息子の学費500万円が、夫の高級腕時計に変わっていた。親族が祝杯を挙げる合格祝いの席で、夫は私にだけ聞こえるように言った。「俺が使ってやっただけだ。貯め直せばいい」と。でも、私は冷静に返した。「もう500万、請求しておいたから。あなたのよく知っている人にね」夫は高圧的に私の腕を掴んだ。その時、息子の陸が現れ、低い声で言った。「お前は今日で終わりなんだよ。母さんを傷つけたこと、後悔させてやるか…
彼が得意げに高級腕時計を見せつけてきたのは、息子の大学合格祝いの席でのことだった。 「俺が使ってやっただけだ。学費はゼロから貯め直せばいい」 夫の勝也は、リビングで親戚たちが祝杯を挙げる中、私にだけ聞こえるようにそう言った。息子の陸の学費500万円を、自分の腕時計に変えてしまったのだ。 私は取り乱さなかった。 「貯め直す必要なんてないわ。もう500万、請求しておいたから。あなたのよく知っている人にね」 勝也の顔色が変わった。私の腕を強く掴み、寝室へ引っ張ろうとする。その時だった。 「お前、何やってんの」 鬼のような形相の陸が、勝也の腕を掴んで私を引き離した。中学生の頃から筋トレを欠かさない陸にとって、185センチの勝也を押さえるのは造作もないことだった。 「デクが親に向かって『お前』だと? 後でどうなるか分かってるのか?」 「後があると思ってんの? お前は今日で終わりなんだよ。母さんを傷つけたこと、後悔させてやるからな」 陸の言葉は強がりでも虚勢でもなかった。私たちはすべてを知っていたからだ。 リビングに戻ると、義両親や親戚たちが陸の合格を祝う雰囲気に包まれていた。私はその場に立ち、静かに話し始めた。 「皆さん、少しお話ししたいことがあります。勝也が陸の学費500万円を使って高級腕時計を購入しました。先月の12月20日、銀座の高級時計店で。購入日時も支払い方法も、全て確認済みです」 静まり返る空間の中、勝也は困惑した表情を浮かべた。 「し、ずっとあなたに気づかれないように調べていたの」 勝也は「初耳だ」と白を切った。だが、私はこれを想定していた。陸も同じだ。私たちは静かに、ある人物を待った。 玄関のチャイムが鳴った。義母がドアを開けると、そこにはスーツ姿の勝也の兄、正斗さんが立っていた。弁護士の彼は、険しい表情で告げた。 「重要な話がある。だから急いできた」 正斗さんは全員の前で切り出した。 「勝也には、みな子という女性がいる。僕が来たのはその件について話をするためだ」 事実を知らない義両親や親戚たちは衝撃を受けた。さらに、勝也がその女性に多額の金を貢いでいることも明かされた。 実は、勝也の浮気に最初に気づいたのは陸だった。ある日、塾から帰った陸が真剣な顔で言ったのだ。 「勝也がさ、女と会ってるところを見た」 塾の講師のみな子先生。駅前のカフェで2人が話しているところを何度も目撃したという。陸の情報をもとに、私は興信所にも協力を依頼し、勝也とみな子の密会の証拠を掴んだ。 そして正斗さんに協力を依頼し、みな子に対して500万円の慰謝料を請求。すでに支払いも完了している。私は通帳を取り出した。 「この通帳には、みな子さんから振り込まれた500万円が記載されてるわ。そしてそれを裏付ける証拠も持ってるの」 調査報告書には、2人がホテルに入る写真や、勝也がみな子に高級腕時計を渡している写真が収められていた。 「こちらはあなたがみな子さんとホテルに入るところの写真。そしてこれはあなたが彼女に高級腕時計を渡している様子。これ以上の証拠が必要?」 勝也は何も言えず、ただ唇を震わせていた。正斗さんが冷たい口調で問いかけた。 「かや、これらの写真について弁解があるなら聞こう。ただし、嘘をつくのはもうやめてくれ」 さらに私は続けた。 「みな子さん自身も浮気を認めてるわ。そして勝也との関係を続けたいとも言っていたわよ」 義父が厳しい口調で勝也を止めた。義両親や親戚たちの怒りは頂点に達していた。学費の使い込み、浮気、そして親族を欺いたこと。それらが全て明らかになったのだ。 「実の親の味方をするのが息子だろ。なんでお前は俺じゃなくこいつの味方をするんだ」 勝也が陸に向かって叫んだ。その瞬間、義両親や親戚たちは顔をしかめた。 「あんた、親の自覚あるのか? 自分の息子を裏切っておいて、よくそんなことが言えるな」 陸の言葉は的確に勝也の矛盾をついていた。 「血の繋がりがどうとかなんて、お前が言うなよ」 勝也が血縁を持ち出した時、陸は低い声で言い放った。 「家族を支えてきたのは母さんだよ。お前は何もしていないどころか、家族を利用してきただけじゃないか。血が繋がっているかどうかなんて家族には関係ない。俺は母さんを家族だと思ってるし、逆にお前のことを父親だと思ってない。お前なんかただの他人だ」 勝也は動揺した表情を浮かべた。 「育ててやった恩を忘れたのか」 「育ててもらったことには感謝してるよ。それは事実だし、否定しない。でもそれとお前がしてきたことは別の話だ」 勝也はさらに食い下がった。 「お前は俺を選んだんだろうが。お前が母親じゃなく俺についてきたのは、俺の方が正しかったからじゃないのか」 「ああ、確かにそう思ってたよ。小学生の時、母さんが浮気したから離婚したって話を信じてお前を選んだ。あの頃の俺には母さんが悪で、お前が被害者に見えたからね」 離婚の真実は、勝也自身の浮気と家庭内での嫌がらせだった。勝也は前妻の全を精神的に追い詰め、自分の浮気を隠すために、偽りの理由を認めさせる形で離婚を成立させていたのだ。 陸が全に直接会いに行き、真実を知ったのは勝也の浮気の事実を知った直後だった。全は、離婚の際に勝也から脅迫され、自分の浮気が原因だと偽って認めさせられたことを告白した。 「お母さんはずっと嘘をつかされていたの」 陸が問いかけると、全は悲しそうに頷いた。 それを聞いた陸は、幼い頃の記憶が全て覆されるような感覚を味わった。勝也がいい父親を演じていたのは、自分の罪を隠し通すためだったのだ。陸は心の中で決意を固めた。もうこんな人間に自分の人生を左右されたくない。勝也との縁を切ることを決心したのだった。 「本当に後悔してるよ。騙されていると知らずにお前についていったことを」 … Read more