Mi asciugai la bocca con il tovagliolo e mi alzai. Venti miliardari. Cristalli fermi a mezz’aria. Mia moglie Ava si appoggiò allo schienale, soddisfatta. “Spazzatura da fogna”, aveva detto,…

Mi chiamo Adrian Vail. Avevo ventisette anni quando mia moglie mi chiamò “spazzatura da fogna” in una sala piena di miliardari. I calici di cristallo si fermarono a metà aria. Nessuno rise. Tutti guardarono. Mia moglie si appoggiò alla sedia sorridendo come se avesse appena detto qualcosa di intelligente. Suo padre, Richard Hallstrom, ridacchiò piano … Read more

19 September 2026

Mia madre ha appoggiato la forchetta e ha detto che mia sorella si sarebbe trasferita da me il mese prossimo. Non era una domanda. Era una decisione. Ho sentito la mascella stringersi e il petto…

Mi chiamo Megan e compio ventotto anni tra tre settimane. Nella mia famiglia sono quella che non chiede mai aiuto, quella che paga da sola le bollette, quella che tutti chiamano quando la loro vita sta andando a rotoli. Punto. Ma quella sera a tavola qualcosa in me è finalmente scattato. Mia madre ha appoggiato … Read more

19 September 2026

孫の誕生日会の最中、ろうそくの炎が揺れる中で嫁が冷たい顔で私を見て言った。「もう来ないでください」。私は四十年前から毎朝三時に起きて市場に通い、野菜を売ってきた。その収入で息子を大学まで出し、結婚資金も出し、孫の世話も無償で三年間続けてきた。なのに嫁は「野菜売りの仕事が恥ずかしい」と言い、息子もうなずいた。「母さんがいると、本当に恥ずかしいんだ」。五歳の孫まで「おばあちゃん、臭い」と言った。…

「もう来ないでください」 その言葉が響いたのは、孫の優馬の五歳の誕生日会の最中だった。私は心を込めて作った特製のケーキを運んでいる途中だったロソの炎が揺らめく中、嫁の知恵が冷たい表情で私を見つめていた。 「お母さん、ちょっとお話があります。」 知恵の声は氷のように冷たく、息子の工事は困ったような顔で視線をそらしている。優馬は無邪気にケーキを見つめているが、その場の空気は明らかに変わっていた。 「これからは、もう私たちと関わらないでいただけますか。」 知恵の言葉に、私は手に持っていたお盆が震えそうになった。孫の誕生日という、最も幸せであるべき瞬間に、まさか絶縁を言い渡されるとは思ってもみなかった 「そう、わかりました。」 私は静かにそう答えた。心の中では激しい感情が渦巻いていたが、表情には出さず、むしろ静かな微笑みを浮かべていた。四十年間、朝早くから家族を支えてきた私の人生が、この瞬間、音もなく崩れていくような気がした 「理由を聞いてもよろしいでしょうか。」 私が静かに尋ねると、知恵は鼻で笑うような仕草を見せた。 「お母さんの野菜売りの仕事って、正直恥ずかしいんです。有馬の幼稚園のお母さんたちに、おばあちゃんが野菜売りだなんて言えません。」 その言葉は、私の胸に鋭い刃のように突き刺さった。工事も小さく頷いている。 「時代遅れなんだよ、母さん。今時、野菜売りの親なんて。」 私の脳裏に、これまでの四十年間の記憶が走馬灯のように蘇ってきた。毎朝三時に起きて市場へ仕入れに行き、新鮮な野菜を地域の皆様にお届けしてきた日々。その収入で工事を大学まで行かせ、総額八百万円もの教育費を工面した玻璃結婚する時には貯金から五百万円を援助し、優馬が生まれてからの三年間は毎日無償で孫の世話をしていた玻璃朝から晩まで、ただひたすら家族のために働いてきたのだ 「お母さんの手、いつも土臭くて、優馬に触らないでって言ってるのに。」 知恵の追い打ちをかけるような言葉に、私は自分の手を見つめた玻璃確かに、長年の仕事で節くれだった手だ玻璃でも、この手で育てた野菜で工事は大きくなったはずだ玻璃 「でも、なぜ今なのですか。」 私の問いかけに、二人は顔を見合わせた玻璃何か別の理由があるような、そんな予感が私の心をよぎった玻璃 「実は、知恵の実家が大手企業の役員をやっていることが分かったんだ。」 工事が思い切ったように切り出した玻璃私は静かに聞いていた玻璃 「向こうのご両親と会った時に、母さんの職業の話になって、正直恥ずかしかったんだ。」 知恵が得意げに続ける玻璃 「うちの父は海外事業部の専務なんです玻璃母も元キャリアウーマンで、今は文化教室の講師をしています玻璃核が違うんですよ、お母さん玻璃核が違う。」 その言葉が、私の心に重くのしかかった玻璃私はただの野菜売りだ玻璃でも、それが恥ずかしいことだろうか 「先月の幼稚園の懇談会でも困ったんです。」 知恵は思い出したように顔を曇らせた玻璃 「優馬のおばあちゃんのお仕事は、って聞かれて、つい不動産関係って嘘をついちゃいました玻璃でも運動会の時に、お母さんが野菜の差し入れを持ってきたでしょう。あれで全部バレちゃって。」 私は覚えている玻璃運動会の日、朝どれの新鮮な野菜で作ったサラダと手作りの漬け物を持っていった玻璃皆さんに喜んでいただけると思っていたのだ玻璃 「まあ、本当に野菜売りだったのね、ってみんなに笑われました玻璃野菜の匂いがする、って影で言われているんです玻璃」 知恵の言葉は次第にエスカレートしていった玻璃 「優馬も言ってるんですよ、おばあちゃんの手、臭い、って玻璃お友達のおばあちゃんは、いい匂いがするのに、って玻璃」 私は優馬を見つめた玻璃五歳の孫は、ケーキを前に何も知らずにいる玻璃本当にそんなことを言ったのだろうか玻璃それとも、知恵が言わせているのだろうか玻璃 「この前なんて、お母さんが迎えに来た時、優馬が泣き出したんです玻璃野菜売りのおばあちゃんだ、って友達にからかわれたって。」 工事も重い口を開いた玻璃 「母さん、僕も会社で肩身が狭いんだ玻璃取引先との会食で家族の話になると、いつも話題を変えてる玻璃お母様は何をされているんですか、って聞かれるのが本当に苦痛で。」 息子の言葉は、私の心を深くえぐった玻璃あんなに可愛がって育てた工事が、母親の仕事を恥じているなんて玻璃 「それに、お母さんの服装も問題です。」 知恵が畳みかけるように言う玻璃 「いつも同じような地味な服ばかり玻璃この前、幼稚園の発表会に来た時の格好、覚えてますか玻璃あの紺色のカーディガン、何年前のものですか。」 確かに、私の服は質素だ玻璃でもそれは、無駄遣いをせず、工事の教育費を優先してきたからだ玻璃おしゃれよりも、家族の将来を大切にしてきたのだ玻璃 「お母さんといると、私たちまで貧乏臭く見られるんです玻璃」 知恵の言葉に、工事も頷いている玻璃 「正直、母さんがいると恥ずかしいんだ玻璃この前、会社の同僚家族とバーベキューをした時も、母さんを誘わなかった理由、分かるでしょう。」 私は分からなかった玻璃あの時は、人数の都合でと言われて納得していた玻璃まさか、存在自体を疎まれていたとは玻璃 「お父さんは元銀行員で、退職後も投資で成功されているから、まだ対面が持てます玻璃でもお母さんは…。」 知恵が言い、私の夫のことまで引き合いに出した玻璃 「父さんも困ってるよ。」 工事が付け加える玻璃 「この前、父さんに相談したら、母さんの仕事は立派だ、って言ってたけど、本心じゃないと思う玻璃だって、父さんの友人たちとの集まりに、母さんを連れて行かないじゃないか。」 それは違う玻璃ただおは、私の仕事を誇りに思ってくれている玻璃集まりに行かないのは、私が店を開けられないからだ玻璃でも、今この場で弁解しても、きっと言い訳にしか聞こえないだろう玻璃 「とにかく、もう限界なんです。」 知恵が結論めいたことを言った玻璃 「優馬の教育にも悪影響です玻璃将来、おばあちゃんみたいに野菜売りになるなんて言い出したら困ります玻璃もっと大きな夢を持って欲しいんです玻璃」 野菜売りは、小さな夢なのだろうか玻璃地域の人々の健康を支え、新鮮な野菜を届ける玻璃それは、誇るべき仕事ではないのだろうか玻璃 「だからお母さん、もう私たちには関わらないでください玻璃優馬とも合わせません。」 … Read more

19 September 2026

Il bicchiere di champagne esplose sul pavimento e tutto il giardino si fermò. Un attimo prima mio cugino Riccardo stava ridendo forte alla festa per i settantacinque anni di zia Donna, una tipica…

Il bicchiere di champagne andò in frantumi contro il pavimento con un rumore così secco che tutto il giardino si fermò. Non era un semplice silenzio, era quel tipo di silenzio che cala quando accade qualcosa che nessuno aveva previsto. Un attimo prima mio cugino Riccardo stava ridendo così forte da far tremare la salsa … Read more

19 September 2026

De champagnekurk knalde door de kamer toen mijn broer aankondigde dat hij mijn boerderij had verkocht voor één miljoen tweehonderdduizend euro. Ik zat aan de feesttafel in het huis van mijn ouders…

De champagnekurk knalde op hetzelfde moment dat ik hoorde hoe mijn eigen broer mijn levenswerk had verkocht, zonder dat ik ook maar iets wist. Mijn naam is Sophie de Vries en dit is wat er gebeurde. De geur van feest en geld hing zwaar in de eetkamer van mijn ouders in de Achterhoek. Mijn broer … Read more

19 September 2026

O cheiro foi a primeira coisa que me atingiu. Não era o cheiro da minha casa. Era um cheiro vazio, de pó revolvido, de móveis arrastados sem cuidado. Empurrei a porta com o ombro, como sempre…

O cheiro foi a primeira coisa que me atingiu. Não era o cheiro da minha casa. Não a lavanda que eu borrifava nas cortinas antes de viajar. Não o café guardado na lata azul. Não o sabonete de erva-doce do banheiro do corredor. Era um cheiro vazio, oco, de pó recém-revolvido, de móveis arrastados sem … Read more

19 September 2026

„Wszystkie decyzje w tej rodzinie podejmuję ja. Dopóki mieszkacie pod moim dachem, słuchacie mnie.” Te słowa jeszcze wisiały w powietrzu, gdy moja teściowa jednym ruchem rozerwała nasze wczasy na…

– Wszystkie decyzje w tej rodzinie podejmuję ja. Dopóki mieszkacie pod moim dachem, słuchacie mnie. Powiedziała Bożena i jednym ruchem rozerwała wczasy na pół. Kolorowe skrawki papieru z widokiem na morze i palmy rozsypały się po kuchni, jakby ktoś brutalnie zakończył marzenie. Livia zasłoniła twarz dłońmi, ale łzy i tak spływały po palcach. Seweryn patrzył … Read more

19 September 2026

Quando mio fratello mi ha detto che non ero invitato alla cena di Natale, ho sorriso, sono salito in macchina e sono tornato a casa. Tre giorni dopo avevo novantotto chiamate perse sul telefono….

Quando mio fratello mi disse che non ero invitato alla cena di Natale, sorrisi, salii in macchina e guidai verso casa. Tre giorni dopo avevo novantotto chiamate perse sul telefono, e ognuna di quelle valeva più di qualsiasi regalo sotto l’albero. Ma prima di arrivare a quel momento, devi capire una cosa: quella non era … Read more

19 September 2026

あの日、会議室の床に私の特許バネが投げ捨てられた。「ホームセンターの方が高品質だぞ」大塚は椅子に凭れたまま薄笑いを浮かべた。金属が乾いた音を立てて転がる。私は何も言わずにそれを拾い上げ、誇りを指で払った。「後悔しますよ」そう告げると、彼は鼻で笑った。あの笑い声が、今も耳の奥に残っている。私は早川周一、45歳。父の急逝で継いだ小さなバネ工場の二代目社長として、従業員十二人を率いている。創業四十…

