私は同期の同僚に仕事を押し付けられ続け、ついには取り返しのつかないミスを犯して左遷を告げられた。疲れ切って全てを諦めかけていた時、新人の女性社員が突然言った。「移動する必要なんてないですよ。私に任せてください」と。彼女が私を社長室に連れて行き、「久保山さんははめられたんです」と告げた。そして、温社司の上司を指さして言った。「私を首にするのでしたら、倒産の覚悟はおありですか?」私は驚き、彼女の…

私は同期の同僚に仕事を押し付けられ続け、ついには取り返しのつかないミスを犯して左遷を告げられた。疲れ切って全てを諦めかけていた時、新人の女性社員が突然言った。「移動する必要なんてないですよ。私に任せてください」と。彼女が私を社長室に連れて行き、「久保山さんははめられたんです」と告げた。そして、温社司の上司を指さして言った。「私を首にするのでしたら、倒産の覚悟はおありですか?」私は驚き、彼女の...

「これも仕事だよ。俺がやれって言ってんだから。」
そう言って、大津は俺のデスクに書類の山を積み上げた。俺は同期の大津に、いつもこうして仕事を押し付けられていた。自己主張が苦手な俺は、それを断りきれず、なんとかこなしてきた。

だが、ついに限界が来た。取引先との重要商談をすっぽかしてしまったのだ。俺のミスで、会社は大きな損失を出すところだった。社長は激怒し、俺は左遷を言い渡された。もう全部、諦めかけていた。

「移動する必要なんてないですよ。私に任せてください。」
そう言って現れたのは、新人社員の高橋さんだった。彼女は俺を社長室へ連れて行き、はっきりと言った。
「久保山さんは、はめられたんです。こちらをご覧ください。」

俺の名前は久保山安弘。マーケティング部門に所属し、もう7年になる。仕事はそつなくこなせるようになったが、全く評価されない。それもこれも、温社司である大津に手柄を横取りされ続けているからだ。

「おい、久保山。これ一緒にやろうぜ。」
大津は満面の笑顔で俺の肩に腕を回す。そして、俺が仕上げた書類を、まるで自分がやったかのように報告しに行く。同期のよしみで助け合おうと言いながら、結局、俺の手柄はすべて彼のものになっていた。同僚にも「また横取りされてんじゃん」と苦笑いされる始末だ。

大津は社長の息子だ。社長の前では仕事をしているふりをし、俺たちは誰も告げ口できない。大津にミスがないのは当然だ。仕事を一切しないのだから。それでいて、手柄だけは持っていく。そんな彼はスピード出世で部長になった。

上司になった大津は、さらに遠慮がなくなった。
「俺が上司となったからには、俺の指示に全部従えよ。久保山はこの仕事を全部こなせ。」
「え……こ、これを俺だけで?」
「まさか仕事を選ぶのか?お前はそんなやつじゃないだろ。」
断ろうとすると、大津はニヤニヤと笑う。彼に逆らえば、さらに仕事を押し付けられる。俺は引きつる顔を無理に笑顔にさせ、「頑張るよ」と答えるしかなかった。

大変なのは俺だけではない。他の社員も仕事を押し付けられ、休憩時間を削ったり、早朝出社したりしている。そんな状況の中、俺の手伝いを申し出てくれたのが、新入社員の高橋海さんだった。頑張り屋で気遣いができる彼女は、よく俺の手伝いをしてくれる。だが、そんな彼女にも大津が目をつけていた。

「なあ、今度一緒に出ない?俺奢っちゃうよ。」
勤務中にも関わらず、大津は高橋さんを口説いていた。彼女は笑顔で断っているが、ある日のこと、人目のない休憩室で大津が強引に迫っているところを目撃してしまった。狭い部屋の隅に高橋さんを追い込み、大津は入り口に立ちふさがっていた。
「今日こそいいかな?いいじゃん。1回くらい食事しても。俺、上司なんだけど。」
まるで脅すような言い方だった。高橋さんの声は震えている。
「そのくらいにしておけ。大津。そんな言い方したら怖がるだろ。」
「久保山のくせに、俺に指示するわけ?」
大津は不機嫌そうに俺を睨んだ。内心ビビりながらも、なんとか高橋さんを助け出した。

だが、その代償は大きかった。この日を境に、大津から押し付けられる仕事量がさらに増えた。倉庫整理までやらされ、深夜までの残業を余儀なくされた。数日も寝ておらず、目にはくまができ、食事も満足に取れず、体重は5キロも減った。働きながら、何のために働いているのか分からなくなることもあった。

そして、ついに大変な失敗を犯した。新規開拓した販売ルートの商談をすっぽかしてしまったのだ。社長に散々絞られ、その場にはたまたま近くにいた大津がいて、商談は彼の手柄になった。
「全く、君は何をやっているのかね。取引先の近くに息子がいたから大事には至らなかったが、損失が出たら君の首だけでは済まなかったんだぞ。」
俺はただ頭を下げることしかできなかった。デスクに戻り、手帳を開くと、商談の予定は記入されていない。だが、相談のメールは俺のパソコンから送られていた。連日の忙しさのあまり送ったことも忘れていたのだろうか。そう思うしかなかった。

