「孫がいれば、あんたなんて用済みなんだから。」…
「孫がいれば、あんたなんて用済みなんだから。」 結婚8年目でようやく授かった子ども。出産して家に戻ったその日、義母は私にそう言い放った。実際には孫なんて最初からいらなかったのかもしれない。ただ、息子を独占するために、私を追い出したかっただけなのだろう。世の中、そんなに甘くない。 夫の洋一は2歳年上のマザコン男。義母は洋一が7歳下の妹・かず子よりも、ずっと上の息子ばかりを可愛がっていた。かず子は結婚せずに義実家に住んでいたので、私たち夫婦は義実家から30分ほどのマンションで暮らしていた。 結婚して8年。ここまで本当に長かった。浅はかにも、結婚すればすぐに子どもができると思っていた私は、あっという間に5年が過ぎて焦り始めた。婦人科で検査してもらうと、特に問題はないと言われて一安心したのだが、義母は納得しなかった。 「問題ないなら、なんで妊娠しないのよ。大方、結婚前に遊んでたんでしょうよ。私なんか結婚して1年後にはもう洋一を産んでたわ。嫁としての出来が違うってことかしら。」 そんな嫌味を、ほぼ毎日のように言われていた。夫の洋一も子ども好きだったから、なかなか授からない私にだんだん愛想を尽かしていたようで、最近は週末になると会社からまっすぐ実家に行ってしまうことが増えていた。このまま子どもができなければ、いずれ離婚話にもなりかねない。私は毎日ビクビクしながら過ごしていた。 だから、ようやく妊娠が分かった時は本当に嬉しかった。 しかし、すぐに悪阻が始まり、そんな余裕はなくなった。私の場合、食べられるものが本当に限られていて、他のものは匂いを嗅ぐだけで吐き気がした。もちろん料理なんてできるはずもない。 すると、また義母がわざわざ我が家に来ては避難した。 「私の大切な洋一の食事も作らないで、ゴロゴロ寝てるだけですって。本当にご立派な嫁だこと。」 夫まで一緒になって言う。 「そうなんだよ。ママのこと、何にもしてくれないんだ。毎日、妻と子どものために一生懸命働いてるのに、コンビニ弁当買ってきて食べろって言うんだよ。」 マザコン丸出しだった。こんなにママ命の男だなんて、結婚前は全然気づかなかった。確かに「ママ」とか「僕」なんて言葉、以前は一度だって彼の口から聞いた記憶がない。どころか、「お袋が今でもガキだと思っててさ、すげえ鬱陶しいんだぜ」と、いかにもうんざりした口調で言っていたのに。 本当に悪阻がひどくて、家事もほとんどできなかった私は、実家の母に相談して里帰り出産することにした。義母と夫の小言から逃げるための、半年近い里帰りだったが、それがまた義母の怒りを増大させることになる。 「私が洋一を産んだ頃は、里帰り出産なんてよっぽどのことがなきゃありえなかったわ。本当に今の人は根性がないんだから。今からこれじゃ、出産した後どうなるのか不安で仕方ないわ。」 夫は里帰り出産に反対するだろうと不安に思いながら話してみると、想像に反してすんなりOKが出た。 「悪阻で苦しんでるのを見てるのは辛いからさ。実家でゆっくり休んだ方がいい。」 それどころか、「義母の説得は自分がするから大丈夫」とまで言って、私を送り出してくれた。 しかし、これが大失敗だった。 息子の健太を出産し、体調が落ち着いてから我が家に戻ると、リビングには義母が足を組んで座っていた。それもお客様のようにではなく、まるでこの家の主のような雰囲気で。よく見ると、これまでの義母と違い、化粧は薄く、服はラフな部屋着。どう見ても実家から電車やバスで来た格好ではない。周りを見渡すと、義実家で見た義母専用の箪笥や、義母お気に入りの食器類もたくさんある。 まさか、ここに住んでいるのか。 「あの、お母さん。もしかして、ここに住んでるんですか?」 「『もしかして』とは何事ですか?妻に見捨てられた洋一のために、私が来てあげたんでしょうが。」 