会議室の床に、俺の特許バネが投げ捨てられた。金属が乾いた音を立てて転がる。「ホームセンターの方が好品質だぞ」大塚は椅子に凭れたまま薄笑いを浮かべる。俺は何も言わずにそれを拾い上げ、誇りを指で払った。「後悔しますよ」そう告げると、大塚は鼻で笑った。あの時の笑い声が、今も耳の奥に残っている。俺の名前は早川周一、45歳。早川バネ製作所の二代目社長として、従業員十二人を率いている。金属の焼ける匂いと油の音が絶えない小さな工場だが、創業四十五年、リコールゼロを誇る。父の急逝で会社を継いで十年、図面の上で理屈を磨き、現場で感覚を身につけてきた。「見えない部品こそが製品の寿命を決める」という父の口癖を、守り続けてきたつもりだ。 取引先のメガロン電気とは、十五年以上的にわたる付き合いだ。エアコンの心臓部に使われる複合環境対応バネを納めており、俺が取得した特許技術が組み込まれている。過酷な温度変化でも歪まない性能が評価されてきた。メガロンの品質管理部長・柴田の「早川さんのバネなら安心だ」という一言が、何よりの支えだった。 だが昨年、状況が変わった。新しい資材調達部長として、大塚涼介が赴任してきたのだ。エリート大学出身で、数字と効率しか信じない男だった。照査時代にコスト削減の鬼と呼ばれ、中国メーカーの採用で五十億円の経費を浮かせたという。就任直後から「試験より単価、品質より数字」を掲げ、柴田が危険性を訴えても聞く耳を持たなかった 俺は嫌な予感を覚えた。このままでは、現場が築いてきた信頼が、噛切れ一枚で消えてしまう。直接会って話すしかない。翌日メガロンに電話を入れ、大塚との面談を申し込んだ。大塚は意外にもすぐに了承した 当日俺は、いつもの作業服を脱ぎ、久しぶりにスーツに袖を通した。鏡の中の自分は、職人ではなく、これから戦場に向かう兵士のような顔をしていた。 メガロン本社の会議室は静まり返っていた。壁も机も白く、反響のない空間だ。油の匂いがないだけで、呼吸までぎこちなくなる。「で、何の用でしょうか」大塚は最初から座ったまま腕を組んでいた。机の上に置かれた数枚の書類、その一番上に中国製品の見積書があった。「これ、単価が四分の一です。因質も大差ありません」大塚は書類を指先でつまみ、軽く笑った。「どちらを選ぶか分かりますよね」 「試験データは確認されましたか」俺が問いかけると、大塚がわずかに眉を上げた。「現地メーカーが保証してますよ。ISOも取得済みですし」口調は淡々としていて、実際にデータを確かめる気はないようだった。「保証と実証は違います。音社の使用環境では―」 俺の言葉を大塚が遮切る。「古いですね、そういう考え方は」大塚は身を乗り出し、机に肘をついた。「昭和の職人気質にこだわるから、待ち交場どまりなんですよ」机の上にあった試作品を手に取り、大塚は鼻で笑いながら指で弾き飛ばして床に落とす。金属が床を叩く乾いた音が響き、柴田が慌てて立ち上がった。「部長、やめてください」だが、大塚は口角を上げた「じゃあ、これで終わりですけどね」挑発的な意味だ「終わりとは」と返すと、大塚は淡々と書類をまとめた。「契約打ち切りです。来月からは中国製に切り替えます」 柴田の表情が固まった。「部長、それは試験もせずにですか」「黙れ柴田。君は品質の話しかしない。経営は数字だ」その一言で、会議室の温度が一気に下がった。俺は書類を閉じ、立ち上がった。「数字は結果です。信頼を削ってまで得る数字は、必ず崩れます」その言葉に大塚は鼻で笑い、机を軽く叩いた。「いい度胸だな。町場の社長の分際でもう帰っていいぞ」柴田が小さく息を飲む音が聞こえる。視線を向けると、柴田は唇を震わせて何かを言いかけたが、結局言葉にはしなかった 俺は一礼し、扉を開けた。磨かれた床が光を反射し、足音が夜けに響いた。十五年间的信頼が、音もなく断ち切られた瞬間だった 翌朝、メガロン電気から一通のメールが届いた。件名は契約解除通知で、本文はたった三行しかない。そこには十五年間の取引を終わらせる無機質な文面だけが並んでいる。俺はしばらく画面を見つめたまま息を吐いた「一方的に切るのか。潔ぎよいといえば潔ぎよいがな」小さくつぶやき、席を立った。 昼前、工場の外壁からメガロン指定工場のプレートを外した。アルミの板が外れると、壁の跡が日焼けでくっきり残っており、社員たちが集まってその様子を無言で見つめていた「社長、これからどうするんですか」不安そうに若い職人が尋ねる「どうもしない。俺たちは変わらず仕事をする]]それに昨日、新しい自動車部品の試作案件が入った。メガロンがなくても、十分に食っていける」沈んだ空気が少しだけ柔らぎ、誰かが小さく頷いた その夜、工場の照明を一基だけ残し、俺は試験機を動かした。協力会社を通じて入手した中国製のバネのサンプルが机に並ぶ।刻印されたロッド番号は、メガロンの新型エアコンと同じだった。俺は試験装置のスイッチを入れ、湿度と回転数を設定した。モーターが回り始め、金属の擦れる音が静寂を切り裂く,,百時間後、バネは鈍い音を立てて破断した。手に取った瞬間、指先にざらつく感触が残った。断面には再生金属の洗い粒が混じり、錆止め処理の痕跡もない「これが『大差ない品質』ってわけか」俺は低く笑い、破片を試験器の脇に置いた,そのまま報告書を作り始めた」試験条件、破綻データ、分析結果、全てを数値化して記録する”写真を添付し、ファイルを大塚当てに送信した”同時に柴田にもBCCで送る」 俺は引き出しから小型のICレコーダーを取り出し、あの日の会議の音声を再生した。「待場のゴミなんか持ってくるな」「ホームセンターの方が好品質だろうなあ」大塚の侮辱的な声が静かな工場に響く”バネが床を転がる音、柴田の息を飲む音、全てが鮮明に残っていた「これも証拠だ」俺はレコーダーを専用ケースに入れ、試験データと一緒に保管した「届いた瞬間、どう動くかであいつの覚悟が分かるな」そう思いながら送信ボタンを押した 三日経っても返信はなかった。五日目の午後、ようやく電話が鳴った,柴田だった「早川さん、メールを見ました」柴田の声はかすかに震えていた,俺は受話器を持ち替えながら尋ねた「報告はしましたか」「しました。ただ部長が、余計なことはするなと」その声が急に小さくなる「脅されたんですね」「まあ、そんなところです」しばらく沈黙が続いた,,俺は深く息を吸い、言葉を選んだ「柴田さん、あなたは間違っていない]]黙っている方が危険ですよ」「分かっています,,でも私にも守らなきゃいけないものがあるんです」柴田の声が途切れ、息を押し殺すような音に変わった,,俺は静かに答えた「無理はしないでください,,ただ、現場の目だけは曇らせないでください」電話が切れる音が響いた後、俺は受話器を静かに置いた,,誰もいない事務所に、試験機の冷却ファンの音だけが残る,,机の上の破片を見つめながら、俺は呟いた「取り返しがつかない,,もう手遅れだ,,」声が自分の胸の奥に沈んでいった,,報告書を封筒に入れ、引き出しの奥にしまう,,十五年间的信頼は失われたが、俺たちの技術はまだ息をしている,,それだけが唯一の救いだった 六月十日、朝の点検を終え、工具を拭いているとスマートフォンの通知音が鳴り止まなかった,,画面を開くと、見慣れないハッシュタグが目に飛び込んでくる,,「#メガロン異音」胸の奥に嫌な予感が広がった,,動画を再生すると、回転音の中に「ギュルギュル」という不規則な金属音が混ざっていた,,音の立ち上がり方、周波数の揺らぎ、どれも耐久試験で聞き慣れた破綻前の音だった「やっぱりか」誰もいない工場に、自分の声が静かに響いた,,投稿は次々と増えていく,,「新品なのに異音がする」「冷えない」「錆びてる」日付を見ると、全て春モデルの製品だ,,メガロン電気のロゴを見た瞬間、予想が確信に変わった,,昼過ぎ、一本のメールが届いた,,件名は「技術協力のお願い」送り主はメガロン電気品質管理部である,,差出人の名を見て息を飲む,,柴田正人,,文面には「本日午後、緊急会議を開催,,社長の要請により出席をお願いしたい」とあった,,おそらく現場上がりの国枝社長が、俺を呼ぶ判断をしたのだろう,,数字より現場を信じる人間の決断だ,,俺は試験データと破綻サンプルをケースに入れ、工場を後にした,,十五年的分の信頼が、今日どんな形で裁かれるのか、胸の奥が鈍く疼いた 午後、メガロン電気の緊急役員会議が始まった,,俺は入り口側の席に静かに座り、資料の角を揃えて呼吸を整えた,,国枝社長は議長席に立ち、周囲をぐるりと見渡してから短く告げた「報告を受けてすぐに、早川さんに来てもらった,,この記述を誰より理解している人物だ」大塚はわずかに顔を強張らせ、腕を組み直して視線をそらした,,柴田は驚きと緊張を同時に飲み込み、手元の資料を丁寧に重ね直した,,俺は頷いてから立ち上がり、自己紹介を完結に済ませて席へ戻る,,ここで余計な言葉は不要だと判断し、まず全体の流れを耳で掴みに行く,,国枝が進行を促すと、柴田がデータをスクリーンに映し出し、自系列を説明した「六月十日から異音報告が急増し、現時点で苦情は五千件を超えました,,湿度上昇と同調して振動が増幅し、歪が顕著です」「ユーザー環境の差ですよ,,梅雨時の偏りです,,非常率は母数に対して微々たるものですし」大塚が軽い口調で遮え切った,,数字を縦にする癖は相変わらずで、原因の切り分けを避ける糸が見えた,,国枝の視線が俺に移ったため、合図に合わせて資料を開いた,,俺は最初のページを示し、必要な前提だけを端的に説明する「契約は終了しておりますが、解析結果は共有できます,,今回は推測ではなく、試験と現物分析の事実を定示します」柴田が小さく頷き、プロジェクターの入力を切り替えた,,画面には俺が作成した試験表が現れ、条件と結果が生前と並ぶ,,まず環境条件を説明し、湿度、温度負荷の各プロファイルを確認させた,,次に破断時間の分布を示し、外れ値がなく再現性が高いことを強調する「湿度の高い環境では、百時間以内に全て壊れました」俺は拡大写真を差し出し、破断面を指で示した「この断面を見てください,,再生金属特有の新井組織です,,さらに錆止め処理の痕跡が一切ありません」会議室の空気が一段と重くなった,,大塚は表情を保ったまま言を作ろうと口を開いた「そのサンプルの出所は、本当に我が社の製品だと証明できますか」俺は用意していた購入を提示し、経路とロッド番号の一致を淡々と述べた,,国枝は資料に目を通し、質問した「柴田、設計の観点から見て、この結果をどう判断する」柴田は短く呼吸を整え、ためらわずに答えた「早川さんの指摘は正しいです,,設計で想定していた素材を大幅に下回っています,,すぐに抜き取り検査とロッド追跡を実施すべきです」俺は続けて、事前に送っていた警告メールの記録を示した「高度な環境での破断リスクを、メールで通知しました,,宛先は大塚さん、BCCに柴田さん,,送信ログと試験データを添付しています」柴田は視線を落とし、握った拳をゆっくり解いて小さく頷いた,,大塚は唇を結び、視線を横へ滑らせてから言い直した「仮に一部ロッドに問題があったとしても、全てに対応するのは過剰です,,費用体効果を考えれば、もっと経済的に合理的な対処法があるはずです」数字という盾の裏に、現場の現実を切り捨てる刃が見えた瞬間だった,,国枝はしばし沈黙してから言葉を発した「技術的な事実は確認した,,原因は素材と製造工程にある可能性が高い,,次は、調達プロセスと意思決定の経路を明確にしよう」その一言で、議論は現象から責任へと軸足を移した,,俺は席に腰を戻し、残りの資料を丁寧に重ねた,,技術の問題は証明した,,あとは誰がどう判断したかだ,,会議室にいる全員が、その答えを待っている,,大塚の視線だけが宙を彷徨い、落ち着きがない,,静寂に包まれた会議室で、国枝がゆっくりとこちらに視線を向けた「早川さん、まだ何かお持ちではありませんか」その問いかけに、俺は鞄から小型のICレコーダーを取り出した「もう一つあります,,音です,,技術者にとって、音ほど正直な証拠はありません」再生ボタンを押すと、ノイズの後に低い声が流れた「待場のゴミなんか持ってくるな」「ホームセンターの方が好品質だろうなあ」会議室が一気にざわついた,,国枝が表情を変えず静かに尋ねる「これは事実か」「冗談ですよ,,雑談の一部を切り取っただけです」大塚が慌てて声を張った,,だが、取引先の製品を床に投げ捨てる音まで入っている,,国枝の低い声が響いた瞬間、空気が凍りついた,,俺は再生を止め、無言でレコーダーを机に置いた,,柴田は目を伏せたまま動かない,,大塚の手がわずかに震えていた,,俺はゆっくりと言った「私の話は以上です,,これが私が伝えられる全ての事実です」席に戻ろうとした瞬間、国枝が手を上げて制した「待て,林君からも話があると聞いている」林は立ち上がり、ノートパソコンを開いた,,顔にはうっすら汗が滲んでいるが、声には迷いがなかった「私は資材調達部の経理入力を担当しています,,支払いデータの監査用を保存していました」大塚が舌打ちをし、椅子の背にもたれかかった「林,内部情報を漏らす行為は車内規定違反だぞ,,本件は主費義務の範囲を超えています」「会社の信頼を守るための報告です」林は画面を共有し、支払い履歴を映し出した,,そこには同額の支払いが羅列と並んでいた「外中試験費という名目で、毎月二百万円が支払われていました,,振り込み先の口座名義を確認したところ、受け取り人は大塚涼介です」「馬鹿な」大塚が机を叩き、声を荒げた,,林は静かにスクロールし、証人ログを示した「証人者、ID,大塚,削除履歴も復元済みです」国枝は数秒だけ目を閉じ、深く息を吐いた「会社の金を横領していたのか」その一言で、全てが終わった,,会議室の空気が沈み込み、誰も言葉を発せなかった,,大塚は苦笑いを浮かべ、薄く笑った「待ってください,,社長,誤解ですよ」「誤解ではない,,これほど証拠が揃って、まだ言い逃れをするのか」国枝の声は穏やかだったが、鋭い怒りがあった「信頼を踏みにじった報いは重い」俺は静かに立ち上がり、最後の言葉を告げた「契約は切られましたが、真実は裏切りません,,この記録が全てを物語っています」スクリーンには破断試験の最終データが映し出された,,金属疲労の波形は、確かに中国製の限界を示していた,,俺は続けた「俺はもうメガロンとは関わらない,,信頼を捨てた会社に、技術は戻らない」その言葉の重さを、誰も軽く受け流せなかった,,国枝は椅子から立ち上がり、姿勢を正した「早川さん、あなたの警告を無視した責任は会社にある,,この件の全責任を私が取る,,大塚を長会解雇,,刑事告訴する,,そして明日、全てリコールを発表する」幹部たちは顔面蒼白になり、会議室は静まり返った,,大塚は膝をつき、国枝の足元にすがった「社長,これは誤解です,,説明させてください」「誤解ではない,,証拠は揃っている,,我が社は、技術者を侮辱する人間は不要だ」国枝の声は冷たくも、まっすぐだった,,大塚はその場に崩れ落ち、顔を覆ったまま動かない,,俺は軽く頭を下げ、資料をまとめた,,扉を静かに閉めると、冷たい金属音が背後で反響した