、いつもの道を通って義実家へと戻ってきた。西の空が赤く染まり始め、どこかの家から夕飯の支度の良い匂いが漂ってくる。右手にはきちんと処理を済ませた高森の糞が入ったビニール袋が揺れている。 義実家の玄関が見えてきたところで、私は足を止めた。玄関の前に義母が仁王立ちで私を待ち構えていたからだ。腕を組み、無表情なその姿は異様な威圧感を放っていた。隣を歩く高森が低く喉を鳴らす。 私はリードを強く握りしめ、覚悟を決めて義母の元へ歩み寄った。 「お帰りなさい。散歩ご苦労だったわね。」 ようやく私に気づいた義母の言葉は、不気味に響く。その声には嫌みに加えて、得体の知れない粘つくような悪意が感じられた。 私が何かを答えるより早く、義母は電光石火の速さで動いた。私の右手からビニール袋をひったくると、コンクリートの地面に思いっきり叩きつけたのだ。乾いた破裂音とともに袋は破れ、中身が飛び散った。 「お母さん、一体何を?」 突然の暴挙に思考は停止し、ただアスファルトに散らばった糞を見つめることしかできない。そんな私を見下ろし、義母は口元に歪んだ笑みを浮かべた。 「あら、汚いわね。早く片付けないとご近所迷惑になるじゃない。」 その言葉に罪悪感のかけらもない。まるで面白いおもちゃを見つけた子供のような残酷な響きだけがあった。 「すぐに新しい袋とちりとりを持ってきますから」と震える声で言いかけると、義母のかん高い声が遮った。 「何言ってるの?そんなもの必要ないわよ。」 義母は一歩私に近づき、私の目を見据えて信じがたい言葉を放った。 「その糞を今すぐ素手で拾いなさい。」 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。聞き間違いだろうか。しかし、義母の目は正気で、その表情は真剣そのものだった。 「聞こえなかったのかしら?汚い犬の糞だから、汚いあんたの手で直接掴んで片付けるのがお似合いでしょう。」 … Read more