土曜の昼下がり、突然の訪問者。雨宿りと称してやってきた義母は、その日から我が家に居座ることになった。性格は悪くない人だが、息子である夫からいつも“上から目線”だと愚痴をこぼす。夫はそんなことはないと言うが、私はなんとなく違和感を覚えていた。数日後、義母から興奮気味の電話が。「あの子が謝ってきたの!あなたのおかげかもしれないわね」と満足げに話す義母に、私は違和感を抱えながらも流していた。そして…

土曜の昼下がり、突然の訪問者。雨宿りと称してやってきた義母は、その日から我が家に居座ることになった。性格は悪くない人だが、息子である夫からいつも“上から目線”だと愚痴をこぼす。夫はそんなことはないと言うが、私はなんとなく違和感を覚えていた。数日後、義母から興奮気味の電話が。「あの子が謝ってきたの!あなたのおかげかもしれないわね」と満足げに話す義母に、私は違和感を抱えながらも流していた。そして...

土曜の昼下がり、突然インターホンが鳴り響いた。
「はーい……え、お母さん?」
突然の訪問者は義母だった。その日はひどい雨で、家の近くまで来ていた義母は「雨宿りに寄った」と言った。
「すごい天気ね。こんなに降るなんて思わなかったわ」
「そうですね。この後もまだ降り続けるそうです」
「え、うん。どうしようかな」
「よかったら、止まって行かれますか?」
「あら、いいの?じゃあお言葉に甘えて止まらせてもらおうかしら」
「お父さんに連絡は?」
「ああ、大丈夫。止まるかもしれないって言ってきたから」
最初から止まる気だったのか。こうして、今日から義母が家に滞在することになった。

その夜、夫が帰宅し、事情を説明した。
「親父のこと、放っておいて大丈夫なのかよ」
「大丈夫だって。お父さんだって自分でできるでしょ」
「そうかもしれないけど……最近家によく来てくれるのはいいけど、あんまり来られても親父も困るんじゃないか」

私は知っていた。義母はいつも夫に厳しい言葉を掛けられて、バツが悪そうにしていることを。その証拠に、義母は私に愚痴ってくることも多々あった。
「あの子はいつも私に指摘してきたり、上から目線なのよ」
「そ、そうなんですか」
「まりかちゃんも何か不満に思うことはないの?結婚したら、あの子の上から目線に腹が立つことなんていっぱいあるでしょう」
「いや、そこまでのことはないですけど」
「え、それじゃ相当私の前だと態度が違うのね。世話してきたのは私だっていうのに、ポッと出の子に対しての方が優しいなんて」
義母は深くため息を吐いた。私に責任はないとはいえ、そんなことを言われたら気まずい。私は夫と義母の橋渡しになろうと思い、夫に義母に対してもう少し優しくするよう伝えた。
「俺ってそんなに冷たいかな?」
「冷たいってほどじゃないけど、言い方が少し強いとかかな」
「そうか。周りから見ても、俺はそんな風に見えるか?」
「いや、どうかな……」
私から見ても、夫の言い方はそこまで上から目線には見えなかった。ただ、言葉は受け取り方次第で傷つくこともある。数日後、義母から電話が来た。
「まりかちゃん、すごく嬉しいことがあったの」
どうやら夫が、今までの上から目線の言葉を謝罪し、今後もそういう言い方をするかもしれないが指摘してほしいと言ったらしい。
「まさかあの子からそんな言葉が出るなんてね。きっとこれも私のおかげかもしれないわ。私が育ててきたから、自分を顧みるようにって教えたからね」
義母はその後も自分の子育て自慢をして満足して電話を切った。結局、義母は自分が良ければそれでいいのだ。だが、まあ、私は感謝されたくてやったわけではない。夫の言い方が強いと思ったこともほとんどなかった。被害妄想だけは勘弁してほしいものだ。

しかし、そんな義母を巡って、とんでもないことが起きた。1ヶ月後、夫の誕生日ということで、前日から義母と義姉が遊びに来ていた。義姉は一度離婚して実家に戻り、契約社員として働いている。性格は悪くないが、男運が悪いと本人は言っていた。私たち三人で仲良く談笑していると、義母が途中トイレへ。すると数分後、戻ってきた義母はどこか落ち着かない様子だった。
「母さん、どうかされました?」
「え、え、どうして?」
「いや、なんかそわそわしているように見えて」
「そ、そうかしら。別にいつも通りじゃないかな」
「まりかちゃんの言う通りだよ。なんかお母さん変じゃない?」
義姉からもそう言われたが、義母は最後まで認めようとしなかった。