その後、大塚は長会解雇になったと柴田から連絡を受けた,,車内調査で横領が発覚し、背任と業務上横領罪で起訴されたという,,判決は懲役二年、執行猶予四年,,退職金も失い、妻とは離婚となった,,今は日雇いで現場を回っているらしい,,あれほど数字を誇っていた男が、鉄骨を担ぐ姿を想像すると、胸の奥が少しだけ重くなった,,メガロンはリコールを実施し、国枝社長が記者会見で謝罪,,以後は品質優先の経営方針へと転換したとのことだ,,電話の向こうで柴田は静かに笑っていた「俺はまだ会社に残っています,,現場だけは守らないと」この声に、少し救われた気がした,,一方、うちの工場では自動車部品の正式契約が決まり、大手自動車メーカーとの取引が始まった,,あの日失った契約より、得た信頼の方がはるかに大きい,,試験機のスイッチを入れると、音が響いた,,その音が止まらない限り、俺たちの仕事は続いていく 「中卒の部下なんて初めてだよ」本社移動になった初日、挨拶の場で部長が嘲る,,確かに俺は中卒だ,,しかし、人に笑われるような生き方などしていない,,煮えたる腹技とは裏腹に、俺は冷静だった,,感情的になってはいけない,,俺には果たすべきことがあるのだから,,俺の名前は町村,,四十八歳だ,,ある大手建設会社で働いている,,今まではずっと地方の支社勤務だったのだが、三ヶ月前、本社へと移動することが決まった,,思い返せば大変だったが、充実した毎日だったな,,移動先の本社のある土地へ向かう途中、新幹線の中で物思いにふけっていた,,俺は最初、地元の下受け会社で土木作業員として働いていたのだ,,施設育ちで、幼い頃から人一倍自立について考えていた,,施設の人には進学を勧められたが、俺は一刻も早く施設を出て働きたいと考えていたのだ,,そんな考えで、中学卒業と共に働き始めた,,がむしゃらではあったが、それでも充実した毎日を過ごしていたと思う,,きっかけは俺が二十五歳の時だ,,これが人生の転機だったこともあり、よく覚えている,,俺が現場で作業していた時に、見慣れない男性が見回っていたのだ,,後で知ったのだが、大手建設会社から秘察に来ていたという,,後に会長となる田中さんだ,,田中さんは穏やかな方で、自然と言葉を交わすようになった,,「町村君、君は年齢の割に知識や経験が多いようだね,,それに周りをよく見ている,,この仕事は長いのかな」質問に対し、俺はありのままを説明した,,中卒から働いているのでと説明すれば,,,,「そうか,,嫌でなければ、どうして中学卒業と同時に働き出したか聞いても」田中さんに問われるまま、俺は施設育ちで、早く自立したかったという気持ちも話すことにした,,「もちろん土木作業も立派な仕事だが,,現場で働く町村君を見ていから、うちで働いた方がもっと輝ける,,そんな気がするんだ」田中さんは最終的にそう言って、俺を自分の働く会社へと誘った,,その言葉が、俺の人生を変えることになったのだ,,入社後は田中さんの部下として、様々な現場や業務を経験した,,現場を知る人間として、思考管理の仕事にも持ち前の粘り強さで食らいついた,,予算管理から皇帝調整、取引先との交渉まで、叩き上げの現場感覚を武器に実績を積み上げていったのだ,,うまくいったことも、悔しい思いをしたこともある,,だが、その一つ一つが今の俺を形作っていると思っている 「あなた,険しい顔してるけど、どうしたの」穏やかな声で現実に引き戻された,,話しかけてきたのは、一緒に新幹線に乗っている妻だ,,俺の本社移動のために仕事を辞めたり、引っ越しの手配など、多くの迷惑をかけてしまった,,だけど嫌な顔を一つせず、これについてきてくれたのだ,,「ちょっと不安があってな」「まあそうよね,,次から本社勤務なんだもの」妻の言葉に、俺は苦笑いをもらす,,実際、プレッシャーのようなものは感じているものの、妻が言うほどは気にしていなかった,,仕事までやめてついてきてくれたこの人に、必ずいい報告をして帰らなければならない,,それもまた俺の使命だった,,俺が本当に不安に感じているのは、ある任務に関してだ,,その任務に、坂本という名前の社員が深く関係している,,坂本は本社の公務部長で、癖のある人物らしい,,ほとんど関わりのない支社でも噂になるほどだ,,上や顧客には非常に愛想がいいが、部下への当たりが因質だという,,過去にも部下からの訴えで問題されたことがあったようだが、証拠が足りず厳重注意にとまったとのことだった,,それが事実だとしたら、相当な要注意人物だ,,やらなければならないことを果たせるかどうか、不安がさらに膨らむ,,それでも、やるしかないと俺は窓の外へ目をやった 支社勤務の記念すべき第一日目,,俺は中途採用の新入社員として、公務部へ挨拶に向かう,,部屋に入ると、奥のデスクからいかにも面倒そうな顔でこちらを見ている男がいた,,部長・坂本と記されたプレートが見えて、俺は歩み寄った「町村と申します,,どうぞよろしくお願いいたします」俺が頭を下げると、坂本はニヤニヤ笑いながら立ち上がり、珍獣を見るように俺を見てきた,,「ああ、聞いてるよ,,君、このご時世に中卒らしいな,,中卒の部下なんて初めてだよ」坂本はそう言って、さもおかしそうに口元を歪める,,まるで珍獣でも見る目つきだった,,ふと坂本が目を細める「はあ,,中卒にしてはなかなかいいスーツと川靴だ,,本社勤めになるからと奮発したか,,中卒の考えそうなことだな」俺としては至って一般的なものを選んだつもりだった,,どうやら坂本の中では、中卒の社員はもっと見窄らしい格好をしているものだという偏見があるらしい,,少なくとも馬鹿にされているということだけは分かる,,なんとなく噂話は本当だったんだなと内心呆れてしまう,,俺の心情などお構いなしに、坂本は鼻を鳴らした「なんだ、つまらないか,,まあ、露骨に安物のスーツを着てこられても、本社の品性が落ちるものな,,いや、中卒が働いている時点で落ちたも当然か」坂本が含み笑いをして高笑いすると、周りの社員たちも笑い始める,,さりげなく観察すると、苦い表情で無理に合わせていそうなものが何人か見て取れた,,「おい、お前も笑えよ,,中卒なんて滅多に見れないぞ」坂本は笑っていない奴がいると睨みつけ、笑うように指図している,,この部署で、坂本は王様というわけだ,,「率直に言うと,愛肉だが、中卒の無能がやる仕事はここにない,,ああ、うち以外にもお前のような中卒にできる仕事はないだろう,,全く同じ空気を吸うだけでも嫌になる,,T大卒の俺の頭脳が、お前のせいで劣化したらどうするんだ」坂本はT大卒なのか,,それ自体はすごいことだと思うが、だからと言って他人を攻撃していい理由にはならない「そうですか」た混じりに言うしかなかった,,坂本は得意げに顎を撫で、言葉を続けていく「だがそうだな,,雑用係としてなら使ってやらんでもないぞ,,俺は優しいからな」そう言って坂本は一歩、右足を俺に向かって前に出す,,これはどういう意味でしょうか,,意味が分からず問いかけると、坂本は嘲笑した「何って,,ある仕事を第一弾として、俺の川靴を綺麗に拭く仕事を与えてやろうと思ってな,,反価値がないなら、お前のその立派なスーツの袖でも構わんぞ」さすがにどうしたものかと考えていると、近くにいた社員が恐る恐る口を開いた「う、部長,,さすがにそれは,,」声をあげたのは五十代の大人しそうな男性だった,,後から知ったのだが、この部署の課長だ,,坂本の代わりに実質的に部署を切り盛りしている人物だという,,坂本は一瞬鋭い目で課長を睨みつけた「ふん,,まあ確かにいきなり飛ばされちゃ、俺の評価に関わるか,,雑用係にするのは変わらんが、今日は多めに見といてやる」飛ばれる,,つまり来なくなってしまう心配をするくらいなら、最初からしなければいいのに,,俺の腹のうちとはよそに、「俺は優しいからな」と坂本はもう一度言い、大股でその場を去っていった,,坂本の発言に、さすがに周囲も引いているのが分かった,,俺は拳を握りしめる,,決して表には出さなかったが、腹のうちは怒りで煮え繰り返っていた,,歯向返すなど、無駄なことだ,,だがそれをすれば、俺は坂本と同じ穴の無名になる,,施設を出てからずっと、誰にも頼れず自分だけを頼りにして生きてきた,,理不尽な目に遭うたびに拳を握りしめ、それでも歯を食いしばって前を向いてきた,,これは確かに、中卒だ,,施設出身で中卒,,それを知られて拒絶されたことも、馬鹿にされたこともある,,だけど俺は自分で道を選択し、努力し続けてきたのだ,,俺の人生の選択を、こんな奴に馬鹿にされていい通りがない,,だが今は、怒りに任せて動く時ではない,,今は耐える,,果たすべきことがあるのだから それ以降、俺は課長とよく話すようになった,,課長は口数の少ない人物だったが、仕事への姿勢は誠実で、部署の誰からも信頼されているのが分かった,,周りの社員たちも最初はよそよそしかったが、仕事の手伝いなどをしていくうちに、少しずつ心を開いてくれるようになってくれたのはありがたい,,そんな中、しょっちゅう坂本に呼びつけられては理不尽に雑用を押し付けられたり、「中卒」という言葉を用いては俺の人格を否定する,,こうした風景は、異様なことにこの部署では至って普通らしい,,同情的な視線を向けられこそするものの、この状況に危機感のようなものを感じられない,,きっとみんな麻痺してきているんだな,,「上や上司に相談したらいい」そんな言葉をよく聞くが、それは自分の置かれている状況が異常だと認識している場合だけだと思う,,心が麻痺して衰弱している状態では、異常が異常とも思えないんじゃないだろうか,,やらなければならないことの他にも、この部署に関しても考えていかないと,,そう考えていた矢先のことだった,,「あれ,,まただ」業務中,,俺は首をかしげている課長に声をかけた,,どうしたのかと尋ねると、課長は顎を撫でる「いやあ,,お客様と話に出た金額と、うちのデータの金額が微妙に合ってないような気がして,,気のせいかな,,前もそんなことがあったんだよね」その言葉が頭の片隅に引っかかった,,課長との会話をきっかけに、俺は動き始めた,,業務のため工事案件の数字を精査してみると、自社の請求額と取引先の記録が一致しない案件が複数見つかったのだ,,これは,,その瞬間、俺の中で何かが繋がった,,長年現場で予算と実績の数字を見てきた人間には、わずかな歪みが肌で分かるものだ,,工事の規模、資材の単価、人工の積み上げ方、一つ一つの数字が俺の体に染み込んでいる,,だから見えた,,書類の上だけで仕事をしてきた人間には気づけなかったかもしれない歪みが,,大卒のエリートが巧妙に積み上げた不正を、現場叩き上げの中卒が見抜く,,皮肉なものだなと俺は静かに思った,,学歴ではなく、経験が勝ったのだ,,一見当たりの差額は小さい,,だが総額すると相当な金額になるのは間違いなかった,,そして、確実に不正は行われていたのだ,,その瞬間、俺は、坂本と果たすべき任務が明確に繋がった,,俺は慎重に、しかし着実に証拠を積み上げていったのだ,,そしてある日、ちょうど開いている会議室があるということで、俺は人事部長と共に坂本を個室会議室へと呼び出した,,坂本は部屋に入るなり、心妙なおも持ちで頭を下げる「先日は、大変失礼いたしました,,出すぎた振る舞いをしてしまい、深く反省しております」一瞬何なんだと思ったが、すぐにピンと来た,,俺の隣に人事部長がいるのを見て、パワハ疑惑か何かと勘違いしているのだろう,,確かにパワハに関しても触れる予定だが、それだけが要件ではない,,席の対面側に座る坂本は、一応丁寧らしい態度に見えたが、口元がわずかにヘラヘラと緩んでいる,,何にせよ本当に反省している人間の顔ではない,,面倒だからさっさと謝っておこうといった感情が透けて見えた,,「そうですか」俺は短く答え、坂本をまっすぐ見据える,,しばらくの沈黙の後、坂本は居心地悪そうに口を開いた「あの,,先日のことですが,正直に申しますと,冗談のつもりだったんですよ,,場を和ませようと思いまして,,少々やりすぎてしまいましたが」「冗談,,冗談で川靴を綺麗にしろとおっしゃったんですか」俺は静かに繰り返した,,「ええ,ですから,,はなかったと言いますか,,」「坂本部長」俺は少し前のめりになった,,「確かにあなたのことは,本社に来る前から噂で耳にしていました,,部下への当たりが強い因だとね,,本社の公務部の部長の噂が,支社にまで届いていた」人事部長も同意するように頷く「坂本部長に関しては,過去にも部下の方からの漆国が複数ありました,,証拠が十分でなく,その都度厳重注意という形にとめてきましたが」「そ,,それは,,」俺をチラチラと見ながら,坂本は慌てたように言葉を濁す,,俺は本題に入ろうと,まっすぐに坂本を見据えた,,「坂本部長のパワハは部署内の大きな問題ではありますが,今日来ていただいたのは,その件だけではありません」坂本はヘラヘラした表情だったが,どこか不審そうに俺を見ている,,おそらく「中卒不勢が何のつもりだとでも考えているのだろうが,,「これらに見覚えがありますね」人事部長がタブレットを取り出し,ある画面を見せた,,最初こそかしげな表情をしていた坂本だったが,画面を切り替えていくうちに青ざめていく,,言葉にならないのだろう,,タブレットと俺たちを交互に見て,口をパクパクさせている,,「見覚えがあるということでよろしいですね」俺は人事部長と頷き合った,,俺は坂本が巧妙に隠していた横領について,証拠を突きつけながら丁寧に指摘していく,,「何だよ,お前,,中卒の部下の身で,,探偵ごっこでもしてるつもりか」パワハを疑われている,,そのくらいの感覚でいたのに,,まさか横領を疑われるとは夢にも思わなかったのだろう,,真っ青から一転顔を真っ赤にする坂本に対し,俺は極めて冷静に告げた,,「いつ俺が,,お前の部下だと言った」え,,坂本の口が開きかけたまま止まった,,さっきまで高笑いしていた男が,,糸の切れた人形のようにただそこに座っている,,俺はせかすことなく静かに続けた,,「失礼,,坂本部長の口調が映ってしまいました,,改めて自己紹介させていただきます」俺は軽く頭を下げ,自分の正体を明かした,,「あ,,ああ,,中途社員じゃなくて,公務部の本部長」元々その予定だったのです,,ただ、俺は続けて説明する,,本部長への内示を受けた際、こう告げられたのだ,,「公務部の部長・坂本という人物を調査してほしい」と,,パワハの他に噂があったらしいのだが、決定的な証拠がもう一つ足りないという,,そこで俺に,-着任前に中途社員として潜入し,証拠を掴んで欲しいと言われたのだ,,人事部長が静かに補足する,,「本来の事例は本部長を着認でしたが,極費の車内医療省のもと,中東採用枠での仮配海賊という形を取り,調査に当たっていただいたのです」ちなみに人事部長も,課長や一部の公務部社員たちも,,俺の正体を知っている,,坂本の証拠を掴んでから協力を求めるために,,一足早く正体を明かしたのだ,,坂本は俺を指さし,声を張り上げた「卑怯だ,,正体を隠すなんて,,人としておかしいだろ,,というか,,そんな若くして本部長,,そんなことがあるわけ」俺は静かに,しかしはっきりと答えた,,「人としておかしい行為を平然とするあなたにだけは,言われたくありません」経緯を告げて,俺は説明することにした,,自分語りをする趣味はないが,こうしないと納得しないだろうと思ったからだ,,確かに俺の年齢で本部長に抜擢されるのは異例だろう,,だが俺は学歴ではなく,現場で積み上げた実績を評価されたのだ,,「現場を知る人間を上に置きたい」本社の上層部としては,そう判断したらしい,,それらを語り終えると,人事部長は納得したように頷き,坂本は口を開きかけ,そのまま閉じた,,もう何も反論できない,,そう結論付けたのだろう,,人事部長が静かに続ける,,「ともかく,,坂本部長のパワハと不正行為は明らかです,,相手が例え町村本部長でなくてもね,,証拠が不十分とはいえ,,もっと早く動くべきでした,,人事部の部長として謝罪いたします」人事部長は静かに頭を下げた,,「その謝罪を向けるべきは,私ではありません」俺はそう言って再び坂本に視線を向ける,,「今まで迷惑をかけた部下たちに,,しっかり謝罪してくださいね,,そして自分の罪と向き合ってください,,では」立ち上がると,俺は坂本に目もくれずに退出する,,深く頭を下げる人事部長と,「待ってくれ」と泣きそうな声で俺を引き止める坂本だけが,,取り残されたのだった