夫と義母が私を囲んで、机に離婚届けを叩きつけた。「同居するか離婚するか選べ。家族の役に立てない嫁はいらないんだよ。お前に拒否権はない」——その言葉を聞いた瞬間、私は我慢の限界を超えて、思わず笑ってしまった。二人は気味悪そうに私を見ていたが、知る由もない。私がこの日をどれだけ待っていたかを。彼らは私がただの従順な妻だと思っている。でも、私は全て知っている。夫の隠し事も、姑の秘密も、その先にある…

夫と義母が私を囲んで、机に離婚届けを叩きつけた。「同居するか離婚するか選べ。家族の役に立てない嫁はいらないんだよ。お前に拒否権はない」——その言葉を聞いた瞬間、私は我慢の限界を超えて、思わず笑ってしまった。二人は気味悪そうに私を見ていたが、知る由もない。私がこの日をどれだけ待っていたかを。彼らは私がただの従順な妻だと思っている。でも、私は全て知っている。夫の隠し事も、姑の秘密も、その先にある...

「実家に帰ります。5000万の車で1億の豪邸にね」

私がそう言い返した瞬間、夫と義母は大爆笑した。1年間、毎日のように浴びせられてきた言葉は、私の心をズタズタにしていた。役立たず、安月給、実家はお化け屋敷、不妊——そんな言葉の数々に、私はずっと黙って頷くだけだった。

「5000万の車? 1億の豪邸? あはは、何言ってんだよ。俺のベンツだって700万だぞ」
「鞭打ちって怖いわね。ともこ、出て行きたいなら出ていけば? どうせすぐ戻ってくるんでしょ」

夫は心底楽しそうだった。ただ楽しむために私を虐げているのだ。でも、もう終わりだ。私は全てを知っている。何も知らない夫に、現実を教えてやる時が来たのだ。

私は二つの通帳を取り出した。一つ目は夫婦で共同で貯めてきた貯金通帳。最後のページには600万が一気に引き出された記録がある。
「これは正さんが車を買うために下ろしたんです。私に無断で」
二つ目の通帳は、私が独身時代に貯めたお金。そこからも200万が、同じ日に引き出されていた。
「ベンツは700万って言いましたよね?

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600万じゃ足りない。その足りない分はここから出されたんです」

夫は「誤解だ」と必死に言い訳する。でも私は契約書も持っている。引き出した日と契約日が同じ日付だと示すと、夫は黙り込んだ。

ここで二人が謝ってくれていたら、少しは違う未来もあったかもしれない。しかし義母はとんでもない言葉を口にした。
「まさ、顔を上げなさい。あなたは何も悪くないわ。こんな不良品の嫁を今まで養ってあげたんだもの。共有財産も嫁の金も、結婚したら夫に自由に使う権利があるのよ」

夫は義母が味方してくれたことに気をよくして、にやりと笑った。義母は私の背中を押して玄関まで連れて行く。
「さようなら、貧乏人さん」

でも私は冷静に言い返した。
「あら、ちょうど迎えが来たわ」

玄関の外にはランボルギーニが停まっていた。夫は目を輝かせている。彼の憧れの車だ。そこから作業着姿の二人が降りてきた。
「お父さん、お母さん。突然呼んでごめんね」

私の両親だった。夫と義母は状況が飲み込めず、顔を見合わせている。

「あの、この車どうしたんですか? 」
父は笑って答えた。
「以前から欲しいと言っていたんだ。還暦祝いにとも子がプレゼントしてくれたのさ」

夫と義母は信じられないという顔をした。彼らは私の実家が農家で古い家だと知っている。いつも「年寄りばかりで陰気臭い」「汚い」と見下していた。

数日前、実家から届いた野菜で夕飯を作ったら、二人は無言で捨ててしまった。私だけ悪く言われるのは我慢できる。でも、大切な両親と彼らが手間をかけて作った野菜まで否定されるのは許せなかった。あの時、私は両親に電話して全てを話したのだ。

「農家の収入なんて大したことないだろう」
夫が嘲る。
「あんたの年収はせいぜい300万だろ。俺は1000万だ。笑える」
「ちなみに、今の答えは大外れ。0が一つ少ないんです。3000万です」