数時間後、夫が帰宅。
「あれ?もしかして、お袋たち来てるの?」
「うん。お姉さんも」
「姉貴も?親父は?」
「今、お母さんたちが買い物に出かけてて、そのまま迎えに行ってくるって」
「そっか。じゃあ久しぶりに親父と飲むかな」
「あなたは本当に家族を大切にしてるよね」
「そうかな」
「うん。そうだよ」
「いや、なんでだろう。自分も家族を持つようになって、親父とかお袋の偉大さが分かったっていうか……」
そんな会話をしていると、ほどなくして義母と義姉が義父を連れて戻ってきた。みんなで食卓を囲んでいると、気になることがあった。義姉と夫は早々に仕事の話をしながら酒を交わしていたが、義母と義姉が何やらこそこそしている。もしかして何かあったのか?そう思って二人に話しかけた。
「お二人とも、どうかされましたか?」
二人はビクッとした反応を見せた。
「うん。なんでもないよ」
「そうですか。先ほどというか、昨日から何か様子が変じゃないですか?」
「大丈夫、大丈夫。ね、お母さん」
「そ、そうそう」
二人の様子が気になり、気は進まなかったが、夜、二人の部屋の前に立ち、会話を盗み聞きした。いつもなら遅い時間まで起きている義姉が早々に寝床についていた。何かが引っかかっていた。部屋の明かりが漏れていたからだ。
「それにしてもさ、お母さん、よく気づいたね」
「本当そうよね。私も覗く気はなかったんだけど、なんとなく人の家のものって気になるじゃない?だから見ちゃったのよね」
「嘘でしょ?」
なんと、以前義母が突然家にやってきたあの日、義母は家の中を物色していたらしい。続きを聞いていくうちに、驚きの事実が判明した。
「これでさ、あの子たちの寝室に行ったら、箪笥の引き出しに通帳が入ってたのよ。いくら入ってるのかなと思ったら、あんた、1000万よ」
「それは驚くよね」
「そう。だからその後、まりかちゃんと目を合わせられなかったもん。あんなにため込んでる子だなんて、こっちは思ってなかったからさ」
「ていうか、あんなお金貯められるなんて、さすがは嫁ってことなのかね。私にはあんな管理できないな」
「あんたは私と一緒で、入ったら入った分だけ使っちゃうからね」
「そりゃそうでしょう。だって、生きているうちに使わないとお金なんて意味ないじゃん。だから使い切るのよ」
「でも、それで前の旦那さんと別れちゃったんでしょ」
「だってあいつうるさかったんだもん。老後のことはどうするんだとか、そんなことばかり」
「まあ、旦那さんの言うことももちろん正しいわよ。でも、それだけで普段から節約するってなると、若い時代に貯めて体が動かない高齢になってからお金が使えるようになってもね」
「そういうことだから、今回の1000万円のことは本当に良かったよね。お母さんも旦那には苦労したり、息子からも厳しい言い方をされたりしたわけじゃん。これはそのご褒美みたいなもんじゃない?」
「うん。あんただけだよ、そんなこと言ってくれるのは」
「まあまあ。私は娘だから分かるってだけだよ。やっぱり、まりかちゃんとは違って、我が娘はいいわ。あの子あんまり役に立たないもの」
義母はそれから義姉と一緒になって私の悪口を吐いていた。私が嫁としてまだまだだとか、様々。だんだんと怒りが込み上げてきたが、一つ気になることがあった。それは貯金の1000万円がどこに行ったのかということだ。私は二人の寝室へと入っていった。
二人は一瞬ビクッとしてこちらを見るが、すぐに平静を装う。
「ど、どうしたの?こんな時間に」
「ごめんなさい。ちょっとお二人に聞きたいことがあって」
「私たちに、こんな時間に話さないといけないことなの?」
「そうですね。私からすれば、結構大事なことなので」
二人の額に汗がちらっと見える。
「最近まであった通帳と印鑑がないんですよね。お二人は何か知りませんか?」
すると二人は再び驚いた顔を一瞬見せるが、知らぬ存ぜぬの態度を貫いた。
「通帳と印鑑?さあ、知らないな。どうしてそんなこと、私たちが知ってるのよ」
「そうよ。私たちが知るわけないわ」
「そうですよね。すみません。勘違いだったかもしれません」
「でも、なんで私たちに聞いてきたの?もしかして疑ってるってこと?」
「いえいえ。決して、お二人はやっていないと思っていますが、一つ気になることがあったんですよね」
「気になること?」
「実は通帳と印鑑は箪笥にしまっていたんですけど、その近くに髪の毛が落ちていたんですよね。茶髪の、えっと……」
「そうなんです。私も夫も髪の毛は黒ですから、茶色なんて落ちているはずがないんですけど。お母さんとお姉さんは茶色だから、もしかして部屋に間違えて入ったのかなと思いまして」
すると二人がおろおろし出した。
「あれ?お二人とも、どうかされました?」
「い、いいや、別に」
義姉が明らかに動揺していると、義母が何かをひらめいたように見えた。
「あ、ああ、思い出した。この間ね、なんかこの部屋から声がしたと思って見に来ちゃったの。だから、その時に私の髪の毛が落ちちゃったのかも。ごめんなさい」
「そうだったんですか。なんだ。それなら、それで言ってくれればよかったのに」
「あはは、ごめんね」
義母のとっさの言い訳で、義姉はほっとしたような表情を見せた。だが、私はそんなことで引き下がるはずがない。
「そんなこと、信じると思いますか?」
「え?」