その後,坂本のパワハについても改めて精査が行われた,,部下たちの証言は次々と集まり,,本社社長自ら部下たちに頭を下げる事態にまで発展したのだとか,,結果として,,坂本は長会解雇となり,,横領の件でも会社から訴えられたと後から耳にした,,誰が教えるまでもない,,働いていると嫌でも聞こえてくる,,パワハも横領も,,全て坂本自身から出た錆だ,,自分の本質に目を向け,,反省を覚えない限り人はいつか必ず足元をすくわれるのだろう,,俺も例外ではない,,どれほど出世しようとも,,慢心すれば坂本の二の舞になりかねない,,今の俺には,,部署長年支え続けてきた課長を始め,,共に励まし合い,,高め合える仲間がいる,,学歴でも肩書きでもなく,,誠実さと実績で人と向き合う,,それが俺のこれからも変わらない心情だ 「利益を出せないゴミは本社に苦用」上司にそう吐き捨てられ,,理不尽にも廃業寸前の工場に飛ばされた俺,,しかし故障して止まったままの工場の機械を見た瞬間,,俺は気づく,,この機械こそ,,上司が隠し続けてきた不正を明るみに出す糸口になると,,そして俺は糸を手繰り寄せるように,,上司の不正を暴く証拠を集めていくのだった,,俺は福永,,四十歳,,自動車部品メーカーの本社で生産技術部のエンジニアをやっている,,製造ラインを管理するのが仕事で,,機械の安定稼働を維持し,,老朽化すれば新しい設備への切り替えを段取りする役割だ,,売上を稼ぐわけでも,,製品を設計するわけでもない,,設備の購入、修繕、交換,,全てが支出として計上される,,そのため俺の仕事は,,経営層の目には「金を使うだけの部門」として映りやすい,,ラインが止まらない限り,,その仕事は見えないからだ,,それが悔しくないと言えば嘘になる,,それでも十八年、この道一本でやってきた,,おかげで,,機械のことなら任せろという自負が俺にはある,,机の上には,,二ヶ月前に上司の牧原部長に提出したレポートの控えが置いてある,,今期から本格稼働が予定されている新規設備の導入計画に,,技術的な問題があることを指摘した文書だ,,俺はレポートで,,設備の設計上の欠陥を具体的な数値で示した,,新規設備の導入では,,本来複数の業者から見積もりを取り,,生産技術部が技術的な観点で比較検討する手順を踏む,,ところが今回,,俺の元に他社からの見積書類は一切回ってこなかった,,発注先は最初から一社に決まっており,,俺たちには比較検討の余地がない,,その事実もレポートに記した,,一方で俺は,,調達担当者に発注先の選定経緯を詳しく調べて欲しいと伝える,,担当者は複雑な顔をして頷いた,,この人は動いてくれるかもしれない,,二ヶ月も経つのに,,提出したレポートに関し,,牧原からの返答は未だにない,,俺がそのレポートの控えを見直している時だった,,「福永さん,,第三ラインのプレス機が止まっています」後輩が慌てた様子で駆け込んできた,,制御盤に警告が点灯していて,,マニュアルを調べても処置が分からないという,,業者を呼べば復旧は翌日以降になる,,その間,ラインは止まり,,損失は時間単位で膨らむ,,俺は工具袋を手に取り,,後輩と一緒に現場へ向かった,,プレス機の前に立ち,,制御盤の表示を確かめた,,油圧系統に警告が出ているが,,稼働音に異常はない,,圧力そのものではなく,,センサー側の問題だ,,導入から十年以上経つ旧型の油圧プレスは,,振動の蓄積で配管の接続部が緩み,,センサーが誤動作を起こすことがあるのだ,,カバーを外して接続部に触れると,,案の定,わずかな緩みがあった,,工具で締め直し,,起動を指示すると正常に機械が動き始めた,,「すごい,,ってことは,,業者を呼ばなくていいんですか」後輩は呆けた顔で俺を見た,,「そうだな,,もう治ったよ」この時はまだ知らなかった,,この経験が,,数日後に思わぬ形で生きることになるとは 翌朝,,部長の牧原から呼び出しがかかる,,牧原は現場に出ることはほとんどなく,,執務室と役員フロアを往復しながら,,数字と資料で仕事をする人間だった,,俺とは仕事のやり方が根本から違う,,執務に入ると,,牧原は不敵な笑みを浮かべて言った,,「福永,,お前の処遇について話がある,,まずこれを見ろ,,お前に関わる資料だ」そう言って牧原は一枚の資料を差し出した,,見ると修繕費の推移を示した表だ,,三年連続で予算を超過していることが赤字で書き込まれている,,数字は確かにその通りだが,,それには理由があった,,「担当の設備は更新時期を三年以上過ぎています,,そのため修繕費が予想を超えてしまいました,,設備更新の申請を繰り返してきましたが,,承認されないんです」牧原は資料から目を上げることなく言った,,「言い訳はいい,,数字として赤字が計上されているのは事実だ,,」「言い訳なく予算超過の原因を説明しているんです,,それと,,二ヶ月前に提出した新規設備の技術的問題点のレポートについて,,部長からまだ返答をいただいていませんが」牧原の手が一瞬だけ止まった,,「その話は別だ,,今日呼んだのは,,お前の移動の件だ」移動という言葉に一瞬動揺したが,,俺は冷静に返した,,牧原は俺を遮え切り,,口の端を歪めながら言った,,「福永,,はっきり言わせてもらう,,お前が管理する部門のような,,利益を出せないゴミは,,本社に不要」言葉の意味がすぐには頭に入ってこなかった,,十八年間の仕事が,,その一言で否定されたのだ,,牧原は辞令書を取り出し,,テーブルに置いた,,「移動先は,,郊外の第二工場,,車内では廃業寸前のレッテルが貼られた,,赤字好きの小さな工場だ,,発令は明日だ,,強中に引き継ぎを終わらせろ,,辞令は人事部を通じてすでに処理されている,,簡単に覆せる話ではない」部屋の出口に向かいながら,,俺の頭には,,牧原が発注先の話題を出した瞬間に手を止めたことが引っかかっていた,,自分のデスクで引き継ぎ資料をまとめ,,後輩に渡す,,あまりに急な展開に驚く後輩を横目に,,牧原に提出したレポートの控えを鞄の底に滑り込ませ,,俺は席を立った,,翌朝,,俺は赴任先の門前にたどり着く,,第二工場は本社から電車で一時間ほど離れた工業地帯の一角にある,,前日に俺は車内名簿で工場長の保田という男について調べておいた,,高卒で現場に入り,,三十年以上製造ラインと向き合ってきた叩き上げだ,,工場の敷地に入ると,,俺は思わず立ち止まった,,外壁の塗装が剥がれ,,建屋のあちこちに錆が目立つ,,入口で待っていた男が俺の顔を見て頭を下げた,,保田だった,,互いに無表情のまま名乗り合う,,工場内を案内しながら,,保田が現状を語った,,稼働しているのは三本のラインのうち一本だけで,,残りは止まったままだという,,従業員たちにも覇気がない,,赤字で修理できず,,ライン停止だ,,保田は声に諦めを滲ませつつ話した,,俺は止まった二本のラインを歩いて見て回った,,設備の年式はどれも古い,,制御ユニットの蓋に小さなメーカーロゴが貼ってある,,俺は足を止めた,,この機械,,メーカーの名前には見覚えがあった,,本社での十八年で,,このメーカーの設備を何台も扱ってきた,,このメーカーは,,機械を動かすための指示を一箇所に集中させ,,各部に振り分ける制御構造を採用している,,組み立てコストを抑えやすい設計だが,,中枢部分に熱が溜まりやすい,,年数が経つにつれ,,そこに使われている部品が劣化し,,機械全体が断続的に誤動作を起こす,,本社で今期から稼働予定の新規設備は,,この機械の後継にあたる,,俺がレポートで指摘したのは,,まさにその点だった,,後継モデルも同じ集中制御の構造を引き継いでいる,,同じ構造である以上,,本社の主力ラインでも,,この工場と同じことが起きる,,俺は保田に頼み,,過去の故障記録を見せてもらった,,制御系統の誤動作が繰り返し記録されており,,症状の出方が,,牧原に提出したレポートで想定した内容と一致する,,本社の新規設備が本格稼働した後に,,何が起きるかが,,この記録を見れば予想がつく,,修理に必要なのは,,劣化した中枢部品の交換だ,,汎用品で代替できるため,,業者を呼ぶ必要はない,,俺は制御ユニットのカバーを外し,,修理作業を始めた,,三時間後,,止まっていたラインが動き出した,,保田が隣に立ち,,その様子を黙って見ている,,「治りました」俺がそう言うと,,工場内が沈黙していく,,従業員たちが呆けている,,保田がぽつりと聞いた,,「修理費用は」「部品代の数千円で収まります」まさかそんな小額で修理が可能だと思わなかった,,本体の入れ替えが必要とばかり,,驚く保田に,,俺は続けた,,「実は,,この機械についてもう少し話があります」俺は故障記録と,,鞄から取り出したレポートの控えを並べて,,保田に説明した,,この機械のメーカーと,,本社が今期稼働予定の新規設備のメーカーが同じであり,,制御の構造が後継モデルに引き継がれていること,,その問題を指摘したレポートを二ヶ月前に牧原へ提出したが,,返答は一度もなかったこと,,保田は腕を組んだまま最後まで聞いた,,「本社の新しいラインが,,この機械と同じことになるということか」「はい,,なります,,問題は時期で,,今期の稼働開始直後の今なら,,設計の見直しや部品の先手対応がまだできる,,本格稼働に入ってから止まれば,,ラインが丸ごと止まります,,このレポートを二ヶ月前に出したのは,,そのためです」「そのレポートを出した相手は,,生産技術部長の牧原だったな」そう言って保田は目を細め,,考え込む様子で言った,,「この工場の修繕予算の申請も,,ずっと生産技術部で止まったままだ,,毎回『優先度が低い』の一言だ,,本体の入れ替えだったら莫大な費用がかかるし,,仕方がないと思っていたんだが,,君のレポートも握りつぶしているとなると,,裏がありそうだな」俺は無言で頷く,,保田は何かを決意したように言った,,「俺はこの会社に高卒で入った,,内藤社長とは同期なんだ,,向こうは大卒で順調に上に行き,,俺は現場に残ったが,,内藤社長とは今も年に一度顔を合わせる程度の付き合いはある,,同期というだけで大した仲じゃないが,,直接話せる間柄ではある,,その話,,俺から社長に掛け合ってみようか」その決意に背中を押されるように,,俺はたった一言答えた,,「お願いします」保田は無言で立ち上がり,,故障記録の写しを手渡した,,「君が持っていてくれ」とだけ言った,,一週間後,,保田から呼び出しがある,,「社長に直接話してきた,,『あいつを連れ戻せ』と,,社長は俺に言ったよ」俺は少し間を置いた,,「社長が直接そう言ったんですか」「君が出したレポートの話をしたら,,『牧原から報告は受けていない』と社長は言っていた,,君の名前を出したら,,『現場で何度か話したことがある』と言っていた,,牧原には直接事情を聞くとも言っていたな」それを聞いて,,俺は決めた,,「わかりました,,社長に時間をもらえるよう,,取りついでもらえますか」保田はその日のうちに連絡を取り,,翌日には折り返しが来た,,「明日の午後三時に,,時間を取ってもらえたぞ」ところが翌朝,,よからぬ男が工場に訪れる,,保田と二人で本社に向かう準備を済ませ,,出発まであと少しというところで,,保田が入り口の方へ目で合図してきた,,振り返ると,,間違いなく高級スーツを身にまとった男が工場の中へ入ってくる,,牧原だ,,「福永,,少し話がある」牧原は俺の前で立ち止まり,,周囲を見回した,,従業員たちの視線が牧原に集中する,,「福永が,,ここじゃ話しづらい,,場所を変えよう」「いいえ,,ここで構いません」牧原は諦めたように小声で話し始めた,,「社長がお前のことを調査している,,本社に戻すことを考えているそうだ」「社長から直接そういう言葉があったんですか」「俺が社長の意向を受けてここに来た,,」「おかしい,,社長が俺に何か伝えたいのなら,,今日の面談でそれができる,,わざわざ牧原が工場に来る理由がない」俺は牧原を正面から見据えていった,,「部長,,俺が出したレポートは,,社長に届いていますか」牧原の目に動揺が走る,,「その件は,,俺が社長に説明する,,だからお前は黙って本社に戻れ」「黙って戻れば,,何が変わるんですか」「お前の移動を取り消してやる,,その件も含め,,今回のことは全部俺が処理する,,悪いようにはしない」レポートについて俺が口を塞げば,,牧原は社長への説明の際,, stick的な技術的問題をごまかし,,逃げを測ろうとするだろう,,「部長,,それは受けられません」俺は断固として拒否したが,,牧原は押し返してくる,,「なぜだ,,お前にとって悪い話じゃないだろう」「部長が社長に説明する内容に,,私のレポートが正確に含まれる保証がありませ,,ん」「俺の言葉が信じられないということか」「私が提出したレポートに対し,,部長からは二ヶ月間返答がありませんでした,,その事実があります」牧原の目が細くなった,,「話をこじらせるな」「私から直接,,社長に説明させてください」沈黙が流れた,,保田は俺の背後で腕を組んだまま動かない,,俺は言った,,「今日の午後三時,,保田工場長を通じて,,社長との面談の時間をいただいています」牧原の顔が初めて崩れた,,一瞬だったが,,確かに崩れた,,「そ,,それは聞いていない」社長は,,牧原に知らせず,,俺との面談を設定したのだ,,おそらく意図的にだ,,「では,,面談の場に部長も同席していただければ,,話が早い」牧原は目を見開いたまま何も答えない,,「では,,そういうことで」俺はそれだけ言い,,牧原はしばらく立っていたが,,やがて踵を返し,,足早に工場を出ていく,,保田が言った,,「社長にレポートの中身を全部話される前に,,口を封じに来た,,そういうことか」俺は頷いた,,牧原が去って間もなく,,スマートフォンに通知が入った,,本社の調達担当者から,,俺の車内アドレスへのメールだ,,添付されていたのは経費精算の写しで,,牧原が発注先の業者の代表者と,,業務時間外に複数回会食していた記録だった,,一般的な接待の金額よりかなり高額なものだ,,午後一時を過ぎた頃,,俺は鞄を手に取り,,本社に向かった,,本社ビルに着き,,受付で用件を告げると,,俺は会議室に案内される,