夫と義母の顔が驚きに満ちる。母が口を開いた。
「農家というだけで私たちを貧乏人と決めつけていたわね。実際に収入が少ない時期もあったから否定はしない。でも、そのことで大事な娘を虐げているなら話は別よ」

義母はまだ反論しようとする。
「虐げているなんて人聞きが悪い。嫁としてなっていないところがあったから助言していただけ」
「ちなみに、これ全部録画してますから」

私はスマホで動画を見せた。これまでの夫と義母の暴言や、野菜を捨てる様子。小型カメラを仕込んでいたのだ。
「証拠映像まで取られていると知らなかった二人は言葉を失った」

父が冷たい声で言った。
「人を見た目で判断するような者には、うちの娘は任せられん。とも子、帰るぞ」

私はランボルギーニに乗り込んだ。こうなることを予想して、慣れない会社を運転してきてくれた両親に感謝した。

「改めてありがとう、お父さん、お母さん」
すると二人は車中で大笑いし始めた。
「ああ、すっきりした。あんなにきついことを言う父さん、久しぶりだわ」
「そりゃな。わしらのこと何も知らんと大口叩きやがって。もっと言ってやればよかったわ」

私はこの両親が大好きだ。そして、次の相談を持ちかけた。
「もちろん農作業は手伝うわ。けど、もう少し協力して欲しいことがあるの」
両親はあっさり賛成してくれた。
「うん。わしらもそんな気がしていたんだ」

実家に帰ってからの数日は、農作業を手伝いながら気持ちよく過ごした。嫌がらせをしてくる夫や義母がいないだけで、田舎の空気がより一層美味しく感じられる。

ある日、畑に行く準備をしていると、見覚えのあるベンツが家の近くに停まった。いつものように着飾った夫と義母だ。
「やっぱり相変わらずのボロ屋ね」
「うわ、臭い。この町、虫と獣しか住んでないんじゃないの」

父が二人に近づいて言った。
「人ならここにおるがな。で、朝早くから何の用じゃ? 」
「年収3000万とか嘘だろ。貧乏人が肩寄せ合って住むようなボロ屋じゃん。嘘つきは泥棒の始まりって言うわね」

両親は深いため息をついた。父が言う。
「お見せするしかないわね」
「そうだな。二人とも、少しついてきてくれないか」

私たちは歩いてある場所へ向かった。到着した先は、老朽化した実家とは対照的な大豪邸だった。広い駐車場には高級車が何台も止まっている。マイバッハ、ロールスロイス、ベントレー——祖父のコレクションだ。

夫は目を輝かせた。
「これ全部売ったら何千万… いや、億超えだぞ」
義母も口を開けて立ち尽くしている。

「どうしてこんな家を建てられるのに、あんな古い家に住んでるの?


父が説明する。
「私たちだって最初から順風満帆じゃなかったんだ。農業は天候に左右される。とも子が学生の頃、水害や台風で畑が荒らされた時は生活が苦しかった。そんな中、とも子は状況を理解して、一番近い高校に進んで働いてくれたんだ」

「私の父と母が見かねて、自分たちが住んでいた家を譲ってくれたんだ。それがさっきのボロ屋さ。あの家は私たち家族にとって思い出の詰まった家なのよ」
「大切なのは見た目じゃない。物も人も、その中身を知って初めて価値が分かるのよ」

義母も夫も下を向いた。ようやく一安心かと思ったその時だった。

「ふふふ。あはは!」
突然、義母と夫が大声で笑い始めた。
「確かに両親は素晴らしいよ。だけど、その両親から生まれたのは不妊女ただもんな」
「そうよ。この役立たずを優秀な息子がもらってあげたのよ。感謝しなさい」

父が夫に掴みかかろうとしたので、私はそれを制した。
「まあまあ、お父さん落ち着いて。興奮する前に、これを見てくれる? 」

私がスマホの画像を見せると、三人が同時に目を丸くした。写真には、夫が泌尿器科に入っていく様子が映っていた。
「まさ、不妊の嫁に内緒で検査に行ってるなんて優しいのね。不妊と罵りながら、こっそり検査してくれるなんて。で、結果はこれでした」

私は自分の検査結果と夫の検査結果を見せた。
「不妊だと判明したのは、私ではなく夫の方でした」

夫は青ざめた。
「怖かったんだ。俺が不妊だと知られて軽蔑されるのが怖かった。だからとも子が不妊ってことにして、虐めてたんだ」
義母は夫を怒鳴った。
「あなた、子供ができないのは役立たずって言ったわよね? じゃあ、あなたの息子さんは役立たずなの? 」

義母は土下座した。夫も続く。
「今まで虐めて悪かった。これからはお前に寄り添えるいい夫になる。家事についてももうダメ出ししない。だから戻ってきてくれ」
「あなたたち、自分が何を言っているか分かりますか?

