「高卒が意見するな。逆らうならやめろ。」
本社の部長は歪んだ笑みを浮かべ、俺に退職を迫ってきた。部長との間には因縁がある。けれど、まさか俺を排除するためにここまでするとは思わなかった。
俺は素直に退職願いを出した。しかし後日、部長は顔面蒼白のまま本社に呼び出され、二度と偉そうな口を聞けなくなっていた。
俺の名前は太田。33歳。高卒で建設会社に働き始め、現場一筋で経験を積みながら、仕事で使える資格の勉強もしてきた。
数ある資格の中で一番苦労して取ったのが、火薬類取り扱い保安責任者だ。国家資格で、実務経験と試験の両方が必要になる。トンネル工事に欠かせない発破作業を仕切るための資格で、取得している人間は限られている。
署長には「お前が持っていれば、いざという時に会社の役に立つ」と言われ、仕事の合間を縫って勉強し、二年かけて手に入れた。おかげで33歳になった今、死者の所長代理にまで昇進した。
俺の入社試験は、死者の石橋所署長が面接をしてくれた。
「高卒なんてうちにはいらないだろう。」
そう言ったのは、本社の営業所属の佐藤部長だ。当時はまだ係長だったが、本社の方針で採用にも目を通す関連があり、経験のために採用試験に参加していたらしい。
「いや、この子は使えますよ。俺が教育しますから。」
佐藤部長に反論し、俺の採用を決めたのが石橋署長だ。
本社の営業で死者を見下していた部長は、この一件以来、所長を目のかたきにしているらしい。一方、俺にとって署長は恩人だ。今日も俺は所署長へ恩を返すために一生懸命働いている。
ある日のこと。
「おお、大きな仕事が入ったぞ。380億規模のトンネル工事だ。」
「そりゃすごいですね。気合入れてやらないと。」
大手ゼネコンから依頼があり、複数の会社が関わる現場に俺の死者も参加することになった。
ところが着工当日。「この案件は俺が取ってきた案件だからな。」
偉そうに現場に姿を表したのは佐藤部長だった。
死者の現場作業員は、厄介な人が来たという顔をしている。だが、俺と石橋所長は平然としている。
「佐藤部長、うちの人員配置表です。誰がどの資格を持っているか一応目を通して…」
「手順を省略すればいいだろう。」
石橋所長と言い争っている場面に遭遇した俺は、たまらず部長の前に出て反論した。
「工期より人の命が優先です。」
「ああ、誰だお前?」
「太田と申します。」
俺が答えると、部長は馬鹿にしたように笑った。
「どこの大学出身だ?」
「高卒です。」
俺がそう言うと、部長の目つきが変わった。
「高卒が意見するな。逆らうならやめろ。」
その言葉に、現場は凍りついた。石橋所長が止めに入ろうとしたが、部長は聞く耳を持たない。
俺はその場で何も言い返せなかった。悔しさで拳が震えたが、これ以上部長と衝突すれば、現場にも所長にも迷惑がかかる。
俺は退職願いを出すことにした。所長には申し訳なかったが、これ以上居座れば、会社の中での立場がさらに悪くなる。
だが、退職願いを出した後、思いもよらないことが起きた。
本社から部長が呼び出されたのだ。それも、顔面蒼白のまま。
何があったのか、俺には知らされなかった。ただ、部長はその後、二度と現場に顔を出さず、偉そうな口を聞くこともなくなった。
俺の退職願いは、却下された。
所長が言った。
「お前は、ここに残れ。俺が責任を持つ。」
俺はその言葉を聞いて、初めて自分の選択が間違っていなかったと思った。
あの日、部長が何を見せられたのかは知らない。ただ、この会社では、本当に必要なのは学歴じゃない。現場を守る気持ちだと、思い知らされた日だった。