,ドアを開けると,,窓を背にして内藤社長が座っていた,,斜め向かいには牧原がいる,,腕を胸の前で組み,,視線をテーブルに落としている,,「福永です,,本日はお時間をいただき,,ありがとうございます」「現場で顔を合わせたことがあるね,,覚えているよ」俺は鞄からレポートを取り出し,,社長の前に置いた,,「二ヶ月前に生産技術部長当てに提出した文書です,,内容をご存知ですか」内藤社長がレポートに目を落とす,,ページをめくりながら黙って読んでいく,,「初めて見る」社長がそう言った瞬間,,牧原が口を開いた,,「社長,,その件については,,私が内容を精査した上で」「部長,,精査した結果を,,社長に報告しましたか」牧原は言葉につまる,,俺はレポートで示した問題点を説明した,,新規設備の構造上の問題と,,それによってラインに起こる断続的な誤作動についてだ,,内藤社長が顔をあげた,,「実際に起きているのか」「はい,,私が赴任した第二工場の機械が,,同じメーカーの旧型モデルです,,同じ構造的な問題で二本のラインが止まっていました,,修理した際の故障記録がこちらです」俺は保田にもらった故障記録の写しを示した,,日付と症状が並ぶ資料だ,,「症状の出方が,,レポートで想定した内容と正確に一致しています」内藤社長がページを確かめながら言った,,「本社の新しいラインでも,,同じことが起きると」「はい,,本格稼働から数年が経てば,,必ず起きます」「待ってくれ」牧原が割り込んでくる,,「その旧型機と新設備は,,世代が違う,,同列に扱うのは乱暴だ」俺は即座に答えた,,「制御の基本構造は同じです,,メーカーに確認すれば分かります,,」「憶測で話すな」「いえ,,これは決して憶測ではありません,,第二工場で俺が直した機械が証拠です」牧原の口が止まった,,俺は社長に向き直り,,説明を続けた,,「このレポートには,,発注先の選定についても書いてあります,,今回の新規設備は,,入札なしで特定の一社と直接契約する随意契約になっています,,車内調達規定に定められた競争入札の手順を踏んでおらず,,他社への見積もり依頼の記録が一切存在しません」内藤社長の目が牧原へ向いた,,「牧原,,これはどういうことだ」「発注先の選定については,,技術的な要件を満たす業者が限られており,,」俺は牧原を遮え切り,,強引に続けた,,「社長,,もう一点,,資料があります」俺は別の書類を卓上に置いた,,「そこには,,発注先業者の代表者と部長が,,複数回にわたって業務時間外に会食したと記録されています,,調達担当者から入手した経費精算の記録です」内藤社長がページをめくる,,牧原がそちらに目を向けた瞬間,,視線が落ちた,,喉仏が小さく動く,,社長が沈む声で言った,,「牧原,,これはどういうことだ,,声のトーンがさっきとは違う,,このレポートを受け取った後,,なぜ私に報告しなかった」「技術的な精査に時間がかかっており,,」「二ヶ月間も精査していたということか」「社長,,これはまだ検討中の段階であって,,」牧原が何か言おうとしたが,,言葉が続かなかった,,言い訳を重ねるほど,,矛盾が積み上がっていく,,俺はそれを黙って見ていた,,しばらくして,,内藤社長が俺に向き直った,,「福永君,,本社に戻ってもらえるか」俺は慎重に言葉を選んだ,,「条件が一つあります,,技術判断に関して,,現場エンジニアの意見が,,数字より先に検討される仕組みを作ること,,それだけです」内藤社長は少し間を置いてから頷いた,,「分かった」牧原はもう何も言わない,,あの面談から三ヶ月が経った,,後から聞いた話では,,牧原は面談の翌週に役員会へ呼び出され,,業者との癒着について詳細な説明を求められたという,,調査の結果,,複数年にわたる便宜供与の事実が明らかになり,,間もなく会社を去っている,,俺は本社の生産技術部に戻り,,新設された技術審議委員会の初代委員長を任されたのだ,,保田からは先月,,短い連絡が来た,,「異動の話は,,完全になくなった」技術の仕事は,,やった瞬間には形が残らない,,機械が動いている間は,,誰も気にしない,,だから俺はこれからも書き続ける,,数字に変換されない仕事を,,言葉に変える作業を,,誰に頼まれなくても続ける,,それが今回,,唯一俺を守ったものだから 「何が誇りだ,,町場の分際で笑わせるな」取引先部長が声を張り上げる,,うちが納品している特許ネジの値下げを断ったら,,これだ,,ただでさえ今まで格安で提供してきたのに,,取引先部長の感情剥き出しの中,,脅しのような発言まで出て,,俺は大きなため息をついた,,俺の名前は木村,,四十二歳だ,,従業員百名ほどの町工場で営業部の課長をしている,,取引先の規模としては大きな方だと思う,,うちでは機械部品をメインに扱っている,,俺の仕事に大きな変化があったのは,,今から三ヶ月ほど前のことだった,,うちのお得意様の中に,,七年間付き合いのある産業機械メーカーがある,,うちの会社の経営状況が危なかった時期,,窮地を救ってくれた,,それ以来,,うちにとっては重要なお得意様だ,,その担当者をしていた俺の上司、部長が退職することになったのだ,,「木村君,,申し訳ないが,,後は頼んだよ」部長は引き継ぎの時,,申し訳なさそうに頭を下げた,,部長の話では,,ご実家のお父さんが倒れたことで介護が必要になったそうだ,,そのため,,実家の近くの会社に転職するらしい,,本来なら課長の俺が次の部長にと,,言いたいところだが,,俺は俺で課長に昇進して日が浅い,,そのため部長が去った後,,しばらくの間は,,うちの社長が直接営業部を統括していくことになっている,,「どうかお任せください,,部長には本当にお世話になって,,感謝してるんです」俺がなんとか頭を上げてもらうと,,部長は少し言いづらそうに口を開いた,,「些細なことかもしれないが,,一つだけ気をつけて欲しいことがある」「はい,,何でしょうか」俺が聞き返すと,,部長は取引先の産業機械メーカーの名前を持ち出した,,「小塚部長は知っているね」「ええ,,存じておりますが」小塚の印象は,,大人しくて無口と言ったものだ,,産業機械メーカーの担当者であり,,購買部長でもある,,俺は数える程度しか接したことはないが,,部長は担当者として何度もやり取りをしていたはずだ,,「うん,,その小塚部長なんだが,,どうもなんというか,,二面性があるようでね」「二面性」俺は再び聞き返す,,部長の話ではこういうことらしい,,仕事のやり取りで一緒に昼食を取ったことがあるそうだ,,普段の物静かな態度とは一変して,,店員さんに対してものすごく高圧的な態度を取ったらしい,,「声が小さくて聞こえねえよ」と,,正直聞いているこちらが引いてしまうほどのあり有様だったそうだ,,店員だったり部下の方だったり,,小塚部長から見て下だと判断したものには,,とにかく当たりがきつい,,「同じ部長職の私には表向き丁寧だったが,,木村君は役職が下になるだろう」そこまで聞いて,,部長の言いたいことが分かった,,俺は部長が去った後,,次の産業機械メーカーの担当者となる,,部長の話通りなら,,小塚は俺に対して強い態度を取ってくるかもしれない,,俺は部長を心配かけまいと微笑んだ,,「部長,,大丈夫です,,私も営業をしていて,,いろんなタイプの人と接してきましたから」部長は少しほっとしたように表情を緩めた,,しかしこの時の俺は知らなかった,,先輩の心配が的中どころか,,それを上回ってしまうことを 担当になってから三ヶ月,,俺は部長の言葉を噛みしめていた,,今日もこれから,,ある部品の納品に立ち会わないとならない,,うちは七年もの間,,小塚の会社に部品を納品している,,中でもうちが特許を取得しているネジは非常に重要だ,,特殊な形状配合で作られたネジは,,従来のものよりも耐久性に優れている,,その分価格は決して安くないが,,社長の方針で,,小塚の会社には格安に設定して納品していた,,社長は過去の恩に報いるつもりでそうしたのだろう,,納品自体は業者が行うのだが,,三ヶ月ごとの納品に立ち合い,,そのタイミングで打ち合わせを行うのが恒例になっている,,「気が重いな」取引先に向かう道中,,思わず心の声を漏らした,,部長から引き継ぎをして,,初めて小塚に挨拶をした時のことを思い出したのだ,,部長から二面性に関して聞いた時,,俺は,,小塚に関して無口で大人なしい人という印象を持っていた,,だが今にして思えば,,それは部長と一緒にいた時のこと,,一対一であったことなどなかったのだ,,実際,,面と向かって顔を合わせると,,小塚は部長の言った通りの人だった,,「木村さんだっけ,,前会ったことあるよね」挨拶の場だというのに,,小塚は足を組み,,いかにもだるそうにしていた,,「ええ,,こぶ沙汰しております,,今後は担当者としてどうぞ」俺の挨拶を遮え切り,,小塚は笑いながら,,俺の背中をバシバシと叩いた,,「前は部長職同士で気が抜けなかったが,,今回は君のような若造が相手で助かるよ,,実に気楽だ」そ,,それはどういう意味ですか,,と言いかけて,,俺は言葉をつまらせる,,意地悪そうな笑みを浮かべた小塚と目があった,,そして一気に部長が話した内容が脳内を駆け巡る,,部長の警告が的中した,,いや,,想像以上だ,,これから三ヶ月ごとに,,この男と向き合うのか,,この時から俺の苦労は始まった 最初の挨拶以来,,小塚はメールや電話で,,今回の納品に関して色々と言ってきた,,「オタクの部品はどれも高い,,特にずっと使わせてもらってるネジはおかしい,,特許だかなんだか知らないが,,もったいぶりもいいところだろうが」といったコスト面の文句から始まり,,「町工場なんだし,,もっとこっちの都合に合わせた納期にしてくんないだとか」「他のメーカーはもっと安いって聞いたけど,,うちが乗り換えたら,,オタクは大打撃なんじゃないの」と,,まるで脅しにも聞こえる言い方をしてくる,,まあ結局,,そう言われたところで,,「そうですか」と受け入れるわけにはいかない,,「特許ネジに関しましては,,通常の価格より大幅値下げした価格で納品しております」と,,断固とした対応をして,,受け流している状態だ,,こういうやり取りが,,この三ヶ月で何度もあった,,一応上にもその都度報告していて,,値下げなどは到底無理というのが,,うちの共通認識だ,,取引先に到着すると,,小塚部長が待ち受けていた,,「小塚部長,,お久しぶりです」「ああ,,木村課長,,どうもね」俺が立って深く頭を下げている状態に対し,,小塚は座ったまま軽く手を上げて挨拶をしている状態だ,,早速これかと,,胸がモヤモヤする,,俺が着席すると,,「担当直入に言うけど,,特許ネジの値段の話,,考えてくれた」と小塚が訪ねてきた,,俺は一息つき,,口を開く,,「弊社の社長には伝えましたが,,申し訳ございません,,これ以上の値下げは出来かねます」俺はあらかじめ用意していた資料を広げながら,,どれほど格安で提供しているかを丁寧に説明していく,,しかしこれ以上は安くできないという事実のみが重要なのだろう,,小塚はかなり不服顔だ,,「あのさ,,君は課長,,しかも町の課長だから,,気楽でいいんだろうけど,,うちみたいな大きな会社になると,,部長職でも成果を出していかなきゃいけないんだよね,,わかる」最後いきなり語気を強められ,,思わずびくりと肩が震えた,,嫌な言い方,,嫌な態度,,俺は心の中で大きくため息をつく,,「そうおっしゃられましても,,無理だと結論が出ております,,それに,,弊社を見下すような発言はおやめください,,確かに規模は若干ですが,,技術はピカイチ,,そう言いたいわけ」威圧的に小塚は俺を睨みつけてくる,,「ええ,,弊社は技術と品質に誇りを持っています,,特許ネジはその努力の結晶と」小塚は馬鹿にしたように笑い,,「何が誇りだ,,町場の分際で笑わせるな,,俺は部長であんたは課長,,うちは大きな会社であんたのとこは弱小町工場,,上下関係ちゃんと分かってんの」これが一企業の部長,,した成人男性の物言いだろうか,,あまりに理解できない言動に,,思わず頭痛がする,,電話でもむちゃくちゃで不快なのに,,俺が冷めた目で黙っているのを見て,,小塚は舌打ちした,,「だんまりか,,まあいい,,本当に無理なら,,こっちにも考えがある,,高すぎるから契約終了だ,,脅しじゃない,,こっちは本気だ,,というか,,すでに大体品の目星がついてるんだよ」俺の問いに,,小塚は肯定する,,「ああ,,あんたのとこの品質と同等で,,値段も安い,,こんなにすぐ見つかるなら,,もっと早く探していればよかったよ」小塚はそう言うが,,この辺りの土地の会社だろうか,,俺も営業としていろんな会社の情報は頭に入っているが,,うちの特許に匹敵するネジは,,近隣で聞いたことがない,,「ちなみに,,どこの企業か伺っても」「おっと,,そこは言うわけにはいかないな,,それともなんだ,,慌ててるのか,,考え直すって言うなら」俺は首を横に振る,,「いえ,,そんなことは,,全くありません」「何」以前から,,小塚のことは,,うちの社長に相談していた,,他社に乗り換えるという脅しに関しても同様だ,,うちの社長は礼儀や誠実さに厳しいので,,報告を聞く度に眉を潜めていた,,もしも次に脅し発言をされたら,,契約終了しても仕方がない,,今まで恩があったから目をつぶっていたが,,さすがに不誠実がすぎると言われていたのだ,,俺はまっすぐ小塚を見据え,,「そこまでおっしゃるなら,,仕方がないことだと思います,,ですが後悔しますよ」と言い放つ,,「ハッ,,負け犬の遠吠えか,,後悔するのはそっちだ,,せいぜい次の契約先を見つけるのに苦労すればいい」 