その言葉にカチンと来た私は、つい言い返してしまった。 「見捨てられたって何ですか?ちゃんと洋一に相談して、彼のOKももらって里帰りしたんです。」 すると、横から洋一が口を挟んだ。 「そんなこと言ってない。お前が勝手に僕を置いて出ていったんだよ。」 「ママ、やっぱりね。本当に悪辣な嫁ね。」 はあ。何それ。それじゃ、私だけが悪者じゃないか。ショックで呆然としていると、私の腕で眠っていた健太が泣き出した。それを見た義母が、さっと健太を取り上げる。 「あらあら、こんなひどいママに抱かれてるなんて、嫌だったのね。もう安心よ。バーバが守ってあげるからね。」 「返してください。私の息子です。」 叫ぶ私の前に、洋一が立ちはだかった。 「お前の息子ってことは、僕の息子でもあるだろう。その僕が許可してるんだから、ママが面倒見ていいんだ。」 鬼のような形相で睨まれた。実家から我が家までの移動でクタクタだった私は、二人を言い負かして健太を取り返す気力も体力もなく、泣く泣く健太を義母に預けるしかなかった。 それからというもの、義母は私たちのマンションを自分の家だと思ったらしく、どんどん義母仕様に変えていった。すでに日当たりの良かったリビングは義母の部屋となっていたが、そこにベビーベッドまで入れてしまった。それどころか、洋一用のベッドまで買ってきて、そこで三人で寝るようにと言い出した。かと言って、健太の世話をしてくれるわけではない。義母が見たいのは、孫の笑った顔と抱っこするだけ。健太が泣き出すと、すぐに私に押し付ける。 「やっぱりさちさんの血が入ってるから、出来損ないなのよ。洋一が赤ちゃんの頃は本当にいい子だったのよ。夜泣きだって全然なかったし。」 必ず余計な一言も忘れない。 それだけでなく、義母は家事も一切やらなかった。洋一と健太の世話という名目で我が家に乗り込み、ちゃっかり住み始めたというのに、結局、育児も家事も全部私の仕事だった。 「薄味にしてちょうだい。こんな濃い味、健太ちゃんにも良くないでしょ。」 「洗濯物、いつまで外に干してるの?日に焼けちゃうでしょう。早く取り込みなさい。」 「健太ちゃんのおしめが汚れてるわ。早く取り替えてあげなさい。」 全部、私に押し付けてくる。やってくれるのは、せいぜい健太の散歩くらい。健太をぎゅっと抱きしめて、洋一と一緒に公園に行き、三人でイチャイチャしている。赤ちゃんを連れた女性がいると必ず話しかけては、 「うちの嫁は全然育児をしてくれないんですよ。私に押し付けて、本当に困った嫁なんです。」 などと言い広めているらしい。おかげで、私は近所から鬼嫁だと噂され、白い目で見られるようになった。 さすがに堪忍袋の緒が切れた私は、洋一に言った。 「ねえ、そろそろお母さんに帰ってもらいたいんだけど。」 「はあ?なんでだよ。」 「だって、全然健太の世話もしてくれないし、家事を手伝ってくれるって言ったのに、実際は全然じゃない。お母さんの分まで食事とか洗濯物とか増えて、もう私クタクタなの。」 「お前が駄目なんじゃないか。ママがいるから、この家はうまく回ってるんだ。近所の人たちだって、みんなママは立派なおばあちゃんだって褒めてくれてるぞ。」 大声で言い合っていると、そこに義母まで参戦してきた。 「聞こえたわよ。私に出ていけですって。そっちこそ、洋一を不幸にしているくせに。」 「そうだよ。ママと同居するのが嫌なら、お前が出ていけ。」 「そうそう。孫がいれば、あんたなんて用済みなんだから。」 二人に鬼のような形相で迫られた私は、恐怖に震えた。この二人、本気で私を追い出そうとしている。身の危険を感じた私は、逃げなければと決心した。 「わがままを言って申し訳ありませんでした。ついお母さんの親切に甘えてしまって。これからは、そんなことがないよう注意します。」 … Read more