同窓会で、私は自分の娘の姿を見つけた。高級レストランのウェイトレスとして働く、制服姿の娘を。ところが、高校時代から私を憎み続けた男が、娘にこう言い放ったんだ。「親がクズなら、娘もやっぱりクズだな」。 私はその男を咎めた。すると彼は、高圧的な笑みを浮かべて言った。「この娘のクビを今すぐ切ってやってもいいんだぞ?俺の一言でな」。…
高校卒業から30年。同窓会の会場に選ばれた高級レストラン「桜亭」で、私は信じられない光景を目にした。ウェイトレスとして働く私の娘、せつ。その姿を見つけた瞬間、心臓が凍りつくようだった。 「親がクズなら娘もやっぱりクズだな。」 その言葉を浴びせたのは、不動産会社の御曹司だった木田。高校時代からずっと私を見下し続けてきた男だ。娘が私の子だと分かるやいなや、彼は標的を娘に変えた。 「底辺の娘がこんな高級レストランでバイトなんかして、料理人の真似でもしたいのか?笑わせるなよ。」 「そうだな。お前なんか今すぐ首にしちゃおうかな。こんなのが働いてると、店の格が下がっちゃうからね。」 木田は意地の悪い笑みを浮かべる。娘の瞳から涙がこぼれ落ちた。私は拳を握りしめ、怒りに震えた。だが、その時――背後から冷静な声が響いた。 「おやおや、騒がしいですね。木田さん、彼の正体を知っていながらの発言じゃないでしょうね。」 その人物が、私の過去を語り始めた瞬間、会場の空気が一変した。 ―― あの日々を思い出す。 教室の窓から差し込む春の日差し。いつもの席で弁当を開ける私の手を、柔らかく照らしていた。周りではクラスメートたちが賑やかに昼食を取っている。その声が妙に遠く感じられた。 私は福田白。高校2年生。3年前から母が肺を患っていて、毎日の食事は私が作っていた。母の笑顔のために始めた料理だったが、学校では決して口にできない話題だった。 「ね、それ手作り?」 突然耳元で明るい声が響いた。驚いて顔を上げると、そこには晴れ山すみれが立っていた。学校で一番の美人と評判の少女だ。化粧っ気のない整った顔立ちが、私の弁当を興味深そうに覗き込んでいた。 「ああ、まあ…」 戸惑う私に、晴れ山は目を輝かせた。 「すごい!プロみたい。特にこの照り焼きの焼き目、完璧じゃない?家でこんなの作れるなんて。」 「当たり前だよ。毎日作ってるんだから。」 思わず突き放すような口調で返してしまう。すると彼女は目を丸くした。 「え?これ、福田くんが作ったの?じゃあなおさら当たり前じゃないわよ。うちなんて代々レストランやってるけど、私が作ってもこんなに綺麗にはできないもん。」 その日から、昼休みになると晴れ山は私の席に弁当を持ってくるようになった。最初は距離を置いていたクラスメートも、徐々に会話に加わってくるようになる。そして、私は文化祭の料理部門のリーダーを任されることになった。 ある日の夕暮れ、教室の戸締まりをしている私のところへ晴れ山がやってきた。 「良かったね、福田くん。」 「何が?」 「最近、楽しそうだから。前は一人でお弁当食べて寂しそうだった。みんなも声かけづらそうにしてたし。」 そう言って、晴れ山は微笑んだ。その日の教室は、夕日が優しく照らしていた。 だが、翌日。クラスメートの木田が私の机の横に立っていた。木田は成績優秀で、地元の有名な不動産会社の社長の息子だ。彼は私の机に手をつき、威圧的に身を乗り出してきた。 「おい、福田。お前、文化祭の料理担当のリーダーになって調子に乗ってるんじゃないか。男のくせに料理なんかしてさ、見てるとむかつくんだよ。」 そう言うと、木田は私のカバンを奪い取り、試作品の入った容器を乱暴に掴み上げた。蓋が外れ、中身が見える。文化祭で作る予定のたこ焼きだった。 「へえ、これ文化祭で作るやつか。なんかまずそうじゃね?」 「ああ、お前の母ちゃん病気だったよな。お前のまずい料理食って、具合悪くなったんじゃねえのか。」 その言葉に、私の体が震えた。 「木田くん、そんなこと言うなんて!言っていいことと悪いことの区別もつかないの?」 晴れ山が声をあげる。いつもの優しい表情は消え、真っ直ぐに木田を睨みつけていた。 「おい、すみれ。なんでお前、こんな女みたいなやつとつるんでんだよ。俺なら高級レストランに連れてってやるぜ。」 木田は晴れ山の腕を掴んで引っ張ろうとした。 「やめて!」 「やめろよ!」 私は反射的に声をあげた。 「うるせえな。お前はこれ食ってればいいだろ。」 木田は容器を逆さにして振った。たこ焼きが床に落ちる音が、異様に大きく響いた。木田はそれを靴で踏みつぶしながら笑った。 「ほら、食えよ。」 声が出なかった。夜遅くまでかかって完成させた試作品。その一つ一つに込めた思いが、木田の靴の下で潰されていく。 その時、一条が教室に入ってきた。状況を察したのか、すぐに木田の前に立ちはだかる。 「木田くん、先生呼んでくる?それとも、ここでちゃんと謝る?」 一条の冷たい声に、木田は顔を引きつらせた。 「謝りゃいいんだろ。どうもすみませんでした。」 そう言い残して、木田は教室を出ていった。 「福田くん、大丈夫?」 晴れ山が心配そうに私の顔を覗き込む。私は無理に微笑んだ。だが、床に落ちたたこ焼きを拭き取りながら、喉の奥が熱くなるのを感じた。 するとその時、晴れ山が私のカバンから小さな容器を取り出した。中には試作品のたこ焼きが一つだけ入っていた。木田は見逃していたようだ。 「ねえ、これ食べてみていい?」 晴れ山は私の顔を覗き込むように尋ねた。私が頷くと、晴れ山は蓋を開け、一つを口に運んだ。 「おいしい!」 その声に、周りにいたクラスメートが集まってきた。 … Read more