会社に戻る道すがら,,俺は複雑な気持ちだった,,七年間築いてきた関係が,,たった一人の傲慢な男によって終わる,,悔しさもあったが,,不思議と清々しい気持ちもあった,,もうあの男に頭を下げなくていいんだ,,ふと,,数ヶ月前に名刺交換したある企業の部長の顔が浮かんだ,,あの方なら,,うちのネジの価値を分かってくれるかもしれない,,会社で社長に報告すると,,社長は静かに頷いた,,「仕方ない,,次に進もう」その言葉に,,俺は救われた,,最後に小塚とやり取りをしてから,,三週間ほど経った,,俺が来客の対応をしていると,,後輩から連絡が入る,,「もうどうしても木村課長をと,,私たちは来客中で無理だとはっきり伝えたのですが,,その興奮しているみたいで」どうも,,俺を出せとアポなしで訪問してきた人物がいるとのこと,,その人物とは,,小塚だ,,実を言うと,,玄関から比較的近い来客室の,,ここまで声が聞こえてきている,,「後輩の人に対応してもらって,,」俺がそこまで言うと,,「私は構いませんから,,入ってもらっては,,いかがです」と柔らかな声が耳を打つ,,俺は困惑したが,,声の主の対面側に座ったうちの社長が,,大きく頷くのを見て,,俺は息をついた,,「わかりました」俺はそう言って後輩に来客室まで案内するよう指示を出す,,入室した小塚は,,俺を見るなりものすごい勢いで近づいてくる,,おそらく俺しか目に入っていないのだろう,,殴られる,,とっさにそう思って後ずさったが,,次の瞬間,,小塚は流れるような動作でその場に土下座した,,「この度は,,大変申し訳ございませんでした,,どうか,,もう一度,,再契約をさせてください,,お願いします」口と態度は謝罪しているのに,,どうにも謝罪と受け取ることができない,,この男は何も変わっていない,,謝罪の言葉を口にしながら,,その目は焦りと怒りに満ちている,,本当に反省しているなら,,もっと違う態度があるはずだ,,「いきなりやってきて,,何ですか」うちの社長がそう言ったのを聞き,,小塚は呆けたように顔をあげる,,ここでようやく,,この場にうちの社長ともう一人,,来客がいることに気がついたらしい,,「な,,なんで」俺はやれやれと首を横に振った,,「ここは来客室です,,私以外の人間がいても,,何も不思議ではないでしょう」「そ,,それはそうだが」小塚はここでさらにぎくりとする,,その目は,,応対していた来客の方に向いていた,,「あ,,あんたは,,田中部長」小塚が声を震わせると,,来客の田中部長はにこりと微笑んだ,,「こんにちは,,ご無沙汰しております」田中部長は穏やかに微笑んでいたが,,その目は,,値踏みするように小塚を見ていた,,まるで全てを見透かしているような,,「小塚部長と田中部部長は,,お知り合いで」うちの社長が尋ねると,,田中さんは頷いた,,「ええ,,同じ業種の企業ですから,,展示会などでお会いしたことが」そう,,ここにいる田中部長は,,小塚にとっては,,ライバル社の人間ということになる,,だからこそ,,田中部長の姿を見て驚愕していたのだろう,,「どういうことだ,,そう言わんばかりに小塚は俺を睨みつける,,さっきまでの謝罪の態度はどこへ行ったというのか,,俺は呆れながらも,,疑問に答えてやることにした,,「以前から,,弊社の部品と分け,,特許ネジに興味を持っていただいていたんです」「ええ,,ですがすでに,,小塚部長の会社が特占状態でしたので,,空きができたら是非お声がけしようと,,お願いしていたんですよ」柔らかな笑みで田中部長が肯定する,,小塚は,,今の話で察しがついたのだろう,,「まさか」と呟いた,,「その通りです,,あなたが弊社の木村に行ったことは,,聞きましたよ,,長年誠実に対応してきたつもりでしたが,,まさかこんな不誠実で返されるとは思いませんでした,,ですから,,我々としては,,もっと信頼できそうな方々と,,契約を新たにすると決めたのです」答えたのは,,俺ではなく社長だった,,長年築いた信頼がある,,だから弊社と契約解除になれば,,先方の社長が黙っているわけがない,,そう思ってしばらく様子を見ていましたが,,私の思い違いだったようだ,,小塚部長が独断で契約終了を決めたと聞いた時,,本社の社長から連絡があるだろうと思っていました,,ですが何もなかった,,社長は,,「小塚が契約終了を突きつけたところで,,先方の社長が納得するわけがない,,と考えていたそうだ,,だが今日まで連絡の一つもなかった,,つまり,,そういうことなのだろう」と社長は言いたいのだ,,「くっ,,」小塚が青ざめた顔で呻く,,「た,,頼む,,ほんの少しでいい,,お願いします」俺は小塚の発言を遮るように,,大きめの声で接した,,一瞬小塚の発言が止まった隙に,,俺は続ける,,「そもそも,,なんでまた突然再契約をお望みに,,『街工場ごときのネジなど,,代替品がいくらでもある』って,,おっしゃってましたよね」「そんな発言をしたんですか,,我々企業は信用第一だというのに」田中部長には,,小塚が一方的に契約終了してきたとしか言っていなかった,,だからこそ,,暴言に驚いたに違いない,,眉を潜め,,困惑と悲しみを混ぜたような表情だ,,「私も知りたい,,再契約はともかく,,説明してほしい」社長もそう言ったところで,,小塚は苦い顔になる,,そしてややあって,,語り始めた,,「現在,,先方の特許ネジを使う製品の製造ラインが,,止まっている状態です」小塚の話をまとめるとこうだ,,うちとの契約を終了し,,代替メーカーと契約したはいいが,,強度が足りず,,検査の段階で機械が故障するケースが出たらしい,,先方のネジの在庫も綺れ,,残ったのは粗悪なネジの在庫のみ,,「私は,,騙されたんです,,どうか慈悲を,,どうか」詐欺にあったのか,,それとも小塚がいい加減な仕事をしたせいなのかは,,この話だけでは分からない,,だがそんなことは,,俺たちにとってはどうでもいい,,俺は冷めた目で小塚を見下ろした,,あれだけ単価を切り下げていたのに,,惨目なものだ,,怒りや失望,,呆れ,,いろんな感情の果てに,,残ったのは哀れみだった,,決して同情ではない,,「それは,,お気の毒です」気づけば俺はそう口にしていた,,その瞬間,,小塚はぐわっと目を大きく見開き,,額を床に打ちつけ,,再び土下座する,,「二倍,,二倍の金額を支払います,,だからどうか,,」ここで社長が口を開いた,,「田中部長,,お話しても構いませんか」「ええ,,構いませんよ」田中部長の許可を受け,,社長が小塚に告げる,,「申し訳ないが,,田中部長には,,本社に納品していた額のおよそ五倍の額で契約済みだ,,独占契約料として,,通常の納品価格に技術料を含めた額です」俺は補足する,,「例え五倍の契約料を出しても,,欲しい技術ですからね,,在庫を優先的に回していただき,,先日,,納品が完了しました,,今日は改めてお礼と挨拶に伺ったんですよ」それにしても,,すごいタイミングですね,,と田中部長が微笑む,,「そんな,,再契約できなければ,,うちは,,俺の立場は,,」顔面蒼白でぶつぶつと呟く小塚に対し,,俺はやれやれと首を横に振る,,「これで分かりましたか,,全ては身から出た錆です,,ここまで丁寧に教えて差し上げたんですから,,もうお引き取りください」俺が立ち上がらせようと手を差し伸べると,,小塚はその手を取らずに声を張り上げた,,「町工場の分際で,,俺が,,うちが,,ここまで演ってやってるのに」それが本音ですか,,私が言った通り,,後悔してももう遅いんです,,誠実に対応していただければ,,私どもはずっと手を取り合っていけたはずなのに,,その手を振り払ったのは,,あなた方ですよ,,俺は差し伸べた手を引っ込め,,代わりに扉に向かって手のひらを差した,,「さあ,,お引き取りを」もう無理だと察したのだろう,,小塚は力なく立ち上がり,,そのままふらふらと出ていった,,その後,,小塚は長雇解になったと聞いた,,教えてくれたのは田中部長だ,,一度は左遷されたそうなのだが,,その後,,今度は小塚側の社長が何度も謝罪に来たが,,結局再契約はしていない,,なんとかうちのネジに継ぐ品質のネジを見つけ,,今は徐々に落ち着きを取り戻しているようだが,,落ちた信用を回復するのは,,簡単ではないだろう,,話によると,,小塚は左遷先で,,暴力沙汰を起こしたらしい,,製造ラインが停止してしまった責任を問われ,,左遷先でもかなり後ろ指を刺されて,,生活していたそうだ,,部下の上司の元に配属され,,この俺が,,こんな若造に指図されるようになるなんてありえない,,みんなして,,俺を馬鹿にしやがって,,と激昂したのだとか,,「暴力を振われた方,,気の毒ですね」俺は話を聞いて,,そう言う他なかった,,不誠実な人間は,,どこまでも落ちていく,,そう実感する出来事だった 「技術だ,,ノウハウだ,,そんなのは海外の工場だってできる,,あんたら,,立場をわきまえた方がいいぞ」偉そうに言ってくるのは,,取引先の新部長,,うちの工場はこの取引先に,,かなりの貢献をしたのに,,どうしてこんなことが言えるんだ,,俺は馬鹿にされたままでは終わらない,,絶対にこの男に,,後悔させてやるんだ,,俺の名前は安藤,,四十歳だ,,父が昔から工場を経営していて,,俺はそこの技術者,,色々な技術を研究し,,現場に生かしている,,父の経営する工場は,,体力的にも大変そうだし,,俺は継ぐ気なんてみじんもなかった,,俺はもっと別の仕事に着くんだ,,なんて生きて研究者の道を進んでいたが,,今は父の工場で働いている,,というのも,,俺の研究はこの工場の力になる,,そう気づいたからだ,,気づくまでには時間がかかったし,,二十代の頃までは,,田舎にある父の工場なんて継ぎたくない,,なんて思っていたが,,全て俺が間違っていた,,父の工場のような仕事こそが,,技術を支えているのだ,,俺が三十歳のある日,,父が倒れたと母から連絡をもらい,,久しぶりに実家に帰った時,,父の工場の人たちと改めて,,しっかりと話をした,,それがこの工場が素晴らしいと気づくきっかけ,,父は一時の入院生活を終え,,すぐに職場復帰したが,,俺はその頃から,,今後自分がどうするべきなのか悩み始めた,,結局俺は当時の仕事をやめ,,この工場に転職,,十年以上経った今は,,周りからも時期社長として認められている,,とはいえ,,父はまだまだ現役,,俺が社長を継ぐのは,,当分先だろう,,そんな時,,俺はとある特許を取得した,,それは高機能樹脂の精密配合技術だ,,単なる素材では,,軽さと強さという相反する要求を満たすもので,,この技術に目をつけたのある会社の部長,,横山さんだった,,横山さんは父と同世代の六十代で,,俺の特許技術や,,うちの工場の職人の技術を高く評価してくれ,,是非取引をと,,頭を下げたのだ,,横山さんは,,新しいスマートウォッチを作るのに素材を探していたと言い,,俺は納得した,,スマートウォッチは,,スマホと連携し,,メッセージやアプリの通知確認や,,心拍数,,歩数,,消費カロリーの計算などの健康管理もできる,,多機能型の端末だ,,うちの特許技術は,,金属と同じくらいの強度を持ちながら,,今までの樹脂よりも薄くて軽いものが作れる,,スマートウォッチは,,色々な会社が販売しているので,,独自の特徴を持たせることが必要なのだ,,しかも,,横山さんが言うには,,特許技術が使えれば,,今までと違い,,超精密形成が可能で,,より医療精密な生体データが測定できるという,,うちの技術を使った製品は,,スポーツ選手を中心に,,爆発的に売れたのだ,,そして,,知名度のあるスポーツ選手が着用したことにより,,世間にも広まり,,さらに売れ行きを伸ばした,,横山さんは,,「安藤さんの技術のおかげだよ,,本当にありがとうございます」と,,何度もうちの工場に足を運んでは,,頭を下げたのだ,,うちの工場は,,お世辞にも近代的とは言えない,,周りは山と田んぼが広がり,,イノシシなんかも見かけるほど,,横山さんの会社からは,,車で片道三時間といったところだ,,それでも横山さんは,,楽しそうにうちの工場に顔を出す,,「私が生まれ育った場所に似ているもので,,なんだか懐かしいんですよ,,私は退職したら,,こういう土地で自給自足で生活するのが夢なんです」そう言って,,引退後の夢を楽しそうに話していた,,そんな横山さんには,,いつもうちの地元の銘菓を出している,,この辺りは栗の産地で,,栗を丸ごと一つ,,生地で包んだ和菓子だ,,素朴な味だが,,横山さんはこれを絶賛していたので,,お土産に持たせてあげたこともある,,横山さんは,,親戚のような距離感で接していて,,お互いを尊重し合えていたと思う,,だが,,ある日,,横山さんが,,「申し訳ありません,,退職することになりまして」と暗い声で連絡をしてきたのだ,,電話を取った俺は,,「え,,だって,,先方は上場したばかりですよね,,スマートウォッチが爆発的に売れたおかげだって,,横山さん言ってたじゃないですか,,うちを見つけてくれたのは横山さんですよ,,それなのに,,昇進でもなく退職,,」と思わず続ける,,そう,,この取引先は,,スマートウォッチが売れたおかげで,,上場することになったと,,横山さんから連絡をもらったばかりだったのだ,,横山さんによると,,上場と同時に会社の方針が変更になり,,短期的な利益を上げようと,,上層部が急かしているという,,詳しくは分からないが,,横山さんは自主退職を促された形で,,「そんな田舎の工場なんて,,挨拶に行かなくていい」と言われたそうだ,,横山さんは,,「近いうちに必ずご挨拶に伺います,,退職した後にはなりますが,,安藤さんたちには本当にお世話になりましたので」と言って電話を切った,,突然の報告に驚いていたが,,この日を境に,,取引先との関係が悪化していく,,数日後,,電話をかけてきたのは,,新しく部長になったという竹井という男だ,,声の感じだと,,おそらく五十代だろう,,なんだか妙に偉そうで,,「契約の更新が近づいてるので,,挨拶がてら行きますよ,,こちらも上場したので,,オタクの視察もして,,今後の対応を考えないといけないんで」と言ってきた,,「今後の対応って何だよ」俺と父は,,少しイラっとしていた,,翌日,,俺たちはさらにイライラを募らせることになる,,早速やってきた竹井は,,うちの工場とその周囲を見回して,,「契約更新だから来たのに,,こんな田舎の工場じゃ,,話にならんわ」と笑った,,「どんな最新技術の整った工場かと思ったら,,こんな古びた工場とはね,,いやあ,,これは今後が心配だ」と,,わざとらしく咳払いをする,,「うちは他にも製造しているものがあるので,,エリアによって設備は違います,,高機能樹脂の精密配合技術を扱っているのは,,最新設備のあるエリアです,,そちらもご案内しましょうか」と言ったのだが,,,,「ああ,,別にいいわ,,それよりも,,取引価格の話なんだが」と,,俺の話には興味がないと言わんばかりの態度を取る,,父が,,取引画角,,と眉を潜めた,,俺は座った竹井の前にお茶と地元の銘菓を出したのだが,,竹井はお菓子を手に取り,,まじまじと見ると,,「なんだこれ,,俺,,和菓子って嫌いなんだよね」と言って,,テーブルの上にどんと置いた,,俺も父も,,この態度に頭に来ている,,そんな俺たちの気持ちを無視して,,竹井は,,「うちは上場して,,人材も経費も見直しすることになってね,,その中で,,このスマートウォッチは,,もっと利益を求められるものだと,,会議でも議題に上がった,,つまり,,原価を抑えたいんだ,,この取引価格,,今までの三十%を下げてくれ」と,,上から目線で言う,,父は驚いた顔で,,「三十%,,そんな無茶な」と口にした,,俺も,,「材料費も上がっているし,,うちは今でもカツカツですよ,,値下げは難しいです」と続ける,,竹井は,,「見たとこ,,オタク家族経営でしょ,,従業員だって大していないし,,こっちが息子,,どうせあんたが引退したら,,息子が継ぐような工場だろ,,そんないつ潰れるか分からない工場に,,うちの売上一位の素材を,,任せるなんて,,リスクでしかないんだよ,,値下げが無理なら,,契約更新もしないぞ」と笑う,,「しかし,,品質を落とさずに,,その取引価格では,,品できません」父が頑張って断った,,父は従業員を守りたい気持ちが強い,,もちろん俺もそうだが,,この特許技術がなければ,,竹井の会社のスマートウォッチの価値が,,半減することも分かっている,,竹井は父を嘲笑い,,「じゃあ,,契約終了だな」と見下した,,父はお人好しで従業員から慕われているが,,実はこういった交渉ごとには,,向かない性格だ,,三十%取引価格を下げるというのも,,昔の父なら受けてしまったかもしれない