その翌日、社長から移動通告書を渡された。俺は左遷を言い渡されたのだ。同僚は「あの仕事量でキャパオーバーは当然だって。社長に行ってみろよ」と勧めてくれたが、もうここにいるのは無理だと思った。疲れ切っていたのだ。左遷から解放されるなら、それもいいかと思えた。

他の社員に引き継ぎをするため、デスクのファイルを整理していると、真剣な顔をした高橋さんが足早にやってきた。
「移動する必要なんてないですよ。私にお任せください。」
彼女は俺のノートパソコンを持つと、社長室へと歩き出す。わけも分からず、俺は彼女の後を追った。高橋さんはノックもせずに社長室へ入り、俺のパソコンを開いて、ある画面を社長に見せた。
「久保山さんははめられたんです。こちらをご覧ください。」
それはメールの送信時間の記録だった。
「この時間は、私と久保山さんが倉庫整理をしていた時間です。久保山さんがメールを送るのは不可能です。倉庫の出入りには防犯のため、総務部に鍵を借りに行った際、入退室の時刻を記録することになっています。その記録を見れば、久保山さんの無実を証明できます。」
その事実を知った社長は眉を寄せた。
「それじゃあ、誰がやったと言うんだね。」
「久保山さんが倉庫整理のため、パソコンの前に戻ってこないと分かっていた人物。それは……久保山さんに倉庫整理を命令した、あなたの息子さんですよ。」
「な、なんだと?」

社長は、内線で大津を呼び出した。話を聞いた大津は、すぐに反論した。
「そんなの証拠がないだろう。そこまで言うなら証拠を出せよ。新人のくせに生意気だな。」
だが、高橋さんは姿勢を変えない。
「俺に立てつくなら首にするぞ。」
「私を首にするのでしたら、倒産の覚悟はおありですか?」
高橋さんは、満面の笑みを浮かべて言い放った。その言葉に、本人以外は首をかしげる。
「どういう意味だ?」
「私、高橋グループの社長令嬢で、会長の孫なんですよ。」
高橋グループは日本最大級のグループ会社で、うちの取引先の7割は関連会社だ。状況を理解した社長と大津は、顔を青くして震え始めた。俺も、そんなすごい社長令嬢が自分の後輩だったことに、ただ驚くばかりだった。
「ここで起きたことを父と祖父に告げて、即刻取引を中止してもらいますよ。」
「ま、待ってくれ!きちんと調査するから!」
手のひらを返したように、社長は高橋さんに懇願した。さらに高橋さんは、スーツのポケットからボイスレコーダーを取り出し、再生ボタンを押した。流れてきたのは、大津に迫られた時の録音だった。それを聞いた大津は、顔色をさらに悪くして床に崩れ落ちた。

一連の出来事に、俺は立ち尽くすことしかできなかった。そんな俺に、高橋さんは先ほどまでの勢いが嘘のように優しく話しかけた。
「先輩、戻りましょう。」
「え?ああ……そうだね。」

即日、社長の命令で調査が行われた。部署ごとに設置された防犯カメラには、大津が俺のパソコンを操作している姿がはっきりと映っていた。さらに、大津が高橋さん以外の女性社員にも不適切な行為を行っていた事実も発覚した。息子に甘い社長は大津を解雇することはなかったが、社員からの冷たい対応に耐えられなくなった大津は、自主退職した。

大津がやめたことにより、部長の席が空き、俺は主任に出世した。今まで日の目を浴びることがなかったのは、温社司である大津がいたからだったのだ。俺を評価してくれる人は、確かに存在していた。
「お前の真面目さなら、大津よりもいい仕事ができそうだな。」
「大津さんみたいな人よりも、久保山さんの方が上司にふさわしいと思います。」
「ありがとう。今まで以上に頑張るよ。」

主任になった後、俺は忙しく働いている。社員の力量に合わせて仕事の配分を考えるようになり、誰かに仕事が偏ることもなくなった。何より、女性社員たちが今まで以上に仕事に励んでくれるようになった。
「久保山さんが主任になってくれてよかったわ。もうちょっとで辞めようと思ってたから。」
大津のせいで退職を考えていた社員もいたようだが、今はみんな楽しそうに仕事をしている。退職後の大津は、別の会社に就職したらしいが、相変わらず仕事はできないようで、長続きはしていないらしい。

高橋さんは、今まで以上に俺をサポートしてくれる。ある日、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「高橋さんは、どうしてここで働いているの?お父さんの会社の方が大きいし、やれることも多いんじゃない?」
すると彼女は、少し複雑そうな表情をした。
「父は私に甘いので、父の会社に就職したら仕事をさせてもらえないと思ったんです。」
彼女は、大津と違い、楽な道を歩まないようにしたのだ。楽をせずに真面目に取り組んでいる彼女は、誰よりも輝いて見えた。
「高橋さん、この仕事をお願いしてもいいかな?」
「はい。私にお任せください。」
そんな彼女の輝きを失わないよう、働きやすい職場を作っていきたいと思う。それが、俺の窮地を救ってくれた彼女への恩返しであり、俺を信頼してくれている仲間たちの期待に応えることになるのだろう。

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