中身が腐った人の元には戻れません。さっさと出ていってください」

私たちは作業へ向かおうとしたが、夫はまだ諦めない。
「こんどい中にわざわざ来てやってんだぞ」
「うるさいわね。近所迷惑だからさっさと帰れって言ってるの。もう二度と私たちの前に現れないでください」

夕方、家に帰ると夫の車は消えていた。

夕食後、私は両親に言った。
「今日は仕事前に時間を使わせてごめんね。ずっと味方してくれてありがとう」
「娘のためならどうってことないわよ」
すると父が意味深に笑った。
「残念だが、このままじゃ終わらないだろうな。あの二人」
「思い出したわ。あいつ、まだ隠してることがある」

数日後、私は両親の指示である場所に身を隠していた。やっぱり来た。男は手にバールを持って、あの豪邸の駐車場に現れた。
「そこで何してるの? 」
「うわっ、なんでそこにいるんだよ」
「それは私たちの家だからいるのよ。そんなもの持って、何をしようとしてたの? 」

夫は高級車を見て「これ全部売ったら何千万」と呟いた時、目の奥に黒いものを感じたのだ。
「まさか、その車盗もうとしてたんでしょ」
「そんなわけないだろ。もう一回見たかっただけだ」
「じゃあ、その手に持ってるバールは何なの? それに、あなたには車を盗まざるを得ない理由があるものね」

私は封筒を投げつけた。中には借用書と写真と探偵の調査結果が入っている。
「病院に行っていたのも治療していたのも建前だったのよね。本当は若い看護師に会うことが目的だった。看護師には独身だと偽って近づいて、ブランド品も貢いでいた。おかげで全て貯金はなくなった。それでも彼女を口説くために、ベンツを私の貯金で買ったのよね」

夫は唇を噛みしめて黙っている。
「お母さんに失望されるのが怖いってのも嘘。本当は私と別れて彼女と再婚するつもりだっただけ。今までお母さんを世話していたのも、遺産を全部もらいたかっただけ」
「ああ、そうだよ。俺の代わりにとも子を虐めてくれてたから利用しただけだ。兄弟も父親もいないから遺産は独占できるしな。お前の言う通り、俺は離婚して彼女と結婚するんだよ」

「だそうです。どう思われますか?

お母さん」
車の影から義母が現れた。
「まさ、よくも今まで嘘をついてたわね。もう二度と家の敷居をまたがないで」
義母は怒りと悲しみで泣き崩れながら去っていった。

夫の地獄はこれでは終わらない。豪邸のセキュリティが作動していて、警備員が夫を捕まえた。
「俺は盗んでない!ただ見てただけだ!」
「じゃあ手に持ってるそれは何だ? いいから来い」

その後、私と夫の離婚はあっさり成立した。風の噂では、夫が看護師と浮気していることは会社にバレていたそうだ。借金返済のために辞められず、嫌がらせを受けているらしい。義母にも頭を下げたが門前払い。浮気相手の看護師は既婚者だと判明し、夫は完全に一人ぼっちになった。

私は地元に戻って就職が決まった。両親は「しばらく家にいたらいい」と言ってくれたが、これ以上甘えるわけにはいかないと思い、一人暮らしをすることにした。休日は実家に農業の手伝いに行っている。両親は基本的には新しい豪邸で祖父母と暮らしているが、実際は老朽化の進んだ家で過ごしていることの方が多い。
「建てておいてなんだけど、私と父さんにはやっぱりこっちが落ち着くのよ」
母は笑った。思い出には何者にも代えがたい価値がある。私は両親を見てそう思うのだった。