,,だが父は,,俺の特許技術を高く評価してくれていて,,俺の開発した技術を,,安く売るような真似はできない,,と思ったのだろう,,俺はその父の気持ちが嬉しかった,,俺は父の肩を叩き,,父の前に出る,,そして,,「三十%コストカットしなければ,,うちとは契約終了ということで,,よろしいですか,,ちなみに,,うちと契約終了した場合,,素材はどちらの素材を使用されるか,,決まっているのでしょうか」と竹井に聞いた,,「うちは海外の下受けともパイプがある,,プラスチックの成形くらいいくらでも,,コストダウンできるんだよ」と得意げに言う,,「海外の下受け,,ですか」と俺が口にすると,,竹井は頷いた,,「そうだ,,ここのような古びた工場ではなく,,最新設備が整った工場なんていくらでもある,,そっちに乗り換えれば,,三十%以上のコストカットも可能だ」俺は,,「分かりました,,オタクの売上一位の商品は,,うちの特許なしでは作れませんが,,それでもいいということですよね」と念押しする,,竹井は笑って,,「特許,,お前の特許は,,日本国内だけだろ,,海外には関係ない,,海外でいくらでも作らせるから,,問題ないんだよ,,それに,,特許と言っても,,一種のプラスチックだし,,大したものではない,,この商品は,,デザイン性と機能で売れているんだ,,わざわざこの素材を使う必要はない」と,,余裕の表情を見せた,,竹井は,,本当にうちの技術を何も分かっていないようだ,,だったら,,うちだって,,こんな会社にすがる必要はない,,俺は,,「じゃあ,,今すぐ契約終了な,,契約更新はしない,,今月末で契約終了だ」と言った,,父は心配そうに俺を見ている,,竹井は,,「おいおい,,お前,,大丈夫か」と言って,,腹を抱えて笑い出した,,「こんな工場,,うちとの契約がなくなったら,,すぐ潰れるだろう,,お前みたいなのが時期社長なんて,,呆れるね,,経営の才能ゼロだよ」そう言われ,,俺よりも父の方が腹が立ったらしい,,父は,,「オタクとは,,契約終了だ,,お引き取り願おう」といつもとは違う迫力ある声で,,竹井に言い放つ,,竹井は笑いながら,,「分かった,,契約終了は今月末,,つまりあと三日だ,,その間にさっさと別の取引先でも見つけろよ」と言って,,立ち去った,,竹井が出ていった後,,父はテーブルをどんと叩き,,「なんだ,,あいつは,,お前の技術を,,馬鹿にされるのは,,許せない」と声を荒げる,,俺は,,父のその気持ちが嬉しかった,,とはいえ,,取引先を失ったのは確かだ,,俺は新しい取引先を探さないといけない,,と思った,,その時,,会社の電話が鳴る,,怒っている父より先に,,俺は電話を取った,,電話の相手は,,なんと,,元部長の横山さんだ,,「どうしたんですか」俺が驚いてそう言うと,,横山さんは,,「今からお伺いしても,,よろしいですか」と言ってきた,,もちろんです,,と言うと,,なんと横山さんは十分钟でやってきたのだ,,実は横山さんは,,会社を辞めさせられた後,,この近くに引っ越してきたという,,「ここに住むのは老後の楽しみ,,なんて言っていましたが,,人足先に引っ越してしまいました,,今は,,知り合いの伝手で,,この近くの会社に勤務したんですよ」と笑顔で言った,,そこで横山さんは,,自分が会社をやめなければならず,,俺たちに迷惑をかけただろうと謝罪する,,俺は,,今起こったことの一部始終を話した,,横山さんは,,「やっぱり,,そうでしたか,,私が退職することになったのも,,安藤さんの工場を切ることに,,反対したからなんですよ,,私はここの技術があったから,,あのスマートウォッチが爆発的に売れたと,,確信しています,,しかし上層部は,,『スマートウォッチはデザインで選ばれる』とか,,『海外でも作れる』とか,,そんなことばっかり言って,,本当に何も考えていないんですよ」と,,怒りを滲ませる,,父は,,「横山さん,,うちのせいで,,申し訳ありません」と言うと,,横山さんは首を横に振った,,「そうじゃありません,,私もあの上層部の態度には腹が立ちまして,,どのみち退職していましたよ」俺は横山さんが好きな地元の銘菓を出すと,,横山さんは喜んで,,「これですよ,,これ,,こっちに来て最初にした買い物,,これですから」と笑う,,竹井の態度とは大違いだ,,そして横山さんは,,俺たちにとある話を持ちかけてきた,,「今,,スーツケースを作っているんですよ,,安藤さんの高機能樹脂なら,,薄くて軽くて強度もある,,今までにないスーツケースが作れる,,と思うんです」と横山さんは言う,,確かに,,うちの特許技術ならそれが実現できる,,横山さんは,,「いい目を見つけましたね,,是非,,うちとも取引していただけませんか」と頭を下げた,,俺たちは喜んで,,横山さんの会社との取引を始めることにしたのだ,,それから三日後,,竹井のところに最後の納品を済ませ,,縁を切ることになる,,竹井から連絡が来て,,「海外の下受けで,,四十%のコストダウンができた,,もうお前らは用済みだよ」と笑われた,,笑っていられるのも,,今のうちだ,,俺はそう思いながら,,「そうですか,,では,,失礼します」と挨拶だけして,,電話を切る,,俺たちは気持ちを切り替え,,新たな製品の企画に合わせ,,特許である高機能樹脂の精密配合技術を稼働させた,,横山さんの会社との取引は順調に進み,,新しいスーツケースの企画が動き出した,,うちの技術を使った新商品の開発は,,すぐに本格化,,そして数ヶ月後,,ついに新商品が発売された,,それは徐々に販売数を伸ばし,,「薄くて軽いのに,,驚くほど頑丈」という口込みが広がり,,ついに売上も口込みも一位になったという,,横山さんは,,一度ならず二度までも,,「本当に,,安藤さんたちのおかげです」と,,泣いて喜んだ,,そして,,「そういえば,,前の会社ですが,,大変なことになってるみたいで」と,,あるニュース記事を見せてくる,,竹井が得意げに下げに行っていた海外の下受けは,,当然うちの技術に追いつくはずがなく,,実現できたのは,,「薄くて軽い」という部分だけ,,竹井や上層部は,,「薄さと軽さがあり,,デザイン性がいいのだから,,今後も売れるはず」と踏んでいたようだ,,しかし実際に使っている人からすれば,,超精密な成形で,,医療レベルの正確な生体データが測定できるという,,特化した部分で購入していたので,,薄くて軽くて,,デザイン性があるだけでは,,意味がないという声が多発,,代わりになるものがないので,,昔のモデルの中古品が売れているという,,竹井の関わりがなくなったのは良かったのだが,,使っている人には申し訳なかった,,父は,,「やっぱり,,あの会社ともう一度,,携わした方がいいのか」と悩んだが,,横山さんが,,「そんなことしたら,,またここの技術が,,安く見られてしまいます,,私に少し時間をください」と言って,,工場を飛び出していく,,その後,,竹井から何度か連絡があり,,「取引価格は,,十%のコストカットで構わないので」と言われたが,,「さすがにこの後に及んで,,コストカットですか」と,,呆れた,,断り続けていると,,なんと竹井が工場にやってきたのだ,,三時間以上もかけてきたんだ,,こっちの事情も,,聞いてもらわないと困る,,と,,どこまで自分本位なのか,,相変わらず腹が立つ物言いをしている,,そして竹井は,,「頼む,,もう一度取引してくれ,,価格は元のままでいい,,いや,,十%上乗せでもいい」と言い出した,,「今更,,何を言ってるんですか」と俺が冷たく返すと,,竹井は,,「海外の技術じゃ,,ダメだったんだ,,お前らの技術がないと,,うちの商品は売れないんだよ」と焦った様子で言う,,だがちょうどその時,,安藤さんと横山さんが入ってきた,,横山さんは竹井を見て,,「ああ,,あなたが,,竹井新部長ですね,,元部長の横山です,,お会いしたことはありますが,,話すのは初めてですね,,全く,,あなたの采配には驚きましたよ,,まさかこの特許技術を,,コストカットしようとするなんて」と,,冷たく笑う,,竹井は,,「横山さん,,いや,,これは,,会社の方針で」と言い訳をし始めるが,,横山さんは無視をして,,「スマートウォッチを製造している別の会社から,,安藤さんの工場を紹介して欲しいと言われました,,スーツケースの実績を見て,,是非うちの商品にも,,と,,今日はそのご報告です」と俺たちに言う,,俺は胸を撫で下ろし,,「よかった,,これで,,竹井さんのような,,横暴な取引先に頼らなくても,,利用者の元には,,新しいスマートウォッチが,,届けられますね」と言うと,,竹井は青ざめて,,「待ってくれ,,頼む,,土下座でも何でもする」と言って,,本当に土下座をしようとした,,だが,,父が立ち上がり,,竹井の前に立ち塞がる,,父は静かに,,しかし力強い声で言った,,「竹井さん,,あなたは,,うちの工場を,,『いつ潰れるかわからない』と言った,,息子の技術は,,『大したものじゃない』と笑った,,この栗の銘菓を,,『嫌いだ』とテーブルに叩きつけた,,私はね,,技術を馬鹿にされることよりも,,息子が一生懸命開発した技術を,,お金の都合だけで,,踏みにじられることの方が,,許せないんだ,,あなたは,,技術に対する敬意が足りない,,だから,,お引き取りください」父の言葉に,,竹井は何も言い返せなかった,,俺は冷たく言い放った,,「うちだって,,先方みたいな取引先は,,リスクでしかないんでね,,上場下の,,揚げ足取りのような態度で,,顧客すら逃すような会社とは,,もう取引できません」横山さんも厳しい声で続ける,,「二度と,,この工場に来ないでください」竹井は何も言い返せず,,しぶしぶうちの工場を後にした,,それから数ヶ月後,,横山さんが紹介してくれた新しい取引先と,,スマートウォッチを発売,,スポーツ選手の間では,,この商品が広まり,,「これを待っていた」という声が上がっている,,売上も好調だ,,何より,,使ってもらっている人からの声が嬉しい,,この仕事をしてて,,本当に良かった,,と思う瞬間だ,,竹井の会社は,,その後も業績が悪化し続け,,株価は暴落,,ついに上場廃止が決定したと,,横山さんから聞いた,,竹井は,,責任を取らされる形で,,郊外の営業所に左遷されたという,,横山さんの同僚たちも,,次々と辞めていったそうで,,優秀な人材は,,もう残っていないらしい,,一方,,俺たちの工場は,,スーツケースとスマートウォッチという,,二つの柱を持つことができた,,父は,,「お前の技術が,,こんなにも,,多くの人の役に立つなんてな」と嬉しそうに笑う,,俺も,,「父さんの工場があったからこそだよ」と返した,,それからも,,誰かの役に立つ技術を開発していきたい,,と思う,,そして,,技術を大切にしてくれる人たちと,,共に歩んでいきたい 「会議の意味わかる,,こんな内容じゃ,,お話にならないよ」東京本社で行われた会議の中,,進行役の男が言う,,本社の営業部長であるこの男は,,俺の同期だ,,支社に移動した俺を,,昔から馬鹿にしている,,参加者全員の前でこき下ろして,,悦に入りたいのだろう,,この男は,,昔からそういうやつだ,,今に見ていろ,,俺は心の中でそう誓った,,俺の名前は紫,,五十歳の会社員だ,,ある企業の支社の営業部で,,部長をしている,,二十年ほど前,,若い頃は東京の本社ビルで働いていたのだが,,営業成績が振るわない支社へ,,応援に行ってくれないかと,,部長やその上の人物から打診を受けたのだ,,役職を用意してくれること,,それから俺が当時はまだ独身で,,身軽だったことから,,承諾した,,支社とはいえ,,役職付きということ,,「紫は期待されてるんだよ,,応援してるぜ」と同僚たちは,,いい話じゃないかと俺を応援してくれた,,俺も心の中でやる気に燃えていたのだが,,,,「ふん,,まるで栄転とでも言わんばかりだな,,左遷の言い換えだろ,,俺なら絶対に断るね,,キャリア潰す気か」と,,ある人物が水を刺す,,その人物とは,,俺と同期の山口だった,,「期待してるって言葉ほど,,信用できないものはないよな,,お前が好き好んで田舎でくすぶってくれる,,おかげで,,俺は小心のライバルが減って,,ラッキーだけどね」山口は,,同期の中でも特に野心家で,,本社での出世に何よりこだわる人物だ,,「おい,,そんな言い方するなよ,,部長はいつも紫を褒めてたじゃないか」同僚の一人がそう言ってくれたが,,山口は鼻を鳴らす,,「はっ,,仕事なら俺の方ができる,,大体,,支社への応援が本当に栄転なら,,俺に真っ先に話が来るはずだ,,なのに,,俺には全く声がかからなかった,,その時点で,,おかしいじゃないか」なんだその,,むちゃくちゃな理屈は,,と思ったのを,,今でも覚えている,,山口は確かに仕事はできるが,,自己過剰で,,柔軟さにかけるところがある,,そういった点が,,先輩や上司から敬遠される理由になるのだが,,山口は気づいていないらしかった,,ともかく,,俺は本社から支社へ移り,,部長になるまでに頑張ってきたのである 