いや、うまくいったか。まあ、俺の紹介があってのことだよな。
得意げに話してくるのは俺の上司、木村部長だ。こいつはいつも自分の手柄のように言うが、そんなことは一切ない。この間も俺の顧客のところへ行ってくれと言われて訪問したら、木村のクレーム処理だった。
そんなことばかりしている人だから、いずれ痛い目を見ることになるだろう。
俺の名前は池田。45歳の営業職だ。工場や施設で使う生産ラインを扱っていて、導入費用が数千万単位になることもしばしば。大口契約が決まった時の達成感は何者にも代えがたい。
ただ売って終わりではない。導入後のアフターフォローも重要で、ここができていないと次の契約にはつながらない。それどころか、別の企業に乗り換えられることもある。
だから俺は信頼を得ることこそが営業の仕事だと思い、アフターフォローも欠かさない。
だが木村部長は「アフターフォローなんてしてないで新規開拓をしてこい」と平気で言うくせに、自分の顧客のアフターフォローへ行けと命令してくる。その場合はほとんどクレームだ。
「随分前に木村さんに言ったんだけど、全く対応してくれなくて、ついに壊れてしまったんだよ。これで修理費を払えって、おかしいんじゃないの?」
今日も取引先の社長が激怒していた。そりゃそうだ。俺はいつも「大変申し訳ございません」と謝罪から入る日々。
だが面白いのはここからだ。この社長が「君のことは気に入ったよ。今度の契約も頼むね」と俺を信用して態度を変えてくれる。
これこそが営業の醍醐味だ。おかげで俺は5ヶ月連続で営業トップの成績をキープしている。
ちなみにその前の1ヶ月間は木村のクレーム対応に時間がかかり、自分の営業活動に支障が出たため成績を落としてしまったのだ。
先月の全体会議でも、木村は皆の前で「池田が取ってきた大口契約。あれは俺が昔から付き合いのある社長でな。俺の顔がなきゃあの契約は取れなかったんだよ」と、さも自分の手柄のように語っていた。
あの契約は俺が半年かけて信頼を積み上げて、やっと取れたものだ。
腹の中は煮えくり返ったが、反論すれば場の空気を乱すだけだと分かっていたので、黙って頭を下げるしかなかった。
唯一の救いは、うちの社長、田村社長だ。現場主義の人で、たまにフラットな正談後の俺のところに顔を出しては「池田君、さっきの契約の詰め方、見事だったな。うちの会社は君みたいな社員に支えられているんだよ」と直接声をかけてくれることがあった。
木村を通さず、俺の仕事ぶりを自分の目で見てくれている数少ない人だ。
社内で木村の言い分ばかりが通っていても、田村社長だけは俺の実績をきちんと見てくれている。
木村のせいで俺の評価は社内では低い。だが顧客は、俺がいるから契約すると言ってくれるところがほとんど。
さらに先日、展示会で待ち合わせたライバル会社からも「あなたが池田さんですか? 池田さんのアフターフォローの丁寧さは業界でも有名ですよ。うちの営業全員に見習わせたいくらいだ。もし今の会社に不満があるなら、いつでも連絡してください」と熱烈なスカウトと共に名刺を渡されていた。
この人は山岸さんと言って、なんと俺と同い年なのに社長なのだ。俺も「山岸さんの若いのにやり手」という噂は聞いていた。
山岸さんの会社もうちと同じように生産ラインを扱っているが、この会社の売りはITだ。
そんな出会いから1ヶ月。相変わらず俺の成果を自分の手柄にし続ける木村部長だったが、ある日突然俺を会議室に呼び出した。
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべ、机の上の書類をトントンと叩く。
「池田さ、お前さ、最近調子乗ってない?」



