「文相って分かりますか?ああ、あなたの学じゃ分からないですよね。参加できただけで感謝しなさいよ。席がないなら、空いてるところで媚びでも売ってれば?」
言いたいことだけ言って満足したように、田口さんは大勢の人が集まる方へ派手に去っていった。オフィスの隅で下を向き、肩を少し震わせている林美香さんを、俺は放っておけなかった。
「どうした?何か言われたのか?そもそもなんでこんな端っこに?」
「い、いえ……やっぱり大手の会社って違いますよね。私みたいな高卒の席はないんです」
俺は彼女の手にそっと飲み物を置いて、その場を離れた。宴の中心に向かって歩きながら、俺は決意を固めていた。
――ガコン。はあ、ようやく一息か。にしても、ここの自販機のラインナップ、10年前と変わってないな。このコーヒー、なかなかないんだよな。
俺の名前は山本優一。新卒でこの会社に入ったが、すぐに遠方の支店へ飛ばされ、系列会社を渡り歩き、10年目にしてようやく本社へ戻ってこられた。今は会社の花形とも言われる商品開発部に席を置いている。忙しいのは問題ない。
だが、加藤の観光土産コーヒーとか、やばいだろ。あ、ごめんなさい。ついみんなにも聞こえちゃった。でも、健康管理とか若者のトレンドには、少しは興味持った方がいいですよ。おじいさん。せっかくラッキーでここにいるんだから。
彼女は田口まゆ子さん。一流大学卒業の、いわゆるエリート。しっかり決めたメイクと、上品に巻いた髪型。そしてタイトな服装は、彼女の自信そのものだ。田口さんは俺に対して大体こんな感じだ。だが、彼女の本当の攻撃対象は俺ではない。
「山本さん、田口さん、おはようございます」
「あ、おはよう」
「ん、なんだか大荷物だね」
たくさんの紙袋を抱えて出勤してきたのは、林美香さん。いつも笑顔で優しく、努力家の子だ。この会社は高校卒業から採用対象としているが、業界トップなだけあって、実際はかなり狭き門。それを乗り越えたのだから、10以上も年下の林さんを俺は尊敬していた。
「さっき、仲のいい掃除のおば様が旅行のお土産をくれたんです。中央デスクへ置いて、皆さんにも……」
「ちょ、そういうのやめてくれない?」
「え?」
挨拶の返答もせず、どこかの高そうなスムージーを飲みながら黙っていた田口さんが、大きめの声で突然割って入ってきて、オフィスは静まり返ってしまった。いや、あえて彼女は沈めたのだろう。
「分かんないかな?今時、お土産文化ってありえないの?アレルギーとか。あなた責任取れる?」