俺は不ぶりの本社ビルを見上げた,,今日は東京本社で,,重要な会議が行われる,,各支社の営業部から代表者が集い,,データの報告と今後の方針,,それからあるプロジェクトについて議論するのだ,,プロジェクトについて,,というのは,,平たく言えば,,全支社参加のコンペのようなものである,,企画書を持ち寄り,,各支社から発表する,,というものだ,,企画書の入った鞄を持つ手に,,思わず力が入る,,今回の企画書を作成するまでに,,支社で何度も話し合いが行われた,,みんなの熱意が,,この企画書にこもっている,,俺は,,代表としてしっかりその素晴らしさを,,伝えないと,,よし,,気合入れていくぞ,,俺は自分を奮い立たせるようにつぶやき,,ビルに踏み込んだ,,俺を含めて参加者,,五十六名が入る会議室は,,かなりの広さだった,,少し時間に余裕を持ってきたので,,会議室はまばらに人が座っている状態だ,,入り口にあった座席表を頼りに自分の席を探していると,,「あれ,,お前,,ひょっとして紫か」と声をかけられた,,振り返ると,,見覚えのある人物が立っている,,本社にいた頃から二十年近く経っているが,,すでに人を馬鹿にしたような表情をしているせいか,,頭の中である人物と雰囲気が重なった,,まさか,,えっと,,山口,,一瞬名前が出てこなくて焦ったが,,どうやら正解だったらしい,,山口は満足そうに頷いた,,「やっぱり紫か,,久しぶりだな」「ああ,,本当だね」仕事の関係で,,多少の車内メールのやり取りはしたことがあったが,,会うのは,,山口の言う通り,,本当に久しぶりだった,,ちなみに,,山口は部長に昇進した時に,,聞いてもいないのに,,連絡してきたことがある,,どうやら俺を含む同期全員に送ったようだが,,俺も同期たちも忙しく,,ほとんど真面目に相手をしなかった,,というのも,,「部長の昇進祝いを寄越せ」だとか,,「お前らと違って,,俺はエリート部長だぜ」などと,,俺たち同期に対するマウント発言ばかりが,,目立っていたからだ,,嫌な奴に声をかけられてしまった,,内心苦笑いしていると,,「おいおい,,支社に行って,,やれちゃったんじゃないの,,その調子だと,,結婚もまだだろう,,やっぱ,,支社に左遷されたような男じゃな」と,,山口がばしばしと俺の背中を叩いて笑う,,俺が結婚指輪をしていないのを見て,,言っているのだろうが,,実際俺は結婚している,,数年ほど前に体調を崩して,,色々あった末に,,すっかり痩せてしまったのだ,,指輪が緩いというのは,,日常生活をしていて気になるレベルだった,,だから,,普段は自宅に置いている,,俺は愛想笑いを浮かべ,,山口の指をちらりと見た,,自分だって,,指輪をしていないじゃないか,,俺の視線に気がついたのだろう,,山口は急に不機嫌そうに眉を潜めた,,「お,,俺はいいんだよ,,俺は結婚相手を吟味してるんだからな,,お前と違って,,俺は本社の営業部長にまでなった,,エリートだぜ,,俺が本気出せば,,引く手数多だっての」,,「俺も,,営業部の部長だけど」俺の発言に,,山口は鼻を鳴らす,,「本社の,,ってとこがポイントなんだよ,,田舎支社の部長のお前なんかと,,同列に語るな」山口の発言に,,周りにちらほらといた何人かが,,むっとした顔になる,,それはそうだろう,,今日は俺のように,,支社からもたくさんの人が来ている,,その中には,,支社の部長クラスだって多いだろう,,「ああ,,山口は相変わらずだな,,ああ,,それから,,俺は結婚してるよ,,子供も二人いる,,とても幸せに暮らしてるから,,心配してくれなくて大丈夫だ,,ありがとな」俺が皮肉を込めて言うと,,山口は間の抜けた声をあげる,,「な,,結婚してるだと,,聞いてないぞ,,式だって,,呼ばれてない」,,「まあ,,報告してないし,,式も,,身内だけでやったから,,仲のいい友人くらいしか呼んでないんだよ」完全に見下していた俺が,,結婚して幸せな家庭を築いているというのが,,俺の想像以上にショックだったらしい,,山口は口をぱくぱくとさせている,,周りで聞いていた人の中から,,かなりの笑い声が漏れるのが聞こえた,,その瞬間,,山口はかっ,,と顔を真っ赤にする,,「く,,くそ,,馬鹿にしやがって」馬鹿にしてきたのは,,どう考えても山口の方だが,,俺は心の中で,,「やれやれ」とため息をつく,,そのタイミングで,,会議の時間が近づいたせいか,,いきなり会議室に人が増え始めた,,山口は小さく舌打ちし,,俺を睨みつける,,俺はそ知らぬ顔をして,,自分の席を見つけて着席した,,この時の俺は,,夢にも思わなかった,,まさか山口がこのやり取りを根に持って,,私怨に満ちた行動に走るなんて,,会議が始まった時,,すぐに分かったことだが,,この会議では,,本社の営業部長の山口が進行役を務めるらしい,,実際,,本社で営業部長までなったのは,,すごいと思うんだがな,,俺は会議の話に耳を傾けつつ,,心の中で呟く,,会議は,,すでにプロジェクトの部分まで進行している,,そして,,うちの支社の番が回ってきた,,俺は気を引き締める,,企画書は,,発案者の俺,,それから進行側の分の用意があり,,他の参加者には,,プロジェクターに映し出された資料を元に,,進行していく,,「以上を持って,,私どもの支社のご提案となります」俺が一通り発表し終わると,,周りから,,「これはなかなか」と,,好意的な雰囲気が感じ取れた,,そこへ来て,,ごほん,,と大きな咳払いが聞こえ,,会議室が静まる,,「えっと,,これが,,村井部長の支社の企画書か,,なるほどね」咳払いの主は,,山口だった,,山口は,,ニヤニヤしながら,,俺の用意した企画書を指で叩く,,「会議の意味わかる,,こんな内容じゃ,,お話にならないよ,,君,,仮にも部長なんだろう,,普段どんな仕事したら,,こんなしょうもない企画書が作れるのかな」周りの反応が良かっただけに,,山口の言分には,,思わず首をかしげた,,「しょうもないとは,,具体的にどの部分でしょうか」「む,,とにかく,,全体的にだよ,,」全く要領を得ない返答に,,俺は心の中でため息をつく,,山口のことだから,,さっきのやり取りが気に入らなくて,,俺に恥をかかせたいという気持ちだけで,,言ってきたのだろう,,最初は山口のことなどほぼ忘れていたが,,昔から,,山口はこういう男だった,,「大体なあ,,本社から支社に左遷されるような,,奴が代表者として,,この会議に参加している時点で,,おかしいんだよ」それしか武器はないのだろうか,,俺は,,左遷ではないと,,何度言えばいいんだ,,「いやあ,,山口部長,,さすがにお言葉が,,それに,,村井部長の企画書は,,目的や数値がしっかりしていますし,,特に問題はないかと」山口のそばの人間が,,やんわりと注意してくれたが,,山口は,,全く聞く耳を持たない,,「とにかく,,こんな企画書は論外だ,,今すぐ,,支社に帰って,,一から出直すんだな」そして,,俺に帰れと言わんばかりに,,山口は,,しっしっと手で払う動作をする,,いくら山口が会議の進行役だとしても,,山口よりも偉い立場の人間は,,いないのか,,俺は視線で周りを探る,,山口のそばに,,専務と記載された席があった,,その人物を見て,,愕然とする,,めちゃめちゃ関心のない表情だ,,専務は,,ぼーっと頬杖をついており,,俺と目があっても,,すっとそらしてしまう,,俺の視線に気がついた,,山口がより笑みを深める,,「おら,,とっとと帰れ,,本社にお前の居場所,,なんかないんだよ」俺は拳を握り締めた,,周りの席の人間が,,気の毒そうな,,何とも言えない表情で,,俺を見ているのが分かる,,いくら相手が山口とはいえ,,ここまで理不尽な扱いをされるなんて,,この場で唯一,,山口を制せられるであろう専務でさえ,,あんな感じなのだ,,会議室にいる五十五名の中に,,もう俺に味方はいないのだろう,,これが,,本社のエリートの実態か,,俺はやれやれと首を横に振り,,「分かりました」と短く答え,,会議室を出た,,大勢の前で,,俺をこき下ろし,,退出までさせたのだ,,さぞ山口は,,いい気分だろう,,いつか,,絶対に後悔させてやる,,俺はそう決意した,,それから一年後のことだ,,俺は東京本社の近くのあるホテルを訪れていた,,今日は,,次期社長候補と言われていた,,社長の一人息子の春が,,晴れて社長となったため,,その祝賀会が開かれるのだ,,本社勤務の専務や常務も,,次期社長候補として名前が上がっていた,,中での就任ということで,,車内外でも注目が大きい,,ちなみに,,専務は,,自分よりも春がふさわしい,,と考えていたので,,早々に候補を辞退していたのだ,,俺はある理由から,,この祝賀会の進行役を任されていた,,壇上に上がり進行を始めると,,聞き覚えのある声が,,俺の邪魔をする,,「おいおい,,なんでお前が,,村井,,お前なんかが,,来ていい場所じゃないぞ」見れば,,顔を赤くした山口が,,ワイングラスを片手に,,もう片方の手で,,俺を指さして,,わめいていた,,やれやれ,,もう酔っているのか,,一年前の重要会議以来だったが,,山口の横柄さは,,変わっていないらしい,,会は立食式であり,,お酒の用意もあった,,とはいえ,,会の重要さが重要さだけに,,軽食を取る人間はいても,,酔うほどお酒を飲むのは,,山口ぐらいのものだろう,,本社の営業部長である山口が,,祝賀会にいることは,,なんら不自然ではない,,俺はちらりと,,ある人物に視線を送る,,そして,,頷くと,,俺は山口を無視して,,口を開いた,,「警備員さん,,彼に,,山口部長に,,退出してもらってください」会場にいる全員が,,一瞬,,「えっ」という顔をした,,俺は軽く咳払いして,,言い直す,,俺は,,男場からまっすぐ,,山口を指びさした,,「主催者である春お,,さんは,,この場に,,山口部長を,,招いておりません,,ですから,,山口部長は,,部外者です,,分かりやすく言い直しましょうか,,『今すぐ,,あいつをつまみ出せ』とね」そこまで言い直して,,ようやく警備員は,,山口に向かう,,呆けた山口は,,状況が分からない,,と言った様子で,,口をぱくぱくさせて,,うろたえるのみだ,,「おい,,ふざけるな,,俺は,,私は,,この本社の営業部長だぞ,,それを,,紫,,貴様ごときが,,何の権利があって」俺は,,誕生から,,にこりと微笑む,,「祝賀会の参加者には,,招待状が,,配られているはずです,,でも,,山口営業部長,,あなたには,,届いていないのでは」俺の発言に,,山口は一瞬,,ぎくりとした顔になる,,「それは,,でも,,そんなもの,,何かのミスだと思って,,本社の営業部長の私が,,不参加なんて,,おかしいだろう」俺はやれやれと,,首を横に振った,,「招待状がない以上,,さっきも言った通り,,あなたは,,部外者です」警備員が山口に退出を促す,,ほ,,少し離れたところでも,,警備員に退出を要請されて,,反抗している人間がいた,,それは,,去年の重要会議で,,上の空だった,,専務だった,,「私から説明しよう」俺と山口の間に,,声を滑り込ませてきたのは,,この祝賀会の主役,,新社長の春美だ,,まさかの事態の連続に,,他の社員たちが,,さらに驚いた様子だった,,「村井君には,,私からあらかじめ指示しておいたんだよ,,『山口部長と常務には招待状は手配していないから,,もし見かけたら,,お帰りいただくように』と」,,「そんな,,なぜ,,そもそも,,なんで,,新社長が,,村井に,,」山口が目を見開いている,,後ろで,,常務の悲鳴が遠のいていく,,どうやら人足先に,,常務は退出させられたようだ,,「本来,,私の挨拶の後に,,みんなに発表しようと思ったことだが,,私の新社長就任と同時に,,何人かの社員の役職を引き上げようと思ってね,,その中の一人が,,村井君なんだよ,,村井君には,,今後,,本社で営業本部長を,,任せたいと思っているな」春の言葉に,,山口は驚愕の表情を浮かべた,,顎が外れんばかりに,,口を大きく開けている,,今まで,,格下だと信じていた俺が,,自分よりも上の役職に着くのだから,,無理もない,,実は,,俺が支社に応援に行った際,,部長や春の父に,,直接こう言われていたのだ,,「自社を息子の春に任せたのだが,,能力のあるものに,,息子の支えになって欲しい,,と考えている,,そこで,,本社から何名か支社に応援に行ってもらいたくてね,,息子の成長,,引いては会社の未来のために,,力を貸して欲しい」と,,深く頭を下げられて,,俺は支社への移動を決意した,,当時は,,春お自身,,社長の息子ということは,,公言していなかったので,,俺は秘密裡に教えられた,,ということになる,,実際,,春が社長の息子だと,,周囲に明かされたのは,,ここ数年のことだ,,その後,,俺は支社で成果を出すと同時に,,春美との信頼も得て,,営業本部長への昇進も決まった,,というわけだ,,「私が作る会社の未来のために,,君の力が必要なんだ,,これからも,,手伝ってくれないか」春お,,みにこう言われた時,,俺は,,自分の努力が報われたのだ,,と思った,,もちろん,,これがゴールではない,,経営側の役職になることで,,今以上の責任や苦労が,,ついて回るだろう,,だけど,,春の元でなら,,きっとその苦労も,,誇りになると信じている,,俺はここで口を開いた,,「一年前,,本社で会議が行われた時には,,すでにこの人事は,,内々々で決まっていました,,あの会議で,,私は疑問を持ったんです,,『あなたのような人が,,なぜ営業部長になれたのか,,そして,,会議に同席していた常務は,,なぜ何も言わなかったのか』と,,すると,,周りの社員の中から,,「あの時のことか」と納得するような声が,,かすかに聞こえた,,おそらく,,一年前の会議に参加していたものが,,何人か覚えていたのだろう,,「これ以上,,私が口にするのは,,いささか気が引けるが,,まだ聞きたいかな」春美が山口に問いかけたが,,感情,,的になっている山口は,,引くに引けないのだろう,,「聞かせてください」と春に促した,,「私は,,村井君から話を聞いて,,山口部長と常務について,,調査をしてみたんだ,,そうしたら,,色々とね,,大量に問題が浮上した,,というわけだよ,,この一年,,君たち両名が,,言い訳もできないように,,しっかりと準備を進めてきた」山口が,,俺を,,睨みつける,,俺は目をそらさずに,,しっかりと山口を見る,,山口は,,わなわなと震え,,やがて,,自分から目をそらした,,「問題を指摘して,,処罰するだけなら,,一年も時間はかからなかっただろう,,しかし,,常務ともなると,,話は別だ,,山口部長は,,常務に,,不適切な取り入り方をして,,昇進したという証拠も揃っている,,村井君の情報のおかげで,,私は,,新社長に就任したら,,人事を強化するという,,新しい目標を持つことができた,,わけだ」そこまで言って,,山口の顔から,,血の気が引く,,つまり,,山口と常務は,,悪い意味での,,協力関係だったのだ,,だからこそ,,会議の件でも,,常務は,,山口を止めなかった,,俺は,,春に続いた,,「ある意味,,一年前の会議での振る舞いに,,感謝していますよ,,山口部長があんな仕打ちを,,しなかったら,,気がつかなかったかもしれませんので」俺が言うと,,今度こそ,,山口は打ち拉がれる,,そのまま,,控えていた警備員が,,山口を引きずっていく,,それが,,俺の見た山口の最後の姿だった それから数年,,俺は春美の宣言通り,,営業本部長として,,忙しく過ごしている,,祝賀会の後,,すぐ,,山口と常務は,,会社を追い出された,,山口は長雇解雇で済んだが,,常務は,,裏で経費に関わる悪行もしていたため,,刑務の中で暮らしているらしい,,先代の頃にはなかった,,ハラスメント問題専門の部署など,,春美は,,宣言通り人事にも力を入れて,,会社を経営している,,俺はこれからも,,新社長を支えていきたい

19 September 2026

Ich stand am Fenster und starrte in die Dunkelheit. Fast zweiundzwanzig Uhr, und Ceilia war immer noch nicht da. Früher kam sie gegen sechs nach Hause, wir saßen zusammen, redeten, manchmal…

Karlten stand am Fenster seines kleinen Hauses am Rand der Stadt und starrte hinaus in die Dunkelheit. Das matte Licht der Straßenlaterne fiel auf die kiesbestreute Auffahrt. Die Uhr zeigte fast zweiundzwanzig Uhr, und reina war immer noch nicht da. Er seufzte leise und stellte die Tasse mit dem kalten Tee auf den Tisch. In … Read more

19 September 2026