私が会社で一番信頼していた後輩の江野本さんは、ある日突然、部長から「あなたの顔を見ていると気分が悪くなる」と言われた。彼女はただ黙ってうつむくだけだった。私は怒りで体が震えた。「そんな言い方はないでしょう」と抗議したが、部長は「あなたが彼女の代わりに首になってあげたら?」と冷笑した。私は決意した。もうこの職場にはいられない。退職届を出したその日、私は大事な証拠を握っていた。それは、部長が誰も…
部長の声がまた響いた。 「江野本さん、あなたは仕事ができないわね。男の人には媚を売って、本当に困った人だわ。仕事はもっとテキパキやってもらわないと。」 江野本さんは営業事務として働いている。彼女はいつも迅速で丁寧だ。営業社員たちの間でも評判が良い。でも、異口部長は彼女だけを目の敵にしている。 「江野本さん、あなたは仕事ができないわね。男の人には媚を売って、本当に困った人だわ。仕事はもっとテキパキやってもらわないと。」 部長は今日も彼女にきつい言葉を浴びせている。彼女の顔のことをまで言い出す。 「お嬢様育ちだからって、勝手なことを言っていられるのも今のうちよ。あなたのその顔、見ていると気分が悪くなるの。分かるかしら?」 江野本さんはうつむいたまま、何も言わない。彼女は顔立ちが整っていて美人なのに、左の頬に大きな黒いあざがある。いつも髪を垂らして隠すようにしている。自己肯定感がかなり低いのだ。 俺は耐えきれなくなって、猛然と抗議した。 「部長、いくらなんでも言い過ぎですよ。江野本さんはいつも仕事をきちんとやっています。そんな言い方はないでしょう。」 部長は俺を睨みつけた。 「あら、高田さん。いつもあなたは彼女をちやほやして、随分気に入っているのね。だったらあなたが彼女の代わりにこのミスの責任を取って、首になってあげたらどうかしら。」 部長は、江野本さんがミスをしたと言っている。だが、実際にはそれは江野本さんのミスではない。部長の指示が曖昧だったせいだ。俺は歯を食いしばった。 「分かりました。じゃあ、そうしましょうか。私が首になる筋合いはありませんが、私はもうこの会社をやめますよ。」 部長は検討違いなことを言って、まともに取り合ってくれない。俺はもうほとほと嫌気がさしていた。これからもこんな非常識なことがまかり通っていくのかと思うと、もうたくさんだった。 部長の顔は青ざめた。 「何を言っているのよ、高田さん。そんな簡単に辞めるなんて、考え直しなさいよ。」 だが、俺の決意は固かった。 「部長とくだらないやり取りを繰り返すのはもうたくさんです。私が辞めます。」 急に退職することになり、みんなに心配をかけてしまった。でも、俺にはある秘策がある。お嬢様育ちだからと言って、勝手なことを言っていられるのも今のうちだ。 俺は退職届を出し、会社を後にした。 あの日から、俺は自分が思っていた以上にこの会社のことが嫌いになっていたことに気づいた。だが、それだけではない。俺はあることを知ってしまった。それは、部長が江野本さんを目の敵にしている理由が、単なる見た目や態度だけではないということ。 部長は、江野本さんが営業部で一番優秀なことを知っている。そして、そのことを嫉妬しているのだ。 俺は辞めたが、これで終わりにするつもりはない。俺にはある計画がある。それは、部長の不正を暴くことだ。 俺は会社の資料を手に入れていた。それは、部長が横領をしている証拠だった。俺はその資料を会社の上層部に提出した。 後日、部長は解雇された。江野本さんは、新しい部長の下で、ようやく認められるようになった。 俺は新しい仕事を見つけた。給料は前の会社より低かったが、気持ちは軽かった。 ある日、江野本さんから連絡があった。 「高田さん、ありがとうございました。あなたがいなかったら、私は今頃どうなっていたか分かりません。」 「そんなこと言わないでください。あなたが仕事をきちんとやっていたからですよ。」 「高田さん、また一緒に働けませんか。私、転職するんです。もし良かったら、同じ会社で働きませんか。」 俺は笑った。 「ええ、是非。」 こうして俺たちは新しい会社で再び一緒に働くことになった。江野本さんは、ようやく自分の実力を認められるようになった。そして、彼女は少しずつ自信を持つようになった。 あの日の出来事は、俺にとって大きな転機だった。まさか、自分がこんなことをするとは思ってもみなかった。でも、後悔はしていない。 だって、あの部長の言動は明らかに間違っていたから。そして、江野本さんには、もっと堂々としていてほしかったから。 今も俺は、彼女の仕事ぶりを誇りに思っている。 ============