下請けの席はないと言い放たれ、祝賀会の会場から追い出された。耐えに耐えてきた係長と部下。だが、その直後、100件を超える着信が鳴り響く。発信者は、さっきまで俺たちを嘲笑っていた男。そして、その声は震えていた。「大手ゼネコンの社長が、あんたのことを知っているんだ」──その一言が、全てをひっくり返す。 下請けを見下した者たちの、衝撃の結末とは?
「下請けの席があるわけないだろう。消えろ。」 俺と部下の遠藤は、呆然としながら元受けの社長を見つめていた。この人は自身の就任パーティーで、俺たちに席を用意しないという信じられない嫌がらせをしてきた。社長にふさわしくない。いつか天罰が下るぞと思っていたけれど、俺たちがその場を追い出された直後に、あんなことが起こるとはこの時は思ってもみなかった。 俺の名前は三田。35歳。中堅の建設会社で係長を務めている。 「見たか、係長。今日一緒に飲みに行きません? 怒らないぞ。」 「そうだな。」 係長の俺に生意気な口を聞いているのは、部下の遠藤だ。2年前にうちの会社に転職してきたばかりの新人で、教育係として俺が面倒を見てきた。若くて未熟な部分はあるが、視野の広さと察しの良さがある。遠藤と俺は、車内ではいいコンビという認識で、一緒に組んで仕事をすることが多かった。 「そういえば、取引先の次期社長が鈴木さんに決まったらしいですね。」 仕事を終え、遠藤と一緒に会社を出る。押しに負けて、俺の行きつけの飲み屋に行くことになったのだ。 「らしいな。俺としては、ライバルの営業本部長に社長になって欲しかったけど。」 「俺もですよ。」 そう言いながら、遠藤がため息をつく。 我が社と鈴木社長の会社は、何度か一緒に仕事をしている。いずれの案件もうちが下請けだが、俺たち相手なら何を言ってもいいと思っているらしい。 「自分で仕事も取ってこれない弱い下請けが、黙ってうちの言うことを聞いていればいいんだよ。」 無理な納期設定に苦言を呈した際、鈴木社長が俺に言った言葉だ。社長は強いものにはとことん腰を抜かすが、俺たちみたいに立場が下の相手には強気な態度だった。お前たちより俺の方が偉いんだぞと、言葉と態度で示さないと気が済まないらしい。 「役員の中には、鈴木社長で良かったのかなんて意見もあるらしいですよ。」 遠藤が内緒話をするように小声で言う。 「あんなだからな。鈴木社長を嫌ってる人もいるだろう。来週からまた一緒に仕事をしますよね。大丈夫かな?」 遠藤がため息をつく。今回も鈴木社長の会社と下請け契約をして、駅前に新しいビルを作ることになった。現場の統括責任者は俺で、補佐として遠藤が入っている。何も怒らなければいいがと考えながら、俺も小さくため息をついた。 1週間後、今日は作業初日のため、相手の担当者と一緒に現場を見て回ることになっている。 「うわ、汚いなあ。下請けはよくこんな汚いところで作業できますね。」 つきまとって失礼なことを言っているのは、鈴木社長の会社の担当者である下田さんだ。初めてこの人と会った打ち合わせで、自分は鈴木社長と同じ大学の出身で社長のお気に入りだと散々自慢していた。しかし、仕事ぶりを見る限り有能な人とは思えない。 「社長の後ろ盾しか武器がないんでしょうね。」 1週間前、俺の行きつけの店で飲みに行った遠藤が、嫌そうな顔でそんなことを言ったのを覚えている。遠藤は観察力が鋭い。おそらく下田さんの見立ては当たっているだろう。 「納期は厳守ですからね。1日でも遅れたら、あんたたちがクライアントに謝ってくださいよ。」 嫌味ばかり口にする下田さんを見ながら、もしうちの社員だったら車内で即居場所を失うだろうなと思った。多少の嫌味なら俺も耐えられる。しかし、度々現場に来て他の社員に絡むのは見過ごせなかった。 「また下田さんが来ましたよ。暇なんですかね。現場のことなんて何も知らないくせに、手際が悪いだの色々と文句を言ってきましたよ。」 「現場に行く時は俺に連絡しろと、何度も言ってるんですが。もう一度言っておきますね。」 現場社員から度々苦情が寄せられ、俺は何度も下田さんに苦言を呈した。とはいえ、元受け相手にそこまで強くは言えない。オブラートに包み、失礼にならないよう注意しているのだが、改善の様子は見られなかった。 一方で、現場社員は荒っぽい性格の人が多い。ある日、我慢の限界を迎えた社員が下田さんを怒鳴りつけたらしい。 「下請けのくせに覚えとけよ。」 そんな一言を投げつけ、現場を去った数日後、下田さんが手配している資材の搬入が大幅に遅れると電話で伝えられた。 「すみませんねえ。こちらの手違いで。」 下田さんの声はどこか楽しそうに聞こえる。俺たちに対する嫌がらせだと、明確に言葉にしなくても分かった。 「そうですか。こちらのミスということですね。遅れた分はどのように対応するつもりでしょうか?」 「そんなの知るかよ。現場で考えろ。」 そう言い捨てて電話を切る。あまりにも信じられない態度に、俺は思わず部長に相談した。 「相手は元受けで、それなりの大手だしな。資材が到着する間、別の作業を進めておこう。」 部長はいい人だが、事なかれ主義だ。俺は肩を落とし、工程表の見直しに追われた。 「ありえないですよ。ちゃんと抗議しましょう。」 引き下がった遠藤が、下田さんとのやり取りの記録を集め、現場で何が起こっているのかレポートにまとめて上司に提出する。ところが、部長は下田さんではなく遠藤を叱った。 「経験の浅いお前には分からないだろうが、取引先との関係を維持するのは大変なことなんだぞ。三田、遠藤にしっかり教えておけ。」 会議室に呼び出された俺と遠藤は、部長から叱られるはめになった。 「すみません。係長にまで迷惑をかけることになるとは。気にするな。」 口ではそう言いながら、俺は車内の空気が徐々に変化しつつあるのを察知していた。今回遠藤が騒いだことは上層部にも伝わっている。情報通の社員からこっそり聞いた話によると、遠藤は元受けと揉め事を起こす問題社員だという評判が広まっているらしい。そして、コンビである俺にも冷めた目が向けられる。 評価の時期は目の前だ。何かしらの影響が出るだろう。そのことを遠藤に明かすと、半泣きで何度も俺に頭を下げた。 「俺のせいです。上層部にはそう言いますから。」 「やめておけ。これ以上お前の評判を落とす必要はない。謝らなきゃいけないのは俺の方だ。」 俺が対応の仕方を間違えたせいで、遠藤のキャリアに影を落としてしまった。もし俺が毅然とした態度で下田さんに接していたら、別の結果になっていたかもしれない。しかし、今更後悔してももう遅かった。 嫌な空気が流れる中、建設工事は進んでいく。下田さんの妨害をかわしつつ、なんとかゴールが見えてきた。 そんなある日のこと、鈴木社長の会社から手紙が届いた。社長就任パーティーのお知らせだ。 「見たか? 遠藤を連れて行ってこい。謝罪するいい機会だ。」 部長の気遣いだと分かっているが、完全に俺たちが悪者扱いされているのは納得できなかった。しかし、文句は飲み込み、素直に受け取る。 「分かりました。なんとかしてきます。」 … Read more