「全部、知ってますよ。お二人が通帳と印鑑を持っていったってこと。私がお二人に事実を告げた瞬間、彼女たちから笑顔が消えた。
「すみません。さっき、そこの扉の前で全部聞かせてもらいました。まさか盗まれるのがお母さんとお姉さんだとは思っていませんでしたが、残念です」
「いや、これはその……違うの」
「何が違うんですか?盗んだって事実は変わらないですよ」
すると義姉が口を開いた。
「別に盗んだなんて、そんな人聞きの悪いこと言わないでくれる?私とお母さんは、別に盗んだわけじゃなくて、別の場所へ移動させようとしたのよ」
義姉はこの状況で意味の分からない言い訳を言い出した。
「何言ってるんですか?そんなの、なんでお姉さんとお母さんがする必要があるんですか?」
「そ、それは……昔、私たちの家に泥棒が入られたことがあったの。その時の引き出しに入れていたから、まりかちゃんもそうならないようにと思って移動させたのよ」
「へえ、そうなんですか。そのお気遣いに感謝します。じゃあ、私が鍵付きの棚に入れるので、返してもらえますか?」
「そ、それは……」
私が返却を求めると、二人は難色を示した。そして、これ以上の言い訳は難しいと思ったのだろう。
「もういいわ。全部、正直に話してあげる。あなたの貯めた1000万円、私たちが使ってあげたわ」
「え、お、お母さん!いいの?」
「いいの。どうせ下手な嘘言ったところで、この子には全部バレちゃうんだから」
「それはそうかも……」
「大体、1000万円って、一体そんな大金を何に使ったんですか?」
「色々買ったわ。宝くじなら、後でバレたとしても当たっちゃえば返せるでしょう。だから保険をかけておいたの。ああ、あと競馬にも行ったわね。それから食事ね。二人でいいレストランで、お酒も高いものを次々と飲んだわ。あとは娘と私の洋服やバッグ。これが結構いいお値段したのよ。家に置いておくとお父さんにバレるから、部屋を一つ契約して、洋服だけで部屋を埋め尽くしちゃった」
義母は私を嘲笑うかのように見て、そう告げたのだった。だが、週末の話はこれで終わりではない。
「それに、前から思ってたけど、まりかちゃんには言わなかったことがあるのよ」
義母はとんでもないことを言い出した。なんと、夫が義母に対して言い方が強くなったのは結婚してからだと言い始めたのだ。
「まりかちゃんが普段、あの子に色々なことを強制していることとか、そういったことがストレスで、私に強く当たるようになったのかもしれない。言ったら、私の方が被害者みたいなものじゃない」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。それは前からだって言ってたじゃないですか。お姉さんも分かりますよね」
私は以前、義姉にも相談したことがあると言っていたので、結婚前からであることは分かっていた。最も、夫はそんなに強い言い方をしていないが。しかし、義姉も義母とぐるになって、私の意見に同意することはなかった。
「いや、確かに結婚してから人を見下すようになったかもしれない。お母さんが落ち込んでいる姿を見るようになったのは、それからのことだし」
「え……」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
「分かるでしょう?私はあなたの被害者なのよ。だったら、あなたの貯めた1000万円を私がもらっても、迷惑をかけているから慰謝料みたいなものでしょう?」
「なるほど。そういうことを言うんですね」
私が呆れていると、義母はさらに続けた。
「それなら、真実を伝えてやろう」
「母さん。それから、お姉さん。講座の名義ですけど、ちゃんと確認しました?」
「え、まさかとは思いますけど……金額が記載されているページだけですか?」
すると二人は焦って通帳を取り出し、ページをめくり始めた。
「う、嘘。な、なんで?」
二人が驚くのも無理はない。なぜなら、二人が使用した講座は夫の講座だからだ。印鑑を持っていったのに気づかないのは一体なぜなのか気になったが、どうやら窓口で引き出す場合、身分証明書やらなんやらが必要だと考え、ATMから下ろそうとしたらしい。暗証番号は奇跡的に合っていたとのこと。
「さあ、それで、一体これからどうするんですか?あれは主人が一軒家を買うためにコツコツ貯めたお金なんです。それを私のために使うなんて、信じられません。このことは、主人にも、そしてお父さんにもお伝えします」
「ちょ、ちょっと待って。それだけはどうかお願い!」
「だめです。今更許してもらえるものでもないんですよ。だから、主人にはしっかり報告させてもらいます。今度は本当に見下されるどころか、もう見てすらもらえないかもしれませんね」
こうして今回の一件は幕を閉じた。あれから義母と義姉は、義父からの説教が延々と続いたらしい。さらに、使った分を返すまでは自由に使うことは許されないと言って、義父が二人を監視することになったようだ。二人は今も朝も夜も働いて、私たちにお金を返している。もちろん夫は怒り狂い、二人とはもう会いたくないと言って、顔も見せるなと義母と義姉に告げた。今はまだ賃貸だが、夫と一緒ならどこでも構わない。でも、もしいつか大きな家に住める時が来たなら、その時は家族が一人とか二人とか加わって住みたいと思う。

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